私のもう一人のお兄様がなんか変人   作:杉山杉崎杉田

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アメリカへ

翌日、私は冬也お兄様を起こすために部屋に入った。

 

「冬也お兄様、失礼します」

 

直後、私の目に飛び込んだのは、冬也お兄様と一緒に眠っているミカヅキちゃんだった。

 

「……………」

 

ぺ、ペットの癖に私のポジションを……んんっ‼︎じゃなくて、何ペットと寝てるのよあのバカ兄は‼︎

ミカヅキちゃんが女の子かどうかは分からないけど、仮にも二足歩行してる生き物が冬也お兄様と眠るなんて……許せない‼︎

私はミカヅキちゃんの脇を掴んで、引っ張った。ミカヅキちゃんは冬也お兄様の脇腹にしがみ付いたまま動かない。

……どこまで懐いてるのよ。

私は更に引っ張った。でも離れない。少し、イラっとしたので、フルパワーで引っ張った。

 

『ピュウゥウウゥ………』

 

あれ、なんか唸り声が聞こえたような……。

直後、ミカヅキちゃんは片手で星の形を空中に描いた。そこから星型の泡が現れ、私に直撃した。泡は破裂したと思ったら、大きくなって私を包んだ。

 

「きゃあっ⁉︎」

 

な、なにこれ⁉︎動けない……‼︎まさか、これが冬也お兄様の言ってた……⁉︎

嫌だ!このまま1日放置された上にアメリカ行きは嫌だ‼︎で、でもこの拘束は流石にどうしようも……‼︎

 

「…………何やってんだオメー」

 

「⁉︎」

 

いつの間にか目を覚ましていた冬也お兄様が、私を子供を見る目で見ていた。

 

「何泣いてんだよ」

 

「な、泣いてません‼︎」

 

「何、出れないの?」

 

「で、出れません……」

 

「おーい、起きろミカ」

 

『ピュウ………』

 

オーガスみたいなあだ名ついてる……。

起こされたミカヅキちゃんは、目をこしこしと擦りながら、くあっと子猫のような欠伸をした。

………可愛い。不覚にもキュンときた。ああもう!卑怯よこんなの‼︎

 

「ミカ、これ解いてやれ。俺ならともかく、マイシスターじゃアメリカ行ったらすぐには帰って来れない」

 

あんたは帰って来れるのか、と思ったけど、無制限重量を無制限距離に1秒掛からず飛ばせるこの人のフラッシュムーブならそれも可能だ。

 

「おーい、寝ぼけてんのか?」

 

声を掛けられたミカヅキちゃんはしばらくぬぼーっとしていたが、すぐに眠気を払い、ぱっちりした目になった。

 

「ミカ、深雪の拘束解いてやれ」

 

『プイッ』

 

「あ?」

 

そっぽを向いた。なによこの子、と思ったら冬也お兄様の腕にくっつき、甘えるように頭をスリスリとくっ付け始めた。

 

「おいおい、なんだよ。それよりみゆきちの拘束を……」

 

『ピュウゥ……』

 

な、懐いてる姿も可愛い……。そうよ、この子はペット。動物よ、私の事を嫌ってるなんてありえない……。

そう思った直後、私を見てほくそ笑んだ。ムカッと来た。

 

「冬也お兄様、出して下さい‼︎その子しばきます‼︎」

 

「え、やだよ。こんな可愛い子」

 

「可愛くありません‼︎敵です‼︎」

 

「あ?テメッ、喧嘩売ってんのかコラ」

 

グッ……ダメだ。あの人溺愛してる……‼︎

 

「わ、分かりましたから‼︎謝りますからとりあえず出して下さい‼︎」

 

「じゃあ、助けて下さい冬也お兄様。そうすればなんでもしますからって言え」

 

「た、助けて下さい冬也お兄様‼︎そうすればなんでもしますから‼︎」

 

「言ったな?」

 

「はっ、必死すぎて私は何を口走った⁉︎」

 

「おし、助けてやる」

 

冬也お兄様は指をパチンと鳴らした。直後、私の周りの泡はパァンッと割れた。

 

「なっ……⁉︎」

 

そ、そんな簡単に割れるの……⁉︎

 

「よし、じゃあ早速言うこと聞いてもらうか。朝飯作れ。ミカの分な」

 

「み、ミカヅキちゃんは何を食べるのですか?」

 

「パン。好物はヨーグルト」

 

「わ、分かりました」

 

「ああ、パンって言ってもアレな。フランスパンじゃないと食べないから」

 

「ええっ⁉︎な、なんでそんな限定的なんですか⁉︎」

 

「いいから買って来いよ」

 

「う、うう!分かりましたよ‼︎」

 

大慌てで私はパン屋に走った。

 

 

早くも放課後。今日は雫の家で試験勉強。

ラッキーというかなんというか、冬也お兄様が講師をやってくれるというのだ。

吉田君を助手代わりにしたその説明を受けて、西城くんがポツリを呟いた。

 

「………なんかつい2時間前の100倍頭良くなった気がするぜ」

 

「確かに。あたしもそんな気がする」

 

同意したのはエリカだ。気持ちは分かる。実際、私もそんな気がするし。

教えるのまで上手いとか、どこまでオールラウンダーなのかしらうちの兄。そして、更に驚いたのが吉田くんだ。完璧なサポートで、上手く授業を回していた。流石、スケット部部員と言わざるを得ない。

 

「これなら試験まで余裕そうだね」

 

「ああん先生冬也さんも素敵スーハースーハー‼︎」

 

「なんか最近、光井さん人目を気にしなくなってきてるような……。普段はどうなの?北山さ………」

 

「刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん刀夜くん………」

 

「あ、こっちもダメだ」

 

………すごいわね、冬也お兄様って。人を破壊する天才なのかもしれない。

まぁ、他人の人間性は破壊しても他人の学力を創生する冬也お兄様のお陰もあってか、勉強会は早く終わり、段々とお茶会のような雰囲気になっていった。

……その後の雫の爆弾発言までは。

 

「えっ?雫、もう一回言ってくれない?」

 

「実はアメリカに留学することになった」

 

「聞いてないよ⁉︎」

 

「ごめん。昨日まで口止めされてたから」

 

血相を変えて詰め寄るほのかに、雫はしれっと答えた。

 

『留学するんですか。それでは、北山さんには特別授業で出発までの間、英会話教室を開いてあげましょう。他の生徒の皆さんも、興味があれば参加してよろしいですよ?』

 

「殺せんせーですか。というか黙ってて下さい」

 

冬也お兄様のホワイトボードを黙らせると、エリカが聞いた。

 

「でもさ、留学なんてできたの?」

 

「ん、何でか許可が下りた。お父さんが言うには交換留学だから、らしいけど」

 

「交換留学だったら何故OKが出るんでしょう?」

 

「さあ?」

 

美月のその質問に、冬也お兄様はほんの一瞬だけ難しい顔を浮かべたが、すぐにいつもの顔に戻した。

 

『期間は?』

 

「年が明けてすぐです。期間は三ヶ月」

 

「三ヶ月なんだ……ビックリさせないでよ」

 

ほのかはほっと胸を撫で下ろした。

しかし、私も達也お兄様も冬也お兄様もそうはならなかった。私達の常識では長過ぎる。……けど、まぁどうでもいいわね、そんな事。

 

「じゃあ、送別会しなきゃな」

 

達也お兄様はそう提案した。

 

 


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