期末試験が終わり、雫の送別会の日。つまり、クリスマス。
冬也は分身に送別会に行かせ、自分は藤林と会っていた。
「こんばんは。藤林さん」
「もうっ、二人きりの時はいつもの呼び方でいいわよ」
「わかった、響子」
「…………」
「照れるなら提案するなよ」
「う、うるさいわね。ほら、行きましょう」
「はいはい……」
「なぁに?その返事、私とデートするのが嫌なの?」
「そんな事ありませんよ。ただ、いい年してなんでそんな純情なんだろうと、ふと思いまして」
「うるさいってば‼︎大体、一年前は冬也くんの方がタジタジだったじゃない‼︎」
「なに高一と張り合ってんの?」
「あーあ……あの頃の冬也くんは可愛かったのになぁ」
「可愛くなくて結構」
そういうところが可愛くないのよ、と藤林は思ったりしてみた。
「まぁ、俺はカッコいい男ではあるけどね。今日は響子の欲しがるものはなんでも買ってあげるよ」
「それは別のベクトルのかっこよさだと思うんだけど……。まぁそれはいいわ。それより、本当に買ってくれるの?」
「そりゃもう。金だって沢山ありますし。ほら」
言いながら冬也はジャンプ以上の厚さのある財布を取り出した。
「財布にいくら入れてるのよ‼︎」
「一億以上」
「そんなに買ってもらうつもりないからね⁉︎………まぁ、それなら少し高いのもお願いしちゃうかもだけど」
「良いっすよ。なんなら家でも」
「そんなのいらな……‼︎いや、いる、かも……」
頭に浮かんだのは、二人で同棲する為の家。それなら、仮に性交するにしても、わざわざホテルに行く必要はない。
(って、なに考えるの私⁉︎)
顔を赤くして左右にブンブン振ってると、ゴミを見る目で冬也が口を開いた。
「………や、俺にも立場とか家柄とかあるんで同棲とか言い出すのはちょっと……」
「な、何も言ってないわよ‼︎」
「いや、顔見りゃ読めるし」
「変態‼︎」
「や、どっちがよ」
「い、いいから行くわよ‼︎買って欲しいものたくさんあるんだから‼︎」
「え、コ○ドームとか?」
「そこから頭離しなさいよ‼︎」
プンプンと怒った藤林の後を、冬也は追った。
*
「どう?冬也くん」
セーターを自分の前に当てる藤林。
「や、どう?とか聞かれても……。着ないとわかんないっしょ」
「じゃあ、着て来るね」
試着室に向かう藤林と冬也。
「いい?覗いちゃダメだからね?」
「覗きませんよ。前にもっとあられもない姿見てるわけですし」
「そ、そういうこと外で言わないで‼︎」
顔を赤くしながら試着室に入る藤林。
が、当然冬也はただ黙ってるはずがないわけで。
「ファンネル・カメラ」
直後、冬也のコートのポケットとフードの中と、内側のシャツの胸ポケットから合計、五つのカメラが飛び出した。
それが、藤林の更衣室を囲む。
「いけ、ファンネル‼︎」
だが、当然藤林も黙っていない。更衣室にカメラが入った直後、更衣室のカーテンの隙間から腕が伸びてきて、粉々になったカメラの破片がサラサラサラッと落ちた。
「……………」
「後でビンタするから」
「すいませんした」
で、数分後、着替え終わって藤林はカーテンを開けた。
「どう?」
「うー……ん、良いんじゃないですか?セーターだと藤林さんの普段は着痩せして強調されない胸がある程度出てくるので、良いと思います。ただ、もうちょい明るい色がいいですかね」
「ありがとう。でも、胸の事を外で言わないでって前も言ったわよね?」
「いや、どう?って聞くから真面目に答えたんですが……」
「………まぁいいわ。それなら、明るい色のセーターを冬也くんが選んで来てよ」
「良いですよ。少し待ってて下さい」
数分後、冬也は水色とピンクの2種類のセーターを持って来た。
「どっちがいいですか?」
「ち、ちょっと待って。明る過ぎない?」
「そんな事ありませんよ。お似合いだと思いますよ?」
「そ、そうは言っても私、学生じゃないのよ?」
「関係ないよ。まだ大学生くらいにも見ようによっては見えるし」
「………それ、褒めてるつもり?」
「それに、普段軍人やってておしゃれとか全然気を回せないんだから、こんな時くらいは女性になって下さい」
「………………」
▼トウヤ の とつぜんのみぎストレート!キョウコ の せいしんに100000のダメージ!
「ず、ズルいわよ……そういうの……」
▼キョウコ は かおがまっかになった!
「普段は何考えてるか分からないアホのに、突然そういうこと言うんだから……」
「あれ?今俺、罵倒された?」
「まぁ、そういうことなら今日は甘えちゃおうかな」
「はい。そうして下さい」
「でも、冬也くんだってまだまだ学生なんだから。たまには社会人の私に甘えてね?」
「そういう事は一度でもベッドの上で俺に勝ってから言ってください」
「う、うるさいわね!ホントいつもいつも一言多いんだから‼︎」
*
結局、その後に藤林の欲しがったものと、冬也の選んだものを全部買った。
「悪いね、本当に全部買ってもらっちゃって」
「良いって。で、これから何処行く?」
「うーん……とりあえず荷物置きたいから穴開いてくれる?」
「はい」
「いや私の穴じゃないわよ‼︎ていうか、こんな街の真ん中でスカート捲らないで‼︎」
ゴチン☆とゲンコツされた冬也は今度はボケなかった。
指をパチンと鳴らすと、二人の眼の前に次元の裂け目のような穴ができた。その中に荷物を置く。
「うー……ん、どうしよっか。ていうか、冬也くんは何も考えてないの?こういう時は男の子がエスコートしないと」
「いや、俺の魔法なら何処でも0.5秒経たずに飛んで行けるんで別にいいかなって」
「そう……そうね、そういう子だもんね」
なんか呆れられた気がした冬也だが、耐えた。
「じゃあ、とりあえず水族館行こうか」
「? なんで水族館?」
「いいじゃない。行きましょう?」
「了解。じゃ、手」
「うん」
「あと、目閉じてて」
「え?う、うん」
直後、二人の姿は光と共に消えた。
*
「もういいよ」
冬也の声で藤林は目を開けると、海の中だった。
「…………は?」
「『水中歩行』『水中異空間』『絶対不可侵領域』の魔法の超空間。この中なら濡れないし、野生の魚を生で見れるし、向こうからこの空間に入って来ることはないよ」
「……………」
「ウィンター水族館へようこそ、とでも言っておこうか」
「…………あ、うん」
「じゃ、行こうか。響子」
二人は海の中を歩いた。