ぬるい表現にしたつもりですが、こんなのポケモンじゃない、気分が悪くなった等の苦情は一切受け付けませんのでご了承ください。
それを踏まえたうえで大丈夫、読めるぜ。という方のみどうぞ。
最後にこんな展開しか思い付かなかった作者が全面的に悪いのでポケモン協会やキョウとエリカを嫌いにならないでください。
「まだやるの?君って結構タフなポケモンなんだね」
嬉しそうに少し弾んだ声で言う人間の子供をニドキングは睨みつけるが、人間の子供はニドキングの殺意のこもった睨みを受けながらも冷静に操るポケモンに指示を出していた。
ニドキングは人間が嫌いだ。
ニドキングはカントー地方とジョウト地方の境界線にある森に生まれた。
緑豊かな木々と乾いた岩はニドキングの種族にとって最適な環境であった。
生まれながらに恵まれた体格を生かした力で群れの中でも頭一つ分抜きんでていたニドキングは群れの長からも信頼され、群れの長の娘である色違いのニドクインと結ばれた事により次の群れのリーダーは確実であった。
ニドキングは群れの仲間や最愛の妻である色違いのニドクインと死ぬまで一緒であると信じて疑わなかった。
あの醜く笑う人間達が仲間を惨殺し、最愛の妻である色違いのニドクインを奪われた真昼のごとく燃え盛る月夜の晩までは。
ニドキングは一晩で全てを失った。
一緒に騒いでくれる群れの仲間も。
ニドキングが将来群れの長になる事を誰よりも喜んでくれた親友も。
惜しみない愛を注いでくれた両親も。
誰よりも尊敬していた群れの長も。
何よりも守りたいと思った最愛の妻も。
まるで全て夢であったのかと思う程だったが、呆然と座り込むニドキングの胸に刻まれた3本の傷の痛みと変わり果てた森と群れの仲間と思わしきポケモンの焼死体が嫌でも夢ではなく現実である事を突きつけられていた。
ニドキングが生き残ったのは運が良かったからだった。
人間の操るポケモンの攻撃で川に落とされ、何とか岩場に半身を乗り上げた所で力尽きて気絶したのを死んだと人間に勘違いされた為、止めを刺されずに済んだのだ。
一日中座り込み、かつて群れが暮らしていた巣を見続けていたニドキングは襲ってきた人間達の目的がニドキングの最愛の妻である色違いのニドクインであった事に気づき、少しずつ胸の内に黒くドロドロした感情がたまり始めていた。
ニドキングの群れは人間も襲わず穏やかに暮らしていた。
珍しい色違いのポケモンだからという理由だけで襲われ、群れを惨殺されたニドキングは人間へと報復しないという選択はなかった。
「君がどういった経緯で人間を忌み嫌う様になったかは興味ないけれど、10人以上の死傷者を出したポケモンとしてポケモン協会から討伐命令が下され、出動した討伐部隊を地形を利用した大規模かつ広範囲の岩雪崩で返り討ちにした挙句、森の近くにある村も巻き込んで多くの死傷者を出した実力は興味あるよ。ポケモン協会はその出来事を踏まえて君を災害指定ポケモンに登録したしね」
人間の子供が楽しげに歌う様に紡がれる言葉にさして興味のないニドキングは雄叫びを上げた後、勢いよくしっぽを叩きつけ、ひびの入った地面に拳を叩き込む。
完全に割れた地面は重力により森の斜面を滑り落ち、木々や大きな岩を巻き込みながら人間の子供の元へと岩雪崩となり襲い掛かった。
人間の子供、カオルは背筋が凍るような笑みを浮かべた。
「いいね。躾しがいがある」
エリカのフシギバナは太陽の光を浴び、光合成を繰り出して、体力を回復した。
その様子を見たニドキングは忌々しそうに睨んでくるが、ギャラドスがフシギバナへと近づけさせない様に放たれた冷凍ビームを同じく冷凍ビームで相殺する。
回復したフシギバナを見ながらエリカはニドキングに決定打をあたえられない状況に焦りを感じていた。草タイプのポケモン使いであるエリカは多種多様なタイプの技を保有し、状況判断がポケモントレーナー並みに的確なニドキングに決定的な打撃を与える事が出来ず、ギャラドスの主人である30代程の青年警察官の攻撃を中心にエリカは光合成ややどりぎのタネでフシギバナを回復し、じわじわとニドキングの体力を減らしていく作戦をとっていた。
だが、ニドキングもギャラドスへの攻勢を強めていき、ギャラドスは気丈にふるまっているが体力が限界に近づいている事はエリカも分かっていた。
最悪な事に30代程の青年警察官はギャラドスで最後のポケモンだと聞いたエリカは自身の残りのポケモンが頭の横に花飾りをつけたフラダンサーの様なポケモン、キレイハナのみで他は戦闘不能になってしまっている事を思い出し、顔が強張った。
エリカの様子は誰も気づく事は無かったが、何とかギャラドスが倒されてしまわない内にニドキングを倒せないか思考を巡らせていた時だった。
「エリカさん!子供が」
グリーンの言葉にエリカは周囲を見渡すと、シェルター付近から7、8歳程の男の子が辺りを不安そうに見ながら出てきていた。エリカは男の子が位置的に非常にまずい事に気がついた。
何故ならシェルター付近に一番近いのはニドキングであり、人間に敵意と殺意を持っていると思われるニドキングが子供に危害を加えない保証はなかったからだ。
だが、エリカや警察官達が男の子を保護しようとタイミングをはかって様子を見るとポケモントレーナー並みに賢いと思われるニドキングが気付かないはずがない。かと言ってそのままにしていても状況をよく理解していないであろう男の子が大人しくしてくれるはずもなく安全は保証できない。
エリカは一瞬自身の懐に
そうしている内にエリカや警察官達が視線をそらした事に気づいたニドキングはエリカたちの視線を辿り男の子に気づいてしまった。
目の合った男の子は肩を震わせた後、顔に恐怖を浮かべながらあ、う。等言葉にならない声を発している様子を見てニドキングは大きく口を開き、男の子に向けて冷気を纏わせ、冷凍ビームを繰り出そうとしている。
「フシギバナ、パワーウィップ!」
エリカは悲鳴に近い声でニドキングの気を男の子から引き離そうとフシギバナに指示を出すが、どう考えてもフシギバナのパワーウィップよりもニドキングが男の子に冷凍ビームを当てる方が早い。
ニドキングが冷凍ビームを放とうとした時だった。
パンッ。とかわいた音が辺りに響いた瞬間、ニドキングの悲鳴が響き渡った。
ニドキングは左目を両手で強く抑え、頭を大きく左右に振り痛みを逃がそうとしていた。
フシギバナも何事かと攻撃を中止し、ニドキングの様子を窺う。
その間にフォレトスが男の子とニドキングの間に入り、男の子を守るように居座り、モルフォンが男の子をニドキングから隠し、誘導するように飛び回っている。
エリカは男の子が守られた事に安堵するが、ニドキングの様子にある可能性が浮かび、弾かれた様にキョウへと視線を向けた。
キョウはその手に拳銃を握っており、その拳銃でニドキングの左目を銃撃した事は明白だった。
エリカは自身の予想が当たり、顔面蒼白になった。
キョウに気づいたニドキングは左目から血を流しながら怒りの咆哮を上げた。
その咆哮で大きく開いた口の中にキョウは再び発砲する。
口の中に直接弾丸を撃ち込まれたニドキングは再び悲鳴を上げて地面に倒れ、のたうち回り苦しみの声を上げるが、キョウは弾丸を再び装填して照準をあわせているのを見たエリカは声を上げた。
「お止め下さい!2発で十分致死量に達している筈ですわ。そんなに撃ち込まなくとも、」
「通常の体格ならばの話じゃ。こやつの体格は1.5倍はある。しかもこやつは技構成は違うが1年前に忽然と姿を消した災害指定ポケモンのニドキングの特徴に当てはまっておる。念の為、3発撃っておく必要がある上に苦しみは短い方がいい」
エリカはキョウの言葉に反撃しようと顔を上げキョウを見たが、キョウの顔を見て言葉を出す事が出来なかった。
キョウは無表情だったが、その目はひどく悲しみに揺れていた。
キョウが撃ち込んだ弾丸はただの弾丸ではない。ポケモンの身体活動と生命維持機能を止める薬剤。所謂、ポケモンの安楽死に使われる薬剤が込められている。
キョウが何故、そんな弾丸が装填されている銃を持っているのかというと人間を襲うポケモン又は襲って人間の血の味を覚えたポケモンをなるべく苦しませず討伐する為の物であり、ポケモン協会の規定により討伐指令が出たポケモンや災害指定ポケモンに登録されたポケモンから市民を守る又は対抗する為に
勿論、エリカも所持しているが、今まで使った事は一度もない。
むしろ人間の都合でポケモンを排除しているようでこのポケモン協会の規定に嫌悪感さえ抱いている。
だが、今目の前で男の子を守って見せたキョウを見るとエリカの心はポケモンを殺す事への嫌悪と市民を守るためにはそうしなければ守れなかったという悲しみと無力感の板挟みになっていた。
だが、キョウの方が複雑な心境である事はエリカにも理解できた。
ポケモンをその手で殺す事に対する絶望の上にニドキングは毒と地面の複合タイプであり、毒タイプ使いのキョウにとって愛する毒タイプのポケモンを手にかけなければならなかったという事実は重くのしかかっているだろう。
3発目を撃ち込んだキョウは悲鳴を上げて肢体に力が入らず動けなくなったニドキングにこれ以上撃ち込まなくてもいいと判断し、ニドキングが最後の時を迎えるのを静かに見守った。
「ごめんなさい」
エリカは涙ながらに呟いたが、指一本も動かせなくなったニドキングは最後まで人間を憎悪の眼で見続けていた。
ロケット団の新しい本部内を水が染み込み重くなった服を着たまま歩くカオルは水で張り付く不快さに顔を歪めた。
本部に帰還した際、自身の派閥に所属する下っ端から渡されたバスタオルである程度拭いているとはいえ、カスミ戦、男の復讐劇、レッド戦のいずれも雨乞いやスプリンクラーの放水で水を被っているので気休め程度だった。
カオルの部下はとばっちりを受けたくないのか必要最低限しか近づいてこない。
カオルは早く着替えたいと思っているが、一言言わなければ気が収まらない相手がいた。
本部内の廊下を迷い無く歩き、ある部屋の扉をノックもなしに勢いよく開け放つ。
大きな音を立てた扉には見向きもせず、カオルは室内に入り、重厚な執務机で書類整理をしているその部屋の主の前に立ち、何時もの様に微笑して声をかけた。
「やあ、アポロ。ちょっと時間をくれるかな」
「いきなりなんですか、ノックもなしに。最低限の礼儀はして下さい」
部屋の主であるアポロはカオルの礼儀の無い態度に顔を歪めつつ、書類をまとめて執務机の端に寄せた。一応カオルの話を聞く気はあるらしい。そう判断したカオルは話を続ける。
「実は任務中に馬鹿な男が“敵討ち”しに来てね」
「それは大変でしたね。まあ、貴方にとっては取るに足らないでしょう?」
平然と語るアポロににこやかな顔を向けながらカオルは内心で狐めと思ったが、同じ状況であればカオルもそう返すのでお互い様だろうと思い直した。
だが、やられっぱなしは性に合わないので反撃する。
「ただ、その男変なんだよね。限られた人しか知らないはずの事、ヤマブキシティの作戦内容を知ってたんだよ」
「そうですか。ですが貴方は敵が多いのですからその限られた人を脅すなりなんなりして聞いたのかもしれないですよ」
「へえ、君って
カオルがそう言った瞬間に周辺の空気の温度が下がった気がした。
アポロの表情も笑っているが目が笑っていない。
カオルはロケット団でつちかった黒い笑みを浮かべ、アポロに何か言われる前に畳みかける。
「だってそうだろう?そのことを作戦実行前以外で知って男を潜り込ませる事が出来るのはボスと幹部二人と私の幹部補佐のラムダぐらいだ。ボスはあり得ないし、アテナはそんな小細工をするような人じゃない。タイミング的にラムダも疑ったが、私の実力をよく理解している彼がこんな中途半端な裏切りをするはずがない。殺るなら徹底的にしろと耳にタコが出来る位教えたからね。消去法で君がしたことになる。……こんなわかりやすい事を何で仕掛けたんだい?」
カオルが口を閉じた後、両者の間に沈黙が下りる。
アポロの中で自分のことは折り合いがついたのだと思っていたが、表面に出していなかっただけかもしれないし、何か気に障り、不信感を再熱させたのかもしれない。
本心はわからないが、何故こんな中途半端なアピールをしたかは想像はついていた。
だが、あえてわからないという風に装い聞くのは少しでもアポロが自分をどう思っているかを聞き出す為だ。
サカキにロケット団に入れられてから、情報が何よりの武器だという事を学んでいる為、少しでも有利になるために相手の心理を知っておきたいのだ。
「訂正しなさい。私は脅されようが拷問されようが、ロケット団の…サカキ様の顔に泥を塗るような真似はしない」
アポロの言葉にだろうな。とカオルは思ったが、カオルの聞きたかった事はそれではない。
黒い笑みを崩さぬまま、カオルは続けた。
「それは訂正するさ。君のボスへの忠誠心はロケット団随一だからね。その事を踏まえて質問を続けるけれど、ボスが私に任せた任務を邪魔したの何故だい?」
「………内容は知りませんが貴方、サカキ様の手を煩わせたでしょう?」
アポロのその言葉を聞いて、やはりか。と思い、思いっきり私情が混じった理由に内心でアポロに対する評価を下げた。
しかも内容を知りえていないのに首領が自分の手で防がないといけない事を起こしたという事実だけで、ミュウツーの件で首領の不興を買い、アテナの派閥から引っ張る事が出来なかった実働部隊もカオルの部下から選出しないといけなくなったところに復讐者である男を仕掛けたのだ。
カオルが下手を打てば作戦が総崩れになり、ロケット団の今後が大きく揺らぎかねない。アポロの口ぶりはその可能性を考慮しているようには見えなかったのがカオルにとっては理解しがたい愚行であった。
怒りに任せて言おうとした言葉をぐっと押さえ、ばれないように深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
男の実力が中途半端であったのは作戦を大きく狂わせない為のアポロなりの配慮だったともとれる上に、そもそもの発端がカオルのミュウツー捕獲からきているので自業自得ともいえるからだ。
「君の言い分はわかったけど、今度するならこんな大きな作戦の時にしないでくれ給え」
「…そこはサカキ様の手を煩わせないというところではないのですか」
「私が怯えて大人しくなるような可愛い性格していないのはわかっているだろう?」
満面の笑みで切り返すとアポロは呆れた顔をして深々と溜息をついた。
怒る気力もなくなったらしい。
話は終わったのでカオルは身をひるがえし、アポロの執務室を出て自身の執務室へと歩いきながら内心で思いつく限りの罵声罵倒をアポロへ投げつける。
ある程度アポロへの罵倒が済むと、切り替えてこれからの事を考え始めた。
カオルにとってヤマブキシティの作戦はあくまで前座であり、これから事前にばら撒いて芽を出し、大きく実った陰謀の実を収穫するので、アポロにお返しの嫌がらせをする暇がなかった。
カオルは顔に張り付く髪を払いながら歩いていると視界に入った自身の執務室の扉の前にラムダが書類を持って立っている事に気が付いた。
早速来た仕事にうんざりしながらも、カオルは大股でラムダに近づき、書類を分捕ろうとしたが、それを察したラムダが上に持ち上げる事により、空振りする事となる。
身長的に書類を取る事が出来ず、一瞬無表情になったカオルだが、直ぐに何時もの微笑を顔に乗せた。
「ラムダ、その書類は私が見なきゃいけないものだろう。早く渡し給え」
「その前に執務室にある仮眠室の浴室で入浴して下さい。湯船に湯も張りましたし、着替えも用意されています」
「それは有難う。でも、着替えるだけで十分だよ」
内心の苛立ちを表に出さず、言うカオルに対しラムダは書類を渡そうとはしなかった。
そのラムダの態度に微笑が崩れそうになるのを耐えながら視線でさっさと渡せ。と命令する。
カオルの視線を正確に読み取ったラムダはカオルに一番効果的な言葉を伝える。
「カオル様が雨乞いで雨に濡れたと聞いたサカキ様が風邪などひかないように必ず入浴してから仕事をさせろと命令されました」
「……………分かった、入るよ。机の上に置いといてくれるかい?」
「はい。コーヒーを用意しておきますのでヤミガラスの行水はしないで下さい」
カオルの行動を先読みしたラムダに釘を刺されてしまったので、仕方なくカオルは普通に入浴する事に決めた。
執務室にある仮眠室の脱衣所に入ったカオルは大きなため息をつきながらロケット団幹部としての計画ではなく個人的な計画を再確認していく。
カオルは眉を寄せながら舌打ちし、修正箇所を頭の中で整理しながら計画を立てていった。
腰にあるボールホルダーのあるポケモンが見つめている事に気づかずに。