IS-Twin/Face-   作:reizen

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最終話 優しい風景

「―――ねぇ、どうしてあそこで怒ったの?」

 

 唐突にそんな質問をされた俺は少し驚いていたが、少し溜めてから返事した。

 

「………まぁ、個人的にな」

「……もしかして親と別れた時のこと?」

「しっかりと調べてるんだな」

「もっちろん! 天才だもん!」

「はいはい」

 

 やんわりと剥がそうとするが、やはり見た目が華奢なのに意外と力が強い。

 

「はっきり言って、俺の親はお前らの親を超えるほどの屑だ。イラつきのみで殺そうとされた。本来ならば俺が守られるべき存在だったが、父親は母親を愛しすぎて俺を殺そうとした。その状況にちょっと似ていてさ」

 

 だからこそ苛立った。

 束と両親の間に何があったのかは知らない。それもあるからあそこで俺は怒った。束とはもうダメだろうが、楓とならちゃんとやり直せるはずだ。少なくともあの子は常識を弁えられているのだから。

 

「………でも、私がしたことって結構酷いよ? 基地とか襲撃したし」

「………………忘れているようだから言っておくがな、俺は一応一般人だから」

「君の部類で一般人なら、他の人間なんてミジンコなんてレベルじゃないね」

 

 ちょっと強い程度の一般人だよ、俺は。

 俺の上には何人もいるしな。……悔しいことに。

 

「まぁ、予想通りだろうが、理由はそんなところだ。後は楓がお前に似ているってことだけで拒否されたのは正直ムカついた、ぐらいだ。大した理由もなくて悪かったな」

「…ううん。そもそも、私のために怒ってくれる人なんていないからさ。ちょっと新鮮だったよ」

 

 いつも怒られているイメージはあるがな。

 

「ところでだな、そろそろ言いたいことがあるんだが」

「何?」

「1mとは言わんが、少し離れろ。胸が当たってる」

「当ててるんだよ」

 

 平然とそう返す束。俺は心から心配になって束の額に手を当てた。

 

「熱はないようだな。そう言えば体温計があったな。念のため測って―――」

「熱じゃないからね! いや、確かに一種の熱でもあるけど………」

「いや、それは熱だ。そうじゃなければたった1度庇われただけで天才が他人にこんなことをするわけがない」

「本気で怯えつつお世話モードにならないで!」

 

 ましてやこいつだぞ? ISを開発した篠ノ之束だぞ? 傍若無人の天才様だぞ?

 

「任せろ。「病は気から」という言葉はあるが俺はそんなのを認めるつもりはない。適切な処置はするつもりだ」

「素人がしたら危ないけど!?」

「まずは織斑先生の部屋に戻してだな。とりあえずその軽装を……何でワイシャツ1枚? というかうさ耳は?」

「………外して来た。それに、この格好だったら受けが良いって漫画であったから………」

 

 確かに受けはいいがな。

 

「クロエの服じゃ流石に入らないしな………仕方ない。とりあえず俺の服を着ろ。今はゆっくりして体を休めろ」

「だから風邪じゃない!!」

 

 だとしたら何だというんだ。

 ため息を吐きながら俺は束を寝かせるために近付くと、無理矢理ベッドに押し倒された。

 

「おい、たば―――」

 

 無理矢理唇を塞がれ、何かが入ってくる。……あ、これ、ディープだ―――じゃねえ!!

 焦った俺は束を引こうとするが、舌の力が強すぎるのか絡んでくる。

 

「―――予想通り、やっぱりこうなりましたか」

 

 俺と束の動きが同時に止まった。だが束はすぐに俺の口から自分の口を離した。

 

「く、くーちゃん!? どうして!?」

「たぶんこうなっているだろうなぁと思っただけですよ」

「私もするー!」

 

 どうやら吹っ切れたらしい楓が俺に飛び込んで来たので慌ててキャッチ。流石は篠ノ之の血を引く女と言うべきか素早い動きで頭を突っ込ませて来るが、なんとか回避した。

 

「パパー、私もー」

「おい待て。その呼び方はおかしい。せめて言うなら「お兄ちゃん」だ」

「待て楓。私が先だ」

「何でラウラも!?」

 

 そう言えば束って、箒とクロエにはちゃん付けだが俺や楓、ラウラは普通に呼び捨てだな……じゃなくて、

 

「ラウラ、就寝時間はとっくに過ぎてるぞ?」

「ん? 性交をするには良い時間だろう?」

「ラウラ、楓の教育に悪いから平然と言うな。あとそんなことするか」

「もー、くーちゃんはともかく、ラウラと楓は帰ってよ!!」

「私は元々この部屋だもん! それにお兄ちゃんは束のものじゃないもん!」

「みんなのもの、でしょう?」

 

 あの、クロエさん? 何か怒ってません?

 というかあれは束から来たからノーカンだ。束の実力はクロエだって知ってるはずだしな。だよな?

 結局、その日は解散させたかったが、楓が眠たくなったというのでそれに合わせて全員寝ることにした。というか、させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休み。それは学生にとって楽しい期間だ。

 1日中休みであり、何してもいい時間。宿題は出るがレポート以外は計算とか国語とかなので簡単に終わった。で、専用機持ち所持者は自主的にアリーナを借りて特訓をしているが、

 

『その程度か、雑魚共が!!』

 

 黒騎士を駆るエム……もとい、織斑マドカ相手に5人の専用機持ちが苦戦していた。

 

「なるほど。かなりの出力と機動性だな。だけど何でライフル?」

「マドカは格闘は「こなせる」程度なんだけど、銃撃は上手くてね。だからそっちの方に力を入れたの」

「ほぅ。だが、なんというか………専用機持ちがどれだけ井の中の蛙だということが理解できるな」

 

 織斑マドカは立場上、織斑千冬の妹ということで専用機を束から譲渡されている形となっている。これからの戦力としても期待できるという点においては確かにそうだろう。

 

「にしても、1分程度しか持たねえのかよ。弱すぎるぞテメェら!! よくそんなんで生きてこれたな! あんな雑魚に負けて悔しくないのか! ええ!!?」

『それは舞崎さんの感覚でしょう!!?』

『そうよ! アンタみたいな強者からしたらみんな雑魚よ!!』

「否定しねえけどな!!」

「………否定しないんだ」

 

 俺の右隣に楓が座っているが、そのさらに右隣には更識簪が座っている。言うまでもなく、ボコられて零司が乗り込んできても対処するのが面倒だからだ。

 

「まぁな。はっきり言ってIS学園のレベルは低すぎる。よくそれで「女は男より強い」とか言えたものだ」

 

 ま、それの証明はつい最近したが、それはそれこれはこれだ。ただ文句を付けてきた女権団を軽く捥いで病院に入れただけだ。………その時に「お兄ちゃん凄い」と楓が抱き着いてきた。つくづく彼女がアウトローな存在だと実感できる。………それで束が「自分もできる」と言い出した時の女たちの怯えようは一興だったがな。

 

『そんなに言うんだったら静流が証明してごぶばらあッ!?!』

 

 織斑が俺にそう言ったが、織斑マドカが蹴り飛ばした。

 

『次、そんなことを言ってみろ。貴様を文字通り消し炭にするぞ織斑一夏』

『何でだよ!? それにマドカだって言われっぱなしだったら悔しいだろ!?』

『アレは最早怪物だ! そんな怪物に貴様は私に単身で挑めと言うのか!? 貴様は存外鬼畜だな!! あと馴れ馴れしく名前で呼ぶな気持ち悪い死ね!!』

「おい更識、お前の機体の開発主任のことを化け物だと言われてるぞ」

「………魔法っぽいものを行使する点では否定できない。魔物狩りで真っ先に狙われるかもしれないけど………」

「更識家が魔城となるのも時間の問題かもしれないな」

 

 いつの間にか膝の上に移動している楓の頭を撫でる。本来ならクロエに対してそうしてあげたいのだが、生憎彼女は席を外していた。

 というのも、今は狙われるという理由で箒に紅椿を持たせているが、せっかくの機会という事で機体調整に勤しむことにしたらしい。

 

 そんな時だった。

 電話が鳴り響く。俺は出ると織斑千冬から来客が来たという報告を受けて楓に大人しくするように、そして織斑弟に手を出されたら容赦なく殴るように言ってから向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、一体何の用だ?」

 

 予めここに来ることは聞いていたが、今日は以前と違って殺気を放っている。

 

「再確認だ。君はあの娘を育てるつもりか?」

「………今更だろ。アンタらが束の事で何か思っていたなら大切に育てるだろうと思ったし、そうでないなら最初からそのつもりだ。クロエ………束が娘として大切にしている女の子もそうしたいと言っていたしな。まさかそんなことを確かめるためにここに来たのか? だとしたらとんでもない暇人だな、アンタは」

「…………そうか。確かにそうだな」

 

 ベンチで腰を掛けて束たちの父親にそう言ってやると、オッサンは認めた。

 

「それもあるが、何より気になるのは箒のことだ」

「…………帰っていいか?」

「いや、そうじゃない。桜の………あの子たちの母親の手前、言う事はできないが私は束も大切に思っている。だが、楓ちゃん、だったか? あの子のことを考えると私たちのところではなく君の所の方が良いと思う。君の言う通り、私たちは篠ノ之束という悪魔を生み出したのは事実だ」

 

 まさかそのことを認めるとは思わなかった俺は素直に驚いていた。

 

「………おかしいか?」

「てっきりあの時の文句を言いに来たのかと思ったが。安心しろ。それで喧嘩を売ってきたら夫婦水入らずの部屋にしてやる」

「………君は随分と戦うことに自信があるんだな」

「アンタに勝てる自信はあるさ。アンタが3分持てばそれこそ良い方だろうよ」

「……………そして生意気だ。本当に意外だよ。箒が君のような男を友と呼ぶのはね」

「最初の頃は猫を被っていたからな。大変だったぜ? かなりの堅物だったアンタの娘の信頼を得るのはな」

「言ってくれる」

「ああ、言うさ。アンタの娘はとんでもない堅物だ。だからこそ織斑一夏とは相性が悪い。………いや、それは世界中にいる女たちに言えることだな」

「…………私は見合いだったから、そういうのはよくわからないな」

 

 近くに楓がいる。どうやら俺を探している時に前に出会った自分の父親といるから出るに出れないのだろう。

 楓を呼んでやると、楓はこっちに来て自分の父親から隠れるように俺の隣に座る。

 

「………改めて、初めまして。だがすまない。……私は―――」

「……大丈夫……です……。私だって………わかってるから………」

 

 そう言いながら、俺の腕に顔を押し付ける楓。俺はため息を吐いて楓を持って立った。

 

「オッサン。アンタも立てよ」

「……………」

 

 訝し気に立つオッサンに、俺は楓を差し出した。

 

「渡すつもりはない。そして今から少しだけだ。ほんの少しだけ、こいつに触れる許可をやるよ」

 

 その言葉が意外だったのか、オッサンは驚いて俺を見る。俺は楓の背中を押して近付けさせた。

 

「………ほら、楓」

「……うん」

 

 楓は少しずつ、オッサンに近付く。そして2人は再会を祝して抱きあった。

 たった1回だけ。おそらく今後はあり得ないだろう状況を俺は監督役として見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから大体3年後。時間は朝8時を過ぎ、俺はリビングでレポートを書いていると玄関から楓の声がした。

 

「行ってきまーす!」

「おう、行ってこい」

 

 俺はIS学園を無事卒業し、日都大学の総合工業学科に進学した。今期の合格者は俺だけだったので周りから憎しみの視線を向けられたが品行方正な俺に面接とテストなんて余裕だったと言っておく。ま、流石に主席は無理だったけどな。………というか、主席がまさか同い年だとはな。俺もまだまだ勉強が足りねえか。

 

「あー、ねみー」

「また徹夜か。せっかく若返ったのにまた老けたんじゃねえの?」

「老けてないよ~」

 

 そう言って床に寝る束を俺は仕方なくつかんでソファに寝かせる。

 

「束。いくら研究が好きだって言ってもお前はもう少し休め」

「じゃ~静流が膝枕してくれたら~」

「だってお前、俺のレポートを勝手に弄るだろ」

 

 後うるさいしな。まさか天才に懐かれるのがこんなに辛いことだとは思わなかった。

 

「俺は自分の力だけで世界に挑戦してえんだよ」

「すでに終わってるでしょ~。全国家代表を潰したんだし」

 

 それとこれとは話は別である。あと、人の黒歴史を勝手に掘り返すな。

 

「それのせいで最初は凄くヤバかったんだからな」

「でもそれ、調子に乗って「その程度かよゴミ共が。よくそんなんで女なんて優遇たぁな。頭湧いているとしか思えねえ」って言ったのって静流だよね?」

「頼むから掘り返すな。今となってはマジで恥ずかしいんだからな」

 

 どれくらい恥ずかしいかというと、ISをテレビで見れないくらいにだ。

 ここ3年で世界は大きく変わった。俺の無双が全世界で放映されたことで女性の尊厳はほとんどなくなった。辛うじて法律でかつての優遇はなくなった程度として捉えられているが、治安が悪いところでは可愛い女の子は誘拐されているぐらいだ。

 女権団も、そして男権団も解散を余儀なくされ、今ではそう言った1つの異性のみで構成され、共にいる集団でも一方的に虐げることは重罪とされるほどだ。一部では俺のことを「第二の天災」などと騒ぎ始めているようだが、直接的な攻撃は1度しかされていない。………というのも、大学進学を選んだ俺を無理矢理誘拐しようとしたさまざまな組織を平然とボコる姿を束が世界に生中継したのである。

 

 ―――私はただ、私の人生を歩みたいだけです。私はその邪魔をする人々―――いえ、その根幹のみ撲滅し、中継し、尊厳を潰すことをお約束します

 

 我ながら、悠夜を馬鹿にできない中二病患者になってしまったと嘆きたくなった瞬間である。

 

「ところで、ラウラは?」

「アイツなら朝からバイト」

 

 ちなみにそのバイトは銀行の警備。以前銀行強盗されそうになったようだが、さっさと制圧したらしい。流石は元ドイツ軍少佐。今は父親の計らいでこうして俺たちと暮らしている。ま、家は束が自作して俺が色々と訂正させて、一軒家に住んでいるけど。

 今ならわかる。俺は本当の意味で充実していることを。

 

「マスター」

 

 食後のコーヒーをテーブルに置いたクロエは俺の所に来ていつも通りキスをした。

 俺たち2人の左手の薬指には、同じ銀色の婚約指輪をしている。つまり、そういうことだ。




ということで、色々あって彼らは来年結婚します。
費用はもちろん既に―――というかほとんど使ってませんからね。意外と物欲少ないし。大きな買い物はバイクと車の免許ぐらい。ちなみに車は束のお手製です。


設定は気が向き次第、書き上げて活動報告に上げようと思っています(絶対に上げるとは言っていない)

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