EXルーミアのやることに大尉は何も思わなかった。自分達はこれから戦争を引き起こすのだから多少やり過ぎた方がいいとすら考えている。だが、情報収集は忘れてはいけない。
「慧音先生よォ、アイツら助けなくていいのかァ?」
EXルーミアは人里の中心部の方を指差す。闇の顎を操るのはEXルーミアだ。慧音はEXルーミアの発言の意味を直ぐ様理解した。
「ま、待て!」
「嫌だねェ!」
闇の顎が慧音を無視して人里の中心部に向かって一直線に動き始める。敢えて、スピードを落とし、邪魔な家屋を噛み砕きながら進んでいる。
闇の顎を止めようと慧音が向かおうとするがEXルーミア自身がそれを阻むように慧音の前に立ち塞がる。
怒りで我を忘れかけている慧音の拳は単調なものでEXルーミアにも簡単に避けれる。当たればその威力は絶大だろうが、当たらなければ意味がない。
妹紅は対峙する大尉を睨んでいた。本当なら、今すぐにでも慧音に加勢してあげたかったが、それを大尉が許すとは到底思えない。
燃えた軍用コートを脱ぎ捨てた大尉は上半身裸で闇の顎の方を見ている。EXルーミアが役目を果たしている間に大尉は自分の役目を果たしたかった。
万が一、闇の顎が重要な情報を家屋ごと噛み潰してしまって人里を襲う意味の一つがなくなってしまう。それはなるべく避けたい事態だ。
死なない妹紅の相手ばかりしていも時間の無駄だと割り切り、大尉は目にも止まらぬ速さで人里の中を駆け抜けていった。妹紅は唖然としながら見送るしか出来なかったが、大尉が居なくなったことにより、慧音に加勢するべくEXルーミアに火球の弾幕を放つ。
「こいつの相手は私がやるから! 慧音はあれを止めてこい!」
妹紅がそう提案したのには理由がある。今の怒りに身を任せた慧音では確実にEXルーミアに負けてしまうという確信があった。EXルーミアは隙をみて、慧音に食らいつくつもりだろう。
そうさせてはいけない。ならば、死なない自分がEXルーミアとの戦いの時間を稼げばいい。慧音に闇の顎を止めてもらえれば、二対一で確実にEXルーミアを攻めれるからだ。
火球の弾幕がEXルーミアの展開した闇の壁に阻まれる。これでEXルーミアが自分に意識を向けて慧音が抜けやすくなっただろうと妹紅は考える。
だが、慧音は妹紅の言うことなど無視してEXルーミアに攻めかかっている。大振りの拳を容易く避け、EXルーミアはカウンターに剣で斬りかかる。
「人の話を聞け!」
EXルーミアと慧音の間に割って入った妹紅が慧音の代わりに袈裟斬りされてしまった。その一撃で死んでしまった妹紅は何度目かの復活を遂げる。
直ぐ様、慧音をEXルーミアから距離を離すと妹紅は慧音の頭に頭突きを決める。だが、石頭の慧音にほとんどダメージはなく、頭突きをした方の妹紅が痛がっているようだった。
「も、妹紅?」
「―――さっさとあれを止めてこい! 私はルーミアをどうにかすっから!」
「いや、でも―――」
「いいから! 行け! 足手まといだ!」
「―――っ! わかった」
闇の顎に向かって跳躍する慧音を邪魔するようにEXルーミアがまた立ち塞がり、剣を構えている。
「邪魔すんなぁぁあ!!」
妹紅の鳥の形をした炎の弾幕がEXルーミアに襲い掛かる。EXルーミアは分かっていた、と言わんばかりの表情で鳥の形をした炎の弾幕を切り捨てるが、炎がEXルーミアに纏わりつく。
「行け!」
炎が邪魔をしている隙に慧音は無事、闇の顎へと跳躍した。EXルーミアは自身を闇で覆い尽くすと中から何事もなかったように現れる。
「やってくれたな、オマエェ!」
「はっ! ざまぁみろ!」
斬り掛かってくるEXルーミアに妹紅は左腕を斬り落とさせ、無事な右手を使ってEXルーミアの胸に札を貼り付ける。EXルーミアが何をされたのか考える前に貼り付けられた札が爆発する。
「ガッ――――!」
怯んだEXルーミアに妹紅は炎を纏った足でEXルーミアの腹に蹴りを叩き込む。血を吐いたEXルーミアは距離をとるべく、舞い上がる。
妹紅は不死ならではの身を捨てるような戦いを選んだ。相手を行動不能にするまで何回でも死んで、戦ってやればいいと妹紅は考えた。弾幕ごっこを一切してこようとしない相手ならば勝敗は生きるか死ぬかだ。死なない妹紅にとっては逆にやりやすい。
「……腕、再生しねェのな」
EXルーミアは妹紅の腕が再生していないことに気付く。何回も殺されては無傷で甦っていたのにも関わらず、腕が再生していないのが不思議だった。
「敵にそう易々と説明すると思うか?」
「そりゃそうだなァ」
EXルーミアは再度、妹紅に斬り掛かる。今度はどこを犠牲にしてくるのか考えていたが、EXルーミアの目に何かが飛んできて、視界が赤く霞む。傷口の血を飛ばしてきたのだと理解する頃には妹紅の炎の拳がEXルーミアの頬を撃ち抜く。
「くっ――!」
「まだまだぁぁあ!」
EXルーミアの体に札を何枚も貼り付けていく。そして、EXルーミアを蹴り飛ばし、距離を空けてから札を一斉に爆発させていく。
痛みで悶絶するEXルーミアは苦痛の表情を浮かべながら妹紅を忌々しく睨む。
「その程度か?」
明らかな挑発だと分かっているが、EXルーミアは下手に動けない。近付けば、また先程と同じ目にあうと分かっているからだ。妹紅の時間稼ぎは狙い通りに行っている。
「大将はどこ行った?」
「あの外来人なら、どっか行っちまったぞ。見捨てられたんじゃねぇか?」
これも挑発だ。相手が自分を激昂させようとしているのが目に見えて分かる。
何処かに行ってしまった大尉の事など考える余裕はない。今はどうやって妹紅を惨めたらしく弄んでやろうかとEXルーミアは考えていた。
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大尉は周辺を隈無く探索していた。大尉の探索している場所は避難が済んでいるのか人気が感じない。これは大尉にとっても好都合でしかなかった。
意図せずEXルーミアが囮になっている間に情報を集めようとする大尉の嗅覚が何者かの匂いを感じる。人ではない、人外の匂い。しかも、自身と似たような匂いを発する存在に気付くと大尉は銃を手に持ちながら近付いていく。
匂いが近付くに連れ、路地裏のような所に入っていく。これも罠かもしれないと思いながら近付くのは単に興味が勝ったからだ。
物陰に隠れている存在に気付いたのは匂いと茶色の尻尾が馬鹿みたいに飛び出しているからだった。これが罠ではなく、間抜けがいるのだと分かると、その尻尾を掴み、引き摺り出す。
「ひ、ひぃ、た、食べないで!」
避難し遅れ、隠れていたところを大尉に引き摺りだされた今泉影狼の表情は今にも泣きそうだ。気の抜けるような声を発する影狼に大尉は首を傾げてしまった。