取扱説明書
と、いうわけで私は冬也お兄様の面倒を見ることになった。
年齢は大体、6歳くらいかしら?この頃の冬也お兄様って確か………一番クソガキだった気がする。
「ィヤッホーウ‼︎」
帰宅するなり、冬也お兄様……いや、冬也くんは家の中を駆け回った。
「こ、コラ!バタバタしないで下さい!」
「妹の癖に五月蝿い」
こ、このクソガキ……!ガチトーンで返してきやがった。
一瞬で私の怒りのボルテージが上がったのにも気付かず、冬也くんはソファーにダイブした。
ボフッと飛び乗ったあと、クッションを抱きかかえて、ゴロゴロ転がりだした。ソファーから落ちて、床に身体を強打しても御構い無しに転がり回り、机に頭をぶつけて止まった。
………も、もしかして、泣いてる?
「わ、わあああ!だ、大丈夫ですか⁉︎お、お菓子でもオモチャでも買ってあげるから泣かないで……」
「えっ?マジで?」
………ケロリと起き上がりやがった。クッ……!今回は泣いたかどうか確認せずに買ってあげると言ってしまった私の落ち度ね。
「え、ええ。だから泣かないで?ね?」
「泣くわけないじゃん。なめてんの?」
………ダメよ。イラっとしては。抑えて私。こんなの子供の言うことじゃない。心は広く、冷静に。
「それよりほら、早く行こう。お菓子とオモチャ買いに」
「へ?今?」
「うん」
「あ、あと両方はダメ!片方にしなさい!」
「はぁ?自分で『お菓子でもオモチャでも』って言ったんじゃん」
「そ、それは……!はぁ、仕方ないわね。いいわよ、両方で」
「やりぃ!」
というか、その無邪気な笑顔は反則よ………。
「あの、ところで冬也くん?」
「………お兄様は?」
「………冬也お兄様」
「何?」
「私や達也お兄様が冬也お兄様の妹や弟って、本当に信じるの?」
「え、うん。二人とも、嘘ついてないのは分かるし」
「どうして分かるの?」
「俺のサイドエフェクトがそう言っている」
「……………」
ぶっちゃけ、冬也お兄様ほどの才能なら、嘘を見抜く魔法くらい小学生のうちから作れそうだから、信じられるのよね。
「ま、まぁ分かったわ。じゃあ行きましょう?」
そう言って、私と冬也くんは外に出ようとした。すると、階段から達也お兄様が降りてきた。
「ん、どこか出掛けるのか。深雪?」
「はい。冬也くんがお菓子とオモチャが欲しいって……」
「それはいいけど……ああ、これ」
達也お兄様は紙を一枚渡してきた。
「7歳の冬也兄様の取扱説明書だ」
「へ?なんでこんなもの……」
「前、冬也兄様にもらった」
「………そんなものがあるなら、達也お兄様が面倒を見てあげればよろしかったのでは?」
「俺はそういうの向かないんだよ。じゃあな」
そう言うと、達也お兄様は足早に去って行った。
………逃げたわね。まぁ、いいわ。達也お兄様のすることですし、許しましょう。
「おい深雪!早く行くぞ!」
「はいはい……」
ま、これは歩きながら読めばいいわよね。
*
冬也くんと手を繋ぎながら、私は紙を読んだ。
『大黒・ウィンター・エグゾディア・ルルーシュ・ランペルージの取扱い説明書
・はじめに
まず、これを読んでるのは十中八九深雪でしょう』
見抜かれてる⁉︎
『・注意事項』
前置き終わり⁉︎
『1、ものすっごいカマちょです。何か声をかけてきたりちょっかいをかけてきた時は、なるべく遊んであげましょう。
2、頭は松田桃太のくせにプライドだけは夜神月です。なるべく、慎重に扱いましょう。
3、戦闘力は第一高校の三巨頭とタメ貼るかそれ以上です。喧嘩させるのはなるべく避けましょう。
4、目を離すと何をするのか分からないので、とにかく目を離さないようにしましょう。
5、万が一、見失ったときは騒ぎの起きた方へ行きましょう。
6、柔らかいものが好きです。俺が怒りそうになった時は、クッションでも枕でもオッパイでも構いません。もふもふさせてあげましょう(オッパイだと効果は2倍)。
7、さみしがり屋です。一緒に寝てあげましょう(女性限定)。』
………ようするに、ほとんど今と変わらないということね。後半、ほとんど欲望だし。
「………目を離さないように?」
私、今この紙を読んでて目を離してたわよね……?
ハッとして辺りを見回すと、すでに冬也くんの姿はない。
サァーッと顔が真っ青になっていくのが分かった。直後、遠くで女性の悲鳴が上がった。