IS-Twin/Face-   作:reizen

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第39話 めぐりまわる修羅場

 山田先生からの突然の知らせであり、織斑先生としばらく話した後に専用機持ちが集められた。……何故か俺もであるが。

 機体スペックで言えば強化されたとはいえ所詮は第二世代の域を超えない。そんな奴の機体が何の役に立つのか甚だ疑問ではある。

 

「では、現状を説明する」

 

 本来は使われる予定はなかったであろう、一番奥にあった宴会用の大座敷で俺たちに向けて説明がされるようだ。

 投影ディスプレイをより綺麗に映すためか暗くされているが、目が壊れないか心配である。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS「銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

「……………」

 

 んなもん作る暇があったらもっとまともな機体を作れよ。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2㎞先の空域を通過し、日本に向かって移動していることがわかった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」

 

 ………日本にアメリカが関わったISが向かうか、そりゃ滑稽だな。

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は日本からの助っ人と私を含めた専用機持ちに担当してもらう」

 

 そろそろ、か。

 俺は立ち上がりながら全員に声をかける。

 

「んじゃ、俺は部屋に戻るわ」

「え? 何でだよ!? 今の説明じゃ日本が危ないってことじゃないのか?」

「流石にそこまでは頭が腐っていないみたいだな、織斑。だからこそ、だ。仮に俺たちが出撃して任務に失敗しても日本がどうにかするだろ。ならばこの作戦は尚更不必要だ。それに俺はリターンがあったとは言え働きすぎているからな。たまにサボったって罰は当たらんよ」

 

 そう言ってさりげなくラウラの頭を撫でて俺は退出して自分の部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 織斑一夏は疑問を浮かべていた。

 これまでの事を考えれば静流が飛びつきそうなことだというのに、あっさり退場した静流が意外に感じたのだ。

 

 そしてそれは、ラウラと簪、そして箒を除く他の専用機持ちも同様だった。

 だが千冬は知っている側。気にせず話を進めていく。

 

「それでは作戦会議を始める」

「ま、待ってくれ!? 静流は良いのか!?」

「……舞崎は自分が戦えないということを自己申告し、部屋に戻っただけだ。織斑もそうなら部屋に戻ってくれて構わない」

 

 だが、一夏はここに残ることを選んだ。

 作戦会議が始まり、福音の機体データを閲覧して皆はある結論を出した。

 

 ―――機動力が高いため、一撃必殺で沈めるしかない、と

 

 そこで一夏に白羽の矢が立つことになるが、それを千冬が言った。

 

「……安心しろ。今回は織斑が出る必要はない。ただ、《雪片弐型》の使用許諾を出してくれ。デュノア、手伝ってやれ。お前の方が詳しいだろう」

 

 言われてシャルロットは頷いて一夏の手伝いを始めた。この非常時に嫉妬はしている者はいたが事を大きくするつもりはないようだ。

 

「………問題は、福音のところに誰に運んでもらうかだ。お前たちの中で一番早く福音の所に移動できる奴はいるか?」

「それなら、わたくしのブルー・ティアーズがちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーも付いています」

「超音速下での戦闘訓練時間は?」

「20時間です」

 

 千冬は許可を出そうとした瞬間、天井から声がした。

 

「待った待ーった! その作戦はちょっと待ったなんだよ~」

「………やはり舞崎にも作戦に参加してもらうんだった」

 

 思わずそう呟くが、束は構わず下に降りる。

 

「聞いて聞いて! ここは断然、白式と紅椿の出番なんだよ!!」

「………束、いい加減に分別を持て。今は大事な作戦会議中だ」

「ちょっと待って!? 予想外の返しに束さんはびっくりなんだよ!? …ま、それはともかく、紅椿のスペックデータを見てみて! パッケージなんかなくても超高速機動ができるんだよ!」

 

 瞬間、千冬は束の頭部を畳に叩きつけた。

 

「何するのちーちゃん!?」

「ちょうどいい。天才科学者が手に入ったことだし、束。お前が福音を止めろ」

「やーなこった。何で私が石ころ共の尻拭いをしないといけないんだよ」

「ISは元々お前の開発だろう? それに、色々とおかしな点があるんでな。何故お前が行動しないんだ? 仮にもISの不祥事だ。お前が責任を取るのも1つの筋だと思うんだがな」

 

 言われて束は一夏にバレないように舌打ちをして言った。

 

「もーいーよ! ちーちゃんの馬鹿!」

 

 そう言って束は泣きながら出て行く。すると千冬のISの待機状態であるミサンガから電流が走り、一瞬痺れた。

 

「………まさか」

 

 千冬はすぐに外に出てISを展開するが、彼女の専用機となっている打鉄特式は反応しなかった。

 それにより千冬は作戦変更を強いられ、セシリアも「ストライク・ガンナー」の量子変換が終わっていないことが判明し、箒を投入しないといけない事態になった。

 まず一夏と箒が先行し、量子変換終了後にセシリアが合流する形となり、作戦会議は終了する。

 

 ―――しかし、3人………いや、2人は作戦を失敗させてしまい、一夏は昏睡状態に陥った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 本来俺は部屋で監禁されるのが当然なんだが、残念ながら大人しくするほどまともな性格はしていない。

 ノルマの筋トレを終わって外を覗くと、周りは慌ただしかったので様子を見に行った。

 

「作戦は失敗だ。以降、状況に変化があれば招集する。それまで各自現状待機しろ」

 

 そんなことを織斑先生が言っていたので、大体察した。

 おそらく任務は織斑と篠ノ之が担当したが、どちらも未熟だったので作戦失敗ってところか。詳細は後でラウラに聞くとして、今は改修作業に戻るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「………暇だ」

 

 そう言って高校生相当の男がため息を吐く。

 

「………飽きた?」

「うん。っていうか急にテストできないって何なのさ!? せっかくとっておきをたくさん運び込もうってした矢先なのにさ!!」

「………どんまい」

 

 悠夜がそう言って慰めるが、零司にとっては慰めになっていなかった。

 

「せっかく……せっかく静流みたいな奴に懐く女が出てきたから、お祝いによく効く媚薬を持って来たのに!!」

「………本音は?」

「簪と本音に一服盛ってやるつもりだった」

「………………」

 

 悠夜は静かに零司を殴るという制裁を与える。

 

「………今、手加減しなかったよね?」

「………必要性……感じなかった」

 

 そう答える悠夜はさっきからゲームをしているだけではなかった。

 突然の「緊急事態のため、テスト稼働を中止する」という通達は既にされているが、ほとんどの人間が帰っていない。今のところ倉持技研に所属している零司とそのアルバイトである悠夜は風呂を覗くという目的のために時間を潰しているが、他の人間は全員大人だ。

 

「お久しぶりです、零司さん! 悠夜さん!」

 

 突然声をかけられた2人は後ろを向くと、かつて彼らが所属していたチーム「ブラッドデーモンズ」のメンバーがいた。

 

「あれ? こんなところでどうしたの? もしかしてみんなも夜まで待ってIS学園生の風呂場を覗くつもり?」

「ええ、そうで―――すみません。冗談です。たまたまこの辺りを通ったら珍しい顔ぶれがいたので声をかけさせてもらったんです。お久しぶりですね―――でも、邪魔ですね」

 

 突然の事だった。

 悠夜が持っていたゲームが叩きつけられ、驚いている間に悠夜は刺された。

 

「悠夜!」

「おっと」

 

 ―――トンっ

 

 零司は動きを止める。

 

「………一体、どういうつもりだい?」

「いやぁ、ずっとあなたたち3人は目障りだったんですよ。だからこの際、3人には退場してもらおうと思ってね」

 

 そう言って声をかけた男は引き金を引く。辺りに銃声が響くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 汗でシャツがべたべたしてきたので温泉に入ってから出ると、篠ノ之が泣きながら部屋を出て行った。

 俺は部屋を軽く覗くと、織斑が倒れている。俺が死にそうになった時に着けられたものが諸々装着されているが、そういうことなのだろう。

 

(………馬鹿な奴だな)

 

 織斑は経験が圧倒的に不足している。こいつは成長速度は早いが、状況判断が上手くできているわけではないし、何よりも馬鹿だ。そんな奴を任務に出すことになった状況を作り出した奴は相当なアホだろう。

 そしてさっき、篠ノ之が出て行ったということはろくなことではない。

 俺の足は自然と浜辺に向かっていた。篠ノ之が持っていると思われる紅椿がそっちにあるからだ。………捨てたかもしれないがな。

 俺が着いた時には既に代表候補生が囲んでいた。………更識がいないな。まぁ、あの女は放置で良いか。

 

「やるべきことがあるでしょうが! 今! 戦わなくてどうすんのよ!」

「……わ……私はもう……ISは使わない」

 

 凰が篠ノ之をビンタした。……凰って力強いんだな。判断が遅いだけかもしれないが。

 

「甘ったれてんじゃないわよ………。専用機持ちっつーのはね、そんなワガママが許されるような立場じゃないのよ。それともアンタは、戦うべきに戦えない、臆病も―――」

 

 今度は篠ノ之が凰をグーで殴った。

 

「…………黙れ」

 

 ………様子がおかしい。篠ノ之から殺気が出ている。

 

(………これって……)

 

 場数の差か、俺よりも弱いがこれは何かが弾けた時の状態だ。

 

「お前たちに何がわかる………私は、ISが嫌いだ!! 未だに子どもな姉さんも嫌いだ!! 全員が私にISを押し付けて何が楽しいんだ!? IS学園に入ったのも、入れられたんだ! 私はもっと別の所が良かった!! なのに誰も聞いてくれない!! 私はお前たちとは違う!! 好き好んであんな、あんな女の妹になったわけじゃない!! お前たちみたいにISに関わりたくて……専用機を持ちたくて持ちたかったわけじゃないんだ!!!」

 

 おそらくそれが彼女の本音だろう。

 更識以外のその場にいる専用機持ちたちは言葉を失う。俺は降りていくと篠ノ之が駆け寄ってきた。

 

「舞崎!」

 

 拳が迫るが、俺はそれを敢えて受けた。

 

「アンタ……」

「……舞崎……どうして……?」

「流石に木刀じゃ回避していたけどな。でも流石にダメージ来るわ」

 

 拳が頬から離され、俺は頬をさする。そして篠ノ之を引き寄せてクロエやラウラを扱うように頭を撫でた。

 

「ま、舞崎!? 何を―――」

「いや、こうすれば落ち着くだろ?」

「………義兄様、浮気ですか?」

「お前にも何度もしてるだろ」

 

 温泉内でも、風呂場でもしてただろ。

 

「ま……ままま……舞崎!? さ、流石に落ち着いた……落ち着いたから離してくれ」

「……そうか。なら良いけどな」

 

 そう言って離してやり、少し離れる。

 

「ところでお前ら、これから敵討ちか?」

「……そうよ。アンタも来てくれたら嬉しいんだけど……」

「それはできない相談だな」

 

 成り行きならばともかく、俺は織斑に対して思い入れはあまりない。所詮今の奴は俺にとって石ころ程度の価値しかない。

 

「どうしてですか……? 一夏さんはあなたにとって―――」

「取るに足らない存在だ。むしろ、そろそろ雑魚の癖に鬱陶しいハエだと思っているほどだ。だがラウラ」

「……何ですか?」

「お前は俺に縛られる必要はない」

 

 その言葉の意味を察したのか、ラウラは驚いた顔をした。

 

「悪いが俺が好きなのはお前じゃない。だから俺はお前を縛る気はない」

「………そう……か……」

「とはいえ、流石にこのままじゃ目覚めが悪いからな」

 

 ラウラの手を取り、俺は彼女の左の中指に指輪を嵌めた。

 

「……義兄様……」

「勘違いするな。回数は数回だけの効果は薄いものだ。放置したとはいえ、それで死なれたら目覚めが悪いからな」

「…………わかりました」

 

 俺は踵を返してそのまま自室に戻る。そろそろ日が沈みそうな夕方だった。

 

(………寝るか)

 

 寝れるときに寝ておこう。何か、嫌な予感がするから。

 

 

 

 そしてその数分後、ラウラたちは織斑の敵討ちに出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 太陽が半分以上沈んだ頃、花月荘に助っ人が向かっていた。日本の国家代表の戸高満とその付き人の武藤正勝である。

 急を要することで、2人はまた呼び出されたのだ。

 

(…………1週間休んでも問題ないだろうな)

 

 内心、正勝はそんなことを思って車を運転する。

 

「………一体何だろうね、この機体の目的って」

「さあな。本州を攻めるわけでもない。かといって近くの花月荘を襲うわけじゃない。……交戦して3時間以上、あのように固まって―――嘘だろ!?」

 

 正勝は驚いて叫ぶ。

 

「………これ、一体どういうこと?」

「織斑千冬は何をやっているんだ」

 

 すると、後部座席から人の舌打ちが聞こえてきた。

 

「………どうせ、織斑一夏の敵討ちだろう。………まぁいい。戸高、出るぞ」

 

 運転中だというのに、ドアを開け、飛び出した。

 

「………済まない戸高さん、付き合ってやってくれ」

「ダーリンの言う事なら喜んで」

 

 そう言って満も同じようにドアを開けて飛び出し、ISを展開する。先に出たのとは違ってドアをちゃんと締めて行ったが。

 

「………そのまま説明すればいいか」

 

 再び正勝は長期休暇を申請することを心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった1人を残して役者が揃い始める。

 各々はそれぞれの野望のために動き始める。だが、まだ誰も知らない。

 

 ―――自分たちは所詮、特別ではないということを


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