IS-Twin/Face-   作:reizen

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第3章 闇が渦巻く臨海学校
第34話 舞崎静流の暴論


 IS学園は建設に多額の費用をかけていて、特に運動部は生徒の身体的な向上のために施設に力を入れられている。

 柔道部員が外でランニングをしている間という制限時間の中、1人の男性操縦者に対して一夏、箒、セシリア、シャルロット、鈴音が対峙している。5人は静流を囲うように戦闘態勢を取っていた。特に一夏と箒は木刀を、鈴音は物干し竿を、セシリアとシャルロットはエアガンを装備していた。対する静流はゴム製の短い刀身のサーベルを使用している。明らかに舐めた行為だが、一夏を除いた女子陣には受け入れられた。

 

(俺は別に構わないけど、実際のナイフとか持ったら今度臨海学校は休まされると思うけど?)

 

 その言葉に何を想像したのか、あっという間にそう言った構図が完成したのである。

 まず最初に動いたのは一夏だった。いつも通り雄たけびを上げて静流に接近するが、静流は動かない。すかさずセシリアとシャルロットが援護射撃をし、鈴音は時間差で一夏の後ろから接近。箒は迫ると見せかけて静流の後ろに移動した。

 静流はまず一夏よりも早い弾丸を回避し、一夏の腹部に素早く潜り込んで腹部を殴る。そしてそのまま顔を蹴り上げて鈴音の妨害をさせた。

 

「届け!」

「覚悟!」

 

 前門の虎、後門の狼、そして左右から援護射撃。だが静流は素早く安全地帯に移動してサーベルを投擲してシャルロットの顔面にぶつける。迫る竿を掴んで体勢を崩しながら箒にぶつけるように逆に振った。

 

「え? ちょっ!?」

 

 まさか自分が振られると思わなかったのか、鈴音は慌てて手を離すがそれが逆に箒の邪魔になった。

 

「くっ!?」

 

 すぐに後ろに下がる箒。勢いを殺されて慌てるが静流はそのまま物干し竿をセシリアに手にぶつけた。

 

「隙あり!」

 

 倒れたはずの一夏が起き上がって静流に向かう。腰に掴まれて体勢を崩された静流は後方回転飛びを応用させて一夏を背中から落とす。

 

「もらった!」

 

 箒が再び迫る。そして突きを繰り出すが静流が右に大きく体を傾けて刀身を掴んで逆に引き寄せられた。

 

 ―――ゴンッ

 

 額に軽く小突いた程度の肘討ちした静流。力をゆるんだ瞬間に木刀を奪い、一夏の腹部を蹴って拘束を離脱した後に動こうとする鈴音の喉にいつでも打てる体勢で先端を向けた。

 

「オルコットは両手首火傷により戦闘不能。デュノアは頭部にナイフが刺さり死亡、織斑は気絶で篠ノ之は顔面を破壊されて戦闘不能。そして、凰鈴音は動けないところを持って帰られて慰安婦としての扱いを受けさせられるってところか。今の時代だったら両腕を手錠か何かで拘束しとけば俺の知り合いなら容赦しないと思うけど? それとも、ここからどうにか抗ってみる?」

「………参りました」

 

 そう宣言する鈴音。それを聞いた静流はさっそく箒の所に行って尋ねようとしたら、

 

「舞崎静流はクールに去るぜ」

 

 小さくそう言って宣言通り静かに去った。

 何故こんなことをしているかというと、話は少し前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なぁ、静流って実際どんなに強いんだ?」

「少なくともお前みたいなミジンコなら相手にならないと思うけど?」

「いや、そう言うんじゃねえよ。なんて言うかさ。日頃から模擬戦でも手加減されている気がするんだ」

「…………………織斑の勘が当たった……だと……」

 

 本気で驚いた俺は思わずそう言った。

 それが不服なのか織斑が俺を睨む。

 

「何だよ。俺、勘は鋭い方だぞ」

「いや、それはまずない。ありえない。お前レベルで勘が鋭いなら、この世界にいるすべての人間は漏れなくニュータイプになってる。そしてオルコットのビット操作は少しはマシになってる」

「……いや、何でそこでセシリア……?」

 

 引きこもりが言うには、オルコットのビット操作は不完全なんだそうだ。ちなみにこれでもかなりボカシて言っているが、実際は「え? この程度の実力で自分がエリートとか言ってるの? ビット操作とか自分と他のを同時に動かして初めて意味を成すのに。むしろこの程度なら猿でもできる」と本気で言っていたくらいだ。

 

「まぁ、ISで戦っても何が得られるかという疑問があるというか、個人的にはもう少し力を発揮できる場面が欲しいんだよ。だってIS学園の生徒のレベルって……ぶっちゃけクソじゃん?」

義兄様(にいさま)、それは流石に可哀想かと思います。そもそもと……総督と対等に戦える時点で義兄様の実力は他の生徒が立ちはだかるのは難しいかと」

「あー……やっぱりそうなん? なんかやる気出ないなぁ」

 

 いつの間にか俺を「兄」と呼んでいるラウラはさておき、俺はフライドポテトをつまみながら思った。

 

 ―――もう1度、武藤さんに喧嘩を売るか

 

 フラストレーションは溜まっているだろうし、こっちも不完全燃焼だからたまにはリフレッシュしないとな。

 

「却下だ」

「何で!?」

「最近の貴様の行動が目に余るからだ。勉強などは手を抜いていないことは褒めてやるつもりだが、だからと言ってせっかくの日曜日をそれで潰すのは勿体ないだろう。というか、おそらく今度の日曜日は忙しくなるからその暇はないぞ?」

「………何で?」

 

 今度の日曜日は臨海学校の前日だが、それが一体何だと……ああ。

 

「でも宿泊セットを揃えるのはすぐに終わるだろ?」

「………水着はどうするつもりだ? 初日は1日フリーだぞ?」

 

 ……そんなもん、決まってる。

 

「スク水で遠泳」

「………お前には遊ぶという選択肢はないのか」

「何言ってんだ。青い空に白い雲。見えるは砂浜と海と言ったらランニングか遠泳の選択肢以外はすべて邪道」

「……海にデートは行ったことがないのか?」

「誰とロマンチックに愛を語らえと?」

「………ラウラという選択肢はないのか、貴様には!?」

 

 いや、姉は姉、妹は妹だろ。物事はキッチリと分別しておかないと。

 

「あのな、織斑先生。いくら血がつながっているって言ってもちゃんと線引きした方がいい。アンタら姉弟は性別はもちろんアホの度合いも違うんだし、篠ノ之に至っては頭のできが違う」

「………ほう。お前には好きな人がいるのか」

 

 ニヤニヤと気持ち悪い笑顔を作る。周りも珍しいものを見るような目で俺を見てくるが、

 

「別におかしくないんじゃね? むしろアンタら教師は少しはマシな思考を持ったらどうだ? 元代表候補生なら払いは良いはずなんだし、男を養うこともできるのにそれをしないとか、真っ当な女としてどうなの? 実際、女権団だって「女が権利が上だ」と主張するのは勝手だけど、従ってくれる男はいるんだしそう言う男を飼うという意味で囲うことぐらいは………あ、ごめん。そういえば俺がこれまで相手してきた女権団ってブスしかいないから無理だわ。むしろ焼いてでも拒否したい。

 

(……仕方ない。本当は頼りたくないけど……)

 

 渋々俺はあのジジイに修行してもらおうと思っていくと、あの雑魚共を鍛えるように言われたのである。

 そして、今に至る。……っていうか、

 

「お前ら、責めるのは織斑じゃなくて俺だろ。それとするのは反省会だ」

「いや、でも……」

「でももクソもあるか。大体、お前ら本当に織斑の事が好―――」

 

 敢えてそこで言葉を切ると、4人共俺に向かって突進してきたので全員均等に攻撃した。

 とりあえず「何でみんなを攻撃したんだ」と馬鹿なことを言っている織斑には大人しく寝てもらって4人を正座させた。

 

「この際言っておくけど、そんなアプローチで男が簡単に釣られるなんて思うなよ。特に凰、お前は一度周りを見ろ」

「…見ろって……」

 

 大人しく凰は横にいる3人のとある部分を見る。

 

「デュノアとオルコットはC~D、篠ノ之はGはありそうだろ? そしてお前はペッタンコ」

「そんなこと言われなくてもわかってるわよ!」

「待ちなさい! どうしてわたくしのバストサイズをご存じですの?!」

「そうだよ! もしかして僕らのことを調べ―――」

「目測なんだが。それに、言っておくがBカップの奴が変態が相手とはいえ彼氏がいるんだから何も胸がすべてってわけじゃない。確か、4組の代表もBくらい―――」

 

 すると急に電話が鳴る。確かこの着信音はあのアホからか。

 後でうるさいので大人しく電話に出ると、

 

『もし4組のクラス代表に手を出したら、オマエヲコロス』

「いや、出せねえって。そんな趣味は……おい待て。何でお前が4組の代表の話を知って―――」

 

 急に電話が切られた。今度会ったらミンチにしてやると心に決めておき、話を続ける。

 

「ま、つまり言いたいのは女は胸で決まるわけじゃないってことだ。大体、仮に織斑が胸好きだとしたら篠ノ之はとっくにゴールインしてるだろ」

「「「………ああ」」」

 

 哀れな視線を向けられる篠ノ之の抗議の睨みはさておき、そろそろ柔道部員が戻ってきたので俺たちも解散することになった。

 

「ところで、何故柔道場を借りれたんだ?」

「部長を頭から10回ぐらい落とした」

「………変わったな、お前は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 整備室で打鉄の改造を終えた俺は気晴らしに寮の屋上に移動すると、珍しいことに先客がいた。

 この屋上は俺以外は校舎とは違ってあまり整備されていないから訪れる奴はいないと高を括っていたが、どうやら物好きはいたらしい。

 

「女はもう帰ってろよ。夜道じゃ襲われるぞ」

「………本当、お前は変わったな」

 

 その物好きこと篠ノ之は俺にそう言った。

 

「いや、むしろ元に戻ったというのが正しいな。………というよりも遅すぎた」

 

 もう少し早ければよかった。ISを初めて動かした時に戻っていれば、女は逆らうことをしなかったのかもしれない。

 

「それよりも、意外なことがあるんだけど」

「…何だ?」

「何で篠ノ之は専用機を姉からもらおうとしないんだ?」

 

 率直な疑問をぶつけてみた。

 そもそも、篠ノ之にはその権利はあるだろう。周りが批判しようがなんだろうが、俺ならば援護できる

 

「…………」

 

 だが、された側の篠ノ之は俺が何を言ったのか理解できていないのか、それとも理解が追いつかないのか呆然とした顔で俺を見ていた。

 

「………お前は、私が専用機を持っても良いと思っているのか?」

「むしろ何で入学した時点で持っていないのか不思議でならない」

「そこまでなのか……?」

 

 まぁ、これはあくまで他人からの意見だが………そもそも篠ノ之箒は周りからのプレッシャーが激しい中で中学時代を過ごしてきたそうだ。俺と出会って連れ出すようになってからはなくなってきているようだが、とにかく日本政府は篠ノ之束の居場所を知りたがって拷問という程ではないが苦しい思いはしてきたらしい。という情報を早坂から手に入れた……というよりもお節介で送ってこられたんだが。案の定、奴のイタズラのようで向こうは俺と篠ノ之が付き合っていると思っていたらしいのだ。

 

(……だからこそ、こうして情報を知り得たことは十分か)

 

 久々に感謝しておくか。……初めて感謝したのは勉強で詰まっていた時にわかりやすく説明してくれた後に、延々と俺が女の子たちとの時間を邪魔したことだろうけど。

 

「それに、学年別トーナメントではそれなりの順位を残したんだから別に問題じゃないだろ」

「………知らなかったのだ。まさかあの女が専用機を完成させていたとは」

「……あの女?」

「更識簪。4組のクラス代表だ」

 

 ………誰が完成させたのかわかったわ。

 

「まぁ、それは運が悪いことで」

「………信じられなかった。私も勉強のために薙刀の試合に出たことがあるのだが、あのように素早く攻撃できる存在など私は知らん。それに、機体のデータがただの打鉄の発展機ではなかった」

「………あれがただの発展機を作るとは思えないのだがな。たぶん製作者は早坂零司。奴が作ったら並大抵のものは常識を外れるからな」

 

 本人の装備も物凄く常識を超えているし。

 

「……確か、そいつは舞崎の友人だったか?」

「友人、程度で済めばいいんだがな。ともかく、そいつらの話はあまりしたくない」

 

 ……すれば戦いたくなるが、零司は仕事で忙しいしもう1人は条件付きで強くなるタイプだしな。

 

「………そうか」

「で、何で専用機を持とうとしないんだ?」

「……私には、病気があるからな」

 

 それは、本当にくだらないことだった。

 篠ノ之は力を持つとそれを振るいたくなる病気があるらしいが、聞いていて本当に馬鹿らしかった。

 

「………別に間違ってないだろ」

「何?」

「いつもの自分とは違う強い力。それを振るいたいというのは別に恥ずべきことでもなんでもない。だったら俺は今の力がどれだけ通じるか試したいだけの子どもだぜ。ま、武道じゃ心を律するという考えもあるだろうが、俺らにとっちゃクソ食らえ。確かにある程度のセーブは必要だし、ISは兵器でオルコットのBT兵器なんざ一瞬で人を塵と化すが………お前はそういう方向で力の使い方を間違えるような間抜けなのか?」

「………それは違う」

「じゃあ、別に持ったっていいじゃねえか。大人は処理に追われるだろうが、そんなのどうした。高がそれだけだろう?」

 

 全く。こいつは変なことで悩みやがって。

 俺はため息を吐いてドアの方に行く。

 

「じゃあ、俺は寝るわ。あんまり遅いと担任がうるさいんでな。後、織斑を誘えよ。そろそろ他の3人も動いているぞ」

「わ、わかってる!」

 

 ああは言ったが篠ノ之は変な躊躇いがあるから絶対に間に合わないパターンだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっさと帰っていく静流の背中を見ながらを箒は内心思う。

 

(………私が専用機を持つ、だと)

 

 性格上、箒が頼めば束は確かにISをくれるだろうということは理解している。だが、そんなものは箒のプライドもそうだが、なによりも彼女が引け目に感じるからだ。

 

(……逆に聞きたいさ。ならば、何故専用機持ちを潰して来たお前が専用機を持たないんだ……)

 

 だが、箒には許せないのだ。実力は国家代表すら相手になるのか怪しい。それほどまで底知れなさを感じる男が未だに専用機を持たないという異常な状況。それなのに、相手にならない自分が専用機を持つなどおこがましい。同じ土俵だからこそわかる圧倒的な差を。

 箒は感じていたのだ。自分と静流の圧倒的な差、何かの間違いで静流を本気にさせて戦うことになった場合、他者が介入する間もなく自分が消されることを。




箒は一夏から静流に揺らいでいるわけじゃありません。というかお互いがただの友人程度の認識しか持ってません。

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