東方戦争犬   作:ポっパイ

10 / 62
十話

 狼男は満月を見ると変身する、という説がある。決して、それは間違いないではない。そういう狼男もいるからだ。だが、大尉は満月でなくとも変身を自由自在にする人狼だ。

 

 日が完全に落ちると人里の人気も嘘のように無くなっている。夜は化物の時間だというのを人里の住民は知っているから、外をあまり出歩かないようにしている。

 

 自警団が見廻りをしているが人数など大尉からしてみれば脅威にもならない。

 

 現に人里に忍び込んだ大尉に気付いている者は誰一人としていない。

 

 日本語の文字にフィルターのようなものが掛かるのかという疑問だったが、答えは日本語が読めているという時点で明白だ。かつての自分では読めなかったはずのものが読めるというだけで第三者の介入を疑ってしまう。

 

 だが、これは好都合であると大尉は感じている。この世界について事細かく書かれた書物があれば、それも読めてしまうということになる。我が儘を言えば、この世界の勢力図なんかが書かれている書物が欲しい。

 

 だが、どの店にそんな都合の良い物が置いてあるのか検討もつかない。しらみ潰しに家屋を荒らしていればすぐに見付かってしまうだろう。

 

「何か、お探しかい?」

 

 大尉の背後から声が聴こえる。十分に注意を払って行動していたはずだったが自分の不注意か、相手が自分よりも一枚上手だったのか。

 

 後ろを振り向けば昼間に見た幼い魔女――魔理沙がニヤリと不敵な笑みを浮かべて立っている。

 

「いやー探したんだぜ、あちこち中な」

 

 やたらフレンドリーに喋りかけてくる魔理沙に対して、大尉は初対面だったと記憶している。現に魔理沙は大尉のことは新聞でしか知らず、大尉はその新聞の存在すら知らない。

 

「思ったよりデカイ奴だな」

 

 答えない。

 

「無口な奴だなー。ってか、今さらになって人里に現れるとはどういう心境の変化だ?」

 

 幻想郷を飛び巡らされた魔理沙からしてみれば拍子抜けもいいとこだ。

 

「ま、どうでもいいんだけどな」

 

 そういってケラケラと笑う。だが、ここまで無反応なのは予想外であり、これからどうしようかと考える。

 

 いきなり弾幕ごっこを挑んだところで大尉がスペルカードを持っているとは思えない。ルールですら知っているか怪しいところだ。

 

 襲ってこないところを見るに理性もありそうだが、本人は一言も喋らない。

 

「……泊まる宿はあるのか?」

 

 明らかに泊まる宛の無さそうな大尉に善意で訊ねる。

 

「迷惑じゃなけりゃ私んとこに泊まるか? アンタが襲わないって条件でだが―――ッ!」

 

 魔理沙が慌てて後ろに跳ぶと先程までいた場所にいつの間にか急接近していた大尉が踵落としを決めていた。轟音が響き、地面が抉れているところから魔理沙は大尉が只者ではないと見抜く。

 

「おいおい、いきなりなご挨拶だな」

 

 軽い口調で言ってはいるものの大尉の動きが全く見えなかった魔理沙は冷や汗を流す。

 

 大尉が魔理沙に攻撃した理由は単純なものだった。魔理沙の実力を測るためだ。自分を殺しうる存在の実力を大尉は知りたくて知りたくて仕方なかった。

 

 ここでもし殺されたならば、それはそれで本望だ。もし、魔理沙が弱ければ強くなるまで待つか、別の相手を探すつもりだ。

 

 慌ただしい足音が近付いてくる音が聴こえてくる。地面を抉った時の音が人を寄せてしまっているのだろう。こうなってしまっては情報収集は後回しだ。

 

「そんなに遊びたきゃ遊んでやるよ」

 

 八卦炉を構える魔理沙に大尉は準備が済んだと判断し、構えた瞬間に魔理沙の八卦炉が輝き始める。

 

「恋符『マスタースパーク』」

 

 極太のレーザーが八卦炉から放たれる。魔理沙がいきなり切り札を使ったのには理由がある。話し掛けても反応がないこと、いきなり攻撃をされたこと、今日一日を潰されたこと。要は鬱憤が溜まっていたのだ。

 

 極太のレーザーに意外にも直撃した大尉は家屋へと吹き飛ばされる。

 

「……これで終わりってわけでもないだろ」

 

 魔理沙の呟き通り、吹き飛ばされた大尉は服が少し焦げているもののダメージがほとんど入っている様子はない。

 

 大尉は全く殺傷能力のない攻撃に違和感を感じていた。見た目が派手なだけにそれなりのダメージを期待していたが、これでは期待はずれもいいとこだ。

 

 家屋から出た大尉はモーゼルを取り出すと何の躊躇いもなく魔理沙へと向ける。魔理沙は見たこともない武器を構える大尉に警戒して身構える。

 

「魔理沙さん! 飛んでください!」

 

 聴こえてきた声に従った魔理沙が慌てて空へ飛び出すのと爆竹が爆ぜたような音が響くのがほぼ同時だった。

 

 魔理沙に忠告した帳本人である早苗が慌てた様子で魔理沙に近付いてくる。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「お、おう。それより、さっきの爆竹が爆ぜたような音は何なんだ?」

 

「外の世界の武器です。人を殺すことのできるものです」

 

「冗談だろ?」

 

「本気です」

 

 ぞっとした表情で魔理沙は大尉を見る。大尉からしてみれば殺し合いである以上、銃を使うのは手段の一つだが、魔理沙からしてみればこれは弾幕ごっこであり、遊びの延長線上のものでしかない。

 

 その『遊び』に『殺し』を持ち込む大尉の考えが理解できなかった。

 

「……人が集まってきましたね」

 

「そりゃ集まってくるだろうな」

 

 空から見れば自警団の人々がぞろぞろと集まってくるのがよく分かる。こうなってしまっては弾幕ごっこをしている場合ではなくなってしまった。この状況は大尉してみても良いものではない。

 

 情報も得られず、敵となる者も見付けれずの大尉は失意の念を抱きながらも空に浮かんでいる二人を見る。

 

「まだやろうってのか?」

 

 魔理沙の問いに大尉は横に軽く首を振るとモーゼルを仕舞い、目にも止まらぬ速さで人里を走り抜けて行く。

 

「追い掛けますか?」

 

「追い付きそうにないからパスだ。それに今日は疲れた」

 

 溜め息を漏らすと地上へと降りる。自警団が来てしまった以上、説明をしなければ混乱のままだろう。

 

「……」

 

 早苗は大尉が走り抜けて行った方向を複雑そうな表情で眺めている。

 

「おーい、早苗! さっきの武器について説明してやってくれー!」

 

「は、はい!」

 

 地上から自警団に先の一件の説明をしてい魔理沙から自分を呼ぶ声が聞こえ早苗も地上へと降りていく。

 

 レミリアたちとの同盟が予想以上に早く動く時が来たのかもしれない、という早苗の直感は間違いないだろう。

 

 

――――――――

 

 

 人里から十分離れた大尉はこの世界について考えていた。

 

 古風な生活をする住民たち、カメラを持っている化物、銃の存在を知っている少女。今一この世界が古いのか新しいのかが分からなくなってくる。従軍した化物が思うことではないかもしれないが、ここは統一感が全く感じられない。

 

 その為の情報収集も自身の失敗で碌に集まりもしなかった。文字も読めるということと誰かが自身の情報をばら蒔いているということしか分からなかった。

 

 誰か、というのにも心当たりはある。だからと言って、ばら蒔かれてしまっている以上はどうしようもない。先の一件で大尉はより動きにくくなってしまった。

 

 自分は少し焦り過ぎていたのかもしれない、と反省をすると大尉は夜空を眺めた。




戦闘描写は難しいっすね

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。