私のもう一人のお兄様がなんか変人   作:杉山杉崎杉田

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三日目

 

 

あの後、さらに冬也お兄様はまったく本気を出すことなく敵をフルボッコにしていき、三回戦進出を決めた。

その日の男子クラウドボールも桐原先輩が優勝した。後で聞いた話だが、冬也お兄様が練習に付き合っていたかららしく、優勝候補である三高のエースをストレートでフルボッコにしたらしい。

他の一高の選手も楽々と勝ち上がっていき、予定以上の戦果をあげていた。

 

「……すごいですね、今年は」

 

市原先輩が感動したような声を漏らした。

 

「そうね。特に男子。何してたのかしら?」

 

「聞いたところによると、冬也お兄様がアドバイスしていたそうですよ」

 

「そんなこと知ってる。去年もそうだったからな」

 

「えっ?そ、そうだったんですか……?」

 

渡辺先輩に言われ、私はうろたえた。

 

「だが、去年は『一年の手なんか借りるか』と言った奴が多くてなぁ。新人戦にしか奴の手腕は振るわれなかった。けど、今年は『スパーク』があったろ。あれに影響された奴らが多くてなぁ……」

 

確かに、スパークではテニスのシーンもあるし、戦闘シーンも激アツだから感化される気持ちは分からなくもないけど……。

 

「あと『頑張れ』って言うと『ヤェス、マムッ』って言われるわね」

 

まだ流行ってたのそれ……。まぁそれで士気が上がるならいいんだけど。

 

「とにかく、このまま行きましょう。今のままなら優勝は確実です」

 

「そうね。勝てるに越したことはないわ」

 

と、今後の方針が決まった時だ。バタン!と扉が開いた。何事かと思ったら、服部先輩だ。

 

「ちょっとはんぞーくん⁉︎ノックくらい……!」

 

文句を言いかけた七草会長の顎を服部先輩は摘み、言った。

 

「やっ、やややや、やぁ、愛しのハニー……」

 

「」

 

絶句する七草会長と顔を真っ赤にする服部先輩と渡辺先輩。渡辺先輩はこの前のこと思い出したようね……。

さっさと逃げてください服部先輩。七草会長が絶句してる間に。私の願いは通じず、七草会長の思考回路は復活してしまった。

 

「………えーっと、あの、はんぞーくん?」

 

「は、はひっ」

 

「ごめんなさい」

 

ペコリと真顔で頭を下げられ、涙を流して逃走した。

 

 

翌日。3日目になり、アイス・ピラーズ・ブレイクとバトル・ボードの決勝が行われる。

まずは、バトル・ボードから決勝開始。

 

「服部先輩が男子第一レース、渡辺先輩が女子第二レース、千代田先輩が女子第一試合で冬也兄様が男子第二試合、十文字会頭が男子第三試合か」

 

組み合わせ表を見た達也お兄様も私も悩まされた。

 

「なんで冬也兄様と十文字会頭を同じ競技に入れたのか」

 

「さ、さぁ……?」

 

(メタ文章、または、神の視点の文章は入れない方が良いでしょう)

 

「まぁ、とにかく見守るしかないな」

 

「そうですね」

 

「あ、達也くーん」

 

七草会長から声が掛かった。

 

「会長、何かご用ですか?」

 

「チョッと手伝って欲しいのよ」

 

問答無用で達也お兄様は会長に引き摺られて行った。

 

 

「お兄様、もうすぐスタートですよ!」

 

レースが始まる直前、達也お兄様はギリギリで客席に到着した。準決勝は1レース3人の2レース。それぞれの勝者が一対一で決勝レースを戦うことになる。ちなみに冬也お兄様も試合には興味があったのか、今回は屋台を閉めて見に来ている。

そして、スタートが告げられた。

先頭に躍り出たのは渡辺先輩だ。だが背後には二番手がピッタリついている。

 

「やはり手強い……!」

 

「さすがは『海の七高』」

 

「去年の決勝カードですよね、これ」

 

激しく波立つ水面は、二人が魔法を撃ち合ってる証だ。

二人はそのままスタンド前の長い蛇行ゾーンを過ぎ、ほとんど差がつかないまま、鋭角コーナーに差し掛かる。

ここを過ぎれば、スタンドからは見えなくなるので、スクリーンによる観戦になる。

 

「むっ?」

 

達也お兄様が声を漏らした。直後、七高選手が大きく体勢を崩した。

 

「あっ⁉︎」

 

「オーバースピード⁉︎」

 

誰かが叫んでいた。私も叫びそうになった。七高選手はこのままではフェンスに突っ込むしかない。

前に誰もいなければ。目の前には渡辺先輩が立っていた。自分に七高の選手が迫ってるのに気付いた渡辺先輩は、受け止めるべく魔法を二つマルチキャストした。

だが、不意に水面が沈み込み、渡辺先輩の魔法にズレが生じた。

結果、渡辺先輩に七高の選手が衝突した。そのまま二人はフェンスに突っ込む。だが、二人ともフェンスには当たらなかった。

突っ込む直前にフェンスの前に突如、黄色い閃光が現れ、そこから冬也お兄様が出現した。

 

「あれ⁉︎」

 

いつの間にか隣の冬也お兄様の姿はなくなっていた。

 

「……フラッシュ・ムーブか。久し振りに見たな」

 

隣で達也お兄様が声を漏らした。冬也お兄様は、二人の選手を両脇に抱えてキャッチして、フェンスにギリギリぶつからないように耐えていた。

全員がポカンとした表情を浮かべる中、レース中断の旗が振られた。

 

 


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