翌朝、私とお兄様達は朝早くに起きて、家の前に出た。これから達也お兄様は朝練で、九重先生のお寺へ走るのだ。
意外というかなんというか、冬也お兄様も継続していて、お兄様の横でストレッチをしている。……ほんとにこういう所だけ見ると、妹の私でもカッコいいと思うんだけどなぁ……。
「………インド風アメリカカレーとかどうだろうか」
ほんと、黙っていれば……。というかインドなのかアメリカなのかハッキリしなさいよ。
心の中でツッコミを入れつつも、出発。私はローラーブレードで移動し、その後を達也お兄様がランニングで、冬也お兄様は欽ちゃん走りで付いてくる。端から見たら完全に不審者だ。
「……違うな、もっと、こう……」
今更過ぎるわよ。スタートから間違っているのよ。というかそもそも、その走り方でなんでついて来れるのよ。
「達也お兄様、もう少しペースを上げましょうか?」
「ああ、頼む」
少しイラついたので、さらにペースを上げることにした。それでも、ほとんど表情を変えずに付いて来る達也お兄様と、欽ちゃん走りからヒゲダンスに変えた冬也お兄様。
………なんか、腹立ってきたわね。
「お兄様、もう少しペースを上げましょうか?」
「えっ?も、もう?」
返事を待たずに私はさらにローラーブレードの速度を上げる。懸命について来る達也お兄様と、ツクダンズンブングンの走り方を始める冬也お兄様。というか、さっきからチョイスが古い。
「……こんのっ」
「お、おい待て深雪……!」
さらに速度を上げてやった。その直後だ。ズリッと後ろで滑ったような音がした。ふんっ、ふざけた走り方をしてるからよ、ザマァ見なさい。そんなことを思いながら後ろを見ると、転んでいたのは達也お兄様だった。
「た、達也お兄様⁉︎」
『ヒデェ奴だな深雪』
「誰の所為だと思ってるんですか!あとメールで会話やめて下さい!」
はぁ……達也お兄様に恥をかかせてしまうなんて……あんなダメ兄貴(冬)なんて無視すれば良かったのに……。
*
ようやく目的地の九重寺に到着。ここには、お兄様お二人のお師匠様がいらっしゃる。今日もその朝練だ。
階段を上がり、門をくぐると、そこから先はお兄様達の手荒いお出向かいが始まる。九重先生のお弟子さん達がお兄様二人に稽古を挑んでくるのだ。
流石は達也お兄様です!どんな相手でも臆することなく落ち着いて対処しています!ああ、素敵です。お兄様……。
一応、いや別に達也お兄様の方をずっと見ていたいのだけれど、達也お兄様ばかり見ていては何となく悪い気もするし、冬也お兄様だって同じように一生懸命頑張って稽古しているのだから贔屓は良くないわよね。
そう思って私は冬也お兄様の方を見ると、ビデオカメラを達也お兄様の方に向けながら攻撃をすべて躱していた。
「真面目にやりなさい冬也お兄様!何をやってるんですかあなたは⁉︎」
ツッコミを入れた私の携帯が震えた。
『一本2000円』
「な、何をバカなこと……!」
怒鳴りながら私は返信した。
『三本買います!(怒)』
*
朝練を終えて家に帰ると、私は先程の映像(計6000円、入学祝いで半額にしてもらいました)を早速確認したあと、お兄様達と一緒に学校へ向かった。
今はその電車の中。聞きにくいことだったのだが、とても気になってしまったので、私は達也お兄様に聞いた。
「お兄様、実は……昨日の晩、あの人たちから電話がありまして……」
「あの人たち?ああ……それで、親父たちがまた何かお前を怒らせるようなことを?」
「いえ、特には……。あの人たちも、娘の入学祝いに話題を選ぶくらいの分別はあったようです。それで……お兄様には、やはり……?」
「ああ、そういうことか……いつも通りだよ」
……やっぱり。これだからあの方達は……!
「そうですか……いくらなんでも、と儚い期待を抱いておりましたが、結局、お兄様にはメールの一本もなしですか……あの人たちは、あの……」
「落ち着けって」
声を掛けてきたのは、お兄様を越えるイケメンボイスの冬也お兄様だ。
「相手にある程度の器があれば怒ってもいいけど、無いんじゃ仕方ないだろ?」
こ、この人はイケメンボイスでなんて黒い事を言うんだろう……。というか、てっきりこの人はあの人たちのことを別に好きでも嫌いでもないと思っていたのだけれど……。本当に何を考えているのかわからない人だなぁ。