翌日、いよいよ私の競技の日だ。新人戦アイス・ピラーズ・ブレイク。もう一つは明後日のミラージ・バット。
まずは雫の試合が先。冬也お兄様vs十文字会頭の試合が未だに印象的なので、少しやりづらいというのもあるけど、達也お兄様に言われた通り、私は私の試合をするだけだ。
そういえば、最近は屋台をやってるのも見ないし、冬也お兄様何してるんだろう。試合、観に来てくれるかな。
そう思って、少し会場内をウロウロしてると、ホテルの近くに冬也お兄様が立ってるのが見えた。
声を掛けようと思って、小走りで近付く。だが、その足が止まった。随分と真面目な表情で藤林少尉と話していたからだ。
「………?」
少し気になって、私は物陰からその様子を覗き見る。
「………これですか?藤林少尉」
「ええ。この資料が奴らについて」
「ありがとうございます。これはお礼です」
言うと、冬也お兄様は藤林少尉の顔に自分の口を近付けた。
「っ⁉︎」
私は少なからず動揺した。今、何をしようとしたのか。だが、藤林少尉はその冬也お兄様の唇に人差し指を当てて止める。
「ダメよ、司波特尉。こんな所でそんな渡し方は。普通にちょうだい?」
「了解しました」
了解した冬也お兄様は、藤林少尉の手を握った。渡すって、何を……⁉︎私の中で動揺が広がっていく。そして、不覚にも、近くの枝を踏んでしまった。
「しまっ……!」
直後、冬也お兄様は特化型CADを空に向けて引き金を引いた。そして、銃口から出て来たのはUFOキャッチャーのアーム。私の真上まで伸びて来て、服の襟を摘まれ持ち上げられた。
「っ⁉︎」
「なんだ、深雪か……」
相変わらずよく分からない魔法を持ってるわね……。
「あら、深雪さん」
「おーろーしーてー!」
「ダメだよお前。盗み聞きなんてする悪い子にはお仕置きだよ」
「あ、謝りますからぁ!」
「どうする?藤林さん」
「盗み聞きしてたのは確かに褒められたことではありませんね。けど、酷過ぎるのも深雪さんが可哀想ですし」
良かった。藤林少尉は軍人さんなだけあって思考回路もまともなはずだ。
「ここでパンツを脱がしてアイス・ピラーズ・ブレイクはノーパンで挑んでもらうのはどうでしょう?」
どうでしょう?じゃない!この人もダメだ!変態度数は冬也お兄様より上だ!
「ああ、いいですね」
「えっ、ちょっ、冗談ですよね?お二人とも……私15歳ですよ?まさか本当にこんな九校戦を……」
何とかやめさせようとする私に、冬也お兄様は二丁目の特化型CADを向けた。
何をするつもりなの?と、思った直後だ。何の前振れもなく、冬也お兄様は引き金を引いた。そして、
私のパンツは霧散した。
「……?……っ?ッ⁉︎」
「相変わらずの腕ね、冬也くん。下着解体」
「解体って……まさか、本当にやったんですか⁉︎」
「いえいえ。大したことはしてませんよ」
「ホンットに大したことしてないでしょうが‼︎な、何してくれてるんですか⁉︎」
「でもその魔法、昔と変わってないのね。術式解体以上のサイオンを必要とする所」
「こんなアホな魔法がそれほどのサイオンを⁉︎」
「そーなんすよねぇ。中々改良しても意味なくて。一回、改造して東京で使ったらその人、アンダーウェアどころか着てるもの全部吹き飛ばしちゃって」
「なんてことしてるんですかあんた!」
「まぁ、殺傷性ランクは全くないから問題はないだろうけど……」
「心の殺傷性はSSランクですけどね⁉︎」
な、なんて事……!ハッ、ガンガンツッコンでる場合じゃない!とりあえず、パンツを取りに行かないと!今から行って間に合うかしら……。不安に思って時計を見ると、あと10分で雫の競技が始まってしまう。
「走れば間に合うかも……!」
そう思ったのだけれど、私はUFOキャッチャーのアームに摘まれてる状態だ。
「降ろしてください!」
「だが断る!」
「お願いですからぁ!初陣がノーパンなんて嫌ですよぉ!」
「えーだって盗み聞きしたじゃん」
「反省してないわけではありませんが、罪重すぎないですか⁉︎盗み聞きだけでアイス・ピラーズ・ブレイクをアンダー・ウェアー・ブレイク状態で挑むなんて!」
「バレればミユキ・ライフ・ブレイクだな」
「喧しい!」
腹立つ!この人と話してると本当に腹立つ!
「冬也くん、言い出しておいてなんだけど、バレたら私達達也くんに殺されちゃうんじゃない?」
「あー……それもそうっすね」
すると、ドサッとアームが開き、私はお尻を地面に強打した。
「っ痛ぅ〜……」
「ほら深雪、急げ」
「誰の所為だと思ってるんですか!」
ツッコミながらも私は走って自室にパンツを履きに行った。結局、冬也お兄様が藤林少尉と何をしていたのかは聞き出せなかった。