それから、司令室に避難した私に、お母様は説明してくれた。達也お兄様は生まれつき、『分解』と『再成』の2種類の魔法しか使えないこと、人工魔法師計画によって感情が欠落てしまったこと、その手術をお母様自身がなさったこと、その中で達也お兄様に唯一残された感情が『兄妹愛』であるということ。
一方、外の戦闘はこちら側の圧勝だった。桜井さんは犠牲になったものの、達也お兄様のマテリアルバースト、冬也お兄様のハイパー・ナトリウム・クラッシャー・即死ミサイル(略してハナクソミサイル)によって日本は圧倒し、大亜連合をフルボッコにした。
何故、冬也お兄様は力を隠していたのか、それらは何一つわからなかったが、あの戦争のあとに生き延びた冬也お兄様が、私にこっそり耳打ちした言葉がこれだ。
「深雪……俺は決めたよ。俺は、将来世界を征服する」
意味がわからなかったが、当時は目の前で冬也お兄様の暴れっぷりを目にしていたので、あながち嘘ではないのではないか、と思っていた。
それなのに、それなのに……、
「あ、あのっ……皆さん、どちらさま、ですか?」
「」
病院で姿も中身も子供になっていた。事情は、試作型CADの誤作動による自爆らしい。
「それでなんでこうなんのおおおおおおお⁉︎」
風間大尉や藤林少尉、達也お兄様の前で思わず大声でツッコんでしまった。
「ちょっ……いきなり大きな声出さないでください……」
「いや出しますよ!あんたバカのくせになんて面倒な事になってるんですか⁉︎」
「うっ……バカって言わないでよぅ……」
やっぱりあの時の言葉はバカの妄言だったようね……。
はぁ、私本当にこの人のことがよくわからないわ。
「すまない、深雪さん。私が止めるべきだった。いやでもまさかあんな風に爆発するなんて誰が思うだろうか。ねぇ、藤林くん?」
風間少佐が隣の藤林少尉に声を掛けた。
だが、
「きゃああああ‼︎子供の冬也くん可愛い!お持ち帰りしたい!」
「だ、誰ですかあなた……あまり抱きつかないでよ……痛いです」
「響子お姉ちゃんって呼んで」
「………きょうこおねーちゃん?」
「グハァッ‼︎」
吐血して後ろにぶっ倒れた。うん、この人は放っておこう。
「……これは、もしかするとアレだな」
「アレ?」
達也お兄様がボソッと呟いたのに、風間少佐が反応した。
「いえ、前に言ってたんですよ。もし、自分が大怪我をするような不測の事態が有れば、自分の体が治るまで、自分自身を身体ごと小学生あたりまで退行させて、他人から自分の記憶を守る、と。まぁ、この人が大怪我なんてするはずないと思っていましたから、軽く聞き流していましたが」
「確かに、それは分かるが……。というかどんな魔法だそれは……。それはどのくらいの間、幼児退行するんだ?」
「自分の身体が治るまで、と仰っていました。この体になっている間、自分の体は高速で修復中、らしいですので、遅くても一週間くらいだと」
「ふむ……となると、私や藤林くんがここで彼と関わっているのはまずいのではないか?」
「そうかもしれませんね……。申し訳有りませんが少佐、兄が元に戻ったら報告しますので……」
「ああ、了解した。行くぞ、藤林」
「ああん待って!もう一回抱かせて!」
「冬也が作った仮想式拷問プログラム『鼻の穴に醤油を200リットルねじ込んでみた』というのがあるんだが……」
「帰りましょう」
「頼むぞ、特尉」
その言葉に、達也お兄様は敬礼した。
…………さて、ようは一週間この子を私達で育てなきゃいけないのよね。
「どうしましょう、達也お兄様」
「……学校には事情を話すとして、いや連れて行くしかないだろうな。幸い、学校にはスケット部の面々もいるし、家に置いておくよりはその方がいいだろう」
「そうですね」
「じゃ、世話は頼んだぞ。深雪」
「分かりました。…………えっ?」
最後、サラッとなんて言った?
次の第6章はオリジナルとなります。そんなに長くはやらないつもりです。