私のもう一人のお兄様がなんか変人   作:杉山杉崎杉田

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冬也お兄様の夏休み1

 

 

スケット部部室。そこで、特に待ち合わせもしていないのに集まった男が五人、司波冬也、服部刑部、桐原武明、十文字克人、吉田幹比古の五人だ。

それぞれがダラけたり、漫画を読んだり、飲み物を飲んだりしていると、冬也が立ち上がり、全員の前に立った。

 

「おい」

 

珍しく発声した。それほどイラついてるのだろう。

 

「なんでお前らこの部室を漫喫みたいに使ってんだよ。帰れ」

 

「仕方ねーだろ」

 

真っ先に答えたのは桐原だ。

 

「俺たち全員彼女いねーし。夏休みなんて暇なだけなんだよ」

 

「知らねーよ。てかお前、壬生はいいのかよ」

 

「は、はぁ!? なっななな、なんで壬生が出て来るんだよ!」

 

「「「「…………」」」」

 

その桐原の反応を見た直後、服部が携帯を取り出した。

 

「もしもし、壬生か? 服部だ。今からスケット部の部室に来てくれ」

 

「はぁ!? お前、何勝手に……!」

 

「うい、待ってる」

 

「オィイイイイ!! 話聞けよ!」

 

桐原の渾身のツッコミを無視すると、冬也が桐原に言った。

 

「いいか、今からお前がすることはさやちゃんをデートに誘うことだ」

 

「はぁ!? な、なんでいきなりそうなるわけ!?」

 

「桐原先輩は来年受験でしょう? 実質、楽しめる夏休みは最後なんだから、思い出作りましょうよ」

 

「うぐっ……!」

 

歳下に言われ、何も言い返せなくなる桐原。

 

「ま、そういう事だな。チキンなよ」

 

「デートに誘うのが遅くなるほど、顔面ファランクス一回だな」

 

「じ、十文字会頭!? そんな顔面シュークリーム一回みたいなノリで……!」

 

「いいね、とりあえず許容範囲は5分。6分以降は1分につき1ファランクス」

 

「1ファランクスってなんだ! どんな単位?」

 

なんてやってると、コンコンとノックの音がした。

 

「あの、すみませーん」

 

「! 来たぞ!(小声)」

 

「どうするんですか? 僕達がいたんじゃとても告白なんて……!(小声)」

 

「任せろ」

 

言うと、冬也は服部と十文字と幹比古と自分にCADを向けて撃った。直後、全員透明になる。

 

「! すごいなこれ……」

 

「必殺『スケルトン』。これの応用が、女の服が透ける『スケルトンブラジャー』」

 

「あ、それ後で教えてもらっていい?」

 

なんてやってると、壬生が部室に入ってきた。中には桐原しかいないように見える。

 

「あれ? 桐原くん? 服部くんは?」

 

「あ、ああ……あいつなら屋上で全裸でバタフライしてるよ」

 

「えっ……」

 

直後、桐原は後ろから本気で蹴り上げられたように天井に減り込んだ。

 

「っ!? き、桐原くん!? 大丈夫!?」

 

「あ、ああ……大丈夫だ……」

 

頭から血を流しながら桐原は脱出。

 

「………頭から血を流しながらデートのお誘いか。中々斬新だな(小声)」

 

「斬新過ぎますよ、ゾンビの恋ですか(小声)」

 

「二学期に俺が露出狂になってるみたいな噂流れたら桐原殺さないとな……(小声)」

 

「落ち着け、服部。チキンの桐原なら三回は顔面ファランクスだ(小声)」

 

「あの、会頭。顔面ファランクスもしかして気に入ってます?(小声)」

 

「少し(小声)」

 

好き勝手言われてる桐原は話を進めた。

 

「あ、あのさ、壬生……」

 

「何? どうしたの?」

 

「そ、その………」

 

「?」

 

本当にチキンだった。顔を赤くして口がパクパクしたまま、声が出ていない。テンパってるのは明らかだった。

 

「え、えっと、あれだ。綺麗だな!」

 

「えっ……?」

 

カアッと赤くなる壬生。

 

「い、いや! すまん、違うんだ! え、えっと……つまりだな……」

 

「5分(小声)」

 

十文字によるカウントダウンが始まった。

 

「え、えっと……それで、壬生……」

 

「どうしたの? らしくないよ? 桐原くん」

 

「あ、ああ……その、えっと……」

 

えっと、が4回出たところで、秒針が一周回った。

 

「よし、一回(小声)」

 

幹比古がそう呟いた。

 

「あ、あのさ……壬生、えっと……夏祭りの日、暇か?」

 

おお、と透明男子達から声が上がってる(気がする)。夏祭りとは、近くの公園でやるイベントで、割と大規模なものだ。

 

「うん。まだ誰とも約束してないよ?」

 

「そ、そうか……、よかった。なら、もし良かったらでいいんだが……えっと、」

 

「2分経過(小声)」

 

顔面ファランクス二発決定。

 

「そ、その……もし、良かったら……一緒に……」

 

「一緒に?」

 

「………………」

 

「3分(小声)」

 

「い、一緒に、行かないか?」

 

おおー! 言い切った! そして3回ピッタリ! みたいなことを言ってる気がする。すると、壬生はニコッと微笑んで言った。

 

「うん。いいわよ」

 

「! ほ、本当か!?」

 

「もちろん。夏祭りの日に駅前に17時集合ね」

 

「わ、分かった!」

 

「じゃ、私屋上で服部くん通報して来るから!」

 

「わ、分かった!」

 

壬生はそのまま走って部室を出た。ホッ……と息を吐く桐原。直後、後頭部に服部の跳び蹴りが炸裂し、思いっきりガラス窓をぶち破った。

 

「分かったじゃねぇだろおおおおお!! 何を言ってくれてんだテメェは!!」

 

「うるせーよ! お前たちが俺にしでかしてくれた事を考えりゃマシだろうが!!」

 

「どこがぁっ!? これで本当に通報されたら俺逮捕だよ! 副会長も服部も刑部も全部ティッシュに包んでダストシュートだよ!」

 

「落ち着けよ」

 

「「ゴフッ!」」

 

二人の間に入った冬也が、二人の頭を掴んで思いっきりかち割った。

 

「とりあえず桐原、お前は顔面ファランクス三回だ」

 

「待て、なんでお前に俺頭やられたん?」

 

「それより、今から桐原の恋愛成就大作戦の会議を始める。だから全員席に着け」

 

冬也はそう言うと、机と椅子を並べ、でっかいホワイトボードを出した。

 

「じゃ、会議を始める。意見がある奴は手を挙げろ」

 

「はいっ!」

 

「はい、ゴリラ会頭」

 

「まぁ、まずは祭りの最後の花火で告白だな」

 

「はぁ!? ふざけんなゴリラ!」

 

直後、顔面にファランクスが直撃した。

 

「誰に向かって口聞いてんだ桐原」

 

「いやいやいや! 目の前のエセ司会者!」

 

「こいつはもういい」

 

諦められていた。

 

「でも、桐原先輩。僕も早めに告白しといたほうがいいと思いますよ」

 

「なんでだよミキ」

 

「僕の名前は幹比古だ!」

 

「タメ口?」

 

「早めに恋人になれれば、その分残りの夏休みは恋人として二人きりでいられる機会も増えますし、原作でもこの時期には本来すでに桐原先輩は壬生先輩と……」

 

「それ以上はいけない!」

 

「うし、じゃあこの日に告白決定、と。あっ、この時も告白チキッた時間だけ顔面ファランクスな」

 

「ざけんな! アレいてぇんだぞ!」

 

「じゃあ、けつファランクスで」

 

「かわらねぇよ!」

 

と、こんな感じで会議は進んで行った。

 

 


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