IS-Twin/Face-   作:reizen

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第46話 これからのこと

 ―――AM 9:30

 

 クロエはゆっくりと瞼を開ける。

 見覚えのない天井。だが、そこが束と行動を共にしていたこともあって座敷タイプの天井と理解し、自分がまだ生きていることに驚いていた。

 

「………わたし……は……」

 

 体を起こそうとし、自分に謎の荷重があることに気付いたクロエはその物体を退けようとした。

 

(………束様に、そっくり……?)

 

 身長や顔の幼さから、彼女が何らかの事象によって生み出されたクローンか何かと判断したクロエはすぐに起こして逃がそうと判断した。そのすぐだった。

 襖が引かれ、見覚えのある影が入ってきた……というか、げっそりしていた。

 

「あー疲れたー………」

 

 静流だった。静流はクロエの足を枕にしてうつ伏せで寝ている楓を複雑そうな顔をしてから脇腹の部分を両手で持って移動させようとしたところでクロエと視線があった。

 

「………」

 

 もし、楓を持っていたら間違いなく落としていただろう。それほど静流は動揺し、ようやく頭を整理した時、素早く、そして静かに移動してクロエを抱きしめる。

 

「クロエ………良かった………本当に良かった……」

「あの、マスター……少し痛いです」

「あ、悪い。いやぁ。女を殺すためにとりあえず経験値を貯めるためにボコってたら、結構強くなっててさ。でも良かった。縫合されていた何かの肉の糸の並びが綺麗だったから任せたけど、本当に目が覚めてくれて……生きててくれて本当に良かった」

 

 そんなことを言われるなんて初めてだったクロエは混乱し、嬉しさのあまり涙を流し始める。

 

「く、クロエ……? 大丈夫? 痛かった?」

「い、いえ……大丈夫です……その……嬉しかったから……」

「クロエ………」

 

 小学生相当の子どもがいるというのに、静流はクロエにディープキスをした。もしこの光景をあの2人が見たら間違いなく囃すだろう。「とても「恋人? 何それ? 食えんの?」と笑っていた奴と同一人物だとは思えない」と。

 1分ぐらいした後、静流はもう1度しようとした時にクロエが止めた。

 

「………あの……静流様は束様のことを―――いえ、何でもありません」

 

 殺気で景色が歪んだ。外ではレオンが驚いて固まっている。

 

「…………ところで、彼女は……?」

「こいつは……たぶん篠ノ之の末っ子になる。名前は楓っていうんだと」

「………そうだろ。束様に似てますね」

「おそらく、あの女も歪んでああなったんだろうなって思うけどな」

 

 今も寝ている楓の髪を梳く静流。そこでクロエはある提案をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――AM 10:03

 

 

「………何?」

「おそらく、彼女にとっても意外だったんだろうな。箒星の意味を知っている人間が中学でいること、そして篠ノ之束の名前に過剰に反応しないどころか普通に流せる人間なんて俺が言うのもなんだがまずいない。本人にしてみれば罪滅ぼしのつもりだったんだろ。今まで自分の行いで迷惑かけたんだから、IS学園に入学する前にせめて楽しい思い出を作ってあげたいってな。中学3年と言えば受験でもあるが修学旅行というイベントもあるし、学園生活を満喫する最後の1年にしては好条件だと思ったはずだしな」

 

 さしずめ、「何でわかった」という顔をしているのだろう。驚いて俺を見る篠ノ之束。

 

「考えてみれば、「篠ノ之束」の関係者ということはISを手に入れることができる可能性がある希望でもある。例え男でも、先に研究できてISのことを新しく知ることができれば御の字だ。だけど俺はあの時は武装組織を壊滅させていた経験があったから「ISなんて使って何が面白いの?」って感じだったしな」

「………何で、わかったの?」

「本当なら俺が篠ノ之の存在を知っていた時点で転校は確実だ。仮にそれができるとしたら、政府の弱みを簡単に握ることができる篠ノ之箒の関係者に絞られる。ま、たった1人しかいないが」

 

 篠ノ之束は本気で驚いていたが、これは別に驚くほどもでない。世界的に有名なイギリスの名探偵からすれば「初歩的な推理」ですらないだろう。

 

「それと篠ノ之束、1つ提案がある」

「何?」

「お前、俺と共に来ないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――AM 9:37

 

「束様を……許してくれませんか?」

 

 クロエからの提案は本気で驚いた。

 まさかのあの女を許せという。本気で驚いた。いや、驚かない方がどうかしている。

 本来ならクロエは激怒して良い。彼女にはその権利がある。

 

「理由を聞いてもいいか?」

「………私はずっと、あの方と生活をしていました」

 

 だけどそれが許す理由にならない。しかしそれは俺の早とちりだったようだ。

 

「そしてあの方と一緒にいて思ったことがあります。あの人は確かに天才ですが、人と接するのを恐れているが故に歪んだ人間だと」

「恐れている?」

「………はい。確証はありませんが、あの人は他人を卑下し、見下すことによって心を守っているんです。夢の中で聞きました。あなたは以前、篠ノ之束について調べ、理解しようとしていた、と」

 

 …………俺はとある心当たりを外して柱に向かってスロウした。

 その心当たりは後から迫る俺の足の裏を実体化することによって回避した。

 

「おいニーナ」

「な、何……?」

「テメェ、クロエが生きてたことを知ってたな!? 何故さっさと教えなかった!!」

 

 近くに楓がいたことを思い出した俺は恐る恐る目を向けると、今ので起きたらしく身を守るためにクロエの布団に潜り込んでいる。

 

「………私が口止めしてほしいと頼んだのです。私の事でISを疎かにしてほしくなかったので」

「……まぁ、そういうことなら……」

 

 ニーナは実体化を解いてアクセサリーに戻るのを見つつ、とりあえず急に叫んだことを楓には謝った。

 ちなみにニーナに当たりがきついのは、俺がISを動かせなくなることを願ってである。

 

『絶対にそんなことはさせませんけどね!!』

 

 絶対に動けなくしてやらぁ!!

 

「……話を戻します。私はずっとあの人といて、あることに気付きました。もしかしたら束様は本当に信じられる人と一緒にいたいのではないかと」

 

 つまりそれは人を選定しているということか……? 兎だし、もしかしてそういうものなのか?

 などと考えていると、クロエは俺に信じられないことを言った。

 

「だからマスターにあの方の「信じられる人間」になっていただきたいのです」

「………え? マジで?」

「はい。マスターは料理ができますし、束様の胃袋を掴むことができると思います」

 

 そんなキラキラした目で見られた俺は、見栄を張って立場をわからせてからにすると宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけらしいがな」

「…………いや、ふざけすぎでしょ!? 特に最後!!」

「俺だって耳を疑ったわ!! というかクロエに料理させたは良いが、何出されたんだよ」

 

 個人的に凄く気になって仕方がないんだけどな。特にその部分が。

 

「焦げたパンとか、焦げたパンとか……」

「……………………確保したタイミング、悪すぎるだろ」

「でも美味しかったけどね。いやぁ、お前みたいなところに来なかったらあんなことはしなか―――」

 

 手が滑って篠ノ之束に仕込んでいたナイフを投げてしまった。

 俺は笑顔を向けながら篠ノ之束に近付いた。

 

「というわけだ、篠ノ之束。とりあえず俺の物になれ。というか従え」

「ねぇ、もうヤケになってない? 見栄張ったことを後悔してない?」

「さぁな。ともかく首を縦に振れ。そうすればお前は死を回避することができる」

「だが断る! 私の好きなことは自分が優位に立って―――え? 耳を掴んでな―――痛い!! 顎を地面とキスさせるのはすごく痛い!!」

「とりあえず縛っておくか」

 

 鎖で良いだろ。

 亀甲縛りで羞恥心を誘発させ、顔に鎖を巻き付けてそのまま旅館の方に移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銃で撃ってごめんなさい」

「束様、そのことはもういいです」

 

 現在は俺の部屋としてあてがわれた部屋。そこでクロエが寝ているので連れてきたのだが、改めて聞くと銃で撃たれて普通に許すクロエって凄く大物だよな。

 ちなみに傍から見たら俺が篠ノ之束を土下座させている状態だったりする。正座させて両足を左足で踏んで右足で背中を押している状態だ。

 

「くーちゃん。本当にごめんね。あと、こいつをそろそろ退かせてくれると嬉しいかな?」

「諦めてください」

「わー! 見捨てられたー!」

 

 本気で泣く20代に俺は軽く引いている。

 

「そろそろ退いてやれ、舞崎」

「………仕方ない。足を折るか」

「さりげなく酷いことを提案するの止めて!!」

 

 だってそうでもしないと何をするのかわからないからな。必要措置だ。

 

「止めておけ、舞崎。話が進まん」

「………チッ」

 

 舌打ちをして仕方なく退いてやる。

 そもそも、こうして無理矢理篠ノ之束を連れてきたのには理由がある。それは―――

 

「問題は、この2人の処遇だな」

 

 篠ノ之姉妹の血縁者である楓と、織斑姉弟の血縁者(というか実の姉妹らしい)マドカの処遇についてだ。

 マドカに関してはまだ良い。織斑千冬は既に成人を超えているから保護者として保護することは可能だろうが、問題は楓だ。正直、

 

「これに預けるのは反対なんだが?」

「………私も同意見です、千冬さん」

「かと言って、他に誰がいるか、だ」

 

 篠ノ之夫妻がここに話題が上がっていないのは、楓が普通の女の子じゃないからだ。

 聞けば楓は篠ノ之の両親の遺伝子情報から組み替えて作った子ども―――つまり、遺伝子強化素体なのである。そして顔は束の方にそっくりだ。

 

「祖父母が生きていたら事情を話したら快諾してくれたかもしれないがな。全く、あのゴミ共は余計なことをしてくれた」

 

 今度本部に文字通り殴り込みをかけようとしていると、ある名案が浮かんだ。

 

「篠ノ之束、やっぱりアンタが親権を持て」

「はぁ? 何で束様がそんなことをしないといけないんだよ」

「何か勘違いしているようだから言っておくが、アンタは親権を持つだけで良い。クロエを含め、楓の面倒は俺が見る」

 

 織斑先生も篠ノ之束も、そして篠ノ之箒もその意見に驚いた。

 

「確かにアンタが親権を持つとそのしわ寄せが来るだろうよ。定期的に居場所を聞き出そうとする奴がいるはずだ。だが俺が面倒を見るとなればそれはない」

「………何故そう言い切れる? 確かにお前は強いが、その影響力は私や束に及ばない」

「………確かイタリアだっけ? アンタと決勝で戦おうとしたIS操縦者は」

「そうだが、それがどうした」

 

 俺は笑みを浮かべて言ってやった。

 

「ならばそいつを再起不能にすれば良い。泣きながら、そして漏らしながら土下座して見逃してもらうようになるまでボコボコにしても問題ないだろう?」

 

 そいつには恨みはないが、これもすべてこの少子高齢化が進んだ時代が悪い。その礎になってもらおう。

 

「…………楽しみだなぁ。正義と発散を同時に行えるから一石二鳥。楽しみだなぁ。少なくともあの天使を気取ったクソ機体よりかはマシだといいなぁ」

「………そこなのか」

 

 ちなみに最初から武藤さんやクソ兄貴こと高間晴文に頼らないのは日本の政府関係者だからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はたぶん、日本の男性に恋をした。

 迎えに来たアメリカ軍。その1人にして同僚でもあるイーリス・コーリングに抱き着かれても何も感じない。それどころか拒絶してしまった。

 

「……あの人、かっこよかった」

「何言ってんだ、ナタル」

「あ、イーリ」

 

 私は慌てて電話番号を隠す。それを目ざとく見つけられてしまい、彼女に笑われた。

 

「まさかこれ、さっきの男のか?」

「か、返して!!」

「嘘だろお前。これから裁判だって言うのに……」

 

 だ、だって仕方ないじゃない。昨日のことが怖くて、たまたまついてくれていた人に抱き着いてしまって、それで優しくされて………いや、まだそんな関係は踏んでないけど、踏んでませんけど!!

 

(今度はいつ会えるかしら……)

 

 私はふと、そんなことを思ってしまった。いつか、で……デートでもできたらいいなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、晴文は心の底から悩んでいた。

 

(………アレ絶対、マズいよなぁ……)

『どうしたの?』

『いや、ちょっとな。さっきのアメリカ人、ずっと熱っぽい視線を俺に向けていて……ま、気のせいだろうけどよ』

 

 晴文はIS且つ自分のパートナーでもあるロゼにそう説明する。

 

『なるほど。じゃあ、付き合っちゃいなさい。というか告白しなさい』

『阿呆か。対有事処理班って色々と面倒なんだよ。特に結婚関連は』

『………それ、目の前のバカップルにも当てはまるの?』

『お互い日本人だからな』

 

 晴文らが所属している対有事処理班はISの鎮圧や女権団などの裏の武装組織など違法組織を有事になる前やなった後に処理をする武装組織だ。身体能力はもちろん、思想の方も厳しくチェックされており、当時自衛隊に所属していた晴文にとって渡りに船だったの移籍し、たまに専用IS『ゼロ』を装備してISの暴走も鎮圧している。実は戸高満がそのチームに入ったのは4月頃で、国家代表と特殊チームの仕事を兼任している。

 

『それが外国人となると、話は別だ』

『じゃあ、振る?』

『それもこっぴどくな。あー、出会いが欲しい』

 

 ため息を吐く晴文がIS操縦者になって9年。そんな彼がその事情でさらに疲れるのはまた別の話。


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