IS-Twin/Face-   作:reizen

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第47話 突きつける真実

 とりあえず俺たちはIS学園に戻った。篠ノ之束はしばらく織斑先生の部屋に滞在することになり、俺は俺で事情聴取の後に別室が与えられた。

 他にも事情を知る者として、篠ノ之とラウラが同じ部屋になったという話は聞いている。まぁ、そっちの方が楽だからだろう。ラウラも事情はある程度把握しているしな。

 ちなみに何故か……本当に何故か……

 

「やったー! レコード更新だー!!」

 

 10歳の幼女はパズルゲームで遊んでいる。いや、ホント、

 

(こうして見ると、なんか家庭を持った気になるな………)

 

 齢16にして妻子持ち……今では考えられない事である。………というのは冗談なんだが。

 まさかお咎めなしな上にISを返却され、クロエや楓と同居することになるとは思わなった。まぁ、大半が天才の力なんだろうが、今はそれに感謝しておこう。

 

(………まぁ、面倒な問題が出てきてしまったんだがな……)

 

 その面倒なものとは、楓がとうとう両親に会いたいと希望したのである。

 いや、別におかしいことじゃない。ずっと物言わぬ体みたいなものだったし、ずっと一緒だった親と触れ合いたいというのもあるだろう。褒められたいとか、そう言う気持ちがあるはずだ。それは尊重する。………でも、はっきり言おう。おそらく楓は受け入れられない。

 

(………そうなれば、天災2号でもできてしまうのだろうか……)

 

 今はずっと庇護下にあったこともあり、まだ無邪気だ。無邪気だが、現実を知ればおそらく今みたいな笑顔を見せることはないだろう。

 

(…………だからって、誤魔化し続けるのはもう無理だし)

 

 今はもうテストも終わり、結果も発表されている。今週末に終業式があり、その翌日から夏休み。連れて行く時間は十分にある………今だから言えるが、そんな時間なければ良いと思いたい。でも―――

 

『お父さんとお母さんに会うの、楽しみだなぁ』

 

 無邪気にそんなことを言われたら流石の俺も騙すことはできない。………あー、将来甘やかしそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………帰りてぇ」

「来て早々、何を言っているんだ」

「心労でちょっとな……」

「…………そう言うなら私だって色々言いたいことがあるんだが……何故お前はあんなに勉強できるんだ!? おかしいんじゃないのか!?」

「学年トップじゃなかったら意味がねえだろ」

「そう言う問題じゃない! 姉さんにも手伝ってもらったんだ。ラウラにも教えてもらったのに……」

 

 まぁ、俺の場合は暇あればトレーニングか勉強しかしてねぇからな。

 

「諦めた方が良いですよ、箒。マスターは普段は喧嘩しか能がない男に見えますが、読書にIS教本を使うような方ですから」

「お前の頭、おかしいんじゃないのか!?」

「そもそも1人暮らしの条件が成績上位だからな。むしろ成績が平均レベルしかないことに泣きそうになった」

 

 ちなみに成績は上から更識、オルコット、ボーデヴィッヒ、デュノア、凰と専用機持ちが占めている。次こそはぜひ学年トップになりたいものだ。にしても、今年は3人も同位が出るなんて快挙だと騒いでいたが、周りがIS技能で俺の動きにケチをつけ過ぎだ。まぁ、それはドベだった織斑も同じか。

 

「大体、PICを瞬時にオートに切り替えてからの停止後方移動のどこが「学生レベルじゃない」だよ。あんなのゲームしてたら誰だってできることだろうが」

「千冬さんでもそんなことできないからな!?」

 

 たぶん、少なくとも悠夜は瞬時にできると思う。

 まぁ、つまらない話はそこまでにして、だ。

 

「仕方ない。行くか」

「わーい!」

「はー、何で私がこんなところに行かないといけな―――痛い! 静流の馬鹿!!」

「テメェの方が馬鹿だろ!」

 

 馬鹿と天才は紙一重と言うが、束はぴったりと当てはまる。

 

「そう言ったら俺とクロエは全く無関係だろ」

「私の関係じゃダメなのか? 友人を紹介したいという理由じゃダメなのか?」

「………箒、何でそれを織斑の前でしないんだ……」

 

 篠ノ之という姓を持つ人間が一気に増えたこともあり、それを気に俺は全員を名前で呼んでいる。初めてそう呼んだらクロエが泣きそうになったのは記憶に新しいが、まさか箒が「ようやく呼ぶ気になったか」と言うとは思わなかった。

 

「………」

 

 最近、箒はこうしてだんまりになることが多くなった。理由はわからないし特に詮索もしていない。

 

「ともかく行くぞ。すみません、篠ノ之柳韻と桜の部屋を知りたいのですが―――」

 

 箒が受付に言って聞きに行く。俺は当然、クロエと一緒に問題児と無邪気ちゃんのお守りだ。

 

「聞いてきた。早速行くぞ」

 

 俺は内心ため息を溢しつつ、篠ノ之夫妻の病室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら父親は既に退院しているが、近くに滞在させてもらっているらしい。

 酷いだろうがまずは様子見として箒だけで言ってもらい、後から俺と楓を紹介してもらう手筈になっている。束はクロエと絶賛俺の後ろで待機中だ。

 

『久しぶりです、母さん』

『ええ。あなたも無事のようね。本当に大変な目に遭ったわ』

 

 どうやら少しは記憶が残っているみたいだ。……まぁ、記憶の操作はされている人間にかなり負担を強いると聞いたことがあるし、両親と話をしたいと思っていた楓にはできないだろう。

 

『……何があったのですか?』

 

 箒には知らない振りをしてもらっている。そもそも信じることはできないだろう。産んだ覚えもない子供のために人質になっていたとは。

 ちなみに俺が中の会話を聞いているのは、箒の服に盗聴器を仕込ませてもらっている。言うまでもなく束のお手製なのでノイズなどは走らなくなっているようだ。

 

『わからないわ。ただ……変な場所でとても不気味な夢を見てた。束に似ていた女の子がね、私に楽しそうに笑いかけていたの』

 

 ………本当、俺だけ聞いてて良かった。これを束が聞いてたら間違いなく乗り込むだろう。

 

『………ところで箒。あなたはいつからブレスレットなんてつける趣味を持ったの? まさかISに関わっているとは言わないでしょうね』

『……………ええ。私は今、IS学園に通っています』

 

 すると部屋に沈黙が訪れる。どうやら母親にとってISは禁句のようだ。

 

『……それは政府からの命令? それとも、束がそう仕組んだの?』

『姉さんのことはわかりません。おそらく政府が守りやすいように入れるように画策したのでしょう』

『………じゃあそれは政府から専用機が支給されたってことかしら?』

『それは―――』

 

 その時だった。

 

「―――束!?」

 

 外からそんな声が聞こえた俺の思考は停止した。だがそれは一時的なものですぐに復活する。

 

「一体こんなところで何をしている!? いや、一体何のつもりでここに来た!?」

「別になんでもいいじゃん」

「私たちを笑いに来たのか。………ところで君たちは―――」

 

 耳元で大きな音がしたかと思ったら、病室のドアが思いっきり開かれた。

 

「何しに来たのよ!!? 箒、あなたまさか―――」

「ま、待ってください! これには事情が―――」

「事情って何よ。これは立派な―――いやぁああああッ!?!」

 

 急に叫び始める母親。俺は急いで仲介に入ろうとすると、どこから引っ張り出したのか姉妹の母親は木刀を楓めがけて振り下ろした。

 咄嗟に木刀を叩き折って先端を別の場所に飛ばす。その隙に箒は母親の前に出た。

 

「急にどうしたのですか、母さん!」

「誰よその子! というかどうして連れてきたのよ!!」

「桜、落ち着け! 流石に病室の中で木刀は―――」

 

 ―――パンッ!!

 

 女性の目の前で手を叩く。急に音を立てたからか全員が硬直した。

 

「………とりあえず全員、中に入れ」

 

 そう指示した俺に、全員はおずおずと中に入った。

 

 

 

 中に入った俺は、楓について軽く説明した。

 篠ノ之夫人にしてみれば産んだ覚えのない子どもであり夫のことも信じているようで外で作った子どもの可能性は低い。それは意外にも束が監視していたようだが、夫人は「余計なことを」と言いたげに束を睨んでいる。

 そうなると仕方がないので、俺は正直に話した。

 

「この子は遺伝子を操作されて産み出された子どもだ」

 

 その言葉に夫も驚きのあまりか何かを呑み込む。だが、夫よりも先に妻の方が口を開いた。

 

「………なんですか……それは……冗談でしょう……?」

「残念ながら本当だ。これが証明書」

 

 そう言って俺は早坂に頼んで出してもらったDNA検査の結果を出す。遺伝子パターンは束と全く同列。ほとんどクローンと言っても問題ないそうだ。

 

「おそらく原因は束が白騎士事件前に学会で発表したこと。夢物語であろうとなかろうといずれ世界のエネルギー問題を簡単に解決するかもしれない存在を手駒にしようと考える奴らなら、その技術があれば容易に作り出せる。接種したのはおそらく血から遺伝子情報を読み取って複数のパターンで作り出したと考えるべきだ」

 

 篠ノ之夫妻は顔を青くする。まぁ、これが普通の反応だ。

 

「………出て行って」

 

 小さく、妻の方が言った。

 

「出て行って! もう顔も見せないで!! もううんざりよ、こんなの!!」

 

 あー、やっぱり無理かぁ。俺はそうでもなかったのは結構なアンダーグラウンドを体験しているからかな。…………体験、したか?

 思い当たる節はないが、ともかくこういうのは慣れだと思う。

 

「そうか。じゃあ帰るぞ。もちろん箒もだ」

「何?」

「あの、待ってください。娘をどうするつもりなんですか!?」

「もう顔も見たくないんだろう? ならばアンタの夫はともかく俺たち5人はすぐに退散するべきだ。身体に障るしな。だから、ご希望通りアンタが嫌いなIS関係者はここから去ってやると言った」

 

 今にも泣きそうな楓を打ち合わせ通りクロエに任せながら、言葉を続ける。

 

「待って。待ちなさい! 箒は私の―――」

「そして束と楓は違うってか? そりゃあ都合が悪いだろうよ」

「え?」

「束だってアンタらの娘だ! そもそもこんな人生を歩むことになったのはお前らがちゃんと教育をしなかったのが原因じゃないのか!? 楓はいつも苦しい思いをしてきた! お前らを人質に取られ、逃げることもできない状態で従いたくもない指示を嫌々従ってきた! それもすべてアンタらの教育の結果だ! 娘を否定するのはお前らの選択の1つだろうがな、それならば相応の覚悟をしろよ? アンタらは束と同じ姓を持ちながら、人質にされようと永遠に捨てられる選択をするんだからな!」

 

 とりあえず、言いたいことは全部言えた。箒と束、そして楓をクロエと一緒に連れて帰る。

 あの2人は俺の中で最悪の選択をしたに過ぎない。俺の意見は子どもを育てたことのない人間の意見に過ぎないが、産んだ以上は相応の責任を持つ必要がある。何よりも―――あのオッサンだ。

 何で俺の意見に口を挟まない。挟んだところで無理矢理口を閉ざさせるが、あの場で俺が切れたら「子どもの君に一体何がわかる」なりなんなり言うべきだ。それともあのオッサンは虚を突かれることに慣れていないのか? だとしたらそれはただの無能だろう。それとも娘に関することに思う事でもあったのだろうか? それなら多少は許してやるがな。

 ………とりあえず、数日待つか。待って何らかのアクションがない場合は無様に切り捨ててやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、思っていた俺は何故か10歳近く歳が離れた女性とベッドインしていた。……いや、正しくはインしただけでそれ以上のことはしていない。ちなみに考えた日数には届いていない。それどころか1日すら経っていないんだけど!?

 

「…………それは本気か?」

『ああ。どういうつもりか知らんが、1日だけ部屋を開けると本人から直接言われた。殺そうとしたら犯して構わんぞ』

 

 というのが親友の言葉だった。酷いな親友。というかそこは「殺して構わん」じゃねえのか。いや、殺したらスケープゴートにできないけどさ。

 

「………で、一体何を企んでる?」

「酷いなー。束さんは何も企んでいないよ?」

「そういえば5月くらいに変な機体が来たんだけど、すっげぇデザインがダサかった―――」

「なにおう!? あれくらい素晴らしく計算されたスタイルは―――痛い!! でもいいじゃん! 結局君個人で所有しているんだしさ!!」

 

 それに関しては感謝するがな。

 

「ところでクロエをどこにやった?」

 

 既に夜10時を過ぎているのに未だに帰ってこないクロエの事を聞くと、

 

「さっきいっくんの部屋に―――待って! 冗談だから! 嘘だから! 殺気を一瞬で放たないで!!」

「安心しろ。ただ織斑が自分の血で汚れるだけだ」

「冗談だから!! 冗談だからぁ!! だからそんなに殺気を放たないで!!」

 

 全く。少し慌て過ぎだろ。俺はただ織斑の鈍感クソ野郎に人の女を寝取ったらどうなるか教えてやるだけだ。

 

「ホントだって! ほら! これ! いっくんしかいないよね!?」

「監視カメラ?」

「私の移動型ですよ。ところでさ、何で君ってオナってすらいな―――あ、はい。今後仕掛けるのは自重します」

 

 にしても、さっきからこいつに違和感がある。

 

「………束、お前若くなった?」

「あ、わかる? 実はちょっと手術したんだ。自力で」

「よし。今のは空耳だな。………で、冗談抜きで一体何の用だ?」

 

 すると束は意外なことに、本当に姉妹かと思う程の色気を出して来た。

 

「―――ねぇ、どうしてあそこで怒ったの?」

 

 さりげなく胸を腕に当てるスキルを、妹に教えてやれと思ったのは悪くないだろう。




真相は次回!!

まぁ、大半の人はわかると思いますけどね

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