東方戦争犬   作:ポっパイ

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10/28 文章を少し付け加えました




一話

 

 

 王立国教騎士団『HELLSING』とナチス残党『最後の大隊』、ヴァチカン『第九次空中機動十字軍』の三巴の戦争がイギリス本土で始まり、ロンドンを死の都にして終わりを告げた。

 

 その最中、彼の一夜限りの楽しい夢は終わりを告げた筈だった。

 

 満足のいく闘争の果てに、女吸血鬼とその眷属によって討ち滅ぼされた筈の彼はいつの間にか薄暗い森の中にいた。

 

 状況があまり把握できていない彼は周りを見渡し、気配を探る。薄暗い森から漂うのは草木の匂いと人ならざる気配だった。獣ではなく化物の気配が森のあちらこちらから確かに漂う

 

 自分の元いた場所も化物で溢れていたが、ここはまるで環境が違う。例えるなら、飼い慣らされた化物ではなく、野生の化物の気配だ。

 

 楽しい夢はまだ終わっていないようだ。ズタズタに破かれたはずの軍用コートも捨てたはずのモーゼルも何故か元通りになっているが、夢ならば仕方ないと納得させる。化物の気配の中でも一番強そうな気配を嗅ぎわけると彼は何の迷いもなく駆け始めた。

 

 自分はまだ戦争犬でいられることが嬉しくて嬉しくて仕方なかった。まだ戦える。それだけ分かれば他には何もいらない。

 

 

―――――――

 

 

夜の警備をしていた犬走椛は自分の中の警戒レベルを二段階ほど上げていた。自分に真っ直ぐ向かってくる恐ろしく速い何かに対して剣を握りざるを得ない。

 

「随分と警戒してますね、椛」

 

どこからともなく舞い降りた上司である射命丸文が軽口を叩くがその雰囲気には僅かに緊張感が漂っている。

 

それでも、カメラを構えようとする姿は記者として正しいかもしれないが上司の姿としてはうんざりさせられてしまうものがある。

 

「何が向かってきているか分かりますか?」

 

「……もう分かります」

 

木々の合間を走り抜け、二人の前に現れたのは見かけたこともない長身の男だった。顔から下を隠すようなコートを着た褐色の肌の男――大尉は何をするわけでもなく二人を見る。

 

見たこともない服装から文の頭に思い浮かんだのが外来人の可能性であった。そうだとすれば新聞のネタに使えると判断し、文は男に話し掛ける。

 

「あなたは何者ですか?」

 

答えない。

 

「随分と速い足をお持ちのようですが、あなたは妖怪でしょうか?」

 

答えない。

 

「答えないのか答えられないのかは知りませんが、そこまで無反応でいられると少し傷付きますね」

 

 答えない。

 

「写真を撮らせていただいてもよろしいですか?」

 

答えないのが分かっていた文は何度も男の写真を撮り始めた。一方向からではなく、自分が動いて色んな角度から何枚も男の写真を手に入れる。

 

記事の内容など憶測だけでも何とかなることを文は知っている。特に外来人や未知の出来事には憶測だけを書き、興味を持たせることが大事だとすら思っている。明日の新聞は話題になること間違いなしと文は確信していた。

 

 男は困っていた。目の前の人外から微塵も殺気を感じず、敵対すらしようとしてこないことに。犬耳の女から警戒心を感じるが敵対とまではいかない。今では翼の生えた女に写真を撮られ続けている。

 

「さては、あなた、外来人ですね?」

 

 そう問い掛けられるも目線を向けるだけで男は答えない。想定内の反応に文は一人で説明し始める。男の存在、この場所の存在、自分たちの存在を。

 

「無知な貴方に教えてあげましょう。此処は幻想郷――――忘れ去られた者、存在を否定された者たちが集う理想郷です。貴方のような者が来るということは、さては、忘れ去られましたか? 否定されましたか? 何はともあれ私は歓迎いたしますよ?」

 

 ある程度、説明を終えると文は彼の反応に僅かな変化があるように思えた。悔しがっているような怒っているような。表情には出ていないが何か違和感を感じる。長年、新聞記者として相手の表情を窺う事に長けた文だからこそ、気付けた僅かな変化だった。

 

「どうかしましたか、外来人さん?」

 

 やはり答えない。それどころか二人に興味を無くしたのか彼は文と椛に何かするわけでもなく来た道を戻ろうと背を向ける。

 

「あやや、帰るのですか?帰る場所があるとは到底思えませんが」

 

 ニタニタと挑発するように笑う文のことなど彼には見えていない。どこか寂しげで、どこか悲し気な彼の姿が森の奥に消えていくのを見守った二人はその後、狼の遠吠えを耳にした。

 

 

―――――――

 

 

 忘れ去られたというのか。狂った少佐も、彼に付き従った狂った軍隊も、ロンドンを死の都にしたあの戦争も。何もかもが人々の記憶から失われてしまったというのか。否定されたというのであれば、仕方はないが、それならば他の者がいてもいいはずだ。

 

 自分がこの地に立つということがそういうことであるとは思いたくもない。

 

 死ぬに価する戦争を望み、その願いが叶い、彼は死んだのだ。

 

 ならば、もう一度繰り返そう。自分だけの戦争を。自分の為の戦争を。その為の準備をしよう。時間は掛かるかもしれないが時間ならある。

 

 一人決意した彼―――大尉は静かに森の奥へと歩き出す。

 

 




初投稿で分からないことだらけですが、がんばって書いていこうと思います

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