私のもう一人のお兄様がなんか変人   作:杉山杉崎杉田

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論文コンペ前のバカ達

 

 

今更だが、冬也お兄様はハイスペックだ。バカみたいな魔法でも、色んな魔法を作れる技能と頭、魔法だけではなくなんでもこなす器用さ、イケメン、イケメンボイス、ハッキリ言ってここまで揃ってるのにモテない意味が分からなかった。

よって、例え論文コンペという大イベント前でも、私達の仕事が忙し過ぎて過労死しそうになることはなかった。だが、並ではあるが忙しいことに変わりはない。

だけど、この物語は私視点で動いているので、私が何かしないと他の事の状況が分からなくなる。

だからしばらく私はお休みするので、色んな人視点で行きます。

…………こういう注意書きは前書きに書けや。

 

 

僕、吉田幹比古は今、野外演習場にて、十文字先輩の会場警備の練習相手を務めることになった。

元々は10対1で、十文字先輩はその1の方だったはずだ。十文字なのに。だが、すでにこちらの人数は残り3人。まだ開始後30分なのに、だ。

さすが、十師族。どんなにバカでもこういう時は手を抜かないようだし、僕からすれば化け物なまである。

木の影から僕は十文字先輩の様子を伺う。やはりすごいプレッシャーを放っていた。普段のバカゴリラの時とはオーラが違う。

落ち着け僕、これは模擬戦なんだ。しかも危険な時にはちゃんと冬也先輩が見ててくれている。

今の3行をもう10回ほど心の中で繰り返していた。荒くなった息を慌てて押さえる。だが、その息遣いを聞かれたのか、十文字先輩は動きを止め、少ししてからこちらに向かって来る。やはりバレたようだ。

だが、それでも僕は心を落ち着けた。

3、2、1……今だ!

そうカウントした直後、魔法を発動。十文字先輩を取り囲むように四つの土柱が噴き上がり、地面を陥没させた。

古式魔法「土遁陥穽」。相手を落とし穴に落とし、目くらましと足止めにする魔法だ。

僕は自分の魔法が通用したかを確認することもなく走ってその場から逃げた。

 

 

結局、あの後、一時的に逃げることには成功したものの、壁際に追い込まれてやられた。けど、あの後も模擬戦は五回に及び、五回とも十文字先輩に叩きのめされた。

けど、こういう機会は滅多にない。僕は大方満足している。沢木先輩に声を掛けられ、夕食のお弁当を頂くことになった。

誰か知り合いはいないものかと、キョロキョロしてると、お弁当配布部隊の中に、柴田さんの姿もあった。ホッとしたのだが、目と目があった直後、目を逸らされてしまった。

………え、なんで?地味にショックを受けてると柴田さんがこちらに小走りでやって来た。そして、僕の隣に座ってお弁当を手渡してきた。どうやら、僕で最後だったようだ。

 

「ありがとう、柴田さん」

 

言うと、照れたような顔を浮かべる。何この子、ちょっと可愛い。

あ、やべっ。こんな時どんな話すればいいんだろ。元々、僕は柴田さんのことが少し気になっていた。いや、別に好きとかそんなんじゃないからね?ただ、その、なに……気になっていた。あれっ?二回目?なんて思ってると柴田さんが僕にお茶を注いでくれる。

その時、指と指が触れ合ってしまった。慌てて二人して手を引っ込める。

………なんか周りの視線が喧しいな。ヤケにこっちを眺めてきてる。てかなんか生暖かい視線があるな。

隣の柴田さんも、そわそわと落ち着かない様子。

 

「あの、私、ちょっと……」

 

遂に立ち上がろうとしてしまった。だが、正座をしていたからか、足が痺れていたのだろう。

 

「わわっ⁉︎」

 

足をもつれさせて転びそうになった。僕は慌てて手を出して、柴田さんの上半身を受け止めた。

とりあえず、転倒だけは回避できた。ホッと一息ついた僕の目の前には柴田さんの後頭部。息を吐いてる場合じゃねぇよ。後ろから抱きしめてんじゃん僕。いや、問題はそこではない。なんか手に触り心地のよくて柔らかい何かの感触があった。

 

「……………⁉︎」

 

顔が赤くなる柴田さん。あれ?これオッパイじゃね?

 

「! ご、ゴゴゴメン!」

 

慌てて手を離して後ろを向いた。やっちまった……!まさかのハートキャッチプリキュア……何やってんの僕。バカなの?死ぬの?頭の中で全力で後悔してると、顔を赤くした柴田さんは走って逃げてしまった。

嗚呼……警察に行ったのかな……。そんなことを考えながら、柴田さんの後ろ姿をぼんやりと眺めていると、知らない女子生徒から声が掛かった。

 

「何ボウっと見てるの!追いかけなさい、吉田くん!」

 

僕は慌てて立ち上がり、柴田さんのあとを追った。武道場を出て、僕は声の限り叫んだ。

 

「柴田さんごめーん!柴田さーん!」

 

後を追いかけてる途中、ガッと誰かが僕にぶつかった。

 

「あっ、ゴメンなさい。柴田さー……!」

 

再び追いかけようとした直後、後ろから肩を掴まれた。誰だよこのクソ忙しい時にクタバレバーカと思って後ろを見ると、今一番会いたくない人が立っていた。

 

「………あっ」

 

「……………」

 

真顔の冬也さんだ。しばらく見つめ合う。1秒経つごとに僕の顔に汗が流れる。15個程だろうか、汗が頬をつたって顎から流れ落ちた直後、冬也さんの顔は一変した。眉を全開に吊り上げ、目を見開き、口を歪ませ、夜神月のような表情になった直後、シュビッと忍びのような音を立てて僕より先に柴田さんを追い掛けた。

 

「待てエエエエッ‼︎あんた一体何するつもりだァアアアアッッ‼︎」

 

力いっぱいに叫びながら僕は後を追ったが、冬也さんは止まらない。というか速過ぎるんですけどあの人……。

あっという間に見失い、僕は息を切らしながら魔法を発動。すぐに辺りを探した。探すこと数秒、柴田さんと冬也さんが話してるのが見えた。

 

「………見つけた」

 

場所は森の中。この前、平河さんを捉えた場所だ。そこに僕は行って、木の陰から二人の様子を眺める。相変わらずホワイトボードで話してるのか、冬也さんの声は聞こえない。覗き込むと、とんでもない文字が見えた。

 

『と、いうわけで、うちの幹比古にその巨乳を揉み放題にされる関係になるというのはどうだ?』

 

「」

 

何を言ってるんだあの人は。

 

 


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