私のもう一人のお兄様がなんか変人   作:杉山杉崎杉田

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提案

 

 

その日の競技は普通にパンツを履いて出場し、予選突破。客席でファンネル・カメラで私を四方八方から撮ろうとして摘み出された冬也お兄様とかいたが、私は無視した。

ちなみに雫もエイミィも勝ち抜いた。

今は夕飯の席。私は今日ほど席を取るのにもっと早く行動しておけばよかったと思った日はない。

何故か、それは相席してるメンバーだ。冬也お兄様、桐原先輩、服部先輩、十文字先輩、そして私だ。

 

「……………」

 

どうして今日に限って私はベッドで少し睡眠をとってしまったのか。心底後悔してるうちに、冬也お兄様がホワイトボードを取り出して言った。

 

『じゃ、食おうか』

 

「そうだな。俺もお腹が空いた」

 

『桐原、お前音頭取れ』

 

「はぁ?なんで俺なんだよ。服部、お前やれ」

 

「やだよ。十文字会頭、上級生でしょ?お願いします」

 

「断る。冬也、言出屁だろ。やれ」

 

………誰でもいいから早くしてくれないかなぁ。でも上級生の方達が音頭をとると言ってる中で私だけ勝手にいただくわけにもいかないし……。

 

『じゃ、深雪に頼もう』

 

「え、なんでそうなるんですか」

 

気が付けば白羽の矢が刺さっていた。

 

『ほれ、早くしろ深雪。あー面白くしろよ』

 

「は、はぁ!?面白くって……!」

 

や、まぁ本当の男子高校生っぽいこの四人ならそういうノリもあるんでしょうけど……。うー、面白く……おもしろく……。

 

「い、いーたーだーきーまーすー!おはーでマヨちゅちゅ!」

 

直後、四人とも固まって私を見た。まぁ、アレね。一言で言うとあれね。やらなきゃよかった。

 

 

翌日、いよいよアイス・ピラーズ・ブレイク本戦。私も雫もエイミィも勝ち上がり、1〜3位まで一高で独占した。

そんな中、私達はホテルのミーティングルームに呼ばれていた。

 

「時間に余裕があるわけじゃありませんから、手短に言います」

 

呼んだのは七草会長だ。

 

「決勝リーグを同一校で独占するのは、今回が初めてです。司波さん、北山さん、明智さん、本当によくやってくれました。この初の快挙に対して、大会委員会から提案がありました。決勝リーグの順位に関わらず学校に与えられるポイントの合計は同じになりますから、決勝リーグを行わず、三人を同率優勝にしてはどうか、と」

 

それを黙って聞く私達。真面目な話をしてるのは分かるんだけど、七草会長の後ろで陶芸をしてる冬也お兄様のせいで集中出来ない。

 

「大会委員会の提案を受けるかどうかは、皆さんの意思に任せます。ただし、あまり考える時間はあげられません。今、この場で決めて下さい」

 

「あ、あのっ」

 

すると、エイミィが手を挙げた。

 

「私は、今のお話を伺う前から、棄権でも構わないって思ってました。さっきから調子が悪いのは確かだし、司波くんに相談して決めようって」

 

「そうですか」

 

微笑みながら七草会長は頷き、雫と私に視線を向けた。

 

「私は……」

 

先に口を開いたのは雫だった。

 

「戦いたい、と思います。深雪と本気で競うことのできる機会なんて、この先何回あるか。私は、このチャンスを逃したくないです」

 

「分かりました。深雪さんはどうしたいですか?」

 

「………えっ?わ、私もそれでいいです」

 

しまった、冬也お兄様の所為で生返事をしてしまった。

 

「わかりました。では、明智さんは棄権、司波さんと北山さんで決勝戦を行うと大会委員会に伝えておきます。決勝は午後一番になるでしょうから、試合の準備を始めた方が良いでしょうね」

 

と、いうわけで、決勝では雫と戦うことになった。

 

 

試合の準備中。私は椅子に座っていた。

 

「…………」

 

『ちゃおっす』

 

「うえっ!?」

 

後ろからニュルッとホワイトボードが目の前に出てきた。

 

「と、冬也お兄様!?」

 

『よっす、何してんの?』

 

「これから試合の準備なんです」

 

『………試合って何か準備することある?』

 

「……あのですね、普通の人はちゃんとCADを調整するものなんです。みんなあなたみたいに、未調整だったり試作機だったりのMSでも乗りこなせるアムロみたいにいかないの」

 

『おい、人をそんな人外みたいな扱いするなよ』

 

「直前までたこ焼き焼いてて勝った人が何言ってるんですか」

 

『いやあれちゃんと調整してたかんな俺』

 

「いつ?」

 

『俺が最後にCADを調整したのは4ヶ月前かな』

 

「化け物ですか。本当に」

 

『じゃ、俺観客席戻るから。じゃーね』

 

何しに来たのか分からないうちに帰ってしまった。一瞬、応援に来たのかと思ったけど、あの人にそんな気遣いは出来ないだろうと思い直した。

 

 


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