迷い人   作:どうも、人間失格です

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ジムリーダーと彼 後編

 

 

 

 ヤマブキシティの路地裏にある空を見上げる事ができる程広い広場は噴水の周りに美しい花々が咲き誇る花壇や、都会とは思えぬほどの静けさがあり、普段は人とポケモンの憩いの場として知られているのだが、今現在はポケモンの技、雨ごいにより晴れだった天候が雨に変わり、追い風による風が花壇に咲く花弁を散らし、激しいポケモンバトルが繰り広げられていた。

 

 

 

 「スターミー、ハイドロポンプよ!」

 

 

 

 カスミのポケモン、スターミーはハイドロポンプを勢いよく相手のポケモンに繰り出すが、ハイドロポンプが青白い光に包まれたかと思うとハイドロポンプの向きが変わり、スターミーにブーメランのように返ってくる。

 スターミーは高速スピンでハイドロポンプの渦とは逆回転で相殺し、カスミの前に着地して相手のポケモンに威嚇するように真ん中の赤い宝石を発光させる。

 

 相手のポケモン、カオルのヤドランはカスミのスターミーの威嚇を気にも留めず、とぼけ顔で主人であるカオルの指示を待つ。

 

 

 

 「さすがだね、カスミさん。思ったより手強い」

 

 「余裕な表情で言われても嬉しくは無いわ」

 

 

 

 それは残念。と強風と降りしきる雨の中、微笑むカオルにカスミは得体の知れなさを感じつつ、スターミーに指示を出す。

 スターミーの体力が半分になっているのに対し、多少は体力を削ったが、ヤドランはまだまだ余裕がある。さらに、雨の恩恵により水タイプの技が1,5倍上がるが、それは相手のヤドランも同じで、フィールドはほぼ障害物が無いうえに追い風が発動状態であるため、追い風の恩恵を受けてポケモンが素早く動けるカオルの有利が続いている状態だ。

 

 フィールドはカオルの方に有利だが、カスミは水のジムリーダー。この程度の窮地など何度も潜り抜けている為、挽回の余地はある。

 スターミーはカスミの指示により、高速スピンでヤドランに迫ってくるのを見て、カオルは表情を崩さずにヤドランに指示を出す。

 

 

 

 「受け止めろ」

 

 「!スターミー、避けて!」

 

 

 

 その指示を聞いたカスミは驚きの表情をし、慌てて指示するが、高速で動くスターミーはそう簡単に軌道をずらしたりできず、減速するだけになってしまった。

 そして、ヤドランは当たり前の様に高速スピンで突っ込んできたスターミーを受け止める。

 水飛沫をあげながら数メートル程地面を滑る。減速してしまったのも仇となったのか、とぼけ顔のままヤドランはがっちりとスターミーをその腕で拘束している。

 

 

 

 「サイコキネシス」

 

 「十万ボルトで逃げて!」

 

 

 

 ()()()()()ながら指示したカオルの指示に従い、ヤドランがスターミーにサイコキネシスを繰り出した直後、カスミの指示によりスターミーは拘束を逃れる為、十万ボルトを繰り出した。

 効果抜群の電撃に拘束していた腕を緩めたヤドランからスターミーは逃れ、回転しながら地面に降り立ったが、その直後に体をふらつかせて、真ん中の赤い宝石を発光させた後、倒れてしまった。

 

 カスミは何があったかわからず、呆然とするが、カオルが楽し気にカスミに話しかける。

 

 

 

 「カスミさんは何故、スターミーがタイプ弱点である十万ボルトを覚えるか知っているかい?スターミーは自身の感情を表す際、赤い宝石のようなコアを発光させるのは知っているよね。発光させる事が出来るのはコアの中に電気を作っている器官があってその器官が発光しているのさ。つまり、電気を保有しても感電しないのはその器官があるコアのみ。腕の部分は普通の水タイプと同じく弱点である電気技が通る。これが、スターミーが十万ボルトを覚える仕組みと電気技が弱点になるカラクリさ。貴女のスターミーに十万ボルトがあるのはゲートを突破する時の戦闘で知ってたからね。サイコキネシスで十万ボルトを腕の部分に跳ね返したのさ。……まあ、こちらもただで済まなかったみたいだけれど」

 

 

 

 此処まで説明したら分かるよね。そう言うカオルにカスミは自分の判断の甘さに唇を噛み締める。

 つまり、ヤドランのサイコキネシスで十万ボルトをゼロ距離でスターミーに跳ね返した為、スターミーは自分が放った技である十万ボルトを受けた事になる。

 当然、水タイプのスターミーは効果抜群な上、半分程体力が削られていたため、ただで済むはずはなく、戦闘不能状態に陥った。

 だが、ヤドランにもダメージは通ったらしく、とぼけ顔のままだが、体には黒い煤がいたるところについていた。

 

 カスミはダメージが通っただけでも良しとし、スターミーをモンスターボールに戻して次のポケモンを繰り出した。

 

 

 

 「頼んだわよ、ラプラス!」

 

 「ヤドラン、戻れ」

 

 

 

 カオルはヤドランの特性、再生力を使う為、一端モンスターボールに戻し、出てきたラプラスにどう対処するか思案した。

 高火力技で弱点を突かれるとHPが半分以上削られる普通の耐久ポケモンである為、その点を考えると自身のタイプとは不一致の技、ばかじからを持つマリルリが有利だが、ラプラスのサイコキネシスが厄介になる。自分のヤドランの十八番であるサイコキネシスの便利さをよく知っているので、急所にでも入らないと苦戦するかもしれない。

 だからと言って相手はジムリーダー。出し惜しみしていればやられるのは自分の方である。

 カスミの残っている手持ちポケモンが気になるが、ここはポケモンバトルの基本中の基本である相性の有利でいくことに決めたカオルはモンスターボールを投げる。

 

 

 

 「出てこい、マリルリ」

 

 

 

 マリルリは投げられたモンスターボールから勢いよく出てきて、ラプラスを睨み付ける。

 ラプラスも負けじと睨み返し、カスミの指示した氷のつぶてを繰り差す。

 カオルは氷のつぶてにかまわず、マリルリに()()()()()()()()()()()()()アクアジェットを指示する。

 氷のつぶてを受けながらも、アクアジェットを繰り出したマリルリはラプラスに突っ込む。

 よける様に指示を出したカスミの言う通り、紙一重で右横に避けようとした瞬間、アクアジェットの水の中から出てきたマリルリがばかじからを繰り出した。

 

 ラプラスはアクアジェットを至近距離で避けようとしていた為、アクアジェットから出てきてばかじからを繰り出すマリルリを避ける事はかなわず、そのまま攻撃を受ける形となり、吹き飛びそのまま壁にぶつかる。

 壁には大きなひびが入りマリルリの特性力持ちで攻撃力が二倍に強化されたばかじからがいかに破壊力抜群であるかを物語っている。

 マリルリはばかじからの効果で攻撃力と防御力が一段階下がる。

 

 ラプラスは急所に当たったのかダメージは相当らしく、うめき声をあげている。カスミが必死に声をかけているが、カオルは容赦なく追撃をかける。

 

 

 

 「じゃれつく」

 

 

 

 あるポケモンのせいで最早“じゃれつく”と言うより“邪烈苦”であると定評のあるフェアリータイプの物理技で止めを刺しにいく。

 だが、カスミとラプラスもやられっぱなしではない。

 

 

 

 「ラプラス、絶対零度!」

 

 

 

 ラプラスはカスミの指示を受け、その声に悲しみがこもっていることに気がついていた。相手の子供に勝つ為に後に控えている仲間ポケモンが優位にバトルできる様にダメージの大きいラプラスを捨て、子供の手持ちの中で高火力であろうマリルリだけでも沈めようとしている事に罪悪感を抱いているのだろうとラプラスは予想した。

 だが、ラプラスは後に続く仲間ポケモンの為にも、カスミが勝利を手にする為にもまだできる事があるのであれば最後まで戦える事が嬉しかった。

 

 だからこそマリルリが繰り出したじゃれつくを受ける寸前にゼロ距離から絶対零度を放つ。

 絶対零度の吐息がマリルリにかかり、手足の先から凍っていく。

 じゃれつくを受けたラプラスは戦闘不能状態で目を回していた。

 

 ほぼ同時に両者ともにポケモンをモンスターボールに戻す。

 雨がまばらになり、風も勢いをなくす中、カオルはモンスターボールの中のマリルリが凍ってしまったのを確認し、眉を寄せる。

 

 

 

 できれば、マリルリは残しておきたかったんだけどね。真面目にポケモンバトルをしない方がよかったかな。

 

 

 

 そう思いつつも、マリルリのモンスターボールをボールホルダーに収め、次のポケモンを出すためモンスターボールを確認し、一つのモンスターボールを投げた。

 

 

 

 「行き給え、ヤドラン」

 

 「行って!キングドラ!」

 

 

 

 ヤドランは何を考えているのかわからないとぼけ顔を崩さずカオルの前に立ち、相手を見据える。

 モンスターボール特有の光の中から海に漂う藻のようなひれとすらりとした水色のフォルムを持つポケモン、キングドラは激しい闘争心をその目に宿しながら噴水に着水する。その姿を見ながらカオルはやっぱり、と内心でつぶやき顔を歪める。

 カオルの感情の機微をくみ取ったヤドランはちらりとカオルの様子をうかがうが、キングドラにすぐ視線を戻した。

 

 カオルの手持ちでは雨パ代表格のキングドラが持つドラゴンタイプに有利に立ち向かえるポケモンはフェアリータイプを持っているマリルリのみ。

 だが、マリルリは凍ってしまったため戦闘には出せない。

 

 幸い、ヤドランはダメージは多少残っているものの、タイプ相性は普通。タイプ不一致とはいえ冷凍ビームも持っている。バトルフィールドの広場は水場が噴水周辺しかないため、キングドラは行動を制限されるので、上手く立ち回れば有利が取れるだろう。

 

 ただ、マリルリが凍ったあたりから、追い風が弱くなっているため、先制補正がかからなくなっているのが気がかりであるが同時に雨も止みつつあるため、素早さを上げる特性すいすいはきかなくなるだろう。

 急所に当たった時、通常よりダメージ補正がかかる特性スナイパーでなければ。

 

 この世界はゲームよりもポケモンの研究が進んでおらず、隠れ特性どころか特性自体が確認できていないポケモンが多くいる。カオルの調べた限りではキングドラの特性すいすいは確認できていて、特性スナイパーはまだ確認されていない。

 このキングドラはピントレンズもしくはするどいツメは持っている可能性は限りなく低いが、一番手のポケモンで天候を雨に継続させるために雨ごいをせずに出してきたことに不安を感じる。

 だが、迷っていてはポケモンバトルにならない。

 

 

 

 「ヤドラン、大文字」

 

 「避けながら気合いだめ!」

 

 

 

 カオルは情報不足で判断が甘かったことに悪態をつきたくなったが、ヤドランはカオルの()()()()()()()()()()指示に従い、キングドラに大文字を放った後、避けたキングドラにサイコキネシスで大文字をぶつける。

 キングドラは苦渋の声を上げるが効果はいま一つの上に噴水の水で炎の熱を逃がしたため、ダメージは少ない。

 わずかな時間でカオルは特性スナイパーの効果を脳内から引っ張りだす。

 急所補正技である気合いだめの後に急所に当たれば正確な数値は忘れたが、特性スナイパーの効果により通常1.5倍のダメージ補正が2倍以上のダメージ補正がかかる。

 

 幸い、大文字の熱気でおきた水蒸気があたりを白く塗りつぶし、互いのポケモンの位置が分からなくなってしまったため、水蒸気が晴れるまで攻撃はそう簡単には当たらないだろう。

 

 

 

 最もカオルのヤドランには関係ないが。

 

 

 

 

 

 

 「電磁波」

 

 「っ!?キングドラ!ハイドロポンプを地面に打って!」

 

 

 

 かすかに見えたカスミが驚いた様子を見せたが、カオルは無視して水蒸気の中にいるであろうヤドランがいる方向を確認しながら広場のベンチに移動する。

 水蒸気の中で黄色く小さな稲妻が一瞬光ったと同時にハイドロポンプが放たれる。

 

 ハイドロポンプの威力は強く、あっという間にキングドラの体を空高く押しやると同時に大量の水が広場の隅々まで押し寄せ、カオルのヤドランも水量に転がるように押しやられていたが、カスミの指示を聞いた後水から逃れるため、広場のベンチに乗っていたカオルはヤドランに指示を出す。

 

 

 

 「地面に冷凍ビーム」

 

 

 

 

 ヤドランは鈍足ながらも体勢を立て直し、近くにあった水飲み台に素早く飛び乗り冷凍ビームを放つ。

 大量の水があっという間に凍っていくのを見て、カスミも広場のベンチの上へと素早く避難する。

 

 カスミがベンチに上がった直後に広場にあふれかえった水は凍り、水と草花のフィールドは氷のフィールドへと様変わりした。

 キングドラは水量を調整して着氷したが、滑る上に苦手な氷の上にはなるべくいたくないのか、白亜の石で作られた噴水の塔に上る。

 

 水飲み台から降りて着氷したが、滑ってしりもちをついたままとぼけ顔でぼーっとしているヤドランを見て痛かったんだな。と察したカオルは呆れた視線を送ると、感情を察知したヤドランはカオルの顔を見ながらとぼけ顔でごまかした。

 

 雨も追い風の強風もいつの間にかやんでいた。

 

 

 

 「キングドラ、流星群!」

 

 「サイコキネシスで移動」

 

 

 

 その名の通り流れ星のように降ってくる流星群をしりもちをついたままサイコキネシスで自分の体を滑るように移動していくヤドランを確認しつつ、キングドラの流星群で砕けた氷を見てカオルはつづけさまに指示を出した。

 

 

 

 「氷をキングドラに」

 

 

 

 その言葉だけでカオルの言いたいことを察したヤドランは流星群を避け切った直後、特攻が2段階下がったキングドラにサイコキネシスで砕けた氷を浮かしてお返しとばかりに降らした。

 流星群のように降り注ぐ氷の塊を避けようと動くが、キングドラの動きは精細さを欠いており、殆ど避け切れていない。

 時折しびれているような動きをすることから、電磁波は避け切っていたと思われていたが、当たっていたらしい。

 

 カスミもそのことに気づいたのか、キングドラに指示を出す。

 

 

 

 「流星群!」

 

 

 

 キングドラは流星群で氷を相殺しつつ、ヤドランに流星群を向ける。

 一回目の流星群により凸凹になってしまった氷の上をサイコキネシスの移動では避け切れななかったらしく、いくつか当たってしまい、わかりにくいが疲れた様子を見せ始めた。

 流星群を打ち終わり、さらに特攻が2段階下がったキングドラも息がだいぶ上がっている。

 

 

 

 「キングドラ!ハイドロポンプ!」

 

 「サイコキネシス」

 

 

 

 キングドラのハイドロポンプとヤドランのサイコキネシスによる氷の雨はほぼ同時に互いのポケモンに直撃し、吹っ飛んだ。

 氷のフィールドを滑り、広場の端まで行ったヤドランはゆっくりとした動作で起き上がろうとして目を回し、戦闘不能となった。

 効果はいま一つな上に4段階下がった特攻ではヤドランは戦闘不能になることは無いだろうと予測していたが、急所にあったったのを確認していた為、ギリギリHPがつきてしまったらしい。運が悪いと思いながらキングドラを見る。

 キングドラはふらつきながらも起き上がるが、続けてポケモンバトルをすることは無理であろうことは火を見るより明らかであった。

 

 カスミがキングドラをモンスターボールに収めるのを確認しながらカオルもモンスターボールにヤドランをひっこめて次のモンスターボールを投げる。

 

 

 

 「ピジョット、追い風」

 

 「ゴルダック、雨乞い!」

 

 

 

 ピジョットは空に舞い上がり、追い風を作るため、大きな翼を動かす。

 青くクールな風貌をした河童のような姿をしたポケモン、ゴルダックは滑る氷の上に何とか立ちながらピジョットの追い風を作ろうとしているのを見て晴れ模様の空に嘶いた。

 すると、晴れであった天候は徐々に雨雲がかかり、雨が降り始める。

 追い風を完成させたピジョットは降りしきる雨を睨みつける。

 

 

 

 「とんぼ返り」

 

 「冷凍ビーム!」

 

 

 

 後衛のポケモンがダメージを負うリスクはあるが、ピジョットの制空権確保や追い風はまだ必要であるため、とんぼ返りを指示し、ゴルダックの体力を少しでも削りにかかる。

 ゴルダックは素早く冷凍ビームを放とうとするが、先にとんぼ返りが当たりダメージを負う。

 

 だが、次に繰り出されたポケモンに向けて冷凍ビームを放った。

 とんぼ返りで出てきたポケモン、ゲンガーは直撃はぎりぎりかわしたが、左手に当たり霜がついたのか、白くなっている。

 慌てて左手を吐息で温めているゲンガーにお構いなしにカオルは指示を出していく。

 

 

 

 「ゲンガー、鬼火」

 

 

 

 ゲンガーはカオル指示にシシッ、と不気味に笑いながら特性ふゆうで氷の出っ張りを利用し、フィールドを縦横無尽にかけながらゴルダックに襲い掛かった。

 

 

 

 「戻って、ゴルダック!」

 

 

 

 カスミは自身のひれのせいで滑りやすいのか立つこともおぼつかないゴルダックでは特性ふゆうで氷のフィールドの影響を受けないゲンガーに不利を悟り、ゴルダックをモンスターボールに戻し、次のポケモンを送り出す。

 モンスターボールの光の中から出てきたのは、全体的に緑色だが、お腹の部分が黄色く渦を巻いており、水色の頭の巻き毛が特徴のポケモン、ニョロトノはその特徴的な鳴き声で氷のフィールドに着氷するが、滑る様子はない。

 

 カオルはポケモン世界にきて知ったポケモンの生態知識を頭の中から引っ張り出し、ニョロトノの生態を思い出す。ニョロトノ等のカエル型ポケモンには手足の吸盤が壁等を登るときに滑りにくくしているため、その原理で氷の上でも滑らないのだろう。

 現実世界ではアマガエル等の木や森に生息する小型のカエルが持つ吸盤であるため、ニョロトノのモデルとなった水辺周辺に生息するトノサマガエルは持っていないのだが、現実世界の動物をポケモンに当てはめても意味はない。

 

 現実世界のポケモンゲームではニョロトノの特性で有名なのはあめふらしだが、このポケモン世界では何故かちょすいが有名である。

 カオルの推測ではあるがポケモン世界の野生のニョロトノが発見されるのが、雨が多く降る湿原であるから特性あめふらし持ちのニョロトノと遭遇しても環境のせいだと勘違いしているのではないかと考えている。

 特性2のしめりけも知られていないのはただ単にじばくと特性ゆうばくを持っている相手とポケモンバトルしない限り発見する事が出来ないのが理由だろう。

 カスミもゴルダックが雨乞い要員なのを見ると特性あめふらしではなく、ちょすいの可能性が高い。実世界の育成論では特性あめふらし前提でほろびのうた型か特殊サポート型かの二択がほぼ確定である。前者であれば厄介だが、カスミの性格とポケモン世界の研究論からして特殊アタッカー型が妥当な線だろう。

 

 カオルは脳内のニョロトノの生態等をすぐさま閉じて、ゲンガーの指示を仰ぐような視線に鬼火指示続行である事を視線で伝える。

 ゲンガーは繰り出した紫炎の炎の玉を次々とニョロトノに投げつけていく。

 カスミはニョロトノに目線を送りながら指示した。

 

 

 

 「ハイドロポンプ!」

 

 

 

 ニョロトノはカスミの指示に従い、ハイドロポンプを繰り出し、鬼火にあてた。

 その直後、ドカンッと大きな爆発音とともにあたりが爆風と熱を帯びた水蒸気に包まれる。

 カオルは腕で水蒸気から顔を守る。

 

 カツラが弱点である水タイプによく使う水蒸気爆発を利用して奇襲を仕掛けてくると予想していた為、さして驚きもせず、ゲンガーに指示を出す。

 

 

 

 「影へ」

 

 

 

 その言葉でカオルの狙いを理解したゲンガーは可笑しくて仕方ないと不気味に笑いながら水蒸気があたりを白く染める中、公園の木の影に潜り込み、影から影へと獲物に向かって移動する。

 追い風の強風で水蒸気は晴れていくが、カスミやニョロトノからゲンガーが影に潜り込んだのが見えなかったらしく、辺りを警戒するように指示を出しているのが聞こえる。

 警戒している獲物にゲンガーは近づき、攻撃しようとした瞬間だった。

 

 

 

 「ニョロトノ、こごえるかぜ!」

 

 

 

 ニョロトノは()()()()()()()()()()()ゲンガーにカスミを巻き込まないようにしながら口から凍えるような風をぶつけた。

 予想外の攻撃にゲンガーは避ける間もなく直撃し、吹っ飛ばされるが、空中で体勢を立て直し、氷上を滑りながらも着氷する。

カオルのそばにまで滑ってきたゲンガーに先程のカスミの指示も聞こえていた為、奇襲が失敗した事を悟ってポケモンバトルを続行しなければいけない事に溜息をつきながらも、追い風で完全に水蒸気が晴れて見えたカスミとそばにいるニョロトノに拍手を送る。

 

 

 

 「よくゲンガーの奇襲に気づいたね。今後の参考に教えてくれないかな?」

 

 「断るわ。ニョロトノ!」

 

 

 

 ニョロトノのハイドロポンプをかわしながら()()()()()()()()ゲンガーを見て、カオルはカスミのつれない返事に苦笑しながらそれは残念。と呟くが、おそらくゲンガーの手癖の悪さを見せすぎたのだろうと予測した。

 大通り、路地裏、公園にはいった直後。全てゲンガーが実行し、カスミは翻弄されている。

 警戒するのも仕方がない。

 

 自分が指示した事であるのを棚に上げて悪戯っ子のゲンガーだから。と結論を出したカオルは連弾シャドーボールを指示する。

 ゲンガーはシャドーボールを様々な角度から投げつける。

 

 

 

 「こごえるかぜで薙ぎ払って」

 

 

 

 シャドーボールの弾幕に全て避け切る事は不可能と判断し、カスミはこごえるかぜで多くを打ち落とそうと思い指示したが、ニョロトノはこごえるかぜを繰り出そうとして弱々しい吐息程しか出ない事に気づき、慌ててシャドーボールを回避しようと動くが、避け切れず何発か食らってしまった。

 カスミは驚いた後、ニョロトノに声をかけて似たような状況が前にもあった事に気づき、カオルを睨みつけた。

 顔に笑みをのせてカオルは答えた。

 

 

 

 「金縛りって本当に便利だと思ないかい?」

 

 「ええ、あんたの性格の悪さが良く分かるわ!」

 

 

 

 カスミは吐き捨てる様に言うと、ニョロトノにアンコールを指示する。

 ニョロトノの煽てる様な仕草に気を良くしたのか、照れくさそうな表情をしたゲンガーはアンコールの効果によりシャドーボール以外打ちたくなくなったようだった。

 やられたな。と思いながらカオルはアンコールの効果をなくすためにゲンガーをモンスターボールに引っ込め、縮小してボールホルダーに収めた後、カオルの手持ちの中で唯一モンスターボールではなく、長い年月を思わせる所々傷のついたハイパーボールに収まっているポケモンを出す為にハイパーボールに手をかけ、思い止まる。

 

 此処で六匹目を出せば氷のフィールドが破壊され、カスミの後衛にひかえるゴルダックに対するフィールドの優位性が失われる上に、水ポケモンとは相性が悪い。

 六匹目は相性の悪さでやられる様な弱いポケモンではなく、相性?そんなの関係ねえと言わんばかりに相手を吹っ飛ばし、フィールドを破壊する暴君である事はカオルが一番良く分かっているが、手持ちの中で水タイプに真正面からぶつかっても有利に立ち回る事が出来るマリルリとヤドランが戦闘不能になっている以上、フィールドの有利性と制空権の確保、カオルがポケモンバトルで得意とする技による小細工でポケモンバトルの主導権を相手に握らせないように立ち回った方が、一匹のポケモンの力で強引に相手のポケモンを戦闘不能にするよりも多少時間はかかるし、手間が増えるが勝率が上がる。

 

 最も、六匹目を“捨て駒”として使えばニョロトノとゴルダックを倒しきり、戦闘不能寸前のキングドラと共倒れという形で最短での勝利が出来るが、ゴルダックまでなら完全に倒し切ることは出来る自信はあるが、キングドラまで倒しきれるかは怪しいし、何より六匹目は一度フィールドに出たら相手トレーナーのポケモンを倒しきり、最後までフィールドに立っていないと気が済まないというカオルにとっては厄介極まりないプライドの高さがあるので、途中で交代したり相手のポケモンを倒しきる前に自分が戦闘不能又は共倒れになったりしたらそのポケモンバトル以降、機嫌が直るまでふて寝するかカオルに訓練を要求し続けるかのどちらかになる。

 

 後者ならまだいいが、前者となると必要な時に役に立たなくなるので非常に困る。

 今はカントー地方の物語が始まっているのだ。あのカントー地方最強のジムリーダーであるロケット団の首領、サカキに真正面から一対一のポケモンバトルをすれば負ける。と言われた破壊力を持つ六匹目がこんなところで手札として持てなくなるのは避けたい。

 

 多少手間になるが、雨が上がりつつあるのに加えて追い風が弱くなったため、ピジョットのモンスターボールをつかんで繰り出した。

 

 

 

 「ピジョット、追い風」

 

 「ニョロトノ、ハイドロポンプで撃ち落として」

 

 

 

 ピジョットは大きく翼を広げ、追い風を作り出すと同時にその風を利用して自身に向かってくるニョロトノのハイドロポンプを旋回し避ける。

 雨が止み、雲の切れ間から顔を出す太陽の光に照らされながら、ピジョットは我が物のように空に羽ばたいている。

 

 

 

 「アンコール!」

 

 「とんぼ返り」

 

 

 

 ピジョットはアンコールをしようとするニョロトノに勢いよく突っ込み、カオルの元に戻ってくる。

 とんぼ返りの効果により、先ほど引っ込めたゲンガーが出てきたところにニョロトノのアンコールが決まるが、不発に終わる。

 

 ゲンガーはニョロトノの煽てる様な仕草に首を傾げ、何かに気づいたような顔をした後、カオルにジェスチャーを送る。如何やら、ニョロトノの不発したアンコールをゲンガーが出てきたところをもう一度見たいと要求されたと思ったらしく、ボールに戻して欲しいというものだった。

 

 

 

 「鬼火で囲い込め」

 

 

 

 ()()()()()()()()ながら茶番はいいから、ポケモンバトルしろ。とでも言うように眼だけが笑っていない笑みを主人であるカオルから向けられたゲンガーはガッカリした様な仕草をした後、指示通りに鬼火を作り出し、ニョロトノを囲い込む。

 

 

 

 「きあいだまで粉砕しなさい!」

 

 

 

 攻撃こそが最大の防御だと言わんばかりの形相で鬼火を粉砕していくニョロトノにカントー四天王の格闘使い、シバを思わせ、表情に出さないが引いた。

 ゲンガーも心なしかいつも不気味な笑みを浮かべる表情が引きつっている。

 

 

 

 まあ、好都合か。

 

 

 

 そうカオルが思った瞬間、ニョロトノが粉砕した鬼火の陰に隠れていたシャドーボールが特徴的な渦巻き模様のお腹に直撃する。

 ミュウツー戦でミュウツーがゲンガーに対して行っていた小細工を取り入れ、実戦に初めて使ったが、問題なく使える事に内心で満足する。

 焦ったようにニョロトノに声をかけるカスミにお構いなしにカオルは指示を出しながら()()()()()()()()()()

 

 

 

 「シャドーボール」

 

 「!ハイドロポンプ!」

 

 

 

 体勢を立て直しながら放たれたニョロトノのハイドロポンプをゲンガーはカオルの左手の指示通りに身代わりで回避してシャドーボールを打ち、それを飛んで回避したニョロトノに空中に飛ぶのを待っていたと言わんばかりにシャドーボールを打ち込む。

 空中では飛ぶ翼のないニョロトノではどうする事も出来ず、腕と足で急所を庇う事でダメージを最小限に抑えるが、直撃したシャドーボールの威力で吹っ飛ぶニョロトノにゲンガーはさらにシャドーボールを打つ。

 

 土埃を上げながら地面に勢いよく落ちたニョロトノは体制を整える間もなくシャドーボールが再び直撃するが、立ち上がる。

 

 カオルは左の腕時計で時刻を確認し、今の状況を考えるとカスミとのポケモンバトルが想定よりも時間がかかりそうになっていることに眉を寄せ、この後の予定をどう調整するかをポケモンバトルをしながら考えているとカオルのインカムにノイズが走り、通信がつながる。

 

 

 

 ≪済みません、カオル様。囚われの姫さんが路地裏、緑が第二地下シェルター付近、赤が……何故かおれのところに来ました≫

 

 

 

 カオルはインカムから聞こえるラムダの報告を受け、状況の悪さに分かりやすく顔をしかめ、カスミに聞こえないように小声でラムダになるべく時間を稼ぎながら足止めするように指示を出しモンスターボールを手に取る。

 

 

 

 「戻れ、ゲンガー」

 

 

 

 え!?何で?とでも言ってそうな表情をしたゲンガーが赤い光に包まれ、モンスターボールに引っ込んでいったのを確認し、ボールホルダーに収め、カオルはカスミに申し訳なさそうな、困ったような表情を向ける。

 

 

 

 「ごめん、カスミさん。ちょっとトラブルでポケモンバトルは出来そうにないんだ」

 

 「ちょっと!舐めないでくれる!?はいそうですかってアンタみたいな悪人逃すわけないでしょ!」

 

 「うん、分かってるよ。でもそう言うことじゃないんだ」

 

 

 

 カオルはボールホルダーからある縮小されたボールを手に取り、スイッチを押して掌大にすると、ポールから出されることを察したのかボールが早くここから出せとでも言うように小刻みに震える。

 片手に持つボールに落ち着けとでも言うように撫でながら表情を消したカオルはカスミに冷たく言い放った。

 

 

 

 「これから行うはポケモンバトルじゃない。ただの蹂躙だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハイパーボールから出てきたポケモンはボールから解放され、相手を蹂躙できることに歓喜するように咆哮した。

 

 

 

 

 


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