翌日の放課後。達也お兄様と冬也お兄様と家に入ると、見覚えのある顔が出迎えてきた。
「お帰りなさい、相変わらず仲が良いのね」
小百合さんだった。義理の母親だ。
「おーうマイマザー(仮)。久し振りにここに来たんじゃね?」
「あなたのことを仲が良いと言ったんじゃないわ」
「え、何。もしかして中学の時に金賞取った作文で、小百合さんは小6までオムツ履いてたことバラしたのまだ根に持ってんの?」
「そりゃ持つわよ」
「そりゃ持つでしょう」
「そりゃ持ちますよ」
小百合さん、達也お兄様、私と冷たい声で呟いた。
「すぐに夕食のお支度をします。達也お兄様、何か召し上がりたいものはありませんか?」
「お前の作るものなら何でも」
「俺はラーメンがいい」
「黙れ小僧」
「えっ?小僧?俺お前の兄……」
「着替えの方も何かリクエストがおありでしたら。お兄様がお望みなら、深雪はどのような格好でも致しますよ」
「じゃあ裸エプロンで」
「黙れ下郎。では、行って参ります」
私はまずは着替えに向かった。
*
私が戻って来ると、小百合さんの姿はもうなかった。
「お兄様、あの……子供じみた真似をして申し訳ございません」
「いや、むしろハシタナイだろ」
冬也お兄様の台詞を無視して、私は達也お兄様を見た。すると、達也お兄様は私の頬を撫で、私の顎をクイッと持ち上げる。
「えっ……?」
ま、まさか……。
「あ、あの……」
達也お兄様が私に顔を近づけてくる。あ、ダメだ……写真を連写してる冬也お兄様を気にすることもできない……。
私がうっとりと瞼を閉じたその時、
「にゃっ⁉︎」
いきなり鼻を摘まれた。
「な、何をなさるのですか!」
「お仕置き」
うっ……!このお兄様は……!
「もう、お兄様の意地悪」
拗ねた顔で私はプイッと背けた。すると、いつの間にか冬也お兄様はいなくなっていた。
*
翌日の放課後。私は生徒会の仕事。冬也お兄様も珍しく仕事している。ちなみに分身してスケット部の方も運営してるようだ。
最近聞いた話だけど、服部先輩も桐原先輩も十文字先輩も吉田くんもスケット部を兼部しているようだ。さらに、このバカ五人衆に紅一点の壬生先輩も加わったようだ。
「はぁ……」
どういうことなんだろう。何であの人の部活に人が集まってるんだろう……。しかも吸い込まれるかのごとく全員バカに染まって行っている。最近はほのかまであの部活に入りたいとか言い出してる始末だし……。それだけは止めないと。ほのかまでバカに染まらせるわけにはいかない。
そんな事を考えながら外を見ると、スケット部の皆様がグラウンドに立っていた。
「…………?」
何をしてるのかしら。冬也お兄様がホワイトボードで何か話しているようなので、私は双眼鏡を使って覗き込んでみた。
『はい、つーわけでスケット部で一番多い依頼は部活の助っ人です。皆さんにはなんでも出来るようになってもらいます』
いきなり無茶を言い出しわね。
『そういうわけで、今日はサッカーをやります』
いや遊びたいだけでしょそれ!
『まぁ、俺もキチンとサッカーをしたことあるわけではないので、コツとかは教えられません。感覚派です。それで、これからサッカー部と練習試合します』
他の部に迷惑を掛けるな!
「司波さん?窓の外見て何してるの?」
「えっ、あっ、いやっ……なんでもないです」
五十里先輩に言われてしまい、私は机に向かい直した。
*
30分後。やっぱ気になる。私はもう一度窓の外を見た。
十文字先輩が相手選手のシュートをカットし、桐原先輩の前に投げた。それを胸トラップし、足元に落としながらボールをインサイドで転がしつつ、ドリブルする桐原先輩。
相手の選手が目の前に迫って来たので、右斜めにパスを出した。それを吉田くんが受け取るが、目の前に選手が迫っていた。見越していたのか、吉田くんはヒールでパスして後ろに戻すと、桐原先輩がそのボールを大きく蹴った。
何人かの選手の頭を超え、服部先輩が胸トラップして足元に落とすと、センタリングを上げ、それを壬生先輩がもらってシュートした。
「……………」
め、メチャクチャ上手くなってる……!な、なんだこりゃ!ちょっと目を離した間に何があったの⁉︎相手の選手にボールを触れさせないとかどうなってんの⁉︎
冬也お兄様の出番なんて、まるでなくなってる!
「司波さん?」
「はっ、す、すみません!」
くうっ……!また怒られてしまった。全部冬也お兄様の所為よ……。覚えてなさいよ……。私は理不尽な怒りを燃やしつつ、オーバーヘッドシュートを放つ冬也お兄様をチラ見した。