IS-Twin/Face-   作:reizen

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目指せ、今月中の完結!


第45話 篠ノ之三姉妹

 スコール・ミューゼルは心から後悔していた。一体どうしてあんな下らない挑発に乗ってしまったのだろうと。

 

「どうして……2対1なのに……」

 

 こちらの連携が取れていないことは理解している。そして切り札を投入して3機で相手しても既に1機落とされた状況だ。さらに悪いことに、死神すら現れる始末。

 

「『もらった』」

「くっ?!」

 

 咄嗟に回避するスコール。しかし「死神」とあだ名された先程もいた黒い機体はオータムをさっさと落とし、今度はスコールに標的を向けていた。

 

(……どうして……どうしてこんな―――)

 

 スコールはプロミネンスコートで周囲を防御する。だがその防御壁はあっさりと消された。

 

「な、何で―――!?」

「『生憎、この機体は特別性でね。零落白夜は既にコピー済みだ』」

 

 スコールは離脱を選択した。

 死神の技量はおそらく織斑千冬を超えている。そんな人間が零落白夜を持っているとなれば自分の機体では相手にならない。

 

「そんな……嘘よ……こんな………こんなこと―――」

 

 彼女は機体の力を決して過信しているわけではない。だが、自分よりも強い相手といつまでも戦っているほど彼女は馬鹿ではない。

 

(ごめんなさい、オータム。でも今は―――)

 

 ―――ドスッ

 

 スコールの胸から大きな刃が飛び出てきた。それが死神が持つブレードの物だと知った瞬間、彼女は言った。

 

「こんなの………かてるわけが………」

 

 そう呟いている最中、スコールは未だ自分を挑発した男と接戦を繰り広げている切り札の姿を見た。

 

「………そうよ……フフフ……あなたがまだいたわね……エム……」

 

 スコールはシステムを弄ると、エムという少女の動きが早くなる。

 

「『何をした……?』」

「あなたたちを……すべて壊す様に……指示を…送ったのよ」

「『………そうか。お前、舞崎静流についてちゃんと調べたな?』」

「ええ、そうよ」

 

 あの男に関してはスコールはすべて記憶している。

 

「『ならば知っておくべきだったな。舞崎静流に上限はないことを』」

 

 瞬間、動きが変わった黒騎士と同時に羅鬼も同様にスピードを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静流が束に負けた理由は、実はもう1つある。それは、「ただ仇を討つことが本当に正しいのか」という迷いを保有していたことだ。

 だが、クロエを助ける技術を持つ少女がいたら? 回復する見込みがあるなら? 移動中にカルテを持ち出して成功例の映像を見せられ―――つまり、信頼に値する技術を見せられたら?

 

 つまり、今の静流は完全に迷いがない。戦いに専念できる―――それはある意味敵にとって最悪のことだ。

 だが今の静流は満身創痍という言葉が近い。機体の装甲は所々消失しており、シールドエネルギーも1000あったはずなのに415となっている。

 

「いやぁ、まさかここまで追い詰められることになるとは思わなかった」

「………フー……フー……」

「だがまぁ………そろそろ夜も遅い。決着をつけるとするか」

 

 そう言って柄を折られた《チェインシザー》の代わりに大型の剣《アクスブレード》を展開した。

 黒騎士は大型バスターソード《フェンリル・ブロウ》を握り、接近する。静流は素早く右腕で《アクスブレード》で受け止めると同時に離して黒騎士の後ろに回る。

 黒騎士はすぐさま反転。するとピンポイントにエムの顔面に蹴りが入り、同時に身体に銃弾の雨を浴びせる。

 エムは無理矢理離脱。だが、それが間違いだった。

 高威力のビームが2本、エムの身体に直撃した。

 

「まだまだ………まだまだだ」

 

 そこからランダムで回転し、さらに束ねるようにビームを飛ばし続ける。

 エムは回避に徹し、ランサービットを盾にして行方を眩ませて不意打ちを選択するつもりだったが、大きな爪を展開した静流がエムの身体を抉るように弧を描いた。

 

「!? ?!?!」

 

 今のは左腕―――そして、右手から始まるラッシュを食らったエムはフィニッシュで食らわされた踵落としで地面に激突。動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。IS学園のバスは既に発進したが俺はまだ花月荘に残っていた。そして残っているのは俺の他に後2人いて、その内の1人は少し複雑そうな顔をしている。

 

「………じゃあ、間違いないんだな?」

「………ああ。私の……父さんと、母さんだ」

 

 にしても遅いな。………まぁ、流石に来れないか。

 本当は篠ノ之束が来てから両親のことを見せようと思ったが、楓曰く「私は所詮子どもだからちゃんとした医療機関で診察してもらうべきです」とのことなので救急車を呼んだのである。治療費に関しては日本政府が出すことになっている。

 篠ノ之はやはりショックのようだ。久々に出会えた両親がまさか大雑把に言えば悪の組織に捕まっていて、第二の篠ノ之束を生み出そうとしていたのだから。

 

「ほ、う、き、ちゃぁああああ―――」

 

 突然現れた篠ノ之束。だが、俺の姿を見たからかその場に停止した。

 

「ちっ。やっぱり生きてたか。何の用だよ、ゴミ野郎」

「ゴミはあなただろう!!」

 

 突然叫ばれて驚いたのは黙っておく。

 

「ほ、箒ちゃん、どうしたの? 何で?」

「一体誰のせいでこうなった? 言うまでもなくあなたのせいだ! あなたがISなんかを発表したから、私たち家族が巻き込まれた!! 違うならば今ここで言ってみろ!!」

「で、でもさ、私がISを作ったから箒ちゃんはいっくんと再会できたし―――」

「作らなかったらずっと一緒にいた!!」

 

 聞いた話だと、篠ノ之の家は道場もあるから引っ越しとは無縁の生活だったかもしれないしな。

 

「何が篠ノ之束の妹だ!! 何がISだ!! こんなもの、やはり私には必要ないではないか!!」

 

 そう言って待機状態になっている紅椿を思いっきり投げる。方向的に海の中だろう。………今から拾いに行きたいと言ったら怒られるだろう……な……。

 

「姉さんなんて……やっぱり大っ嫌いだ!! もう顔も見たくない!! とっとと失せろ!!」

「………悪いが、それはちょっと困るな」

「何?」

 

 まさか俺に止められるとは思わなかったらしい。篠ノ之箒は驚いて俺を見るが、実は本題がある。

 

「………もういいぞ」

 

 近くの岩から、10歳ぐらいの少女が顔を出す。妹はその顔を見て驚愕し、姉は心底嫌そうにその存在を見た。

 少女―――楓は俺の方に来て服を掴んだ。

 

「………舞崎、そいつは何だ?」

「………ほら、自己紹介してみろ」

 

 こればかりは本人の口から言わせるべきだと判断した俺は促すと、少女は自己紹介をした。

 

「……し……篠ノ之楓……です……」

 

 そう言うと恥ずかしいのか、俺の後ろに隠れる………身長差もあってあまり隠れられてないけど。

 戸惑う妹とは対象的なんてレベルではなく、どす黒い殺気を放つ姉がこっちに迫ってくるので文字通り軽く捻って彼方に飛ばす。

 

「………で、その子供は一体何なんだ? 歳はいくつだ?」

「じゅ、10歳です……」

「………待て。計算が合ってないぞ。仮に2人から生まれたならば6つのはずだろう!?」

「………私は……その……」

「その前に、あれは良いのか?」

「昨日、お前が激怒して追って行ったことと今回の事で完全に見切りをつけた。拘束されて犯されていようが殺されていようが知ったことではない」

 

 すると姉が抗議の声が当たりに響いた。

 俺がしたのもなんだけど、すぐ崖の所で受け身を取りつつ倒れたするこいつってやっぱり変人だよな。

 

「酷いよ箒ちゃん!? IS作ったよね!? それに私、ずっと箒ちゃんのことを―――」

「ストーキング?」

「………舞崎、向こうで話さないか? あんな女など放っておいて」

 

 マンガならば間違いなく「ガビーンッ」みたいな擬音があっただろう。

 まぁ、自業自得だな。話は聞かないわ、少女を平然と殺そうとするわ、一緒にいた女すら殺そうとするわ、信頼を失う行動を本人がしているのだから仕方ないだろう。

 

「聞けば、あなたは私の友人が可愛がっていた人を撃ったそうですね。あなたの目的はわかりませんし、もう理解する気すら起こりません。いっそのこと、もう縁を切ってくださっても構いません。あなたという害悪のせいで私たちの人生は何もかも無茶苦茶だ」

 

 完全な拒絶だった。あまり言い過ぎると暴走する可能性もあるが、それが妹としての本音なんだろう。

 

「………黙れよ。私がいなければ、何もできないくせに!! 未だにいっくんにすら告白できない臆病者の癖に!!」

「凡人の気持ちも理解できない自称天才のくせに何を!!」

 

 今にも戦闘に入りそうな勢いなので、俺は2人の間に割って入る。

 

「はいはい。そこまでにしろ」

「黙れ蛆虫! 引っ込んで―――」

 

 目潰し鼻折り両足壊して顔を掴んで岩に顔面を打ち付ける。

 

「だけど残念! この束さんに効きません!! 何せこの天才束さんは―――」

 

 瞬間、俺は篠ノ之束の両足太ももにトンファーを銃形態にして撃ち抜いた。足の向こうの景色が見えている。

 

「だ、大丈夫……束さん挫けな―――」

「そうか」

 

 俺は温かい目で篠ノ之束を見る。篠ノ之束も俺に釣られてか笑みを作った。

 

「―――じゃあな」

 

 心臓を思いっきり殴る。あれで死なないなら思いっきり殴ったくらいが心臓を止めるのにちょうどいいだろ。

 

「俺はあの子供がクロエを助けてくれた恩人だから、その恩人がちゃんと家族と会って話したいというからアンタを呼んだだけにすぎない。俺は最初から、テメェを許した覚えはない」

 

 ま、聞こえていないだろうけどな。

 俺はそのまま奴を尖っている岩の上に押してその場を離れる。外れようが外れまいがどうでも良かったからだ。

 

「………舞崎……お前は……」

「悪いな篠ノ之。俺の事を軽蔑してもらっても構わない。あの女がどんな奴であれ、俺は人を殺したんだからな」

 

 とはいえ、なまじ手を抜いても勝てる相手ではないのも確かだ。………それをわかっていながら心臓を抉っていないのは2人に残酷なシーンは可哀想だと思ったからである。

 

「気にするな。もうあの女はそうでもしないと私たち凡人に波長を合わせることができない存在となっている。………舞崎みたいに凡人のすべてを理解せずとも、姉さんみたいな人間にも歩み寄ろうとすることができる人間もいるのにな」

 

 それで良いのかと言いそうになったが、これは姉妹の問題であるため俺は深く追求しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之束の身体は人のそれとは違う。

 本人が手を加えたというのもあるが、身体は頑丈で回復能力も人の50倍は有している。だが、弱点として脳と心臓を止められると死ぬという部分が残っているが、その前に大抵のことは回避できていた。

 

「………何だよ……これ……」

 

 なのに彼女は今日、殺されかけた。

 昨日の仕返し―――いや、そんな生半可なものではない。彼女は走馬灯を見せられ、見たくもない過去の事を思い出させられた。

 彼女が楓を殺そうとしたのは単に気に入らないから。彼女は今までそれが許される立場にあった。許される状況を作り出すことができた。なのに今日、妹にも見捨てられ、目的を雑草のような存在に邪魔された。

 

「…………不愉快だ」

 

 ずぶ濡れになった体と服が一瞬で乾く。そして束は一直線に静流のいる方向に走り、殴りかかった。

 

「―――ちっ」

 

 すぐに反応した静流はそれを受け止めて防ぐ。

 

「な、何で……」

「もうお前らの理屈なんて、この私に通じないんだよ!!」

 

 宣言するように言った束はそこから消えた。

 そして箒の後ろに現れて首を斬ろうとしたが、背にして守るように立った静流に防がれる。

 

「な、何で……」

「さっき、俺が全く同じことを言ったけど………まぁ、あれだ」

 

 静流が笑みを浮かべながら。

 

「恨みつらみ抜きでアンタと戦っておかないと後悔するって思ったんだよ」

 

 束に掌打を放った静流。だが束は素早く回避して右足で静流を蹴り飛ばそうとした。それよりも早くトンファーを出した静流が上に弾いて掌打で吹き飛ばす。

 

「………この―――」

「嫉妬してるのか、アンタ」

「は?」

「いや、嫉妬だな。妹を守れる絶対的な立ち位置、そして天才として君臨する絶対的な立ち位置。それが俺と楓に奪われそうになったから、焦ったアンタはとうとう妹の前に関わらず牙を向いた」

 

 言われて束は言葉を失った。

 

「………何で―――」

「アンタは10年前から成長していないからな。10年前のデータが役に立ったというのが1つ。あ、そうだ。篠ノ之箒、お前はたった1つだけだがアレに感謝しないといけないことがある」

「……何だ?」

「中学3年の1年間だけ、同じ中学に留まらせてくれたこと、だ」

 

 その言葉を聞いた束は、心の底から驚いた。

 束の胸の鼓動が早くなる。その正体に彼女が気付くのはもう少し後の事だった。




スコールが弱いんじゃないんだ。敵になった2機が強すぎるだけなんだ。

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