私のもう一人のお兄様がなんか変人   作:杉山杉崎杉田

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部活勧誘期間

 

 

 

あの後、達也お兄様は魔法をピタリと当て、無事に風紀委員となった。お兄様が風紀委員になったのは、結果的には私としても嬉しいことだし、お兄様にとっても決して悪いことではなかったと思う。

けど、それでも分からないことが二つだけあった。

 

「あの、冬也お兄様」

 

今は、達也お兄様が風紀委員会から戻って来るのを校門の前で冬也お兄様と待っている。その二人きりの時間を利用して聞いてみた。

 

「何?」

 

この人が学校で声を発したのには、若干驚いたが、私は続けた。

 

「えっと、まずは何で生徒会室にいたんですか?」

 

「達也を推薦したのは俺だからね。俺がいないわけにはいかないでしょう」

 

そういうところは律儀なのね……。それと、もう一つ、こっちが本命。

 

「どうして、達也お兄様を風紀委員に入れたのですか?」

 

「どうしてって、たまたまそういう流れになったんだろ?」

 

「渡辺先輩からは、冬也お兄様から達也お兄様を薦められたと聞きました」

 

「…………」

 

今回の件、私にはどうにも冬也お兄様が仕組んでいたように思えてならない。達也お兄様を推薦し、服部先輩が反対するのを見越した上で、あの様な魔法当てゲームを開催した。そう考えれば全て辻褄が合う。だとすれば、なんで達也お兄様を風紀委員に入れようと思ったのかが分からない。

 

「……まぁ、アレだ。達也は委員会に入れておくべきだと思ったんだよ」

 

「だからその理由を……」

 

「面白そうだからに決まってんじゃん」

 

……ああ、そうよね。こういう人よね、この人は。例え遊びでもやるからには全力でってタイプだもんね。

 

 

部活動勧誘期間が始まった。私は生徒会室に顔を出したあと、ほのかと雫とスケット部の部室に顔を出す約束をしていたので、行くことになった。

………あー、気が重い。この前の達也お兄様もきっとこんな感じだったのね……。

 

「あ、深雪。行きましょう」

 

ほのか達と合流して、スケット部の部室に向かった。

 

「それで、深雪。お兄さんなんだよね?どんな人なの?」

 

相当憧れているのか、目をキラキラと輝かせてほのかは私に聞いて来た。………言えない。妹の着替えシーンをカメラに収め、生徒会室でお好み焼きを作って、遊びのために嫌がる弟の退路を絶つように風紀委員に入れる変人だなんて言えない。ていうか、これただの性格悪い奴じゃね?

 

「え、えっと……カッコイイ人、かしら?」

 

顔と声だけ。というか、顔と声と戦闘力以外私は冬也お兄様の事を知らない。小学生の時、誕生日のために「欲しいものなんですか?」って聞いたら、「未来に羽ばたくための翼」って言われた事がある。

 

「だよねー!すごいイケメンさんだもんね!ジャニーズとかに入れそうだもんね!」

 

「あ、あはは……」

 

あの人がジャニーズに入ったら、ジャニーズはどうなっちゃうんだろうか……。イケメンの集まりじゃなくてヘンジンの集まりになるんじゃないだろうか。

 

「中身は?」

 

今度は雫からの質問だ。中身……変人の一言で片付けることも出来るが、それでほのかの憧れをブチ壊すわけにもいかない。えーっと……どんな人、どんな人……、

………ダメだ、変な人っていう感想しか浮かばない……。

 

「み、深雪?」

 

「えっと……なんていうか……見たほうが早いというか……」

 

「そっか。それもそうだね」

 

ふぅ……なんとか誤魔化せた……。でも、これは先延ばしにしただけで解決には繋がってない。

あ、でも一つだけ私でも知ってる事があるわね。しかも、達也お兄様も認めてる特技が。

私がちょうど思い出したタイミングで、スケット部部室に到着した。

 

「失礼しまーす」

 

昨日の生徒会室に入る時に比べて、明らかに緊張感なく私は部屋の中に入った。直後、目に飛び込んで来たのは、

 

 

『おかえりなさいませ、お嬢様』

 

 

メイド服を着た真顔の冬也お兄様がホワイトボードを抱えて立っていた。しかも、内装も完璧で、机がいくつか置かれていて、おそらく部活見学中の生徒達がみんなで座ってお茶をしていた。

 

「……何これ」

 

「冬也お兄様、何の騒ぎですかこれ?」

 

私が聞くと、ホワイトボードを見せて来た。

 

『今は冬美お姉様』

 

「…………はっ?」

 

ど、どういうことかしら?と、心の中で惚けつつも、私は嫌な予感がしていた。この人の特技を持ってすれば……。

嫌な予感がしている私の手を、冬也お兄様は掴んで自分の胸を触らせた。………あれっ。や、柔らかい……。何これ……大胸筋のはずの癖に肉まんみたいな柔らかさがある……。これって……、

 

「胸ぇ⁉︎」

 

『ばっ!声デケェよ深雪!』

 

「あっ、ごめんなさ……ていうか前から思ってましたけど、ホワイトボードに文字書くの早くないですか⁉︎」

 

大声で言うと、周りのお客さんがこっちを振り返ったので、私は小声で冬也お兄様……いや、本人が言うには冬美お姉様?の耳元で聞いた。

 

「それで、どういうことなんですかその格好?」

 

『いや実はね〜、去年のちょうど今頃なんだけど〜、部室で余りにも暇だったからちょっと新しい魔法生み出してみたのよ〜。そしたらなんか性転換しちゃってマァジでウ〜ケ〜る〜www』

 

これだ、この人の特技。何をどうしてるのかは知らないが、勝手に役に立たない魔法を創り出す。中学の時なんてカンガルーとライオンをフュージョンさせて、最強の超生物作り出して問題になったこともあるんだから。

私は呆れ気味におでこに手を当ててため息をついた。口調についてはノータッチ。

 

「すみませーん!抹茶ラテお代わりお願いしまーす!」

 

『はーいただいまー♪』

 

二年生のポニーテールの二科生の女子生徒に呼ばれて、駆け足でそこに戻る冬美お姉様。………これ無料でやってるのかな。

一瞬、休んで行こうか迷ったのだが、ほのかと雫のことを忘れていた。雫はともかく、ほのかは一回も会ったことないのに冬也お兄様をすごく尊敬している。恐る恐るほのかの方を見ると、キョトンとした顔をしていた。

 

「ねぇ、深雪。冬也さんは?」

 

「………へっ?」

 

この子……もしかして、気付いてないのかしら……。そりゃまぁ普通の人じゃ魔法で性転換なんて出来ないし……。

つまり、ほのかにまだ冬也お兄様の変態的変人的奇人的部分は知られていないということになる。

いや、でもだからって真実を教えないのは……、

でもここでほのかの憧れを壊すのも……、

いや、でも、しかし……!

10秒間、腕を組んで悩んだ結果、私は言った。

 

「と、冬也お兄様はいないみたいね!」

 

………言ってしまった。

 

「だね〜、じゃあまた今度いる時に来ようか。今日はもう席埋まってるし」

 

「へっ?ま、また来るの?」

 

「うん。だって冬也さんに会ってないもん」

 

「…………」

 

最近、本気で思う。どうして私ばかり疲れなきゃいけないのかしら。

 

 


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