大尉が文と椛と遭遇してから『文々。新聞』特報として直ぐに発行された。『謎の外来人現れる!』という見出しと共に載せられた大尉の写真は幻想郷中に広まった。
異変でないと動かない者、純粋に興味を持つ者、同種の気配を感じる者、警戒を示す者。様々な反応を示しているであろう幻想郷の住人を想像しては、文は自室で一人満足していた。
「失礼いたします」
しかし、そんな文の元にメイド服を着た銀髪の女性が自室に何の前触れもなく現れ、文に対して一礼する。その様子は無断侵入してきたとは思えないほど礼儀正しい。
「急な訪問、申し訳ありません。お嬢様が例の外来人に関して聞きたいことがあると仰っています。どうか御足労願えませんか?」
十六夜咲夜、紅魔館のメイド長にして恐るべき吸血鬼の従僕。断ればどうなるのかなんて考えなくても分かる。というより、何故、自分が呼ばれたのかが気がかりだ。文の知る限り、あの吸血鬼が動くにしては早すぎる。況してや、手紙などではなく、お気に入りのメイドを使ってまで呼びに来るとは。
「大丈夫ですよ。それで、何時、お伺いすればよろしいですか?」
「今すぐに、だそうです」
「はい?」
文は一瞬、自分の耳を疑った。
「では、館でお待ちしています。門番には来客の件、御伝えしてありますので御来訪よろしくお願いします」
一瞬で姿を消した咲夜を文は当たり前のことのように驚きもしない。面倒なことに巻き込まれたと文は少しだけ自分の記事に対して後悔した。
簡単な身支度を済ませるとすぐに吸血鬼姉妹の住まう悪魔の館へと飛んでいった。
――――――
「聞きたいことは一つ。あの外来人は何者だ」
吸血鬼姉妹の館『紅魔館』へ着いた文は咲夜の言う通りすんなりと中へと案内された。応接間へと案内されると、既に椅子にふんぞり返っている吸血鬼の姿が嫌でも目に入る。何時にも増して警戒されているのは何事であろうかと思った矢先に館の主人であるレミリア・スカーレットは文に尋ねた。
「何だかピリピリしてるのは気のせいですかねぇ?」
「答えろ」
「わ、分かりました。ですが、私も数分間しか出会してないので分かることは少ないですよ」
「構わん。話してみろ」
脅すようなレミリアの物言いに拒否などできるはずもなく、記事にも書かなかったことも全て話した。誠に遺憾ではあるが、相手が相手なので仕方がない。
「成る程。で、天狗、お前の見解は? あれだけ焚き付けるような記事を書いといて正体の一つや二つ予想してないわけがないよな?」
「憶測を記事に書いといたじゃないですかーやだなー」
「フランを呼ぼうか? 天狗が遊んでくれると伝えたらあの子も喜ぶだろう」
妹の名前を出して脅してきたレミリアに文は露骨に嫌な表情を浮かべてしまう。最近はおとなしくなったらしいが、狂っている吸血鬼の遊び相手など真っ平ご免だ。
「教えますとも! 穴だらけの推測ですが教えますとも!」
「それは良かった。咲夜、客人にお茶を用意してやれ。三人分のな。」
まさか咲夜も一緒に飲むのであろうかと考えていた文だったが、新たな客人が客間へと現れると納得がいった。
「最近、幻想入りをした早苗さんなら何か分かると予想済みでしたか」
新たな客人、東風谷早苗は謎の空気の重さに聞いていた話と違うとその表情を険しくした。
「そういうことだ。さ、役者は揃った。楽しい楽しいお茶会としよう」
ニヤリと笑うレミリアだが、その表情に余裕がないと察したのは誰でもなく咲夜だった。