IS-Twin/Face-   作:reizen

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第29話 狂者、激突

 静流がその姿が現役時代の織斑千冬だとわかったのは、謹慎中に参考としてISの動画を見ていたからだ。

 それはいつかISで織斑千冬を潰すために予習として見ていただけだが、本人にとってこの状況はまさしく好機だった。

 

(……って言っても贋物だろうが、そこは今は置いておく、と)

 

 静流の方にブレードが振り下ろされる。それを回避して爆弾を放った。

 

「うぉお……って、ええ!?」

 

 自分が飛び出した時に投げられるとは思わなかった一夏は動きを鈍らせる。すべて落とした織斑千冬に似た物が一夏に迫って攻撃した。

 

「―――ラァッ!!」

 

 瞬時に移動して回し蹴りを放つ静流。だが素早く対応されて離脱した。

 

「待ってくれ!」

 

 もう一度攻めようとした静流の前に一夏が割り込んだ。

 

「何だ?」

「頼む! アイツは俺にやらせてくれ!」

「却下だ」

 

 無理矢理一夏を押し退けた静流は攻めようとするが、それよりも向こうから攻めてきたため一夏を持って回避する。

 

「邪魔だ織斑。引っ込んでろ」

「頼む! こいつは、俺がやらなくちゃいけないんだ!」

「………そう言えば、まだ試合中だったな」

「え? 流石にこの異常事態は―――」

 

 ―――ドンッ!!

 

 太ももを《マグナムバンカー》で攻撃され、一夏は膝を付く―――前に静流はとんでもないことをした。

 

「じゃあな」

「待て! それは本当にゴべブバッ!?!」

 

 股間にある男の象徴に打ち込み、一夏を黙らせる。少しして泡を吐いているが敢えて目を逸らした。

 

「一夏!? 一夏ぁっ!!」

 

 少し反省しながら静流は戦闘態勢に入る。その後ろではシャルルが一夏を連れてそこから移動していた。

 

「さて、待たせたな。始めようか、偽桜」

 

 静流が偽桜と命名した相手が雄たけびを上げる。静流は突っ込み、偽桜も同じ行動を取った。

 接触する瞬間、偽桜は雪片を振り下ろすが静流はそれを容易く弾いて蹴りを返す。脚部にはブレードが装備されていて、偽桜は少なからずダメージを受けているだろうがその素振りは見せない。

 

『舞崎、今すぐ離脱しろ。後は我々がする』

「引っ込んでろ」

『何!?』

「足手まといは下がらせろ。邪魔だ」

 

 手首から爪を展開して雪片を受け止めながら突然通信してきた千冬にそう返しながらも、静流は攻撃を止めない。

 瞬間、偽桜の姿が消えた。

 

(……上か!)

 

 上に向けて銃を展開から引き金を引く一連の動作を素早く行った。偽桜は回転して銃弾を弾き、瞬時加速で静流の後ろを回って攻撃して飛ばした。静流は壁に叩きつけられる。

 

(………洒落にならない強さだな)

 

 そう思いながらも、静流は笑顔を浮かべる。彼にとって好敵手―――いや、サンドバッグが現れてくれたからだ。

 

(本当は時間をかけて戦いたいが……あまりそうも言ってられないか)

 

 笑みを浮かべた静流はピットから次々と現れる訓練機を見ながらまた雄叫びを上げた偽桜を見て静かに唱えた。

 

「全装甲量子化。シールドバリアーを全身に再展開。スロットセットCを使用する」

【その判断は危険。賛同できません。その場合は3撃しか耐えません。また、武器を使用した場合の反動が身体を―――】

「御託はいい。さっさとしろ」

【ですが―――】

「何なら、今すぐお前を解除してやろうか。俺は生身でだってあの存在と戦うつもりだぜ?」

 

 脅しのつもりだろうか、勝ち誇った笑みを浮かべてそう言った。

 偽桜が迫り、静流に向かってブレードを振り下ろす。だが手ごたえがなく、偽桜はすぐに探したが後頭部に衝撃が走ってまた地面に叩きつけられた。

 

「ふー。やっと楽になった」

 

 そう言いながら静流は屈伸を始める。

 その姿はIS相手には不釣り合いだ。装甲が両手両足以外はなくなっており、服装は黒いデニムパンツに白いシャツ、その上に袖なしのカーディガンベストが装備されている。両手両足に装備されている装甲も見た目は手袋とスニーカーにしか見えず、一見すればこれからデートに行くような格好だが、それが静流にとっての戦闘服だった。

 

「特別サービスで本気を出してやるよ。感謝し―――ろ!!」

 

 そう言って偽桜に接近する静流。偽桜も接近して横薙ぎにブレードを振り下ろすが、静流は偽桜の頭部を蹴り飛ばしていた。

 

「焦った。泥か。てっきり人を殺したのかと思ったぜ」

 

 飛び散った物を確認して安堵する。その間にブレードが迫ってきたが刀身を蹴り上げた。

 

「早い早い……が、俺の方がもっと早い」

 

 すると静流の姿が消え、偽桜は上に蹴り飛ばされていた。

 だが偽桜と言っても元は千冬のデータであり、そう一筋縄では行かない。次々と来る死角からの攻撃をいなしていく。そしてとうとう、女たちにとって恐れていた事態が起きた。

 

「雪片が!?」

 

 固体だったはずの雪片が折られ、静流の後ろに飛んだ。その間にも攻防は続くも偽桜が一方的にダメージを受け始める。

 

「とど―――なっ!?」

 

 咄嗟に回避した静流の顔は驚愕を浮かべていた。偽桜の折ったはずの雪片の破片が後ろから襲い掛かってきたからである。これで復活したと宣言するかのように偽桜は静流に瞬時加速で接近した。

 凶刃が静流の首に迫るその時、光景を見ていた全員が驚愕した。

 

 ―――ドサッ

 

 偽桜の中からラウラが飛び出したのを、エレナ・ニーラン教員が受け止めた。

 

「……褒めてやるよ偽桜。お前は俺のほんの少しとは言え本気を出させたんだからな。だが、終わりだ」

 

 次第に偽桜は形を崩していき、大きな円を作って動かなくなった。その中央にはコアがあったので静流は回収しようとした瞬間、泥が静流に襲い掛かる。

 

(……ちょうどいい)

 

 静流はコアを上に放ると同時に打鉄を展開。泥が静流を覆ったと同時に突然のことに呆然としていた千冬はすぐに静流の救出を指示する。

 泥が徐々に打鉄の中に入っていき形態を変化させる。全員が警戒をするが静流はコアをキャッチしてエレナに放った。

 

「おいデュノア、とっとと出て来いよ。まだ決着はついてないだろ」

「………あの、試合は中止なんだけど」

「…………え? マジで?」

 

 静流の質問に教員らが首を縦に振ったので、静流は本気で悔しがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は闇を知っている。だが、これは私の知る闇ではない。

 

(………ならば、これは何だ?)

 

 闇に、そして影に生きてきたラウラ・ボーデヴィッヒ。なのに彼女はそこにいるだけで悪寒を感じていた。

 まるで触れてはいけないタブーに触れてしまったように。ただ、悪寒を感じるのである。

 

「………何だ……何なんだ、この寒気は……」

 

 途端にラウラの周りが黒一色からどこかの家に変わる。女……妊婦が包丁を持って子どもを抑えつけていた。

 

「………アンタなんか……生まれて来なければ良かったのよ!!」

 

 そう言って女は包丁を振り下ろす。だが、そこであり得ないことが起こった。

 迫り来る包丁を受け止めた少年は女の動揺した瞬間に奪い取り、肩を斬りつけたのだ。

 かなり抉られているのか痛さに悶絶する。子どもはそんな女の姿を見て動揺し、深呼吸をして電話した。

 場面が変わり、先程の子どもが男に叱責されていた。

 

「この疫病神が!!」

 

 思いっきり殴られたのか、子どもが倒れる。

 

「出ていけ、悪魔が! お前のせいで2人がどうするつもりだったんだ、この人殺しが!」

 

 教育のために叩く親はどの時代でも少なからず存在する。しかしこれはもうその領域ではなかった。完全に私怨で子どもに暴行を加えていた。

 

「………僕だって……怖かった……殺されると………思って……」

 

 だが、男は容赦なく子どもを殴る。子どもはその腕を掴んで噛んだ。

 

「ッ!? ……このガキ!」

 

 瞬間、子どもはまたあり得ないことを起こした。近くにあった物を掴んで男の足に思いっきり刺したのだ。

 突然のことでわけがわからなかった男。だが、その隙が子どもにとってチャンスとなった。

 

「―――おい、何の音―――」

 

 ドアが開き、老人が入ってくると言葉を失った。それもそうだろう。何故なら子どもが椅子を男の椅子を叩きつけていたのだから。

 

「静流! 何をしている!?」

「………何の用? 今僕は大人を消すのに忙しいんだけど……」

「……忙しいって」

 

 老人は恐怖した。だがそれはラウラも一緒だった。

 

 

 

 

 また、場面が変わった。

 どこかの事務所のようなところでガラの悪そうな大人たちが悶絶していた。

 

「……このガキ……いい加減にしろ!」

 

 1人が立ち上がってナイフを出して刺しに行く―――が、少年は軽くいなして殴り飛ばした。

 

「………やっぱり、大人って弱いな」

「だから、先に行くなって………もう終わってるし」

 

 別の少年が1人入ってくる。

 

「早坂か。遅かったな」

「君が早いんだよ。薬はこれで全部?」

「さぁ? 後は警察に任せるよ。もう興味ないから」

 

 そう言って暴れたと思われる少年はどこかに行った。

 

 

 

 

 

 それから、ラウラは繰り返し様々な場面を見せられた。どれもこれも少年がただ勝ち続けるだけの映像。もはや敵なしと言ってもいいほどだが、その勝利はどれも悲しいものだった。

 だが1つ、今見ているものは違った。

 

 ―――大人に、少年が蹂躙されていた

 

 以前倒したと思われるバイク集団に乗せてもらってどこかに行こうとする少年たち。だが彼らは既に目を付けられていたのだ。

 高速道路上に突然現れた大人たちに次々と捕縛されていく子どもたち。ただ1人、いつも勝っている少年だけは最後まで抗っていた。

 

「………大人のくせに………ISなんか支持したゴミのくせに………」

 

 そう呟くと少年は次々と大人たちを倒していく。

 そして最後に現れた車から男が1人降りてきた。黒スーツに仮面を付けているその男が現れると撤退命令が下り、仮面男と少年の一騎打ちが始まった。

 

「大人なんか……死んでしまえ!!」

 

 そう叫んだ少年は回転しながら仮面の男に踵落としを食らわせようとするが、仮面の男がそれを受け止める。同時にコンクリートで作られた道路にクレーターができた。

 

「………ならば」

 

 次の手を打とうとした少年。だがそれよりも早く、仮面の男が消えて少年をひたすら潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――もう止めろ!!」

 

 ラウラは思わず叫んで起き上がる。

 

「いや、まだ私は何もしていないのだが……」

「……きょ、教官……」

「学校では織斑先生だ。………まぁいい。それよりも大丈夫か?」

「…………」

 

 ラウラは沈黙を返す。千冬は嘆息した。

 

「………ここは、保健室ですか? 一体何が……?」

「…一応、重要案件である上に機密事項なのだがな。VTシステムは知っているな?」

「はい。正式名称はヴァルキリー・トレース・システム……。過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで、確かあれはアラスカ条約で現在は禁忌扱いされているのでは?」

「そうだ。だがそれがお前のISに積まれていた。巧妙に隠されていたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何よりも操縦者の願望が揃うと発動するようになっていたようだ。今、ドイツ軍に問い合わせているが近い内にIS委員会から強制捜査が入るだろうな。……それと、国からお前の帰還命令が下った」

 

 先程まで普通に話していた千冬がどこか言いにくそうに事実を話した。

 

「……帰還命令、ですか?」

「ああ。帰ればどうなるかわからない。だが、ろくな目には合わないだろうな」

 

 その言葉にラウラは顔を青くする。それを見た千冬は提案した。

 

「……何だったら、私が直接そうしなくてもいいように掛け合おう。ISは返還することになるが、お前は無事でいられる」

 

 一瞬嬉しそうにするが、ラウラは心が沈んでしまう。

 

「……少し、考えさせてもらえませんか?」

 

 そう答えたラウラに対し、千冬は「それもそうだな」と答えて言った。

 

「今日はゆっくりしていろ。良い返事を期待している」

 

 そう言って千冬は保健室を出る。ラウラはそれを見送るとうつむいてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………つまり、俺たちが負けたと?」

「はい。ただ、勘違いなきよう。あなたがではなくボーデヴィッヒさんの不正物所持のためですよ。まぁ、あのようなものを見せられては誰もあなたをいさめることはできないと思いますが」

「……そんなにおかしかったか、あれ?」

「私か、もしくは日本政府内のとある部署の人間だけでしょうね。君は以前、そこと一戦交えたとか?」

「………おかげで全身骨折したけどな。右腕以外」

 

 そんな話ができるのはIS学園内ではたぶん轡木十蔵その人のみだろう。っていうか、

 

「そろそろ突っ込むが、何でアンタがここにいる!?」

「何か問題でも?」

「…いや、後片付けとか、そういうのがあるんじゃないの?」

「ああ。基本的にそういうのは妻に任せています。先程までIS委員会の対応をしていましたから。全くあのゴミ共。完全に怯えきっていたな。VTシステムをあそこまでボコれば誰だってそうなるか」

 

 擬態が完全に取れている轡木十蔵に俺は笑った。

 

「で、俺に失格になったことを知らせに来たのか。生身で戦えない奴が多いとこうなるから困りものだよなー」

「その諸悪の根源が何を言うか」

「ごもっとも。ところで頼みがあるんだけど」

 

 にしてもそろそろ暴行来るんじゃないか?

 

「何だ?」

「どうせ今回の不祥事であの女はドイツに呼ばれてるだろ? それに同行していいかとな。あ、パスポートならちゃんと持ってる」

「俺をまだ働かせる気か?」

「大丈夫、大丈夫。フランスには俺1人で行くから」

 

 ため息を吐く轡木十蔵だが、頭を振って言った。

 

「本来なら立場的にも止めるべきなんだろうが、仕方ない。護衛に関してもこちらから手配しておく。明日で良いな?」

「もちろん! さっすが!」

「どうせ例の件だろう。今は生徒会長が合宿期間でいないし、試合は続行させるからこっちも手一杯なんでな。ただし、できる限り問題は起こすな」

「かーしこまりー!」

 

 いやぁ、これで何とかフランス旅行を図らずともできるようになった。

 俺は思わず笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、今から早速準備するから」

「………はぁ」

 

 さっきまで気絶していたとか信じられないくらいに、俺は全速力で寮に戻った。


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