ぬるい表現にしたつもりですが、こんなのポケモンじゃない、気分が悪くなった等の苦情は一切受け付けませんのでご了承ください。
それを踏まえたうえで大丈夫、読めるぜ。という方のみどうぞ。
こりゃ、やべえな。
ラムダは対峙する肩にピカチュウを乗せ、赤いモンスターボールの帽子を被った男の子、レッドを見ながらカオルにインカムで報告して思った。
ラムダの隣でピカチュウの電撃を食らって伸びている(おそらく手加減はされていた)狙撃手の状態を目視で確認したが、起きる気配はない。
内心で苦い思いをしつつも、ラムダはビル風に髪をもてあそばれながらこの状況をどう乗り切るかを考えた。
数分前、ヤマブキシティ全体をほぼ見渡せる見渡しの良い高層ビルから狙撃手と共にカオルのサポートをしていたラムダは後ろに設置していたアポロの派閥が開発した四角い持ち運びと機能性を重視したテレポートマットからレッドが出てきた事を考えるとテレポートマットにつながっていた独房として使っているシルフカンパニー社の子会社から来たという事になる。
つまり、そこはもうあらかた片付いた為、テレポートマットを踏んだに違いない。
武装していたとはいえ、ただでさえ少ない人員の中、実行中のこの作戦に優秀な者達を配備した為、子会社に配備されていた者達は何処の派閥にも所属していない末端であった事が災いしたらしいと推測したラムダは頭が痛くなるのと同時にカオルからの指示により、縮小していたモンスターボールを掌大に戻し、ポケモンバトルをするために空中へと投げた。
上司である少年がこの場に来くるまでの足止めとしてあがくために。
カオルはカスミのポケモンを蹂躙した後、抵抗を受けながらも気絶させ、カスミのポケモンは取り上げずに自分のポケモンを元気の塊やまんたんの薬で回復し、あらかじめ配置していたテレポートマットを踏むとシルフカンパニー社の子会社の一室へとテレポートする。
急いで一室から出ると、伸びている末端の団員達を見て苦い顔をするが、すぐさまラムダとレッドがいる高層ビルにつながっているテレポートマットが配置されている一室へと急ぎながら、レッドが何故、ラムダがいる高層ビルのテレポートマットを踏んだのかを考える。
カオルが育てた案内役のエイパムには路地裏の広場にいるカオルの元へとつながるテレポートマットがある一室に案内し、レッドが踏んだ瞬間にテレポートマットを破壊するように念入りに指示していたのだ。
グリーン、ナツメが別行動をとっている事も予想外だが、元々二人がいる路地裏と第二シェルター付近どちらかに行ってもらうつもりであったため、修正範囲ではある。
エイパムは真面目な性格であるため、カオルより立場が上の人(つまりサカキ)以外に指示を受けない限りカオルの指示に逆らう事は無い。
つまり、レッドがラムダの元へと行ったのは
また自分の立てた作戦に誰かの策が紛れ込んでいる事にうんざりしながらも、カオルがそこまで考えをまとめた時だった。
背筋に冷たいものが這い上がってくる感じがした。
カオルはロケット団に入ってから嫌と言う程その感覚を知っている。
殺気だ。
カオルはとっさに体を左に捻り、紙一重で後方から攻撃してきたエイパムの叩き付けるを避けた後、すぐさまモンスターボールからマリルリを出す。
マリルリはカオルの指示よりも先にばかじからをエイパムに当てた。
マリルリの特性力持ちで攻撃力が二倍に強化された破壊力抜群のばかじからによりエイパムは通路の壁にめり込み、目を回した状態で戦闘不能になった。
マリルリはばかじからの効果で攻撃力と防御力が一段階下がるが、それを気にしている余裕はない。
何故なら戦闘不能になったエイパムはカオルの育てたエイパムではなかったからである。
カオルが育てたエイパムは左耳が少し欠けていたのだが、このエイパムはそれが無い。
しかし、首に巻き付けたスカーフはカオルがエイパムに目印としてつけたもので間違いなかった。
つまり、案内役のエイパムをすり替えられたのである。
そして、先程のエイパムの叩き付けるは明らかにカオルを殺そうとしていた。
どうやら相手の狙いは自分らしいと悟ったカオルはこれまでの経験から命を狙われる理由を察し、こんな忙しい時に来るな。と心の中で毒づいた。
時間が無いが相手をしなければ更に厄介な事になるのは目に見えていたため、エイパムのが来た方向の通路を見る。
そこにはスーツに白衣を着た四十代前半程の短髪の男が鬼の様な形相でカオルを睨み付けていた。
その男の様子に冷笑を浮かべながらカオルは口を開いた。
「やあ、随分な挨拶だね。私が誰だか知っている上での無礼かい?」
「…もちろんだとも、小僧。さっさと死んでくれればいいものを」
上から目線で吐き捨てる様に言われた言葉にカオルはめんどくさいと思いながらも、顔には出さず、見覚えのある男かどうか記憶を振り返るが、まったく見覚えが無い。
そもそも、外にも内にも敵が多いため、見知らぬ相手にこういうことをされるのは日常茶飯事になりつつあるので一々覚えているのも面倒だと思い、記憶を切り捨てているのも見覚えが無いと思う要因の一つだろう。
「小僧、他人に無関心なお前の事だ。こんな事をされる理由が分からんのだろうから説明してやる」
「はっきり言えばありがたいよ。で、理由は?」
「復讐だ」
嗚呼、やっぱり。
カオルはこれまで自分を殺しに来た人達に繰り返し言われてきた言葉に冷めた気持ちで思った。
カオルはロッケト団の中でも年齢が低く、子供だからと舐められないためと自分の地位を確固たるものにするため、あえて暴虐の限りを尽くした。それにより数多の恨みを買う結果になり、度々このような事が起こる。
普段から一人にならない事、または何かあれば自分の派閥の部下がすぐに駆け付けられる様に気を付けているが、復讐してくる者は後先を考えない者が多いためあまり効果が無い。
そして復讐してくる者をその度に命令違反や謀反の疑い等で正当な理由をつけて“処分”しているので、ロケット団ボスであるサカキからは何の御咎めは無いが、周りは不満が残るという悪循環に陥っている。
カオルは誰に何の恨みを向けられようが気にしないが、流石に任務中にされるのは一応恩人であるサカキの作り上げたロケット団が大なり小なり影響を受けるため、勘弁してほしいというのが本音である。
「そんなくだらない事は後にしてくれないかい?私は今忙しいんだ」
「……“くだらない”か。小僧にとってはそうだろうが、友人の敵は取らせてもらう。部下が不在な上にジムリーダーによってポケモンの体力が削られている好機は早々に無いからな」
「!」
四十代前半程の短髪の男の言葉にカオルは保っていた冷笑を崩して驚いた。
その間に男はモンスターボールを投げて、次のポケモンを繰り出す。
出てきたのは、大きな赤い花を頭に咲かせたポケモン、ラフレシアだった。
ラフレシアは草と毒タイプの複合で、水とフェアリータイプの複合であるマリルリとは相性が悪いが、マリルリは腕をブンブン回しながら威嚇し、やる気十分な様子であった。
カオルはマリルリの様子を見ながら男が何故、カオルの行動に関する作戦を知っているのか疑問に思った。
このヤマブキシティの作戦内容の全容は首領や幹部しか知らず、カオルがこの作戦に参加させている自身の部下でさえ、全容を知らない。知っているのは作戦の指揮を執るカオルのみという徹底的に秘匿した極秘作戦である。その作戦を研究者風のこの男が知っているという事は誰かがこの作戦内容、しかも男の口ぶりからするとカオルの幾つかある作戦行動を全て伝えてあるという事なのだろう。
カオルの脳内にある人がヒットするが、今考える事ではないと脳内から即座に消し、目の前の男に集中する。
「ラフレシア、リフレクター」
「戻れ、マリルリ」
ラフレシアがリフレクターを張っている最中にカオルは嫌だ、戦いたい!とでも言うように飛び跳ねるマリルリを問答無用でモンスターボールに戻し、ヤドランを繰り出す。
相性が悪い上にリフレクターの効果で物理技のダメージが2分の1になっている相手にマリルリで挑むのはハッキリ言ってあり得ない。
モンスターボール内でマリルリがふてくされ始めたが、カオルは無視した。
ヤドランはマリルリの感情を感じ取ったのかカオルの表情を窺うが、カオルがマリルリに任すつもりがない事を悟ると、とぼけ顔のままラフレシアに向き直る。
「ヘドロ爆弾で毒状態にしろ!」
「サイコキネシス」
カオルの
男のラフレシアは慌てて男を庇うようにヘドロ爆弾を自身の身で受け止めていく。男もある程度避けて、カオルを睨みつける。
「本当に無法者だな」
「君が分かりやす過ぎるのがいけないのさ。ヘドロ爆弾は受けたら約30%の確率で毒状態になる。ヤドランを毒状態にして毒又は猛毒状態だと威力が2倍になるベノムショックを放とうとしたんだろうけど、詰めが甘いよ」
カオルが冷静に男に言うと、男は顔を歪めながら舌打ちする。
変化技、特殊毒技2つとくれば残りは草技だろう事は簡単に予想できる。ただし、威力重視の特殊系か回復重視のギガドレイン等なのかは分からないが。
カオルはこの時点でこの男の実力はそこまで高くはない事を理解する。仕掛けてきたタイミングは最悪のタイミングである為に時間をかける事が出来ないのでポケモンバトルが実力的に短時間で済む可能性はありがたかったが、かといって男に最後まで付き合うつもりはない。
「大文字」
「ヘドロ…いや!エナジーボールで相殺しろ!」
カオルは
大文字とエナジーボールが当たった瞬間、熱風が辺り一面に広がり、廊下の窓硝子が割れて外に向かって飛び散った。
その炎の熱を廊下のスプリンクラーが感知し、自動消火機能が作動して、廊下にいる2人と2匹にスプリンクラーの放水が勢いよく降り注いだ。
熱風と放水を受けながらカオルは男が腕で顔を覆って熱風をやり過ごしているのを見ながら思ったよりも男が冷静にポケモンバトルをしている事にこっそりため息をつく。
もし、男がヘドロ爆弾を指示していた場合、辺り一面に広がったのは熱風ではなく、熱により気化したラフレシアの毒霧だっただろう。窓も開いていない密閉空間でその毒霧を少しでも吸い込んでしまったらおよそ数分で呼吸困難の症状や痙攣、めまいで歩行困難等がおこり、約一時間で死亡する。
男がヘドロ爆弾を指示した瞬間にカオルは自分の近くにある窓から外へ逃げようと思っていた為、窓にかけていた手を放し、そうならなかった事に安堵した半面、怒りに任せてくれれば先程の攻撃で男を再起不能にし、尋問をしてラムダの元へ行く事が出来たのだが、もう少し男の情報を引き出す事に努める。
「ヤドラン、大文字」
「もう一度、エナジーボールで相殺しろ!」
もう一度繰り出される大文字はスプリンクラーの放水の影響もあってか、先程よりも勢いが弱まっている様に見える為、そこまで苦労しないと判断したのか再びエナジーボールで相殺しようとしたラフレシアだがエナジーボールを2発程打った後に体が強張り、上手くエナジーボールが打てない様子であった。
そうしている間に相殺しきれなかったヤドランの大文字がラフレシアに襲い掛かり、効果抜群の攻撃に目を回して戦闘不能となった。
ラフレシアの体の動きが悪い事に気づいていた男はヤドランが電磁波を覚えている事を思い出し、カオルを睨みつける。
カオルが最初に大文字を指示した際にサインでヤドランに電磁波も指示し、男が腕で顔を覆って熱風をやり過ごしている間にラフレシアに電磁波を当てたと男は推測したためである。
男の反応に微笑でカオルは答え、男は舌打ちしながらもラフレシアを引っ込めて、新たにポケモンを繰り出した。
出てきた男のモルフォンを見て、カオルはヤドランに相性有利な電気タイプや悪タイプ等は男のポケモンにはいないのではと予想し、舐められたものだ。と内心で顔を歪める。
入団してそこそこ年数が経つロケット団員又は復讐を語るのであれば、ある程度、カオルの手持ちを把握して対策していてもいい筈なのに男は何の対策もしていないように感じたからだ。
男からは手持ちを2匹潰されて、カオルのポケモンを減らす事が出来ないのに焦りが見られる。
カオルは男に対し、冷めた目を向けながらも、様子見のポケモンバトルをやめて瞬時に作戦をたて、実行する事にした。
「大文字」
「守るだ!」
男とモルフォンに迫るヤドランの大文字を緑色に発光する壁を展開し、防ぐ。カオルはそんな事は予想していたので、ある物を自分と男の間に投げつけた。
それは黒い球体のようで、男はそれを理解した瞬間、表情が驚きに染まった。
カオルが投げつけたのはロケット団下っ端に配布されている逃走用の煙幕だった為である。
廊下に当たった黒い球体はスプリンクラーの放水をものともせずに瞬く間に煙を広げ、双方の視界を塞いだ。
男は慌てて風おこしを指示し、煙幕を払うと、一瞬だが通路を右に曲がるヤドランが見えた。
逃走場面を見られるという凡ミスを犯したカオルを心の中で馬鹿にして、男はモルフォンを先導させて急いで通路の右に曲がり、進んだ時だった。
足に何か引っかり、こけてしまった。
モルフォンは男の異変に気付き、男の方に振り返る。
体が傾いた瞬間、足元が見えた男はそこに細いワイヤーの様な物があり、それが足に引っ掛かってバランスを崩し、こけてしまったのだと瞬時に理解した。
男は腕を前に出し、衝撃を抑えながらすぐさま立ち上がろうとした時、パンッ。というかわいた音がはっきり前方から聞こえ、その音の後にドサッと重い何かが落ちる音がした。
男が顔を上げるとそこにはモルフォンが血を流しながら倒れているのが見えた。男は目の前の光景が一瞬理解できなかったが、モルフォンの頭部から流れる赤が床をどんどん赤く染めていく光景はモルフォンが即死であった事を嫌でも理解した。
男がモルフォンに手を伸ばすのと同時に男の上に何かが乗っかり、男をまた廊下に伏せさせた。
背中を見るといつの間にかマリルリが乗っかっており、男のポケモンが入ったモンスターボールがつけられているボールホルダーを男が気づかぬ内にその丸みを帯びた青い手で奪い取っていた。
男が奪い返そうと手を伸ばすとマリルリは素早くボールホルダーを前方へと投げる。
投げられた方向にはブラッキーがおり、ブラッキーはそのボールホルダーについているモンスターボールにイカサマを繰り出す。
モンスターボールは粉々に砕け散り、その中にいたポケモンは何の抵抗もできず、モンスターボールと同じ運命をたどったことが予想できる。
男はポケモン達の名を叫びながら必死に暴れるが、人間の力とマリルリの力どちらが上かなど火を見るより明らかだ。
カオルはモルフォンを即死させた拳銃を手に持ったまま、男に近づく。
男はカオルに怒鳴った。
「卑怯者め!トレーナーとしてのプライドは無いのか!」
「生憎と私はトレーナーカードは持ってなくってね。それに、ポケモンマフィアが正々堂々とポケモンバトルすると思う?まあ、作戦行動中でなければ私もちゃんと相手してあげたけど、貴方は間が悪すぎる」
カオルはそう言った後、男の手を思いっきり踏みつけた。
ボキッ、と鈍い音がして男が痛みに叫び、さらに暴れるが、マリルリは男を離さない。
男が暴れているのを冷たい目で見ながらカオルは口を開く。
「貴方にこのヤマブキシティの作戦内容を教えて私の部下の中に紛れ込ませたのは誰だい?予想はつくけれど確証が欲しいんだ」
「…だっだれが、お前なんかに」
「……私が誰だかわかっててそんなこと言うんだ?」
カオルは心底楽しそうに笑うが、その目は笑っておらず、濁っている。
男はカオルのその表情に青ざめ、己の末路を悟った。
先程まで殺してやると息巻いていた男の様子にカオルは今までの人達と変わらない反応である事に大いに落胆しながら呟く。
「ごめんね、時間が無いから手短にするよ。ちゃんと私の質問に答えてね」