私のもう一人のお兄様がなんか変人   作:杉山杉崎杉田

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夏休み編(もしくは「男子高校生の夏休み」)
司波家の土曜日


 

 

九校戦が終わった翌日、6月頃のジメジメした暑さとは違い、全力の暑さが私達を襲う。それでも、私も達也お兄様もダラけることなく、キビキビと動いていた。

ところがどっこい、うちには一人だけグータラバカがいる。これから私はそのバカを起こしに行く。

 

「冬也お兄様、起きて下さい」

 

無反応。想定通りだし、さほどイラッともしない。

 

「冬也お兄様」

 

静かなものだ。まぁこれも想定内。

 

「入りますよ」

 

私が中へ入ると、ムアッと暑苦しい空気が纏わりついて来た。私の顔からは一瞬で滝のように汗が流れ落ちる。

 

「……………」

 

予想外にも、冬也お兄様は起きていた。そして、これまた予想外なことに、冬也お兄様は部屋の中でガラス細工の人形を作っていた。

本人も、滝と言ってもナイアガラの滝レベルで汗を流してるが、それ以上の集中力で人形作りに没頭している。

 

「…………」

 

このアホヤお兄様に、ツッコミを入れる術も、どういうつもりか、何を考えているかを聞く術も私は持ち合わせていなかった。

 

 

一時間後。クーラーの効いたリビングで、私は寝転がっている。あの熱気をモロに喰らった私は、人造人間に襲われたかのように気を奪われ、ソファーに寝転んでしまった。

すると、やり遂げた表情の冬也お兄様が部屋に入ってきた。

 

「おーい、二人共」

 

「どうかされましたか?冬也兄様」

 

達也お兄様が冷えた麦茶を三つ分持ってきて、机の上に置いた。

 

「おお、サンキュー達也。見てこれ」

 

冬也お兄様が持ってきた人形は、モノリス・コードで一条さんの魔法を術式解体によって破壊する達也お兄様と、アイス・ピラーズ・ブレイクで氷炎地獄によって相手の氷柱を全てまとめて砕いた時の私の人形だった。

 

「おお……」

 

「すごいですね……」

 

私も達也お兄様も感嘆の声を漏らす。

 

「手作りっ」

 

フンスッと、胸を張る冬也お兄様。かなり細密に作られてるけど、こんな技術をどこで身に付けたんだろうか……。

 

「それで、どうする?一応、二つずつ作ったけど」

 

「「1セット1万円でどうでしょうか?」」

 

私はこの時知った。アホなのは冬也お兄様だけじゃない。私と達也お兄様もなのだ、と。

 

 

冬也お兄様のお陰で、朝食とお昼が一緒になってしまった。さて、明日は達也お兄様とショッピング。二人きりだ。冬也お兄様には悪い気もするけど、こればっかりは譲れない。

お忙しい達也お兄様とお出掛けなんて滅多にないのだから。その点、冬也お兄様は普段から家でゴロゴロ……してないや。何か意味不明なものを作ったりしてて暇人だし、一緒に出掛けようと思えばいつでも出掛けられる。まぁ、出掛けることなんてまずないケド。

 

「深雪、ごっそさん。俺、五十里に頼まれてる『千代田花音フィギュア1/10スケール〜ver.ZENRA☆〜』作ってくるから」

 

何を注文してるんですか五十里先輩。九校戦ではあまり冬也お兄様と接点の無かった方だからバカは感染してないと思ったんだけど……。今度千代田先輩に密告しておこうかしら。

 

「あと、ちよちゃんから頼まれた『五十里啓×服部刑部フィギュア1/10スケール〜あんな女と別れて、俺と付き合っちゃいなよ〜』も作んないといけないんだった」

 

あの二人は別の意味でバカップルなのね。よくわかった。あと、冬也お兄様って千代田先輩のこと「ちよちゃん」って呼んでるんだ。

少し羨ましいかも。例えば、深雪だから「ゆきちゃん」とか……って、何考えてんの私!? 最近、自分の心の中に矛盾が出てる気がする。私が好きなのは達也お兄様……いやもちろん兄妹として。

 

「ゆきちゃん、『達也×深雪フィギュア1/10スケール〜俺はお前を妹ではなく、一人の女性として見ている〜』も、作ろうか?」

 

心を読まれた! 私の人生史上で一番読まれたくない心の中を! 恥ずかしさに思わず悶えながらも、私は携帯を弄った。

 

『3セットお願いします』

 

 

明日、私は達也お兄様とデート。と、いうわけで次回は私はお休みします。

 

 


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