私のもう一人のお兄様がなんか変人   作:杉山杉崎杉田

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目的地到着

 

 

「みんな、大丈夫?」

 

七草会長がバスの中の全員に声を掛けた。バスの中の生徒は全員、ヨロヨロと椅子の隙間から顔を出す。

 

「ほのか、大丈夫?」

 

「うん、何とか」

 

私の隣に座ってたほのかに声を掛けた。おデコを前の椅子にぶつけたこと以外は大丈夫そうだ。

 

「二人とも平気?」

 

雫が声を掛けてきた。

 

「うん。それより、何が起こったの?」

 

「車が突っ込んで来たのを、冬也お兄様が何とか回避したのよ」

 

言いながら私は窓の外の冬也お兄様を見た。

 

『いやー危なかったですね』

 

「危ないのはお前だ。よくあんな危ない運転したものだな」

 

『いや実際アレ躱すしかなかったっすよ。どうでした?俺のハンドル捌き』

 

「いやまぁ見事だったが……。まぁ、結果的に助かったから良いか。良くやってくれたな」

 

『いえいえ、ゴリラ先輩こそ良くあのタイミングでバスから降りて障壁魔法出せましたね』

 

「あれ?今、ゴリラって言った?ゴリラって言ったよな?」

 

『流石っすわゴリラ』

 

「おい、一回タイマンするか?ん?」

 

「十文字くん、とーやくん」

 

二人がタイマンを始めようとした時、七草会長が声を掛けた。

 

「ありがとう、助かったわ」

 

「いや、礼は俺ではなく司波に言え。荒い運転だったが、俺たちのバスが無事だったのはこいつのおかげだ」

 

『さっき文句言ってたくせに。ツンデレか?ツンデレゴリラなのか?』

 

「そういう種族っぽく言うな。あとほんと腹立つお前」

 

うちの兄は十文字先輩を相手によくあんなこと言えるわね……。

 

「他のみんなも、怪我をした人はシートベルトの大切さを噛み締めて、次の機会に役立ててね」

 

会長が言うと、ホッと緩んだ空気になる。しかし、大型車の運転手はどういうつもりだったんだろうか。

 

 

目的地に到着し、私はバスから降りた。アクシデントはあったものの、何とか無事に到着できた事にホッとしてしまった。

 

「深雪」

 

後ろから達也お兄様に名前を呼ばれた。

 

「大丈夫か?」

 

「はい。問題ありません」

 

「冬也兄様は無事か?」

 

「はい。ここまで運転してくれました」

 

「そうか、良かった」

 

「………ということは、達也お兄様は冬也お兄様が運転することを知ってたわけですね?」

 

「…………あっ」

 

「後でお話をお聞かせ願えますか?」

 

「……………」

 

黙り込んでしまった達也お兄様と私は一緒にホテルの中に入った。

………というか、なんで冬也お兄様は運転出来るんだろう。今年で17歳のはずでは?私はジロリと遠くにいる冬也お兄様を睨んだ。

私の視線に気付くはずもなく、冬也お兄様は桐原先輩と服部先輩とホワイトボードでお喋りしていた。へぇ、冬也お兄様にも同学年の友達いるのね。少し意外だわ。てっきり自分の頭の中の摩訶不思議アドベンチャーに閉じこもってるのかと思ったわ。

そんな事を思ってると、ソファーから見覚えのある顔が立ち上がったのが見えた。

 

「一週間ぶり、元気にしてた?」

 

「ええ、まあ……それよりエリカ、貴女何故ここに?」

 

「もちろん、応援だけど」

 

私の質問にあっさりと答えた。

 

「でも競技は明後日からよ?」

 

「うん、知ってる」

 

………何か企んでる顔ね。エリカの意図を探ろうとしてると、達也お兄様からお声が掛かった。

 

「深雪、先に行ってるぞ。エリカ、また後でな」

 

そうさっさと見切りをつけた達也お兄様は、機材を乗せた代車をエレベーターホールへ運んだ。

 

「あっ、うん、またね……って、挨拶くらいさせてくれても」

 

「ごめんなさい。スタッフの先輩方が待っていらっしゃるのよ。それで、何故2日も早く来たの?」

 

「今晩懇親会でしょ?」

 

「……………」

 

「……………」

 

「…………それで?」

 

ダメ、私は達也お兄様や冬也お兄様ほど洞察力はないため、意図なんて分からない。

 

「念の為に言っておくけど、関係者以外は生徒であってもパーティには参加できないのよ?」

 

「あっ、それは大丈夫。あたしたち関係者だから」

 

「えっ?それは」

 

「エリカちゃん、お部屋のキー……っと、深雪さん?」

 

さらに現れたのは美月だった。私の謎は深まるばかりだった。

 

「美月、貴女も来ていたの?」

 

「こんにちは、深雪さん……どうしたんですか?」

 

………どうしてここに。まぁ考えてもわからないものを考えても仕方ないわね。話題を変えましょう。そう思って口を開こうとした時、後ろから私の後頭部にガンッ!と何かが直撃した。

 

「あっ」

 

「えっ」

 

怒りを髪の毛の先まで浸透させながら振り返ると、冬也お兄様と桐原先輩と服部先輩のおふざけが度を超えたのか、3人が「やっちまった……」みたいな顔をしてこっちを見ていて、床にはバレーボールが転がっていた。

 

「………ごめんなさいエリカ、美月。私、用事ができたわ」

 

「そ、それなら仕方ないね……」

 

「それより、ここクーラー効きすぎじゃないですか?なんか寒っ……」

 

美月の台詞が終わらないまま私は3人に襲い掛かった。

 

 

そんなこんなで、パーティの時間になった。九校戦参加者の懇親会というものだ。

私は警戒心ビンビンにして辺りを見回していた。去年、冬也お兄様はここで料理を作っていたらしいから、今年は私がそれを止めなければならない。恥ずかしいし。と、思って周りを見回していた。

 

「………いない」

 

まさか、もう厨房に⁉︎慌てて料理が運び出されている所へ向かおうとしたら、その前に冬也お兄様が何食わぬ顔で普通に桐原先輩と服部先輩と一緒にご飯を食べていた。

 

「……………」

 

なんか一人で騒いで馬鹿みたい私……。まぁ、偶にはあの人だって普通の人の時だってあるんだろうし、こういう時はそっとしておきましょう。

と、思えたのもつかの間だった。桐原先輩の声が響いた。

 

「おーっし!じゃあ早食い競争な!負けたやつは女子の部屋行って『やぁ、愛しのハニー』な⁉︎」

 

「オーケー!」

 

『上等』

 

なんかもう疲れちゃったんだけど。今日は放っといていいや。

 

 


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