東方戦争犬   作:ポっパイ

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二十八話

 大尉から見てEXルーミアは強者の分類だ。底知れぬ狂気と闇を孕んだ化物だ。

 

 ならば、幽香も強者の分類だ。純粋に戦闘能力のみに特化した戦闘狂の化物だ。能力を自ら明かしていたが、確かに強力な能力かもしれないが、そんなものは本人の戦闘能力に比べたら微々たるものでしかないだろう。

 

 ならば、どうなる。矛と矛とがぶつかった場合、結果は見えている。より精錬された矛が撃ち勝つだろう。

 

 影狼を抱えながらも大尉は二人の戦闘の行く末を見守る。

 

――――――――

 

 

 EXルーミアは翼の代わりに生やした四本の闇の腕に持たせれるだけの武器を持たせて幽香に襲い掛かる。

 

「オラァァァア!」

 

 EXルーミアの猛攻だが、幽香にとっては何のこともない。闇の腕を軽くはね除け、反撃を開始する。

 

 剣のように振るわれたのは幽香が常日頃から持ち歩いている日傘だ。だが、その振るう速度がおかしい。目にも止まらぬ速さとはよく言うが正にそれだ。

 

 闇の腕の武器で防御しようとも簡単に折られてしまう。新しく造ろうにもその前に次の攻撃が飛んでくる。隙を突こうと大剣を振るおうとしても素手で止められ、日傘が振るわれる。

 

 接近戦では部が悪いと分かっていたが、ここまでとは思っていなかったEXルーミアは距離を取る。日傘の振るわれる域から何としても離れなくてはならない。

 

「ふふ、そうするしかないものね」

 

 挑発的な笑みを浮かべる幽香に対して、挑発に乗る愚かさを学んでいるEXルーミアは幽香を睨み付けるばかりだ。

 

「少しは成長したのかしら?」

 

 挑発すれば簡単に乗る頃のEXルーミアを知る幽香からしてみれば、これは大きな成長だ。そんな成長をしたEXルーミアに幽香は優しく微笑む。

 

「気持ち悪ィ顔すんなよ、ボケ」

 

「心外だわ。少しは期待してあげているのにそんなこと言われるなんて」

 

「オマエの笑みはキモいんだよ!」

 

「じゃあ、こういう顔はどうかしら?」

 

 優しく微笑んでいたはずの表情が肉食獣を思わせる程、凶悪な笑みへと変わっていく。その眼はしっかりとEXルーミアを見据えており、日傘を両手で持ち、肩に担ぐように構える。

 

 幽香が一歩踏み込み、爪先と踵の脚力でEXルーミアとの距離を一瞬にして詰める。間違いなく降り下ろされるであろう日傘だが、あまりの速さにEXルーミアは避けるタイミングを見失い、闇の腕で待ち構える。

 

 案の定、日傘が降り下ろされる。狙ってなのか狙わずなのか、闇の腕に降り下ろされた日傘だったが、その衝撃にEXルーミアの足が地面にめり込んでいく。

 

「―――――ッ!」

 

 EXルーミアも無事では済まないでいる。地面にめり込む程の威力の攻撃だ。腕を通して、その威力がEXルーミアの身体を通過していた。闇の腕など砕け散ってもおかしくはない。

 

「あら、しぶとい」

 

 闇の腕の限界まで耐えるとEXルーミアは後方に跳ぶ。砕けた闇の腕を今度は何本もの鋭く尖らせた釘の形へと変化させ、幽香へとぶつける。

 

 だが、開かれた日傘によって闇の釘は悉く防がれ、至るところへと弾かれていく。そんな事はEXルーミアの想定内だ。

 

 弾かれたはずの闇の釘が方向転換をし、幽香の死角から射ぬかんと飛来する。僅かにそっちの方を気にした幽香だったが、いつの間にか距離を詰めていたEXルーミアに大剣を降り下ろされていた。

 

 EXルーミアの大剣を防げば闇の釘が刺さり、闇の釘を防げばEXルーミアの大剣に斬られる。二つに一つだ。だからこそ、幽香は迷う事もせずに、二つの攻撃を受け入れた。

 

 大剣に肩から袈裟斬りにされ、体のあちこちに闇の釘が刺さり血を流す姿は痛々しいが、幽香の表情はどこか満ちているものだった。まるでEXルーミアの攻撃が効いていないようにしか見えない。

 

「――――で? 次は?」

 

 手の届く範囲の闇の釘を抜きながら幽香はEXルーミアの次の攻撃を期待していた。呆気に取られたEXルーミアだったが、幽香のその言葉に我に戻り、大剣を振るう。

 

 斬られた方とは逆の肩から袈裟斬りにされるが、一歩後退しただけで平然としている様子だ。

 

「何の真似だァ?」

 

 EXルーミアが知っている幽香からは想像もつかない様子に困惑する。戦闘を挑めば、徹底的に相手を虐げ、嬲っていたはずだった幽香がわざと攻撃を食らっている。EXルーミアからしてみれば、それはとても不気味な事だ。

 

 EXルーミアの疑問を解消するかのように幽香が優しく微笑みながら口を開く。

 

「貴方じゃ力不足っていうことを伝えたいのよ。三度も攻撃を許してあげたのに致命傷になるようなダメージはない。こんなダメージすぐに再生しちゃうわよ?」

 

 まるで残念だ、と言わんばかりの溜め息を吐いた幽香の体に変化が起きる。闇の釘は内側から押されるように抜け落ち、×文字に斬られた体も血が止まり、みるみる内に元に戻っていく。傷痕がペキペキと鳴りながら再生していく様子はまるで植物だ。

 

「ね? また最初っからじゃない」

 

 EXルーミアは苦虫を噛み潰したような表情で幽香に何度も斬り掛かる。幽香は微笑みを絶やさずして斬られているのを許している。

 

「四回、五回、六回、七回、八回……」

 

 EXルーミアが斬る度にカウントするのは嫌がらせが目的だろう。

 

 その口を黙らせるために闇を幽香の顔に張り付ける。それでも闇越しに僅かに口動いているのが確認できる。

 

「クソがァァァァア!」

 

 幽香を闇で縛り、身動き一つできない状態にすると闇の腕を生成し、何度も殴打する。サンドバッグと化しても尚、カウントするのは止まない。

 

 幽香はEXルーミアの底を知ってしまった。負けるわけがない相手だが、そのまま倒すのは勿体ない。自分に戦いを挑もうなんて考えさせない程に相手の心をへし折り、それから圧倒的な力を以て粉砕してやろうと考えていた。

 

 EXルーミアが死ぬと幻想郷存亡の危機になることは知っている。自分の大切な場所まで亡くなってしまうのは心苦しい。だからこそ、幽香はEXルーミアを殺さずに死んだ方がましだ、と思わせなければならない。殺さずに生かすやり方は幽香はよく知っている。

 

 あくまで、本命は人狼の彼であり、EXルーミアではない。子どもの癇癪に付き合ってあげている気分だ。

 

 一通り攻撃し終えたEXルーミアは息荒く、サンドバッグだった幽香を睨み付ける。

 

 自力で闇を解き、出てきた幽香の姿は無傷そのものだ。転がっていた日傘を拾うとその先端をEXルーミアへと向ける。

 

「途中から数えるのも面倒になっちゃったわ。で、終わり? 終わりなら――――次は私の番よね?」

 

「……死ね」

 

「相変わらず、口の悪いこと」

 

 日傘の先端に妖力が溜まっていく。EXルーミアは過去に幾度となくその現象を目撃していた。戦いになると、必ずと言っていい程、その技でトドメを射されてきた。忘れたくても忘れられない技だ。

 

 最近では、どこぞの魔法使いにパクられてしまったらしいが、幽香の放つその技はどこぞの魔法使いのとは比べられない程の力を放つ。

 

「『マスタースパーク』」

 

 日傘の先端から放たれた超極太のレーザーがEXルーミアを無慈悲に包み込んだ。


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