日曜日になった。今日は達也お兄様と牛山さんの所へ、この前小百合さんの持ってきた、なんか、石を持って行く。つまり、バイクで達也お兄様の背中に貼り付くことが出来るのだ。
そう思うと、身体中から変な液体が漏れ出すほど興奮するのだが、そんなわけにもいかない。ちなみに、冬也お兄様に邪魔される心配もない。今日はあの人はスケット部の特訓のはずだ。何があったのかは知らないけど、市原先輩も入部したようだ。
さて、着替えて朝食を作って冬也お兄様を起こさないと。
鼻歌を歌いながら陽気に着替え、テレビを付けて朝食を作る。すると、朝占いをやっていた。
『今日のビリはおひつじ座のあなた!』
! 私じゃない。今日は達也お兄様の背中でコアラになれるというのに。やっぱりテレビの占いなんてあてにならないわね。
『今日は楽しみにしていた予定が思わぬ伏兵に潰されそう!ラッキーアイテムはガンプラ』
……なんつー不快な番組よ。私の予定が狂うはずないわ。というかどんなラッキーアイテム?まぁいいわ。さて、朝食も作り終えたし、冬也お兄様を起こしに行きましょう。
「おはよう、深雪」
「あっ、達也お兄様。おはようございます」
本当にこの人は何もしなくても起きてくれるから助かる。
「只今、冬也お兄様を起こして参りますね」
「ああ」
短く挨拶をすると冬也お兄様の部屋に向かう。たまーに冬也お兄様は起きてる時もあるけど、そういう時は大抵何かしてる時だ。今日は恐らくそんなことはないだろう。昨日、吉田くんの恋の手助けだなんだで疲れて帰ってきたからだ。
返事が来る期待はしてないが、一応コンコンとノックすると、「あーい」と気の抜けた声がした。
「冬也お兄様、朝食のお時間です」
「うぇーい。今行くわ」
ガチャッとドアが開いた。何故か鉢巻きをしていた。
「何してたんですか?」
「漫画描いてた」
「ま、漫画?」
「スケット戦隊マホレンジャーの」
ほんと何してんのこの人。
「で、なんか用?」
「いえ、ですから朝食です」
「ああ、悪い悪い。今行く」
冬也お兄様はそう短く返事をすると、部屋に引き返した。私は先に下に降りて、達也お兄様と一緒に冬也お兄様を待つ。
「深雪、今日は一緒に行くんだよな?」
「はい。安全運転でお願いしますね」
「ああ、分かっている」
そんな話をしてると、くあっと欠伸をしながら冬也お兄様が来た。
「お待たせ〜」
「じゃ、いただきましょうか」
いつも通りの朝食の風景だ。軽い雑談を交えながら、朝食を終えると、達也お兄様は食器を流しに出して今日の準備に向かった。
「さて、俺も漫画の続きやるか」
「? 今日はスケット部では?」
「十文字先輩に一任した」
そう言って部屋に戻ろうとする冬也お兄様に私は聞いた。
「冬也お兄様?」
「ん?」
「大丈夫ですか?」
「………………」
そう聞いた直後、冬也お兄様は頭に手を当ててうずくまった。そのおでこに私は手を当てる。
「………やっぱり、熱ある」
「………良くわかったなお前」
「わかりますよそりゃ……。漫画なんて本当は描いてなかったでしょ」
「………おう。昨日の夜、頭痛いし体の節々痛いし気持ち悪いしで全然眠れなかった。二日酔いかと思ったけど酒飲んだ覚えないし……」
それ明らかに風邪じゃない……。まったくアホね。
「大人しく寝てて下さい。今日は私が看病しますから……」
「へ?いいの?」
「仕方なくですからね。私だって達也お兄様と出掛けたかったのにまったく……」
「だったら行けばいいじゃん」
この人は!
「俺は一人でも平気だし」
「そう言って放っとかれて一人でジグソーパズル『雲ひとつない青空』をやって熱が上がった中一の夏を思い出してください」
「………ほんとすいません」
「分かったら、大人しくしててください」
すごいわね、朝占い。思わぬ伏兵に邪魔されたわ。
☆
私はお兄様に事情を説明し、一緒に行けないことを告げた。
「………」
「も、申し訳ありません」
「いや、それはいいんだが……よく気づいたな深雪。冬也兄様のソレを見抜くのは中々難しいぞ」
「毎日毎日ツッコんでれば気付きますよ」
「本当にそれだけか?本当は、冬也兄様のこと好きで毎日見ていたからじゃないのか?」
「んなっ……!」
何を馬鹿なことを……!
「あ、ありえません!私は達也お兄様一筋です!」
「うん、そう宣言されても俺としては困るんだけどね…」
まったく、そんな意地悪言うなんて……。というかあのお兄様の事が好きなんて冗談にしてもタチが悪い。
「まぁ、そういうことなら分かった。俺一人で行ってくるよ」
「はい、申し訳ありません……」
「深雪が悪いんじゃないよ。じゃ、行ってくる」
達也お兄様は、私の頭に手を置くと、家を出て行った。