「舞崎君が行方不明?」
「ああ。面白いことにな。アイツ篠ノ之如きにぶっ飛ばれてやんの」
身内が行方不明だというのに会話をする晴文に正勝はため息を吐いていた。
「お前なぁ。少しは心配しろよ」
「まぁ、心配はしているさ。後1時間程度で進展がないならこっちで動く」
その1時間程度というのは、ロゼの持つ延命機能の制限時間だろう。
クロエが付けられた傷はすぐに死ぬものではない。だが半壊した旅館であるこの場所から移動させるのは遺伝子強化素体ということや戸籍がないという点ではとてもマズいのだ。色々と。
金髪の女性―――スコール・ミューゼルは心から予想外だった。
自分たちが狙っていた舞崎静流が専用機を所有していたこともそうだが、何よりも相手のやる気だ。
「1つ聞きたいんだけど」
「な…何ですか……?」
「お前を借りに救ったとして、メリットとかあるのか? 今1人銃で撃たれて倒れているけど」
―――それはマズい!?
スコールは心から叫びそうになったが、それよりも早く少女―――楓が言った。
「私、免許ありませんけど簡単な縫合でしたら10秒で1人を縫えます!! 銃弾を取り出したり女の子用に傷を消したりできます!」
「………そうか」
瞬間、静流の放つ殺気が膨れ上がり、瞬間移動した。
「グッ!?」
「悪いが、個人的事情によりアンタを―――潰す!!」
スコールも「ゴールデン・ドーン」の尻尾と両手で、さらに火球で攻撃をかける。火球の1つが少女の方に行ったのを見た静流はすぐに援護に入る。
すると羅鬼のハイパーセンサーに楓の顔が表示された。
『こちらは問題ありません。あなたは目の前の敵に集中してください。その人たちは強敵です!!』
「……きょう……てき……?」
―――ニヤァ
スコールは静流の不気味な笑顔を直視してしまった。
(こ……この子、一体何を考えているの……?)
すると後ろで瓦礫が飛ぶ太い音が発せられた。
「テメェ、殺す! 絶対に殺す!!」
「あー、安心しろ。テメェらをボコるのは俺の趣味であり生業であり当然の行為だ。相手になってやるよ」
そう言いながらも静流は楓に指示を送った。
『これは個人間秘匿通信だな。ならばアンタは今すぐ3人が入れる対G用カプセルを用意してくれ。ここから脱出する』
『え……?』
『資材散策はすべて後だ。本当は機体データも奪っときたいがそれは君をある場所に送ってからだ』
『き、機体データならばすべて持ってます。大半が私が作った物なので、必要でしたら他のデータもバックアップを持ってますから』
『そいつは重畳だ。ならば準備しろ』
その頃、スコールもオータムと共に作戦会議を行っていた。
『熱くならないで、オータム。この男は危険よ』
『わかってる。今からこいつを引き裂いてやる!』
『わかってないわ。オータム、連携で叩いてこっちの実力を見せるわ。そしてある条件で寝返らせる』
『条件?』
『女よ。遺伝子強化素体ならこっちにもたくさんいるわ。そのハーレムで手を打たせる』
だがスコールは知らない。静流は遺伝子強化素体だから好きだというわけではないことに。
確かに彼にとっては魅力的な提案かもしれない。だが、今の彼は「クロエを助ける」という一点しか考えていないのだ。
『あの、ここで逃げても彼女らは追ってきます』
『そうじゃなくては困る。なぁに心配ない。俺たちはここから帰ればそれで勝ち。それから先に何をしようが俺の勝手だ』
『……わかりました。あなたを、信じます』
楓は自分のフォルダの中からカプセルを展開。さらに年相応のためかランドセルを背中に展開して両親を中に入れた。
「何をしているの、楓。死にたいの?」
楓の動きに気付いたスコールはそう言うと楓は動きを止めてしまう。
その隙に静流は銃を展開してスコールに発砲した。
「テメェ!!」
オータムがすかさず援護に入る。だがオータム単体では静流は抑えることはできない。
「楓、今すぐ準備を止めなさい。そうなればあなたを殺すわ」
「……でも、私のような人間はそう簡単に作れません。困るのはあなた方なのでは?」
「確かに。でも、問題ないわ。あなたがコアを提供してくれたおかげで我々の戦力は整った。今すぐ各国を攻めても問題ないほどにね。つまり、あなたは用済み。どうやってフラスコを破壊したのかはわからないけど、私は本気であなたを殺すわよ? 嫌なら大人しく従いな―――」
オータムを突破した静流はスコールに迫った。
『
本音は個人間秘匿通信で、建前は普通に通信で言った静流。
「まさかあなた、あの子の技術目的? ならば―――殺すわ」
何かを押す仕草をするスコール。だが、楓からは何も出ない。
「え? 何で? もしかしてもうとっくに―――」
「とっくに殺した。俺は
勝ち誇った笑みを浮かべた静流はスコールを蹴り飛ばした。
楓は喜びながら作業スピードを速める。そして戦っている静流に合図を送った。
『終わりました! すぐに発射できます!!』
「というわけだ。じゃあな2人共」
静流はカプセルに取りついてウイングスラスターを全開にする。
「待ちなさい、舞崎静流。あなた、亡国機業に来る気ない? 遺伝子強化素体の女の子がいっぱいいるわよ。いいえ、それだけじゃない。業績させ残せばいろんなことができるわ。100人の女と寝たって文句言われないのよ?」
「………そいつは魅力的だが、悪いけど俺、好きな女を泣かせる趣味はない」
「………そう。じゃあ死ね!!」
火球を複数展開して飛ばしたスコール。彼女の鬼の形相にオータムは怯んだ。
「ディメンションジャンプ、イグニッション・フルブースト!! ………まぁ、アンタらが俺より上って言うなら考えなくもないが、まずありえないしな」
そう唱えた静流はカプセルごとその場から去った。
「………スコール……奴らは……」
「花月荘よ。Mを起こしなさい、オータム」
その言葉の意味を悟ったオータムは驚きを隠さない。
「許さないわ。あそこまでこけにされて許せるなんてそいつはおかしいわ。………あの男、ブチ殺す」
本気で切れたスコールの恐ろしさを見たことがオータムは慌ててMという存在を呼びに言った。
その頃、花月荘では珍妙な戦いが幕を開けていた。
「俺はお前を絶対に許さない。箒を攻撃したお前を!!」
『あ? 何言ってんのこいつ?』
現在、クロエは端の医務室に寝ており、その前に大きなライオンが寝ていたのが周りの興味を引いていたのだ。そこでとある事情を知った箒が見舞いに行こうとしたが、そのライオン……もとい、レオンに吠えられたのである。
理由は単に気に入らないことが1つ、そしてもう1つが主人の1人であるクロエを殺そうとした女の関係者だからだ。
『大体、こいつ頭大丈夫か? そりゃあ、静流様は色々とぶっ飛び始めているけど比較的常識人だしクロエ様を大事にしているし、何より俺に勝ったから実力は認めるが………どう見ても雑魚だしな、こいつ。行動するのも馬鹿らしいぜ』
「お前、今俺を馬鹿にしただろ!?」
レオンの言葉は一切伝わっていないが、何故か鋭く勘が働いたようで一夏は叫ぶように言った。
『勘だけは鋭いか。聞いた話じゃ「他人の気持ちに全く気づかない鈍感な奴だって聞いたけど。………まさか恋愛面だけってことはないよな?』
実はこのキメラ、人間に匹敵…という程ではないがかなりの知性を持っている。
もし人類がその他の哺乳類との会話をすることができるようになったら一夏は精神が修復不可能なくらい折られるだろう。
―――ん?
嫌な予感がしたレオンは自分の能力を使って障壁を展開すると、カプセルを持った羅鬼が現れた。
「着いたぞ。とりあえずバレないように布を被って出て来い。荷物も一緒にな」
後部ハッチが開き、布を纏った何かが飛び出して来た。それを臭いで判別したレオンが襲おうと考えると、
「レオン、不愉快だろうがそいつを通せ。殺さないという事は俺が保証する」
「………」
「いざとなればバラバラにすればいいんだしな」
「いや、何でだよ!?」
レオンは仕方なくそのナニカを仕方なく通す。それを見て静流はレオンを撫でた。
■■■
「まぁ、簡単に説明するとここに敵が迫ってきているから。以上だ」
「舞崎。頭を出せ。久々に私はキレた」
俺の帰還に事情を知る奴らは全員安堵したが、重大な話があると言って集めて現状を説明した。そのために織斑先生が戸高満に止められている状態だけど、
「安心しろよ。全員俺が止める」
「根拠は何だ?」
「気合と根性」
「………ハンマーはどこにやったかな」
そもそもアンタ、ハンマーを装備しちゃいないだろ。
ちなみにこの場所に専用機持ちは当然0。全員部屋に戻した。
「でだ、その敵の名前はどういった奴だ? 所属は?」
「所属は知らないけど、片方は金髪で露出狂でスコールって呼ばれてたな」
「……………静流。お前はなんてものを引き当ててきたんだ」
クソ兄貴こと高間晴文が本気で呆れている。そんなにマズいことはしていないはずだが。
「そんなにヤバい奴なのか?」
「こちらでは特A認定されている超が付く危険人物だ。現在はコアの収集をしていたと聞いていたが攻めてくるとはな」
「まぁ、あれだけ雑魚だのなんだの言ってこなかったらプライド云々の前に今度会ったら「あ、バカにされてこなかった弱虫だ」と本人の前で言うつもりだった」
まぁ、まだ確定情報じゃないからな。向こうも相応の準備をしてくるだろう。
―――!?
今、何かヤバい気配を感じた気がする。
「敵が来たな。ともかく時間がない。俺は単独で奴らを迎え撃つ」
「IS学園からは私が出よう―――おい、何だその嫌そうな顔は」
「俺の取り分減るじゃねえか!!」
「今そんなことを言っている場合か!」
「……まぁ、アンタには他にやるべきことがあるから、出てくるにしても俺に狩られるにしてもそれをしてからにしてくれ」
怪しそうに俺を見る織斑先生。俺は笑顔で耳打ちすると、
「本気か?」
「すべてはクロエ次第だがな。ま、これだけ上等な餌を釣らせば嫌でも来るだろ」
そう言って俺は部屋を出て羅鬼を展開し、そのまま戦場となる空域に移動する。
すると向こうもやる気満々なのか、殺気を全開―――って、見たことがないタイプだ。
「殺す……殺す……何かも…姉さんも……世界も……すべてを!!」
「おー、おー、昂ってるねぇ。俺、そういうの好きだぜ」
もはやおなじみとなって来た《チェインシザー》を展開し、大型ブレードで迫る敵さんとの死闘が始まった。
■■■
篠ノ之束は唖然としていた。
壊された携帯電話のメールは彼女のラボにも送られるようにもなっていて、そこからでもメールを閲覧することは可能となっているが、その文面に唖然としていた。
『7月8日の午後12時、アンタに関係することについて篠ノ之箒を含めて情報を交換するつもりだ。そのまま消えるつもりならそれも良し。ただし、アンタの妹はもうISを否定し、紅椿にも乗らなくなるだろう。少なくとも俺は信頼を勝ち得ているしそうすることは可能だ。天の上から妹が怒っているのを泣きながら見ておけ、神様気取りのお馬鹿さん』
装置を2つほど衝動的にお陀仏になったのはこれが原因である。
(ふざけるな………何で生きてんだよ。いや、生きてたとしても仮に肋骨が粉々になっているはず。あの場から動けるわけがない)
だが、送られてきたのは千冬からであり、千冬もまた静流がそう言った旨を記載している。
束は悔しがりながらも花月荘周辺を独自に飛ばした衛星と予め仕掛けておいたカメラで確認する。そこには―――自分がいずれ一夏や箒のためにとっておいた敵が静流と戦っていたのだ。
しかも大きな計算違いがあり、静流は銃はもちろん、剣や鈍器を巧みに使い、推定最大スペックの紅椿を凌駕した動きで敵を翻弄しているのである。
『何故だ……何故だ私の『黒騎士』の攻撃が当たらない!?』
『俺の羅鬼の方がかなり上手だってことだよ!! 遅い遅い!! 遅すぎるぞ鈍間!!』
束はこの状態を知っている。いや、ずっと思い描いていた存在だ。だけどそれは妹が先に到達するはずなのに……何故……
「何でこいつが……ISに認められてるの……?」
―――
それはISそのものと同調をして発揮する
束は戦慄した。そして後悔した。絶望させるだけではだめだ。この男を完全に消さないといけない、と。