俺はMUGENの可能性   作:轟く雷鳴のギース

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潰す…







31話

(様子が変わった…?)

 

ステインが真っ先に感じ取ったのはあからさまな少年の変化だ

つい先ほどまではこの状況に対応できず、そして覚悟を決めたように自分に立ち向かおうとしていた少年が突如として歴戦の戦士のような雰囲気に変化したのだ

その変化を感じ取れないほどステインもバカではない

 

(何をしてくるかわからんが…)

 

と、ステインは少年を警戒しながらその手のナイフを投擲する

もちろんそんなもので傷がつくとは思えない

だがこれをどう凌ぐのかによって攻め方が変わる

そんな考えのもと投げられたナイフはこちらに向かって歩いてくる少年の腕を容易く切り裂いた

それを見た瞬間ステインは露骨にニヤリと嗤った

この少年がどれだけの脅威を持っていようと自分の個性を前にすればなんの意味もないのだから

 

「嶽!!」

 

おそらくこの少年の名前なのだろう

それを他の子供と偽りのプロヒーローを運ぶ炎と氷を操る少年が叫ぶ

当然だ、事前に自分の個性がどんなものか教え、そして注意するように言っていたのに関わらず抵抗なくナイフを喰らい、血を流したのだから

しかしそんな声ももう遅いというように既にステインは少年の血がついたナイフを回収している

あとはこれを舐めるだけ

それでこの少年は無力と化しもう1人の少年が抱える2人を殺しに行けるのだから

 

「ハァ…チェックメイトだ…」

 

そしてそのままステインは血を舐めると意識を異様な雰囲気の少年から離した

その判断が間違っていると気付くことなく…

 

「どこに行こうとしてんだ?」

 

「ぐぅ!?」

 

本来ならありえない出来事が起こっていた

なぜならステインによって血を舐められたものは誰であろうと構わずその動きを停止する

だというのにこの少年はそんなもの御構い無しとでもいうかのように動き、そして自分に重い一撃を与えてきたのだから

 

「ハァ…ハァ…。お前、何をした?」

 

「ヒーローが地面に這い蹲るわけないだろ。ヒーローってのは常に前を向いて立ってるんだよ」

 

返ってきたのは実に心地よい答えだった

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

あんなこと言ってはいるが実のところかなり無理してる

確実にゴリ条さんの再現を解除したらスタンする

それが意味するのは今の俺はゴリ条さん以外の再現ができないということだ

くっそ、こんなことになるならI軋間でも入れとくんだった

 

「ハァ…合格だ」

 

ん?

なんかさっき保留にされたのに今度は合格にされたんだけど

なんの基準で審査してんだ?

逆に不合格ならどうなんの?

わけわからんけどとりあえずこいつを止めないといかん

ゴリ条さんのスピードじゃこのヒーロー殺しのスピードにはついていけない

どうしたものか…

 

「アーマーによるごり押し…それしかねぇか…」

 

ふぅ、と俺は息を整える

アーマー時に受けた攻撃が解除時にどう反映するかわかったもんじゃないがやらないなんて選択肢はない

 

「来いよヒーロー殺し。見ての通りてめぇの個性は俺には通用しねぇぞ」

 

俺は重たい体を動かして近づいて行く

自分の個性が通用しないことに疑問を持っているヒーロー殺しは再び俺にナイフを投げる

恐らく俺の言葉ははったりとして受け取めて、摂取した血の量が足りないかなんらかの不手際でうまく作動しなかったとでも考えたのだろうか

投擲され迫るナイフを俺は拳を振るうことによって砕く

一応一撃は与えているためヒーロー殺しの体力はある程度削っているはず

あと2発か3発与えれば倒せるだろう

ジョンス再現だとさっきので終わらせれたなぁ…

スーパーアーマー持ちってなんか好きじゃないから見た目で気に入ったゴリ条さんしか入れてなかったけどこんなことあるなら入れておくか

とりあえずバルバトスとか猿帝とか入れとけば大体大丈夫だろ

まぁそれはここから生きて帰れたらの話だ

轟もこの裏路地から大通りに避難させ終わったようだしこれでヒーロー殺しもあいつらを追っていくことはしないだろう

 

「お前がここで逃げるっていうなら俺は追わねぇよ。けどまだやるっていうなら徹底的に潰してやる」

 

このまま俺とヒーロー殺しが戦っても俺が負けるのは目に見えている

 

「お前らの判断は正しい。なぜお前に俺の個性が通らないかはわからないが現状満足に戦えるのはお前のみ。なら俺を逃してでも生き残ることを選択するのは実に合理的だ」

 

ヒーロー殺しは俺に向かって立ちはだかるように敵意を送ってくる

 

「だがその判断はヒーローとして正しくはない。さっきは合格だと思ったが…お前は不合格だ」

 

その言葉とともに俺に向かってヒーロー殺しが飛び出してきた

さっきまでは俺の血を舐めるために傷をつけるように攻撃してきていたが今回のは違う

首筋、そう頸動脈を狙って確実に殺しにきているのだから

個性が通用しないならそれ無しで殺せばいい

とでもいうかのように俺を殺しにきている

 

「ちっ!何が気に障ったんだよ!」

 

全くわからないがこっちだって殺されるつもりはない

アーマーを活かして俺は首筋を狙うナイフに向かって拳を当てる

 

「これで終わりだヒーロー殺し!!」

 

普通なら痛みによってすぐには行動できないだろう

だが今の俺はアーマー状態だ

ダメージ時のノックバックなど全くしないし痛みも感じない

肉を切らせて骨を断つとはまさにこの事だろうな

俺は切りつけてきたヒーロー殺しの鳩尾を全パワーを乗せて殴り抜く

ゴリ条さんは力一杯殴る、これしかない

だからこそその一撃に全てを込めた

これで倒せなかったらきっとこんなチャンスは二度とないだろう

不用意にゴリ条さんの攻撃範囲に入り込んでそして一瞬怯んだ事によって見せた明確な隙

 

「おら、もういっちょ!」

 

このワンチャンで決めなきゃ負けだ

血が流れでる右拳でヒーロー殺しの顔面を捉える

 

「これで終わりだ!」

 

全体重を込めた渾身の一撃

それをまともに顔面に食らって脳が揺れてしまった以上ヒーロー殺しがすぐさま動けるようになるとは思えない

地面に倒れるヒーロー殺しを見下ろしながら俺はゴリ条さんの再現を解いた

その瞬間今までアーマーによって感じていなかった痛みやヒーロー殺しの個性が発動した

体は動かす事ができなくなりナイフが刺さったせいで右拳はすさまじい痛みを放っている

他にも俺の体には切り傷がいくらかあるためそこら中からヒリヒリとした痛みを訴えている

 

「わりぃ轟。体動かねぇわ、俺も運んでくれや」

 

笑いながら俺は轟に助けを求める

 

「ちょっと待ってろ。もうすぐプロのヒーロー達が到着する。お前の功績はデカイがそれ以上にこいつにこれ以上暴れられては困るからこいつを縛ることを優先する」

 

そういって轟は俺の傷口を氷で塞ぐと捨ててあった紐を使ってヒーロー殺しを縛り始める

1人で縛っていると動けるようになったのか緑谷が駆け寄ってきてそれを手伝い始めた

そしてそんな事をしているうちに轟が出していた応援要請によって駆けつけたヒーロー達が俺を担いで路地裏から連れ出してくれた

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「んでさ、結局なんでお前らがヒーロー殺しと戦ってたの?」

 

俺は緑谷達に問いかけた

その問いかけにギョッとしたように反応したのは飯田だった

飯田の反応を見て俺はピンときた

ヒーロー殺しと飯田、そしてこいつの兄であるプロヒーローインゲニウム

その3つの点が明確につながった

 

「すまない。僕のせいだ。僕のせいでみんなに傷を負わせることになった」

 

「それさえわかってたらいいじゃん。人なんだし間違わないなんてことないだろ。そういった過ちを経て成長するもんだろ?今回は飯田、お前がちょっとした間違いを犯しただけ。実際俺も肉親を痛めつけた相手が目の前にいたら憎しみで前が見えなくなるだろうし」

 

「しかし「この話はもうおしまい。反省してるみたいだしお前の性格だと二度とこんなことをしないだろうしな」…うん」

 

涙を拭きながら飯田は答えた

俺が参加してわずか2分位の短い時間だった

だが俺の中では10〜20分くらい凄まじく長い時間を戦ったかのような錯覚を得た

安心して気が抜けたとは言わないがかなり油断をしていたのは事実だ

緑谷の実習先であるヒーローの「伏せろ!」という声が上がっても誰1人反応できなかったのがいい証拠だろう

翼の生えた脳無が緑谷を掴んで飛び立ったのだ

そしてそのまま上空へと飛び上がる脳無を俺は黙って見ているしかできない

だがその攫われた緑谷を助けようと動いたのは誰もが予想していない人物だった

 

「偽者が蔓延るこの社会も」

 

ここに逃げる前に負ったのだろう傷から飛び散った血を舐めとりその影は飛び上がる

 

「徒に力を振りまく犯罪者も」

 

その影に血を舐め取られたせいで動きを止めた脳無が落ちてくる

 

「粛清対象だ」

 

その影は容赦なく脳無の頭に手に持ったナイフを突き刺す

 

「すべては正しき社会の為に」

 

俺は全身に鳥肌が浮かび上がった

その影の放つ圧倒的なプレッシャーにだ

 

周りのヒーロー達は何故その影、『ヒーロー殺し』が緑谷を助けたのかわからないといったようにざわつく

その時だった

 

「何故一塊で突っ立っている!?」

 

という怒声が響き渡った

その声の主は轟の親父であるエンデヴァーだった

その瞬間あらゆる考えが俺の頭の中を過ぎった

ヒーロー殺しが度々口にしていた合格や不合格、この真意を正しく理解した

 

「まっじぃぞ。今ここでエンデヴァーが現れるのは本気でまずい!」

 

この状況でのエンデヴァーはただあいつを煽る結果にしかならない

だがそれがわかるのは俺しかいない

現にエンデヴァーはヒーロー殺しを既に敵と判断して戦闘態勢に入っているしそれを老人ヒーローが制止の声で止める

ヒーロー殺し本人はそのつもりはないだろうが実際今緑谷が人質に取られているのと同じような状況なのだ

その状況でエンデヴァーに大火力の炎の個性を使わせるわけにはいかないからだ

それに気付いたエンデヴァーも放とうとしていた炎を収める

 

 

「贋物…」

 

エンデヴァーの姿を確認したヒーロー殺しが今まで俺たちに向けていたものとは比べ物にならない殺意と敵意を向ける

これまで二度本気で戦いに来た(ヴィラン)と戦ったがその時に感じ取ったもの以上のソレ(・・)に俺はおもわず目を見開いていた

 

「正さねば…」

 

既に俺の攻撃によってヒーロー殺しの体は限界を迎えているはずだ

それなのに空へと逃げようとした脳無を倒すという鞭を打っているにも関わらず奴は止まる気配はない

 

「誰かが…血に染まらねば…」

 

ヒーロー殺しはただゆらゆらとしかしハッキリとした足取りで敵意の先を睨みつけ歩み出す

 

英雄(ヒーロー)を取り戻さねば…」

 

その敵意に怯んだのかエンデヴァーでさえもたじろいでいる

それ程の敵意をここいら一帯に振りまいているのだ

例え今の俺が奴の個性のせいで動けていないという状況でなくとも体を動かすことはできなかっただろう

 

「来い。来てみろ贋物…俺を殺していいのは本物の英雄(オールマイト)だけだ!!」

 

俺の感覚は決して間違ってなかった

実際あのエンデヴァーですら体を動かすことができていない

誰も血を舐められてなんかいないのに関わらず誰1人として体を動かせずにいたのだ

だがそんな彼も体は限界を超えていたのだ

 

「た、立ったまま…気を失っている…」

 

歩を進める事をやめたヒーロー殺しは誰も動かない静止したこの場で最後に動いた人間となった

後で緑谷から聞いた話では奴の胸郭は折れていたようでその折れ方が悪く、剣状突起が肺に突き刺さっていたらしい

そんな状態だったにも関わらずあいつは最後まで己の敵に立ち向かって行ったのだ

形は歪んではいるしやっていることもヒーローとは程遠いことだった

しかしそうだとしても俺は奴はただの(ヴィラン)として片付けるわけにはいかなかった

奴の思いはどこか共感できる所があったからだ

偶々ここに居合わせそしてヒーロー殺しと戦うことになったわけだがこの戦いで得たものはこれからのヒーローとしての在り方を考えさせるような気がしてならない

今回のヒーロー殺しとの対峙はそんな根っこの部分を考え直させる、それだけの価値があったと俺は思った

言い方は悪いかもしれないがかなりいい経験を積めた。そう感じた1日になった




主人公の血液型考えてなかった
B型ってことにしておいてください

因みに主人公の乱入タイミングは飯田の拘束が解けて緑谷の拘束が解けていない間のタイミングです
緑谷は動くようになる前に離脱させられ飯田は腕をやられて轟に無理矢理動こうとしたのを止められていたので戦いに参加することはなかった感じです

I軋間
メルブラの軋間改変キャラ
Iはイケメンの意味らしい
イケメンの名にふさわしく清々しい位にごり押しする
某大会では予選、敗者復活戦で何度も視聴者を燃え上がらせる名勝負メーカー的位置を確立したキャラ
説明した通りアーマー持ちである

バルバトス
テイルズの方の若本
当身、飛び道具感知、必殺技に対して抜け発動時ペナ発生、戦闘開始から一定時間以内に敗北でペナ発生など原作同様色々とやばいキャラ
また常時アーマーが発動しているわけではなく後で補足をいれる猿帝とバルバトスは一定攻撃数を受けるまではアーマーが発動しているという判定になるキャラ
手数キャラやコンボキャラを相手にすればすぐにアーマー状態を剥がされてしまいノックバック等をしてしまうようになるが投げキャラなどには相性が良い

猿帝
BASARAの豊臣秀吉改変キャラ
上で説明したのと同じ特殊なアーマー持ち
また軸と呼ばれるシステムを搭載しておりバトルフィールドとは違う空間に逃げることが出来る
この空間に逃げている間はたとえ相手がどんな攻撃をしようとも絶対にダメージを与えることができないというもの
相手が神クラスであろうと軸に逃げている間は攻撃を受けないので「軸の可能性」を見たとまで言われる位である
因みにこのキャラは投げ主体となっており軸で攻撃を避けて隙が出来た瞬間軸から戻ってきて硬直時間に投げを叩き込むといった戦い方をする
BASARA技がとてつもなくかっこいいため必見

ジョンス・リー
エアマスター及びハチワンダイバーに登場するキャラをドナルドで有名な作成者さんが再現させたキャラ
戦闘スタイルは八極拳
八極拳に2の撃はいらない
八極拳士は一撃で倒す
八極とは大爆発だ
という言葉を正しく再現されておりアーマー状態から繰り出されるその一撃は相手のHPを全て持っていく威力である
そのかわり隙が大きいという欠点があるがそれを補うように技の判定が強いのも特徴の一発屋のようなキャラ
作中で攻撃が遅いといった記述はなかったらしいがゲームバランスを考えて遅くしたらしい

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