IS-Twin/Face-   作:reizen

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第33話 ブチ切れるのも仕方ない

 ホテルに帰るとボーデヴィッヒが買った服を着て遊んでいたことが印象的だったが、それは同時に向こうが大変なことになっているという目安にもなったのである意味助かった。顔を赤くしていたのがクロエとダブったせいか、気が付けば頭を撫でていた。

 そして、必要なものを受け取って帰国した俺に待っていたのは拳骨だった。

 

「拳骨を受け止める奴があるか! 大人しく受けろ!」

「アンタの攻撃は遅すぎるんだよ」

「そうか」

 

 武藤さんの拳骨は痛かった。

 

「全く。向こうに行ってから君はやりたい放題しすぎだ」

「それもこれも、IS学園にまともに俺とやり合える相手がいないのが悪い」

「……1人いるだろう」

「やり合えるってことは、鍛え、戦える相手ってことだよ。ああいうラスボスを倒すまでのレベルに俺は達していない」

 

 そう、まだ足りない。

 場合によってはあのジジイが俺の敵になる場合だってあるんだ。そうなれば今の俺なんて完膚なきまでに叩きのめされるだけだ。

 

「まだ足りないんだ。向こうじゃ1人を除けば雑魚しか相手していないからな。いや、あのジジイのレベルを考えれば武藤さんたちの組織を壊滅させないと話にならない……」

「………それはすごく物騒だな」

「あの、流石にそれは困るんで、この女で勘弁してください」

 

 そう言って戸高は織斑先生を差し出した。

 

「………でも弱いしな」

「ならば今度本気で相手をしてやろう。その減らず口を二度と利けなくしてやる」

「それは楽しみだ。その時は本気を出しても良いんだろう?」

「………それで君は1度長期入院していたよね?」

「中学の時は体ができていなかったから。今なら大丈夫ですよ」

「今も禁止だ」

 

 俺はあからさまに嫌な顔をするとため息を吐かれた。……だってぇ。

 

「……相変わらず苦労しているようだな、武藤」

「中学の頃は問題児が3人いたからな。……ラウラちゃんが大人しくて助かった」

「待て。私も問題児に含まれているのか!?」

「……委員会の仕事を放って篠ノ之と遊びに行っていた奴を問題児以外にどう表現すればいい?」

 

 その言葉に俺は顔を引き攣らせた。というかこの教師、一体何をしているんだ……。

 

「それはだな……」

「まぁ、そんなことはどうでもいいから教室戻っていいか?」

「ああ。そろそろHRも終わる時間だろうしな」

 

 武藤さんがそう言うと、IS学園に爆音が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 話は数分に遡る。

 投影ディスプレイではシャルル・デュノアのことが取り上げられており、実は彼は女でありIS学園に男として入学させたのはフランスからIS学園に入学した生徒が男性操縦者が入学されたことによって目的を見失っているということがとある男性操縦者によって聞いたので、その調査並びに撒き餌として男装させて入学させたのだという。

 

『特に昨今では女性による男性に対する風当たりが強く、場合によって過度な行動を起こす人間が出てくるかもしれない。そのため我々はフランス人がそういった物に加担しないために抑止力として現在候補生の中でも高位に位置するシャルル……いえ、シャルロット・デュノアさんを派遣しました。幸いなことに我が国の人間がそう言ったものに手を染めた者いなかったのですがね』

『ですが、彼女はあの織斑一夏君と同居していたのでしょう? 会社独自でデータを取るなどはしなかったのですか?』

『はい。IS学園の学園長には既に事情を説明していたので、そのようなことを行った場合はすぐに確保し行うべき処置をして構わないと最初から言っていましたので』

 

 『ま、最初から信頼の足る人物に行かせましたので。データもIS学園から委員会に渡っています』と説明する担当。そこまででいいと判断したのか、真耶はテレビを消して説明した。

 

「ということで、デュノア君はデュノアさんでした。みなさん、仲良くしてあげてくださいね」

「よ、よろしくお願いします」

 

 当然、シャルル改めシャルロットもこのような状況に内心焦っていた。千冬にすべてを打ち明けようと話したら急に別の場所に連れて来られて女子の制服を渡されて詳細を説明からである。

 

『少々苦しいがな、お前はフランス人の動きが歪んだ方に向かっていないかを確認するため「男」として入学し餌になった、ということで今日から女として通え』

『え? どういうことですか……?』

『知らん』

『知らないんですか?』

『そうだ。急に学園長から話を聞いてな。IS学園の制服はカスタムできるようになっているから、後でデザインを描いて持ってこい』

 

 そう言って千冬は出て行った。シャルロットから見てかなり疲れている風だったので忙しいのだろうと自己完結したのである。

 だが、他にも問題があった。

 

「じゃあ、デュノア君って女……なの……?」

「おかしいと思った! 美少女だったのね」

「……って織斑君、同室だから知らないってことは―――」

「ちょっと待って! 昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」

 

 そう。これまで男として接していたため質問攻めにされる可能性が残っているのだ。もっとも、それだけじゃないのだが。

 

「一夏ぁッ!!」

 

 ドアを思いっきり開けて乗り込んでくる2組のクラス代表。顔の各所に血管が浮かび上がっている。

 

「死ね!!」

 

 そして容赦なく衝撃砲を展開して一夏に発砲した。

 爆音が響く。一夏は自分が死んだことで様々な走馬灯が見えた気がしたが、やがて鈴音の激しい息遣いが聞こえてきたので生きていることに気付く。

 

「全く。代表候補生が周りに人にいるのにも関わらず容赦なく撃つとはな。私が言えたことではないが、少しは立場を考えたらどうだ?」

「あれ? ボー……ラウラ? そう言えばここ数日どこにもいないって千冬姉が言ってたけどどうしたんだ?」

「ふむ。少しばかり帰国していた。それと織斑、転校初日に逆恨みして殴って済まなかった」

 

 頭を下げるラウラに困惑する一夏。ちなみに彼が「ラウラ」と呼んだのは名前が言いにくかっただけである。

 

「いや、その、急にどうしたんだ?」

「考えてみれば、貴様のような馬鹿で愚鈍で鈍感でアホで弱くて弱い一般人がいざという時のための対策をしている方が間違っていたんだ」

「それ本当に謝ってるのか!? というか何で弱いって2回も言った!?」

 

 急に飛んできた罵詈雑言に涙目になる一夏。

 

「それと、凰にオルコットも悪かった。いくら織斑をおびき寄せるための餌で予想外に弱かったとはいえ、ルールを超えてサンドバッグのように殴ったのはこちらに非がある」

「あなた、それで謝っておられるつもりですの?!」

「ふむ。舞崎静流が言うには「一応雑魚に謝っておくべきだが、ちゃんと毒を吐いて線引きする必要がある」ということだ。毒というものは罵倒と教わったから早速実践してみた」

 

 2人の怒りが静流に向いた瞬間である。

 一夏はそこで疑問が湧いたが、それよりも早く静流が現れて殺気を放ったので咄嗟に後ろに逃げる。

 

「で、何でまたISを展開してるんだ?」

「そ、それは………一夏とデュノアが一緒に風呂に入ったから……」

「………そうか。でも、ISを展開するのは違うよな? それとも織斑が貧乳かつ魅力ゼロのお前にセクハラでもしたか?」

「殺すわよ?」

「OK。だがここはアリーナじゃない。そして俺たちには拳がある。IS以外にも武器を使う方法も知っている。後は、わかるな?」

 

 満面な笑みを浮かべる静流。そんな時に鈴音に希望が湧いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ。凰、今すぐISを解除しろ」

「待ってください織斑先生! 私、死にたくありません!」

「だったら最初から展開するな。それとデュノア」

「は、はい……」

 

 「ISを勝手に使用した馬鹿」を正義の名の元に制裁を加えようとしたら、織斑先生がその邪魔をしてきたので俺は舌打ちをした。

 

「まさか貴様、変なことはしていないだろうな」

「織斑先生、それはこれを使えばわかることなのでは?」

 

 俺は凰の装甲を掴んで言った。

 

「……具体的に、何をするんだ?」

「まず凰にこのまま横になってもらいます。そして腕を突き上げてもらい、デュノアには股を開きながら勢いを付けて座ってもらいます」

「……舞崎、本気で言っているか?」

「それで処女なら膜が破れるだけ。そうじゃないなら黒と断定してIS学園で調べて内容を全世界に対して発信するというのはどうでしょう? あ、座るのは5回ぐらい……いや、10回―――」

「織斑先生! 私は断じて織斑君と何もなかったことを誓います! 一緒にお風呂に入っただけで、それ以上のことはしていません!!」

 

 どうやら本気で怯えているらしい。直立不動でそう宣言するデュノア。そしてクラスメイトや凰は「なんてことを提案するんだ、こいつは」という顔を向けてきた。まぁ、ボーデヴィッヒは首を傾げているが。

 

「………ま、まぁ、とにかくだ……凰、貴様はグラウンドを倒れるまで走って来い」

「え?」

「詳細はすべてニーラン先生に伝えておく。なに、あの先生なら「むしろその程度で済んで良かった」と納得してくれるだろう。それとも、舞崎にボコられるか?」

「あの、織斑先生? いくらなんでも教師がそのような態度は………」

「………仕方ないな。では、今回の件は「嫉妬でISを使用した」と上に―――」

「喜んで走らせていただきます!」

 

 ………後で差し入れを持って行こう。ちょっと倒れるまでは可愛そうだし。

 

「………というわけだ。同じような目に遭いたくなければ今すぐ矛を収めろ」

「「………」」

 

 言われた篠ノ之とオルコットは大人しく矛を収めた。

 

「それと織斑とデュノア、お前たちは後で職員室に反省文を取りに来い」

「「………はい」」

 

 まぁ、思春期真っ盛りの男女が一緒に風呂に入って反省文を書かされるだけで済むなら安いものだろう。

 

「………一緒に風呂に入ったら反省文を書かされるのか」

 

 隣から聞こえてきたドイツ娘の呟きは聞かなかったことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 舞崎静流。

 身長は175㎝。体重は70㎏。ここまで重いのは筋肉が原因だろう。見た目はかなり華奢であり、とても戦えるようには見えない。

 使用ISは打鉄を自己防衛のために待機状態にして貸し出されているという話だけど、私がアクセスしようにも何故かコア・ネットワーク上に浮かんで来ないのでできない。ISは通常、自ら切断することはできても再接続しないといけないように設定している。そして何より、ISが必要ないレベルで本人が強い。

 

(ま、私やちーちゃん程じゃないけど)

 

 前にそこそこ認めるレベルの人間に勝ったらしいけど、正直有象無象で張り合っているだけで私には全く興味ない話だ。

 でも、私は気に入らなかった。というかたぶんこいつのせいだ。

 

「……束様、どうしました?」

 

 この前拾った女の子が声をかけてくる。私は「なんでもない」と答えて資料を見つめる。あの子が焦るのは、たぶん私の顔が険しくなっていくからだろう。

 私が思うに、おそらく妹はこの男に出会ってから少し変わった。そうじゃない部分もあるけど、ほとんど変わっている。そしてこの男に私が拾ってきた女の子は慕っている。

 

(……今はそんなこと、どうでもいいか)

 

 今は邪魔者の消去。それが結果的に私が新たに気に入った女の子が惚れている相手で悲しませることになっても今はまだ何も感じない。確かに私もこの男には感謝している。けど、それはISに触れる前の話だ。

 

(………ムカつく)

 

 もしこいつのせいで箒ちゃんが力を求めなくなったら、許せない。ムカつく。嫉妬……? だとしたら尚更だ。

 高が少し強いだけのゴミが、私の邪魔をするなんて。

 

 ―――バキッ!!

 

 端末が音を立てて割れる。それを見たくーちゃんは端末と破片を回収した。そんな少し家庭的なことでふと思い出したことがあり、親友に連絡を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここ最近、とても忙しかった千冬はため息を吐く。

 

(………全く。あの馬鹿は余計なことをして………まぁ、アイツのおかげで色々と解決したのは事実だが……)

 

 彼女の通信端末には静流から「帰ったら部屋のことで説教がある」と送られてきているが、忙しいことを理由にあえて無視して仕事をこなす。思い当たる節はあるが、千冬にも言いたいことがあるので今夜は喧嘩だろうと予想していると、珍しい番号から連絡が入り、周囲に誰もいないことを確認して出た。

 

「……何だ?」

『あ、ちーちゃんちーちゃん! ちょっと聞きたいんだけど、あの2人目と同棲してるってホント?』

「………そんなことで電話をかけてきたのか?」

 

 千冬は苛立って電話を切ろうとしたが、束が「待って待って」というので仕方なく戻した。

 

「で、何だ? 用がないなら殺すぞ?」

『もしかして溜まってる? そんなちーちゃんに私がお勧めの物を送るよ。たぶんあの2人目よりも気持ち良くできるよ?』

 

 躊躇いなく電話を切った千冬。するとまた電話がかかってきてすかさず言った。

 

「死ね」

『ちょ、第一声がそれ!? いくら何でも酷いよー!』

「だったら用件を言え。もしくは死ね」

『ま、スキンシップはこれくらいにして、実は今度そっちで臨海学校だっけ? その時に箒ちゃんに特別な物を用意するから』

「………まさか箒から連絡があったとか言うまいな?」

『それがないんだよー。ずっと無視なんて酷いんだよー』

「……………鏡を見ろ」

 

 そう言って千冬は電話を切り、「自分もあまり言えないな」と思いながら仕事に戻った。


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