迷い人   作:どうも、人間失格です

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赤い彼と緑の彼

 

 

 

 レッドとグリーンは一部区域封鎖されているが、復興しつつあるヤマブキシティのポケモンと食事のできるカフェのテラス席で頭を机に伏せた状態で大きなため息をついた。心なしかどんよりとした空気をさらしている2人はヤマブキシティの事件後の3週間で心身ともに疲労していた。

 

 カオルに気絶させられたレッドはエリカとキョウのチームに手助けに入っていたグリーンとともにヤマブキシティ奪還の際に巻き込まれた民間人として警察に保護され、ロケット団と衝突する事となった経緯を説明し、烈火のごとく警察やジムリーダー、オーキド博士、家族という流れで説教を受けた。

 特に心が痛んだのはレッドは母親、グリーンは姉に泣かれながら無事でよかった。と言われたことで自分の考えなしに行動した結果、心配させてしまった事に心の底から反省し、説教を受け入れたが、その後、ハナダシティの警察病院で手持ちポケモンと共に3日検査入院し、それが終われば警察からの調書は現場検証も含め約2週間に及び、違う意味でも無鉄砲な行動はやめようと心に誓った。

 

 後日、ヤマブキシティの市長と警察の記者会見ではメディアに対しレッドとグリーンの事は伏せられ、ジムリーダー5人と選抜された警察でナツメとヤマブキシティの住民を救い出したことになっていた。

 その際、犠牲者は民間人には出なかったが、警察官数名とロケット団と思われる人が1人死亡していると聞き、レッドはカオルの言葉を思い出し、顔を曇らせた。

 

 レッドの表情に気づいたピカチュウはレッドにピカ、と鳴きながら励ますように頬を擦り付ける。

 その様子を見ていたイーブイは反対側からピカチュウを真似するように笑顔で頬を擦り付けてきた。

 頬の電気袋から漏れた少量の電気が静電気のような痛みを伴いながらのピカチュウと雲の様にフワフワの毛並みを惜しげもなく擦り付けてくるイーブイのかわいらしい励ましに口角を緩めたレッドはピカチュウとイーブイの頭をなでる。2匹はレッドの笑顔に笑顔になり、もっととでも言うようにその手にじゃれつく。

 

 

 

 「…おい、ポケモンといちゃつくな」

 

 

 

 レッドにジト目で見るグリーンが苦言を放つが、丸形のテラステーブルに顎をのせているグリーンの背中に飛び乗り、肩に前足を乗せ、頭の上に顎を乗せてどや顔をさらしているオレンジの体毛にとら模様を持つ犬のようなポケモン、ガーディを好きにさせているグリーンの言葉には説得力がなかったのでレッドはお前もな。という視線で返事をする。

 

 2人とも自身のポケモンに癒されながらウエイトレスが運んできた食事にポケモン達とともに少し遅いランチを楽しむ。

 レッドはグリーンの手持ちを見た。

 カメックス、ピジョト、ガーディ、両手にスプーンを持ったユンゲラーの進化系ポケモン、フーディンに六体がセットになった卵のようなポケモン、タマタマの計5匹。

 レッドはポケモントレーナーの公式所持ポケモン数である6匹を揃えてしまったが、グリーンは意外にもまだ揃えていなかったらしい。

 同じようにレッドの手持ちを見ていたグリーンはランチであるパスタを食べ終えると顔を歪めた。

 

 グリーンの顔を歪めさせたものが何か気になったレッドはグリーンの視線の先をたどるとそこにいたのは炎タイプ用のブレンドポケモンフーズを手でつかんで食べているレッドのリザードンだった。

 それだけでグリーンの考えている事を察し、レッドは顔を曇らせる。

 レッドの様子にグリーンは食後のコーヒーを一口飲むとコーヒーカップをソーサーに置き、小声で切り出した。

 

 

 

 「手持ちも多くなっただろ。扱いきれてないならじいさんに返せ。お互いが傷つくだけだ」

 

 「…ちょっとプライドが高いだけで信頼関係は築いてる」

 

 「だったら何でそんな顔するんだよ」

 

 

 

 言葉を詰まらせ黙ったレッドにグリーンは長い溜息をつきながら自身の頭をガシガシと乱暴に掻き、真剣な表情になった。

 様子の変わったグリーンにレッドは身構える。

 真剣な時のグリーンはレッドの痛いところをよく突くからだ。

 

 

 

 「お前のポケモンへの底抜けの優しさは尊敬するが、優しいだけじゃダメなんだよ。今のお前は身の丈を超えたポケモンとの問題のせいで中途半端だ。そのままだとトレーナーとして潰れるぞ。こうなるって分かってたから俺はトレーナーに捨てられたヒトカゲをじいさんから最初のポケモンとして貰うのはやめろって言ったんだよ」

 

 

 

 グリーンの言葉にレッドはリザードンとなった最初のポケモンを見る。

 リザードンは炎タイプ用のブレンドポケモンフーズを食べ終わったのか大あくびをして身を丸めて日向で昼寝をし始めた。

 

 

 

 グリーンの言う通り、リザードンはヒトカゲの時にトレーナーに捨てられたポケモンだった。

 卵から孵って1ヵ月程はトレーナーに育てられたようだが、その後生息地ではないトキワの森に捨てられているところをたまたま通りかかったポケモンレンジャーに保護された。

 普通ならばトレーナーが所持しているポケモン数や種類はモンスターボールでゲットした時点でモンスターボールの機能により、ポケモン協会にトレーナーナンバーとポケモンナンバー、生体情報が登録され、管理されている為、生体情報だけでもトレーナーが特定できるのだが、このヒトカゲは登録されておらず、当初は親ポケモンから逸れて迷い込んだのだと思われていた。

 ところが、あまりにも人馴れしている上に、木の実よりもポロックやポフィンを好んで食べる事からトレーナーに捨てられたのではないかと疑惑が上がり、ここ数年ポケモン協会に登録されることのない違法モンスターボールが出回っている事もありヒトカゲは警察で調べられた。

 

 その結果、丁度別事件で逮捕されていたトレーナーの所有するポケモンのリザードの遺伝子が一致し、兄弟という鑑定結果が出た為、トレーナーを問い詰めると優秀なリザードンのオスとメスを一緒の牢に入れて卵を複数産ませ、孵し、親より更に優秀なヒトカゲ1匹を手元に残して他のヒトカゲは捨てたと言った。

 つまり、より優秀なポケモンを厳選したのだ。

 勿論、ポケモン保護法のポケモン同士の違法な交配に引っかかるのでそのトレーナーは余罪を追求されている。

 

 

 

 ヒトカゲは調べられた後、人に嫌悪抱いていないとはいえ、里親に出されてもトレーナーに捨てられた、犯罪に巻き込まれたポケモンとしてのレッテルを貼られて引き取られる事は難しいので、オーキド博士の研究所に研究用のポケモンとして引き取られる事となった。

 

 研究用のポケモンとして過ごしているヒトカゲが何故、レッドの最初のポケモンとなったのかというとレッドがヒトカゲが研究所に来る理由を知り、旅に出る最初のポケモンとして引き取りたいと申し出た為である。

 当然、レッドの母親もオーキド博士も同じく旅に出るグリーンでさえも反対した。

 カントー地方の初心者トレーナーのポケモンとしてポピュラーなポケモンとはいえ、始めてポケモンを持つレッドには荷が重いと判断したためだ。

 ところが、レッドは諦めなかった。

 毎朝オーキド博士の研究所に通ってヒトカゲと交流しオーキド博士に最初のポケモンとして貰える様に頼み込み、家に帰ると母親を説得し、グリーンの説得を聞き流して喧嘩になる。そんな日々を旅立ちの日まで続けいた。

 

 旅立ちの日にポケモンを選ぶとなった時に事件は起こった。

 ポケモンを貰う為に研究所に来たレッドの足にしがみつき、離れなかったのだ。

 レッドだけではなく、ヒトカゲの行動によりオーキド博士とレッドの母親は定期的に様子を報告し、問題が起これば即座に研究所に預けるという条件でレッドはヒトカゲを最初のポケモンとして貰う事が出来た。

 その日以降、レッドと旅を続けるにつれヒトカゲからリザードンになっても特に何の問題もなく、信頼し合い、良い関係を築けていたのだが、ヤマブキシティ奪還事件でのカオルとのポケモンバトル以降、お互いに思うところがあり少しギクシャクしていた。

 何とかしなければいけないとレッドも思ってはいるのだが、どうしたら前の時みたいに何の疑いもなく信頼し合えるのか分からなくなり行き詰っていた。

 

 レッドの表情で何かあった事を察したグリーンはこれ以上は現時点で話してくれないと判断したのか、話題を変えた。

 

 

 

 

 

 「それにカビゴンの食費は大丈夫なのか?初心者トレーナーが払える金額じゃねえだろ」

 

 「満腹を促すカビゴン用のポケモンフーズと乾燥わかめみたいに水分で10倍以上膨らんで腹持ちのいいおやつで何とか。でも、値段は他の手持ちの2倍以上するからカビゴンの食費の殆どはママに払ってもらってる」

 

 「やっぱりな。ポケモンバトルでは強力な戦力になるけど金がかかるのは問題だぜ。手持ちから外してポケモントレーナーとして稼げるようになるまでじいさんの研究所に預けた方がいいと思うぞ。食費は研究協力として負担してもらえるし、希少なポケモンだから歓迎される。悪くねえだろ」

 

 

 

 グリーンの言葉にレッドは再び言葉を詰まらせる。

 グリーンには伝えてはいないが、シルフカンパニー社の社長からグリーンとともに感謝の品として贈られたマスターボールの他に研究員からラプラスを譲り受けていたのだ。

 だが、レッドの手持ちは6匹そろっていたので、ラプラスをサブポケモンとしてマサキのポケモンボックスに預けることにした。

 警察の調書の合間にボックスから引き出してコミュニケーションをとっていたが、ボックスに預ける際に寂しそうな顔をされるのでレッドもこのままでいいのだろうかと考えていた。

 ラプラスはカビゴンに比べて希少性は高いので、他のトレーナーからレッドが新人トレーナーなのをいい事にいちゃもんをつけてきたり、トラブルの元になりやすいが、食費等の金銭面の負担は軽減される。

 

 だが、自分のポケモンは自分で面倒を見たいレッドにとってカビゴンもラプラスも信頼できるオーキド博士に預けてもいいのだろうか、大人に頼っていいのだろうかという迷いと遠慮があった。

 たとえ、今現在母親に金銭面での援助を受けていても最低限のポケモンの面倒を見れているので必要ないようにも思えてしまうし、寂しい思いをさせているラプラスとおなか一杯食べたいだろうカビゴンに中途半端なケアをしているのではないかという不安が心の中にしこりを残していた。

 

 悩みだしたレッドにグリーンは長く大きなため息をつき、レッドの頭をトレードマークのモンスターボールの帽子ごと思いっきり撫でた。

 モンスターボールの帽子がずれて髪がポッポの巣のようにぐしゃぐしゃになったレッドはグリーンの手を払いのけて、すかさず文句を言った。

 

 

 

 「何するんだ、髪型が崩れたじゃないか!」

 

 「そんなもん最初からだろーが。辛気臭い空気を放ち始めたから飛ばしてやったんだ。感謝しろ」

 

 「誰がするか!」

 

 

 

 吐き捨てるように言ったレッドは髪型を手ぐしで整えてモンスターボールの帽子をかぶるとブスッとした表情でグリーンを睨みつける。

 グリーンはコーヒーを優雅に飲みながら持って来たポケモン新聞を広げて読んでいてレッドの様子など気にした様子はなく、それがレッドにはさらに気に障り、不機嫌になった。

 

 グリーンはトレーナーとして問題だらけのレッドに不安を感じていた。

 ポケモンバトルの才能もポケモンへの愛情も口にはしないが自身の幼馴染でありライバルとして誇らしく思っているだけにレッドが潰れてしまうのではないかと不安になる。

 そんなグリーンの心配をよそにレッドは話題を変えるため口を開く。

 

 

 

 「そんな事よりもグリーンは何とも思わないのか」

 

 「何が?」

 

 「ニドキングの事。ポケモンだいすきクラブが抗議活動してるし、一部の市民はニドキング討伐の際に警察の対応を疑ってる。グリーンはどう思う」

 

 

 

 グリーンはどんな事があろうとポケモンと人間は必ず仲良くなれると心から信じているからこそニドキングの対応に不満を持っていると思わせるレッドの言葉に感情のままに言葉を吐き出しそうになったが、寸前で抑えた。

 ニドキングと対峙していないレッドにあのニドキングの恐ろしさを完全に伝える事は出来ないとグリーンは理解していたし、ポケモンのいい面しか見ていないレッドにとって人を襲い、血の味を覚えたポケモンがいかに恐ろしく狂暴であるかを理解できるとは思っていなかったためだ。

 グリーンは読んでいるポケモン新聞の内容がまともに頭にはいってこない事を自覚しながらレッドに語りだす。

 

 

 

 「甘ちゃんのお前にトレーナー講習の復習してやるよ。ジムリーダーの仕事は何だ?」

 

 「……ポケモントレーナーの実力を見極めて一定の実力のあるトレーナーにポケモンリーグ出場資格となるポケモン協会認定のバッジを授与する事、ジムのある町に限らず野生のポケモンや災害指定ポケモンから一般人を守る義務があり、ポケモン協会又は警察からのポケモンに関連する犯罪やポケモン討伐要請に応じる事」

 

 「それが分かってるならオレの言いたい事が分かるだろ。ロケット団制圧もニドキングの討伐も2つ目に該当し、キョウさんはそれを実行した。警察官はあくまでポケモンの密漁や違法売買等人がかかわっている犯罪行為を取り締まるのが仕事。ポケモンの討伐はポケモン協会並びにジムリーダーの仕事だ。非難されるのはお門違いだぜ」

 

 

 

 グリーンの温度のない冷静な返答にレッドは自身の考えとグリーンの考えが相反するものであると悟ったようで表情を消し、黙り込んだ。

 レッドの様子に気づきながらもグリーンはあえて無視して言葉を続ける。

 

 

 

 「いいか、レッド。ポケモンは人にとって良き隣人であり、人の身に余る生き物だという事を忘れるな。ポケモンが人に友好的だからこそオレ達はポケモンと共に共存出来るんだ。ポケモンが人を拒絶し、攻撃されたらオレ達は身を守る為に距離をおくか討伐するしかない」

 

 

 

 グリーンの言葉にとっさに反論しようとしたレッドだったが、カオルとのポケモンバトルでリザードンの火炎放射が当たりそうになった時の事を思い出し、苦い顔をして沈黙した。

 2人の間に妙な空気を感じ取ったのかレッドの頬にピカチュウが手を伸ばし、グリーンのガーディはグリーンの足元にじゃれついた。

 ガーディを撫でつつ完全に黙りこんだレッドにグリーンは大きく深い溜息を吐きながらポケモン新聞を丁寧にたたんで手持ちポケモン達を戻し、ボールホルダーに装着して立ち上がったグリーンはレッドを無理やり立たせる。

 

 いきなりの事で素直に立ち上がったレッドは目を白黒させながらグリーンを見て、グリーンの目と目があった。その事にグリーンはニヤリと笑いながらレッドに告げる。

 

 

 

 「目と目があったポケモントレーナー同士がする事と言えば一つだろ?」

 

 

 

 一瞬理解できなかったレッドだったがグリーンの言わんとしている事を理解した途端、好戦的な表情に変わり手持ちポケモンをボールに収めてボールホルダーに装着していく。

 帽子を深くかぶり直し、ついてくるレッドにグリーンは伝票を持ちながら告げた。

 

 

 

 「負けた方がランチおごりで」

 

 「絶対勝つ」

 

 

 

 食い気味に言ったレッドにグリーンは笑った。

 

 

 

 

 

 衝撃!シルフカンパニーの闇

 

 先日の記者会見ではロケット団がヤマブキシティ占拠した理由は不明で現在捜査中だと発表されていたが、どうやらシルフカンパニー社で開発されていたどんなポケモンも捕獲できるというマスターボールを手に入れる為にロケット団がヤマブキシティごと占拠したという情報が各メディアが行った警察関係者への取材であきらかとなった。

 どんなポケモンでも捕獲できるボールとはいえ、あまりにも規模が大きすぎて信憑性がなく、当初は噂のようなものだったが、詳しく調べていく内にシルフカンパニー社でポケモン保護法に引っかかる非人道的なモンスターボールの開発をしていたという証拠が見つかり、警察がシルフカンパニー社を近い内に家宅捜索する事が決定され、マスターボールが目当てだったという話に信憑性が出てきた。

 しかも、シルフカンパニー社の社員の一部がロケット団に協力していたという匿名の告発があり警察はシルフカンパニー社の一部社員を任意で取り調べている。

 シルフカンパニー社では他にも情報の隠蔽や改ざん等の疑惑があり警察は捜査を続けている。

 それに伴い、カントー地方のポケモン関連の商品で一大企業だったシルフカンパニー社の株を売る株主が続出して大暴落を起こし、ポケモン関連の証券市場は今も大混乱に陥っている。

 他企業にも影響が出ており、今後ともシルフカンパニー社の動きに注目が集まりそうだ。

 

 

 

 

 

 テーブルに置いたまま忘れ去られていたポケモン新聞の一面にはそう書かれていた事をグリーンとレッドは知らなかった。

 

 

 

 

 


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