私のもう一人のお兄様がなんか変人   作:杉山杉崎杉田

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スケット部

 

学校。まだ教師の来ていない教室内で、私の席の周りに女子生徒の二人が集まって来ていた。

 

「ねっ、司波さん」

 

「……貴女は?」

 

「あっ、ごめんなさい。私、光井ほのかっていいます」

 

「私は、北山雫」

 

これは、お友達になるために声を掛けてきた、ってことでいいのかしら?まぁ、そんなことを一々確認するのもおかしな話よね。

 

「その、少し気になることがあって……」

 

「気になること?」

 

「ええ。スケット部の事なんだけど……」

 

「ブフッ‼︎」

 

「司波さん⁉︎」

 

な、なんでここでもあのアホ兄貴の事が……!

 

「な、なんでもないわ。スケット部がどうしたの?」

 

「その……カッコイイと思わない?」

 

「へっ?」

 

「クールで主席で冷静で伝説がいくつもあって……去年の九校戦の新人戦で男子が優勝できたのもスケット部の人のお陰なんでしょう?」

 

「それは知らないけど……詳しいのね?」

 

「うん!昨日、噂を聞いてから雫に手伝ってもらって一生懸命調べたんだから!……あー、どんな人なんだろう、スケット部さん……」

 

この子、将来的にストーカーになりそうで心配だわ。

 

「それで、調べてる時に知ったんだけどね?その人って全然喋らなくて、声を聞いたことがある人って誰もいないんだって!」

 

ああ、お願い……これ以上身内の恥を私に知らせないで……。私はおそらく赤面してるであろう顔を俯かせて隠しつつ、聞いた。

 

「それで、私に何か?」

 

「そうそう!だから今度の部活見学期間に、一緒にスケット部の見学にいかない⁉︎」

 

えっ……。

 

「私、本当は今すぐにでも会いに行きたいんだけど、せっかくだから見学期間中に行きたくて……」

 

だ、ダメよ……!こんな目をキラキラと輝かせている子にあの人の実態を知られちゃダメよ!

 

「え、えーっと……私は部活に入るつもりはないから……」

 

「見学だけでもダメかなぁ?」

 

「うっ……」

 

そう食い下がられると、下手をすれば友達ができなくなるかも知れない。学校で生活するにおいて、友達は必要だってお兄様も仰っていたし……。

 

「分かったわ。見学だけなら一緒に行きましょう?」

 

「やった!」

 

気が重いわ……。

 

 

放課後。私の眼の前ではすごい面倒ごとが起きていた。そもそもの発端は、今日のお昼の時と専門課程見学の時。

お昼の時は私が達也お兄様とそのお友達と一緒にお昼を食べようと思い、食堂に向かったら、クラスの子達も一緒について来た。そこまでは良かった。だけどお兄様達が座っていた、お友達だけで埋まってしまっていた。そこで私のお友達とお兄様たちで一悶着あった。

専門課程見学の時は、三年A組の七草先輩の遠隔魔法の実技が行われていた。当然、一科生に遠慮してしまう二科生も多いのだが、お兄様達は堂々と最前列に陣取っていた。それが気に入らなかった私のクラスメートが何やらイチャモン付けていた。

それらのことがあってか、今は目の前で口論が起こっている。

 

「お兄様……」

 

不安になって、私はお兄様の顔を見上げる。

 

「謝ったりするなよ、深雪。一厘一毛たりとも、お前の所為じゃないんだから」

 

「はい、しかし……止めますか?」

 

「……逆効果だろうなぁ」

 

「……そうですね。それにしても、エリカはともかく、美月があんな性格とは……予想外でした」

 

「……同感だ」

 

その美月は、堂々とした口調と態度で啖呵を切っていた。

 

「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挿むことじゃないでしょう」

 

今回のことは、私を待って下さっていたお兄様に、私のクラスメートが難癖をつけたのが発端だ。

 

「別に深雪さんはあなた達を邪魔者扱いなんてしていないじゃないですか。一緒に帰りたかったら、ついてくればいいんです。何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか」

 

ちょっと美月……。そんな引き裂くだなんて……。夫婦じゃあるまいし……。

私が照れている一方で、口論はヒートアップしていた。

 

「僕たちは彼女に相談することがあるんだ!」

 

「そうよ!司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」

 

「ハン!そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間が取ってあるだろうが」

 

「相談だったら予め本人の同意を取ってからにしたら?深雪の意思を無視して相談も何もあったもんじゃないの。それがルールなの。高校生になってそんなことも知らないの?」

 

「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

 

あっ、この流れはまずいわね……。下手をすれば喧嘩になる。見た感じの印象だと、美月はともかくエリカとあの男子生徒はプライドが高そうな感じするし、私のクラスメイトは言わずともベジータ並のプライドを持つ。

プライドが高いの同士がブツかるというのは、極上のバカ同士がぶつかり合うのより面倒だって冬也お兄様が昔言ってた。

 

「同じ新入生じゃないですか。あなた達ブルームが、今の時点で一体どれだけ優れてるというんですかっ?」

 

「………あらら」

 

美月の台詞に達也お兄様が声を漏らす。まずいことになった、みたいな感じで。嫌な予感は的中し、一科生の一人の男子生徒がニヤリと口を歪ませた。

 

「……どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ」

 

「ハッ、おもしれぇ!是非とも教えてもらおうじゃねぇか」

 

まさに売り言葉に買い言葉状態。A組の男子生徒がCADを取り出し、E組の男子生徒に向けた。

 

「だったら教えてやる!」

 

これはマズイ。

 

「お兄様!」

 

私がお兄様の方を見上げると、お兄様は右手を突き出した。お兄様がその魔法をキャンセルさせようとしたのだ。だが、お兄様の魔法は発動されることはなかった。

ガギンッ!とエリカによってCADが弾かれたからだ。

 

「この間合いなら身体を動かしたほうが速いのよね」

 

「それは同感だがテメェ今、俺の手ごとブッ叩くつもりだったろ」

 

「あ〜ら、そんなことしないわよぉ」

 

「わざとらしく笑って誤魔化すんじゃねぇ!」

 

「本当よ。躱せるか躱せないかくらい、身のこなしを見てれば分かるわ。アンタってバカそうに見えるけど、腕の方は確かそうだもの」

 

「……バカにしてるだろ?テメェ、俺のこと頭からバカにしてるだろ?」

 

「だからバカそうに見えるって言ってるじゃない」

 

ほとんど漫才になってるものを繰り広げる前の二人に、誰もが呆気に取られていたが、いち早く我を取り戻したのは、今朝声を掛けてきた光井さんだった。

素早く汎用型CADに指を走らせ、組み込まれたシステムが作動し、起動式の展開が始まる。

だが、外部から別のサイオンの塊が打ち込まれ、魔法は霧散した。

 

「やめなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に、犯罪行為ですよ!」

 

警告してきたのは生徒会長、七草先輩だった。昨日までの和かな雰囲気とは違い、威圧的な雰囲気を放っている。

 

「あなたたち、1-Aと1-Eの生徒ね。事情を聞きます。ついて来なさい」

 

さらに続いて、風紀委員長の渡辺摩利さんが冷たい声で言った。入学前に公式サイトで見た覚えがある。

ここで抵抗すれば、実力行使されることも想像に難くない。さっきまで好戦的だったエリカもE組の男子生徒も言葉なく硬直している。

その直後だ。私達を睨み付けていた渡辺先輩の口の中にたこ焼きが詰め込まれた。

 

「あっふ!」

 

「! 摩利⁉︎」

 

いつの間にか、七草先輩と渡辺先輩の前にはエプロンに三角巾を装備した冬也お兄様が立っていた。そして、ホワイトボードに文字を書き始め、それを二人に向けた。

 

『ままま、落ち着いてくだせぇ』

 

「! とーやくん」

 

「あっふ!……でも美味っ!な、なんのつもりだ!というかなんだそのたこ焼き!」

 

『調理部のお手伝いなうwww』

 

腹立つ文面ね……。

 

『あそこの二科生と主席いるでしょ?あの二人、俺の弟と妹なんですよ。だからここは俺に任せてもらえませんかね?』

 

「………君の?」

 

『イエース☆』

 

「……そうか、そういうことならここは君に一任しよう」

 

……冬也お兄様の名前を出すだけで一任されるなんてどこまで信用あるんですか。というか本当に一年間で何してたんですか。

 

「それより、今からでも風紀委員に入るつもりはないか?」

 

「ちょっと摩利、抜け駆けは禁止よ。生徒会だって、いやそれ以外の部活や委員会もとーやくんを狙ってるんだから」

 

ど、どこまで人気あるのよ本当に……!けどまぁ、この人のおかげで大事にならずに済んだ。

 

「……ありがとうございます。冬也お兄様」

 

『別にいいよ。じゃ、俺は調理部に戻るから』

 

「はい」

 

校舎の方に消えていく冬也お兄様の背中を、誰もがポカンとした様子で眺めていると、光井さんが私の袖を引っ張った。

 

「あ、あの……司波さん」

 

「んっ?」

 

「もしかして……あの人が、スケット部の……?」

 

あっ……ヤバッ。

 

「お話、聞かせてくれないかな?」

 

少年のように目を輝かせた光井さんのお願いを断る術は私には持ち合わせていなかった。

 

 


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