私のもう一人のお兄様がなんか変人   作:杉山杉崎杉田

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2日目

 

 

九校戦は2日目となった。アイス・ピラーズ・ブレイクとクラクドボールの日だ。

冬也お兄様はアイス・ピラーズ・ブレイクの予選に出場なさるので、それも兼ねて私はほのかと雫と見に行った。さっきから、ほのかがソワソワしてる。

 

「ほのか?」

 

「え?な、何?」

 

「少し落ち着きましょう?楽しみなのは分かるけど……」

 

「う、うん。落ち着く、落ち着くよ……」

 

いや落ち着いてる人の表情じゃないんだけど……。まぁ気持ちもわかる。変態的変人的なのに魔法の技術は性別を変えるほどの人の競技だ。私だって楽しみだ。

でも、なんていうのかしら……なんか不安なのよね。負ける心配なんかではなくて、それ以前の問題のような気がして……。

その不安は的中した。目の前で千代田先輩の試合が始まった直後、私の携帯が震えた。達也お兄様からだ。

 

『控え室に冬也兄様がいらっしゃらないんだが、何処にいるか知らないか?』

 

ほらこれだ!私は慌てて立ち上がった。

 

「深雪?」

 

「ごめんなさい二人とも!ちょっとバカ兄しばいて来る!」

 

観客席を降りて行った。

 

 

しばらく走り回ること数分、全然見つからない。下手したら、まだホテルにいるのかもしれないと思い、そっちに向かった時、長蛇の列を見かけた。ザッと見ても100人以上は並んでる。

 

「…………?」

 

何となく気になったので、その列の最先端まで走ると、冬也お兄様がどっかで見た『世紀末の魔術師』という名のたこ焼きの屋台をやっていた。

 

「…………もうやだ」

 

涙が出そうになったが、なんとか堪えて屋台の店主に声をかける。

 

「あの、」

 

『並んでるんで御用の方は列の最後尾へ』

 

………イラッとしてはダメよ私。というか、よく見たら最後尾で『↓こちら最後尾』の看板持ってるの服部先輩だ。最近のあの人、本当にどうしたんだろ。

 

「あの、冬也お兄様!」

 

『並んでるんで御用の方は列の最後尾へ』

 

「いやそれいいから!もう競技始まりますよー!」

 

『えっ、マジ?』

 

「マジですよ!てかどんだけ繁盛してるんですかこの列!」

 

『いやーついエキサイトしちまって』

 

相変わらずホワイトボードに文字を書くのが早い人だ。

 

「とにかく、早く来てください!じゃないとマジで負けますよ⁉︎」

 

『わーったよ。今焼いてる分で終わらせる。深雪、そこのボタン押せ』

 

「へっ?」

 

わけがわからないながらも、私はボタンを押した。直後、キュピーンというニュータイプの音が聞こえた。

 

「呼んだか冬也」

 

直後、空から桐原先輩が降ってきた。え、何これどういうシステム。

 

『お店一時閉店のお知らせしてくれ。再開は30分後』

 

「ヤェス、マムッ」

 

桐原先輩は説明を始めた。すると、冬也お兄様がCADを取り出した。

魔法を発動した直後、今たこ焼きを焼いてる鉄板から香ばしい香りが漂って来た。

 

「〜〜〜ッ⁉︎」

 

身体中になんとも言えない快感が走る。いけない……お腹が空いてきちゃった……。ハッ、よだれ拭かないと。

私が食欲を抑えてる間に、冬也お兄様は鉄板の裏のペダルを踏んだ。直後、すべてのたこ焼きが空中に舞い上がる。

 

「っ⁉︎」

 

「たこ焼きが……!」

 

お客様の一人が切なそうな声を上げる。私も同じことを思った。だが、心配は無用だった。冬也お兄様の腕は千手観音像の如く増え、たこ焼きの落下速度が早い順にパックに詰めて行く。

いや、手が増えたわけではなかった。高速で動かして全てキャッチしているようだ。空中に飛んだたこ焼きを全てパックに詰めると、桐原先輩に『任せた』とボードで言って会場に向かった。

私はそのあとを慌てて追い、横に並んで歩いた。

 

「深雪、あと何分後?」

 

「5分もありません。それより、さっきの魔法は何ですか?」

 

「たこ焼きフレア。たこ焼きを程良い焼き加減に焼き上げる魔法だ」

 

うおお……また無駄な魔法を……。

 

「では、腕が増えた奴は?」

 

「あれは魔法じゃない。俺のスキルだ」

 

「……………」

 

身体能力の無駄遣いもいいとこだった。

 

「それで、その……たこ焼きっていくらなんですか?意外と、いや意外とですからね?意外と美味しそうだったので後で食べてみたいのですが……」

 

「無料」

 

「へっ?」

 

「無料、タダ、ご自由にお取りください」

 

「そ、それじゃあ儲からないじゃないですか!」

 

「俺は他の学校の奴とも仲良くなるためにあの屋台始めたんだ。別に金儲けのためじゃない」

 

青木さんからは清々しいほど大っぴらに取ってた癖に……本当にこの人の考えてる事は読めない。

でも無料じゃ行列が出来るのも無理ないわね……。私が買えるのは何時間後になるのかしら……。思わずシュンッとしていると、私の前にたこ焼きが3パック差し出された。

 

「へっ?」

 

「ほれ、お前が呼びに来てくれなかったら、試合に出れなかったからな。応援に来てくれてる奴らがいたら、そいつらと一緒に食ってていいぞ」

 

「……いいのですか?」

 

「ああ。そもそも妹なんだし、少しくらい贔屓してもいいだろ」

 

「…………ありがとう、ございます」

 

カッコイイ………。

ハッ!今私何考えてた⁉︎ありえない!ありえないから!確かに器の大きさ的にはかなりカッコイイと思うし、顔も声もイケメンだけど……でもありえない!ありえないったらありえないんだから!

強い意志を持たないと!私はキッと冬也お兄様を睨みつけた。すると、ニヤニヤした表情でこう言われた。

 

「………今、カッコいいって思ったろ?」

 

「〜〜〜ッ!ありえません!自惚れないで下さい!」

 

「あっはっはっはっ、照れるな照れるな」

 

横から冬也お兄様をポカポカと叩く。ホンッッットに悔しい!いつか見返してやるんだから!

そんな事を思ってると、いつの間にか選手控え室に到着した。

 

「司波冬也選手ですね?急いで下さい」

 

『了解』

 

冬也お兄様は係りの人に誘導されて、会場へ向った。

 

 


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