———声が聞こえる。
「あ”あ”あ”あ”ーーーーーーっ!」
「ぬめぬめしまずぅぅうう」
「「助けておうさま”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」」
二匹の巨大なカエルと、丸呑みにされかけているふたりの少女。
それが俺の目に映る光景の全てだった。
「お前ら・・・・揃いも揃って無能すぎる。いい加減にしろよ」
俺は動かない。すでにカエルを五体ほど捌き、小腹を満たすためその辺に生えていた草を食む。もうとっくに十分な仕事を終えた俺は、力なき少女が死にかけていようと気にならないのだ。
「早く逝けよ。そしてリスポーンしてこい。戦い方ってのはそうやって覚えるもんだ」
「圧倒的無慈悲!!」
「この外道! クズ! 不死人!・・・・なんか温い・・・もう眠たいです」
「め、めぐみーーん! 寝ちゃダメよ! 死んじゃ、あ! あ! あ”あ”ッーーーーーーー!」
枯れた雑草うめぇ。半月草みたいな味がする。
「草なんぞ食ってる場合かァーーー!?」
「あ? テメェ草馬鹿にすんのか? よしいいだろう、ここに旅立ちの時にトマスから預かってきた大量の三日月草がある。ちょっとまて、すぐに草の偉大さを思い知らせてやろう・・・・・」
ユラリと立ち上がり、ソウルの中から深緑をたたえてたいへん美味しそうな三日月草を、両手にいっぱい取り出す。
「そしてぇぇ・・・・・そそそそ、そぉい!!」
「「むぎゅ!!? むぐ!ムググッーーーーー!!」」
ロスリックで培ったナイフ投擲術でもって、阿呆みたいに開けた大口に三日月草をシュート。
「超、エキサイティン!」
「「にがいわッーーーー!」」
カエルの口から垂れた阿呆面が真っ赤になって吠える。そんな午後だった。
「あーうー……まさかこんな鬼畜騎士だとは夢にも……」
ヌメヌメを拭いながら、めぐみんはぼやいた。
「たっくさん稼いだわね! あ、ルナさんシュワシュワもう一杯!」
「ああ、でかいだけの手合いで助かった。ちなみにアクア、お前が一体でも倒せればもう少し小遣いも増えると思うぞ」
「細かいことはいいの! 初日から稼いだおかげで、馬小屋に泊まらずに住むんだし、万々歳でそ?」
「アクア、呂律がまわってないです」
あの後散々巨大カエルに弄ばれた2人を助け出し、俺たち3人組は「冒険者ギルド」へと来ていた。
ここは冒険者なる職の人間に仕事を斡旋する場所で、酒場も兼ねている。
カウンターから右手の端に陣取った俺たちは、既にギルド員登録を済ませて、今はこのシュワシュワなるものに舌鼓をうっている。と言うわけだ。
「しかし、何気に上級職ばかりのパーティーになりましたね。私はアークメイジですし、アクアはアークプリースト、セトは……」
「……あれ?」
めぐみんが首をかしげる。
「そういーばぁ、セットさんてご職業はなんなんのー?」
酔いすぎのアクアが言及してきた。
「もとの素性どうり、蛮族だな」
「蛮族……?」
「ばんじょくとあ」
アクア、もう飲むな見てられん。
「あらゆる初期能力が均等な生まれだ。非常に鍛えやすくて、この生まれだったことを今でも感謝している」
「ぷっふー! じゃあセトサン棍棒とか持って戦ってたろー?!露骨にやばーん!」
「アクア! 飲み過ぎですよ、もうやめましょう。ね?」
「ひーーははは! あは、あははあははあははははーん!ゲホッ! ゲホッゲホッ!!」
「あーもう……セト、ちょっと向こうで介抱してきますね?」
「すまない。任せる」
しかしいい世界だ。こうして椅子に座って酒につまみをつつける日が来ようとは。
深く幸せを噛み締めながら、俺はシュワシュワのお代わりを注文した。
「すまない……すこしいいか?」
横合いから、俺に声をかける者があった。
「私の名はダクネス。さっきの2人は、あなたの仲間でいいのだろうか?」
これが俺と、超絶変態女との邂逅だった。