「ヒック、ヒック、エグッ……」
泣いちゃったほのか。そりゃ泣くだろう。自分の胸のサイズを晒された上に好きな人に見られたのだ。私でも泣くだろう。
その泣かした本人である冬也お兄様は、一人で砂浜で1/1スケール江戸城を作っている。
「冬也お兄様」
「んー?」
「謝ってください。今回は冬也お兄様が悪いです」
「なんで」
「デリカシーってものがないんですか?」
「デリカシーならこの前鼻水と一緒にティッシュでチーンしてトイレに流した」
「最低………」
「冗談だよ。まぁ少しは悪いと思ってるよ。ちょっとキューピッド最近やったからって調子に乗ってたわマジで。女心 イズ マインだと思ってたわ」
「キューピッド?」
「いや、なんでもない。こっちの話。つーか、桐原の話」
「桐原先輩に何したんですか?」
「マホレンジャー」
「アホレンジャー?」
「一番間違えちゃいけないところ間違えたな。とにかく、ほのかに謝ればいいんだろ?」
「そうです」
「ごめんねー!」
「雑過ぎでしょ!」
「練習だよ」
「まぁ、謝ってくるよ」
言うと、冬也お兄様は江戸城の屋根から飛び降りた。いつの間にか、砂の江戸城は本物のような外見になっていた。内装も。あの人本当に凝り性なのね……。
*
『ほのかちゃん』
水で名前を呼ぶと、ギロッと涙目で睨むほのか。当然だろう。
『悪かったな。まぁ、俺が悪かったよ』
「………胸の大きさまでバラすのは悪かったじゃすまないと思います」
『うん、分かる。ゴメンなさい』
………意外とキチンと謝ってるわね。流石に謝るときは真面目なのね。
「まぁ、今回は許して」
『体の事に関しては本当にデリケートな問題だ。ごめんで済むことではない』
「えっ?あのっ、冬也さん?」
『だから、俺の命を持って償おうと思う』
「…………はっ?」
私もポカンとする中、冬也お兄様は自分のコメカミにCADを向けた。
「ちょっ、冬也さ……」
直後、一切のためらいも無くCADの引き金を引いた。頭から血が噴き出て、パタリと倒れる冬也お兄様。
「き、キャアァああああッッ‼︎」
悲鳴をあげるほのかと美月。私と達也お兄様は冬也お兄様の元へ駆け寄った。
「脈がない……」
「まさか、本当に……!」
こ、こんなことで自殺するなんて……!嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!
「っていう仮死状態を作る魔法を考えたんだけど……」
とりあえず、全員で蹴りを入れた。
*
結局、土下座したうえに、「今日一日なんでも言うことを聞く」のオプション付きで冬也お兄様は許してもらっていた。
けど、「今日1日何でもいうことを聞く」なんていうのは、冬也お兄様にとっては造作もないことだった。
「じゃあ冬也さん!私、カキ氷が食べたいです!」
ほのかはおそらく冗談で言ったのだろう。それに、エリカも雫も西城くんも私も冗談のつもりで「私も!」「俺も!」と言った。
直後、冬也お兄様は海から一辺1メートルの正方形を抜き取り、魔法で精製水にした後、凍らせて粉々に砕いて、更に氷の器まで作ってカキ氷を作って見せた。元々、カキ氷は食べる予定があったのか、シロップは雫の家が用意してあった。
「じ、じゃあボートに乗りたいです」
すると、島の森の中に入り、ズバッザザッカーンカーンと音がしたあと、木製のボートを持って来た。
「…………」
意地になったのか、ほのかは更に命令した。
「土星がみたいです!」
飛んでった。
*
ヤケにグッタリした様子で、ほのかが私の隣に座り込んだ。
「………すごいね、深雪。よく深雪はあの行動に間髪を容れずにツッコミ入れられるね」
「一緒に暮らしてればね……嫌なスキルだわ……」
「ちょっと、羨ましい……」
「はっ?」
「いや何でもない」
私の目の前では、吉田くんと西城くんとエリカと雫がビーチバレーをしていて、冬也お兄様は何処から持って来たのか、ビーチバレーの審判の服装で審判をしている。
美月と達也お兄様は副審なのか、コートの端にそれぞれ並んでいる。
「で、土星はどうだった?」
「声が出なかった」
「でしょうね」
正直なところ、夏休みさっさと終わらせたいです。なんか何も思い付かんです