1月は投稿できるかどうか怪しいのでお休みさせていただきます。
SVやる暇さえない(泣)。
カオルがポケモン屋敷を出て六匹目であるバンギラスに話しかけている間にゲンガーはカオルの影から抜け出し、20代前後の男性の元へと忍び寄った。
カオルは温度変化によりゲンガーが影から抜け出した事に気づいているだろうに黙認し、指示もないという事は自分の好きにしていいと解釈したゲンガーはゴーストポケモンらしく不気味な笑いをしながら影から影へと移動し、男性を見つけ出す。
男性は誰かと通話しているのかポケギアを耳に当てながら何かを話している。
ゲンガーは悪い顔をしたが、男性の近くにいるレントラーが辺りを警戒している事に気づき、迂闊に近づけないと理解し、肩を落とした。
レントラーががんこうポケモンと言われる所以は何も目付きが鋭いからという安易な理由ではない。
レントラーの瞳は透視能力を持っており、その瞳が金色に光るとき壁の向こうに隠れている獲物を見つけたり、危険なものを発見する等が出来るので辺りを警戒するにはうってつけのポケモンである。透視能力は広範囲で使えるわけではないが、例えゲンガーの様に影に潜んで近づいてもレントラーの実力次第では発見される事もしばしばある。
ゴーストタイプが多く生息しているポケモン屋敷でレントラーを出しているという事は男性のレントラーの透視能力は同種の中では高いのだろう。
ゲンガーは1匹でトレーナーに挑む事の恐ろしさを知っている事に加え、主人であるカオルのゲンガーだと男性に知られている以上、此処で男性に危害を加えるのはメリットよりもデメリットの方が大きいと判断し、襲撃を諦めた。
レントラーの透視能力は長時間使うと長い休眠が必要になるとは知っているが、カオルはゲンガーの帰りを待つことなくロケット団アジトに帰るだろうし、レントラーが休む時はポケモンセンター等の人通りの多いところになるのはたやすく想像できる事もゲンガーが諦めた理由である。
ゲンガーが影を移動してカオル元へ帰ろうとした時だった。
「ええ、アナタの言われた通――帳簿を渡し――――したよ」
ゲンガーはカオルの元へと帰るのをやめて、レントラーが気づくギリギリまで近づき聞き耳を立てる。
男性の声は小声で断片的にしか聞き取れないが、ゲンガーにとってそれは些細な事だった。
「違和感を感じているでしょ――彼はそこ――――しなと思いますよ。裏帳簿から――――を調べるのに忙しいでしょうし、オレがカントー地方のポケモン―――に派遣されているのは事実ですし調―――アナタにつ―――――な事は何一つりません」
ゲンガーは男性の断片的な話を推測し、カオルが手に入れた裏帳簿が誰の意思によりカオルの元へと渡されたのだと理解したが、男性に“アナタ”と言われる人物は心当たりがなかった。
カオルには敵が多く、味方をしてくれる人物に該当しそうな人は指で数えられる程度しかいない。
仮にカオルの味方をする人物が裏帳簿をカオルに届ける為にこの男性研究者に頼んでいたとしても直接渡せば済む話なのでこのような面倒な渡し方をする理由もない。ゲンガーが真っ先に思いついた人物はカオルがする事を真っ先に止めそうだとゲンガーは思ったし、協力するメリットがあるだろうか。
ゲンガーは頭をひねったが、カオルとは違い物騒な悪戯ばかり考えているので、謀略の類は得意ではない。ゲンガーは自分では考えても無理だと判断し、電話を切り、ポケギアをしまった男性を横目に見ながらレントラーに気づかれる前にその場を離れた。
影から影へと移動しながらカオルの元へ帰っていくゲンガーは降りしきる雨の中ポケモン屋敷が目にはいり、影から懐かしげに目を細めた。
ゲンガーはグレンタウンに住むトレーナーの父親のゲンガーとポケモン屋敷に住む野生の母親のゴーストの間に生まれたポケモンだった。
父親のゲンガーのトレーナーは他地方のポケモントレーナーでカントーリーグに参加する為、グレンジムに訪れた際にグレンタウンに住む女性に一目惚れし、猛アタックの末、結婚し移住した。
父親のゲンガーはポケモン屋敷に住むポケモン達を冷やかしに来た際、母親であるゴーストに一目惚れし猛アタックの末、結ばれたらしい。トレーナーとそのポケモンは似るというけど、似すぎよね。と母親のゴーストは笑いながら話していた。
だが、母親のゴーストがその話を当時まだゴースであったゲンガーに話していた時、父親のゲンガーはすでにいなかった。
父親のゲンガーが何処へ行ったのか聞くと母親のゴーストは少し悲しげにトレーナーと共に遠くへ行ったのだと言われたゴースは何となくそれ以上聞いてはいけないのだと思い、父親のゲンガーの話題を避けるようになった。
カオルの手持ちになり人間を知っていく内にゲンガーはトレーナー夫婦が別の場所に移り住んだか、もしくは離婚等でグレンタウンを離れる際母親であるゴーストではなく、トレーナーについていく事を父親のゲンガーは選んだのだろうという事は予想できるようになった。
もしかしたらまだ生まれていないゴースの卵を抱えた母親のゴーストも一緒に連れていってくれ。とトレーナーに頼んだのかもしれないがゴーストタイプのポケモンは嫌われる傾向にあるのでトレーナーがゲンガーは手放したくないが、ゴーストとその卵は連れてはいけないと断ったのかもしれない。
そこら辺の事情は野生で生きていく最低限の能力を身に着けたゴースに旅に出ると言ってポケモン屋敷から外の世界へと出て行った母親のゴーストが最後まで話さなかったのでゴースが知るすべはもうない。
ゴースからゴーストに進化してもなお、帰ってくる事のない母親のゴーストに思うところがなかったと言えば嘘になるが、居ない両親に向けて恨み節や文句を言ってもどうしようもないのでゴーストはポケモン屋敷に訪れたトレーナーや研究者に悪戯を仕掛けて気を紛らわせた。
ゴーストの悪戯はハンカチや筆記用具を隠す等小さな事から餓死寸前まで迷わせたり、ポケモンの入ったモンスターボールを隠す等の悪質極まりないものまで幅広く、最終的に死亡事故はなかったものの被害が多い為、何度か討伐部隊を派遣されていたが、ゴーストは討伐部隊が来るとポケモン屋敷から1ヶ月以上離れたり、邪魔なポケモンを騙して討伐部隊にぶつけたり等してやり過ごした。
次第に討伐部隊が何度訪れても討伐できないゴーストと噂が広まりポケモン屋敷を訪れるトレーナーや研究員も警戒され、高レベルのポケモンを連れてこられるようになった。
ゴーストはその頃にはポケモン屋敷の中でも5本指に入る程の実力を身に着けていたが、人間に育てられたポケモンは野生とは違い手強い事を理解していたので、ポケモンバトルを挑もうとはぜず、あくまでも成功できる悪戯にとどめた。
ゴーストにとって悪戯は遊びで人間と敵対する為に行っているわけではなかったのだが、訪れたトレーナーの中にはゴーストを捕まえに来た者もいて、その手のトレーナーはゴーストの気まぐれで散々惑わせてから追い返すか、無視するかのどちらかだった。
そんな生活を続けていたゴーストだったが、その生活は突然終わりを迎えた。
その日、ゴーストはポケモン屋敷の外に出て数週間後に帰った時だった。
ポケモン屋敷のポケモン達の様子がおかしかったのだ。
ゴーストはポケモン屋敷にトレーナーもしくは研究員が訪れているにしては怯えたポケモンも多く、討伐部隊が来ている時に帰ってしまったのかと思ったが、適当なポケモンを捕まえて何があったか聞くと、ポケモントレーナーらしき黒い服を着た少年がゴーストが外に出ていた間に何度か訪れて、ゴースト以外のポケモン屋敷の実力のあるポケモンを全匹倒し、ポケモン屋敷を何かを探すように歩き回っているらしい。と適当に捕まえたロコンが怯えながら話してくれた。
ゴーストはポケモン屋敷の実力のあるポケモンを全匹倒したという事はかなりの実力者である事は確実であるので、ポケモンバトルを挑む選択肢は排除されたが、その黒い服を着た少年がポケモン屋敷で何を探しているのか興味がわいてしまった。
自分は説明義務を果たしたと言わんばかりにロコンが逃げたのをゴーストは見送りながら家具の影に潜り込み、黒い服を着た少年を探し始める。
少年はあっさりと見つける事が出来た。
ポケモン屋敷の地下にある研究室の1室から光が漏れていたので影から抜け出し確認すると、扉の隙間から椅子に座りファイルの中身を確認している黒服の少年らしき人間がいた。紙を捲る音が静かな研究室の1室に響きわたっている。
その隣には黒服の少年のポケモンと思わしきブラッキーが長い耳を細かく動かし、辺りを警戒している。
自分の実力ではブラキーに勝つのはギリギリで後続もいたら勝つのはほぼないと理解したゴーストは数分前まであわよくば悪戯をしようと考えていたが、悩んだ。
その一瞬の思考がゴーストの命運を分けた。
ゴーストは背後から衝撃を受けた。
背後から攻撃を受けると思っていなかったゴーストは驚き、体制を整えることができず、扉に勢いよくぶつかった。その衝撃で扉は大きな音を立てながら閉まり、ゴーストは体制を整えながら自身の背後から攻撃してきたポケモンを確認する。
宙に浮いてゴーストを見下しているそのポケモンはゴーストが今まで見た事のないポケモンだった。
人間の様に髪をなびかせながら首元の赤い宝玉付近に黒いエネルギーが集まっている。
それはどう見てもシャドーボールであった。
ゴーストは逃げるために影へと潜ろうとするが、背後の扉から殺気を感じ、影に潜るのを中断して回避行動をとる。
轟音をあたりに響かせながら飛んできた扉をギリギリ回避したゴーストは扉の向こうから出てきたブラッキーへと視線を向けた。
ブラッキーはゴーストを唸りながら体勢を低くし、今にもゴーストを攻撃しそうだ。
研究室の椅子に座りながら読んでいたファイルを机に置き、黒服の少年は口を開いた。
「ムウマ、鬼火」
ゴーストの見た事のないポケモンはゴーストを嘲笑いながら黒服の少年の指示に従い、紫炎の火の玉を出す。
ゴーストは苛ついたが、ブラッキーに集中する事にした。
殺意をとばしているブラッキーの様子にゴーストはどう逃げるか考える。
ゴーストにとって影に潜れば逃げる事は容易いが、問題は影に潜るタイミングがあるかどうかである。
黒服の少年が呼んだゴーストの見た事のないポケモン、ムウマの鬼火により辺りが明るく照らされてしまった為、潜りこめる影がなく、ムウマの鬼火から離れない限り逃げる事が出来ないと考えているからだ。
ゴーストがどうするか考えている内にブラッキーが先に動いた。
ブラッキーは素早くゴーストへ距離を詰めてイカサマを繰り出す。
ゴーストはブラッキーのイカサマを避けようとするが、ムウマの鬼火が回避先に移動した。
ムウマの連携に心の中で悪態をつきながらもゴーストはタイプ弱点をつかれるよりましだと思い、火傷状態になる事を覚悟で鬼火へと突っ込み、火傷を負いながらもブラッキーのイカサマを回避して金縛りを繰り出し、ブラッキーのイカサマを封じた。
イカサマを封じ込められたブラッキーは顔を歪め、即座に後方に下がる。
ブラッキーに代わるように前へ出ていたムウマはゴーストに挑発した。
嘲笑う様に繰り出された挑発にゴーストは自身の変化技が使えなくなったのを感じ、舌打ちする。
ムウマはそのままシャドーボールを繰り出したのでゴーストもシャドーボールを繰り出し相殺するとムウマが鳴き声を上げ、首元の紅玉が光ったと思うとゴーストは自身の攻撃技であるシャドーボールとおどろかすが使えなくなっている事に気がついた。
ゴーストはムウマを睨み付けるとムウマは勝ち誇ったような顔をした。
予測でしかないがおそらくムウマは封印を繰り出し、自身も持っているシャドーボールと驚かすを使えなくしたのだろう。こうなるとゴーストには回避する以外の選択肢がない。
ムウマが嗤いながら繰り出してくるシャドーボールを火傷でじわじわと削れて行く体力を大きく減らされないように回避しているゴーストは少しずつ気づかれないように鬼火で照らされていない場所まで逃げていく。
影に逃げ込めるまであと3mに差し掛かった時だった。
「イカサマ」
ムウマのシャドーボールを避けていたゴーストはその声が聞こえた瞬間、ブラッキーのイカサマをもろに受け、壁に激突した。
途切れそうになる意識を気合で繋ぎ止めたゴーストは地面に落ちる前にモンスターボールに入れられ、抵抗する暇もなく捕獲された。
瀕死寸前のゴーストが入っているモンスターボールを拾い上げた黒服の少年はゴーストを見ながら呟いた。
「君はいいね。最初からかなわない相手だと理解して逃亡一択だった。その判断力を買うよ」
そう言ってモンスターボールを縮小し、ホルダーに付けられたところでゴーストの意識は途絶えた。
ゲンガーは故郷であるポケモン屋敷から視線を外し、主人であるカオルのもとへと急ぐ。
カオルの目的はゲンガーには分からない。
だが、カオルのそばにいると面白い事が起きるのを知っている。
だからこそ、これからもカオルのそばを離れるわけにはいかない。
其処が特等席だと理解しているからだ。
「戻ったかい?帰るよ」
気温が下がったのを感じ取ったカオルの言葉にゲンガーは影を揺らし答える。
歩き出したカオルを見ながらゲンガーは笑った。
カオルが目的を達成するまでの苦しみと憎悪の表情を想像しながら。