私のもう一人のお兄様がなんか変人   作:杉山杉崎杉田

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後夜祭

 

 

翌日、モノリス・コード優勝。勝利に対する安心感はあっても人格的に安定感のないこのチームは、ほとんど十文字無双だった。ディフェンスの間、ずっと盆踊り大会による鉄壁の守りも、敵が来なければ意味がない。決勝は冬也お兄様はモロに寝ていた。寝言までホワイトボードだった辺り、侮れない。

優勝は言うまでもなく一高。もちろん、出場選手の腕もあったんだろうけど、みんなスパークに影響されすぎでしょ。「頑張れよ!」って言われると、「ヤェス、マムッ」ってみんな返すんだもん。

今は後夜祭合同パーティ。私は他校の生徒に囲まれていたが、市原先輩になんとかガードしてもらっている。

私は声をかけてくる人に生返事をして目線だけで冬也お兄様を探した。他校の生徒も巻き込んで「美味しいたこ焼きの焼き方教室」をやっていた。最終日くらいは無視でいいや。どうせ最後にはたこ焼きフレアでしょうし。

すると、管弦の音が流れ始めた。生演奏が流れ始め、それに選手たちはすぐに答えた。男の子の方が女の子の手を取ってダンスを踊り始める。あ、あの子振られた。可哀想。

そんなことを思って見ていると、達也お兄様が私の横に来た。

 

「大丈夫か、深雪?」

 

「はい」

 

………ああ、達也お兄様と踊りたい。でも兄妹だし……。そんな事を考えてると、達也お兄様が口を開いた。

 

「2日ぶりだな、一条将輝」

 

「むっ、司波達也か」

 

達也お兄様の前にいるのは、大会とはいえ、達也お兄様に再成を使わせたクリムゾン・プリンス。

 

「耳は大丈夫か?」

 

「心配は要らんし、お前に心配される筋合いもない」

 

「そりゃそうか」

 

社交辞令という言葉を知らないのかしら、と思ったが、多分この前の敗北が悔しくて仕方ないのだろう。いくらクリプリ(クリムゾン・プリンスの略)でもその辺りは年相応のようだ。

そんな事を考えてると、クリプリがこっちを見た。

 

「えっ、あ、……あっ? 司波!?」

 

急に素っ頓狂な声で叫ぶ。大丈夫かしら、この人。

 

「もしかしてお前、彼女と兄妹か⁉︎」

 

「……今まで気付かなかったのか? 本当に?」

 

呆れ声で言う達也お兄様。

 

「と、いうことは……十文字を下した『司波』も……」

 

あの、司波にいくつも種類があるみたいな言い方やめません? と思ったら、見覚えのあるホワイトボードが近付いてきた。

 

『うぃーっす』

 

「! 司波冬也!?」

 

『んだコラ、クリプリてめぇ呼び捨てかアン?』

 

「……さん」

 

『2』

 

「一条将輝!」

 

いや、なんの呪文?

 

「一条さんには、私とお兄様達が兄妹に見えなかったのですね」

 

なにそれちょっと嬉しい。上のバカ兄貴はどうでもいいけど、達也お兄様とは兄妹に見えなかったっていうのはつまり……。

 

「えっ、いえ、その……ハイ」

 

言い訳を断念して項垂れる一条さん。すると、ニヤニヤした表情の冬也お兄様が一条さんにボードで言った。

 

『プリプリ、お前深雪と一曲ヤッてこいよ』

 

「変な言い方しないで下さい!」

 

「あとプリンセスプリンセスじゃなくてクリムゾンプリンスです!」

 

二人の息の合ったツッコミの後、一条さんは大きく深呼吸をした後、私に手を差し出した。

 

「是非……一曲お相手願えませんか」

 

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 

私と一条さんはダンスの中に入って行った。

 

 

ダンスを終えて、私は壁際に寄った。達也お兄様は大変そうだった。エイミィ、雫、七草会長と3人と踊っていた。

………羨ましい。でもダメよ。私達は兄妹なんだから。そんな事を思ってると、冬也お兄様の斜め後ろでモジモジしてる影が見えた。というか、ほのかだ。

 

「ほのか?」

 

「! み、みみ深雪!?」

 

「何してるの?」

 

「な、何でもないよ! あ、あはは……」

 

分かり易すぎる。ちょっと可愛い。私は「そう」と短く言うと、冬也お兄様の元へ歩いた。

 

「ウィンター=バーボタージュ……間違えた。冬也お兄様」

 

『いやどんな間違えた方? つーかわざとだろお前』

 

「ほのかと一曲踊って来たらどうですか?」

 

『は? なんで?』

 

「いいから。お願いします」

 

『俺ブレイクダンスとタップダンスとフラダンスとダダダダンスは得意だけど、この手のダンスは苦手なんだよね』

 

「聞いたことあるダンス羅列してるだけでしょそれ。というかダダダダンスって何? 遊戯王にありそうですね」

 

一回ため息をついてから、冬也お兄様の手を引いた。

 

「いいから、」

 

『いやあのちょっと?』

 

「お願い、します!」

 

引っ張って自分の前に冬也お兄様を配置すると、背中をドンッと押してほのかの前に押し出した。

 

「っ!? と、冬也さん!?」

 

『いやーどうもどうも。冬也さんです』

 

「なっななななんですか!? 私に何か……!」

 

いやテンパりすぎでしょほのか……。これは失敗するかな、と私が思った時、

 

 

「俺と一曲どうだ?」

 

 

予想外のイケメンボイスが聞こえた。私やほのかだけではなく、その場にいた女性陣が冬也お兄様の方を一瞬見た。

顔を赤くしてぽーっとしてたほのかだが、すぐに復帰した。

 

「へっ? あ、あの、その……はいっ」

 

「じゃ、いくか」

 

ニコッと微笑んで冬也お兄様はダンスの中に入って行った。

本当に、ズルイ人だ、あの人は。

 

 

ほのかと冬也お兄様が踊ってるのを見つつ、私はぼんやりと壁際で雫とお話ししていた。

 

「……冬也さん、踊り下手だね」

 

「ブレイクダンスとタップダンスとフラダンスとダダダダンスは得意らしいけどね」

 

「ダダダダンス? 走って踊るの?」

 

「さぁ?」

 

そんな事を思ってると、曲が終わり、ほのかと冬也お兄様が戻って来た。

 

「冬也お兄様」

 

『ん、おお。ディープスノーか』

 

「英語呼びやめて下さい。不快です」

 

『深いんじゃん』

 

「いやそっちの『ふかい』じゃないです!」

 

『腐海?』

 

「ホワイトボードだとそういうボケもできて楽しそうですね」

 

私は深いため息をついた。

 

『それより、達也と踊んないのお前?』

 

「いいですよ、兄妹ですし」

 

『あんま関係なくね? 行って来いよ』

 

「いや、でも、」

 

『行って来いって』

 

「や、でも」

 

『行けばそれ録画しといてやる』

 

「行きましょう」

 

こうして、九校戦は幕を閉じた。

 

 


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