IS-Twin/Face-   作:reizen

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第22話 まさしく絶対選択肢

 どうしてこうなったのだろうか。

 俺は何故か席を移動し、見ず知らずの子どもを含めて5人で食事をしている。場が重い空気で支配されているというのに、ただ一人織斑だけは平常運転だった。

 

「蘭さあ」

「は、はひっ?」

「着替えたの? どっかでかける予定?」

「あっ、いえ、これは、その、ですね……」

 

 …………何でこいつ、平然と話しかけれるの。

 もっと言えば、俺より居心地が悪いのは武藤さんだろう。本人も「どうしてこうなった?」という顔をしている。

 

「ああ! デート?」

「違いますっ!」

 

 こういうのは俺たちにとって相変わらずの風景だ。まるでわかった上でやっているのかと聞きたいぐらいだ。

 

「ご、ごめん」

「あ、いえ……。と、とにかく、違います」

「違うっつーか、むしろ兄としては違ってほしくもないんだがな。なにせお前そんな気合の入れたおしゃれをするのは数か月に1回―――」

 

 すぐさま、女の子が兄と思しき人物の顔を掴んで握る。凄く痛そうな顔をしているが、あれくらいならそこまで痛くないだろうに、大げさだな。…………いや、よく見ると呼吸も止めているのか。高度な技だが、家族にすることではないだろう。さっきから何か会話をしているが、それが果たして呼吸を止めるほどの物か疑問だがな。

 

「仲良いな、お前ら」

「「はぁ!?」」

 

 どう見てもそれはないな。やっぱり織斑って馬鹿だろ。

 

「食わねえんなら下げるぞガキ共!」

「く、食います食います」

 

 現れたのは、大体60ぐらいの男性。筋肉がかなり発達しているようだが、実力はどれくらいか気になるな。

 

「………ところで、2人は一体……」

 

 兄貴の方が恐る恐ると言った感じで尋ねてくる。そう言えば、織斑に誘われて駄々こねられるのが面倒だったから来たけど、自己紹介はまだだったな。

 

「俺は舞崎静流。2人目の男性IS操縦者だ。で、こっちは俺のボディガードをしている武藤。IS学園の外に出るから、一応着けてもらってるんだ」

「武藤だ。よろしく」

 

 咄嗟に吐いた嘘に順応してくれる武藤さん。政府関係者がこんなところにいたら面倒になる可能性があるからだ。

 

「え? ボディガード?」

「……って言っても、兄の友人で昔からの知り合いだったからな。遠くで見守るより話が合う人として近くにいた方が色々と便利なんでな」

 

 驚く織斑たち。まぁ、ラフな格好をしているからそうだとは気付かなかったんだろう。

 

「それで、君は?」

「俺は五反田弾。こっちは妹の蘭だ」

「よろしくお願いします」

 

 礼儀正しく頭を下げる蘭ちゃん。

 

「……待てよ。2人目の男性IS操縦者ってことはIS学園に通っているのか!?」

「ああ。不本意ながらな」

「でもいいじゃねえか。周りは女ばかりで選り取り見取り。俺だったら留年してでも通い続けてえよ」

「…………まぁ、考えは人それぞれだしな」

 

 実際は、見えないところで女を潰しているって知ったら彼はどんな顔をするんだろうか。

 

「えっと、静流……でいいか?」

「ああ」

「じゃあ、静流も知ってるのか。一夏のファースト幼馴染と再会したって言ってたけど」

「……ああ。彼女ね。知っているよ。箒って変わった名前だけど、胸が大きくて背筋が伸びているから余計にスタイルがよく見える女だ」

 

 かなり褒めたこともあって、織斑は信じられないと言わんばかりの目で俺を見た。

 

「何か?」

「いや、まさかそこまで箒のことを褒めるなんて思わなくて……」

 

 失礼な。俺だって褒める時は褒めるっての。

 

「そうそう、その箒と同じ部屋だったんだよ。まぁ今は―――」

「お、同じ部屋!?」

 

 何故か……というのは野暮だな。取り乱した蘭ちゃんは立ち上がった。

 

「ど、どうした? 落ち着け」

「そうだぞ落ち着け」

 

 どうやらこの家では蘭ちゃんの方が弾よりも格が上のようだ。というか妹に睨まれただけで縮こまるなよ。

 

「い、一夏、さん? 同じ部屋っていうのは、つまり、寝食を共に……?」

「まぁ、そうなるかな。ああ、でもそれ先月までの話で、今は別々の部屋になってる。って、そう言えば何で俺たち今も同じ部屋じゃないんだろうな」

「さあな。どうせ学園で揉めてるんだろ」

 

 俺の場合は、いつコアがあの時の姿を展開して暴れ出すかわからないから未だに織斑先生と同じ部屋ってだけだが。

 

「い、一か月半以上同……居していたんですか!?」

「ん、そうなるな」

 

 武藤さんがいつの間にか俺から距離を離している。騒ぎに巻き込まれたくないか、俺に遠慮したかどちらかだろうな。言っておくが、こいつの鈍感具合はもはや神の領域だぞ。

 

「………お兄。後で話し合いましょう……」

「お、俺、この後一夏と出かけるから……ハハハ……」

「では夜に」

 

 何故話し合う必要があるのか? まぁ、家庭の事情かもしれないな。

 

「決めました。私、来年IS学園を受験します!」

 

 さっき蘭ちゃんが立ち上がる時に椅子が落ちたが、何もなかった。しかし、今の蘭ちゃんの言葉に弾が立ち上がると何故かおたまが飛んできた。

 

「え? 受験するって……何で? 蘭の学校ってエスカレーター式で大学まで出れて、超ネームバリューのあるところだろ?」

 

 そんなところを蹴ってIS学園を受験するとか頭大丈夫かと尋ねてみたい。

 

「大丈夫です。私の成績なら余裕です」

「IS学園は推薦無いぞ……」

 

 何故それを男の弾が知っているのか聞いてみたくなった。

 

「お兄と違って、私は筆記で余裕です」

「いや、でも……な、なあ、2人共! あそこって実技あるよな!?」

「……あるな。ISに触れて動かすっていうのが。まぁ、早々にやられなければ筆記で良い点数を取っていたら合格できると思うがな」

「でもあれって、適性が無い奴はそこで落とされるって話だぞ」

 

 俺の説明に珍しく織斑がフォローした。すると蘭ちゃんは何故持っているのか聞きたくなったが我慢してポケットから出された物を見る。

 

「げぇっ!?」

「………適性Aか」

「問題は既に解決済みです」

 

 これは問題だな。一体どうやって彼女がそれを手に入れたのかわからないが。

 

「それって希望者が受けれる奴だっけ? 確か政府がIS操縦者を募集する一環でやってるっていう……」

「はい。タダです」

 

 近くで何か上機嫌で言っているじいさんは放置しておこう。さっきから武藤さんも何とも言えない顔をしているしな。

 

「で、ですので、一夏さんにはぜひ先輩として指導を……」

「ああ、いいぜ。受かったらな」

 

 安請け合いをする織斑に俺は呆れた。何も知らないんだな、こいつ。まぁ、俺もあまり人のことは言えないが。

 

「お、おい蘭! 何勝手に学校変えることを決めてんだよ! なあ母さん!」

「あら、いいじゃない別に。一夏君、蘭のことよろしくね」

「あ、はい」

 

 さっきの店員がそんなことを言った。……てっきり長女かと思ったが、まさか母親だとは。

 

「はい、じゃねえ!」

 

 1人相撲をしている五反田弾。このままでは彼の行動は無駄に終わるな。

 

「ああもう、親父はいねえし! いいのか、じーちゃん!」

「蘭が自分で決めたんだ。どうこう言う筋合いじゃねえわな」

「いやだって―――」

「何だ弾、お前文句あるのか?」

「……ないです」

 

 ……そろそろいいいか。

 ちょうど食べ終わったし、俺は口を挟むことにした。

 

「もう諦めろ、五反田弾。所詮適性が高いだけの、最終的に男に回される家畜が入学するってだけのことだ」

 

 途端に空気が固まった。いや、凍ったと言うべきか。

 小学校の頃は中学生を相手によく使った挑発技をここで使うとは思わなかったが、それも一興だろう。

 

「テメェ、今なんて言った」

「ただのビッチが学園に入学する準備を進めただけだって言ったんだ。文句あるか?」

「お、おい静流!? そんなことを厳さんに言ったら殺されるぞ!?」

「あぁ。その心配はねえよ」

 

 だって俺、強いし。

 そんなことを思っていると、俺ら以外の最後の客が会計を頼んだ。気のせいか、俺に殺気を飛ばしていたように思うが……たぶん気のせいだろう。

 

「さて、ムードが程よく冷めたところで、アンタらの無能さを露見させてやろう」

「舞崎君」

「大丈夫。こういう手合いには慣れているさ」

 

 さっきまで離れていたはずの武藤さんが俺に対して警戒し、近づいてきていた。

 

「だがその前に」

 

 俺は織斑を気絶させた。

 

「い、一夏さん!?」

 

 辛うじて食事の上に倒すということはなんとか回避した。

 

「さて、話を続けるが―――」

「待ってください! それよりも救急車を―――」

「ただ気絶しただけだ。それともこいつが起きている時に君がこいつに恋をしていることを話しても良かったのか?」

 

 そう言うと五反田蘭は顔を赤くし始める。

 

「まぁ、俺はそもそも織斑と恋愛し続けるのは難しいからさっさと諦めた方が良いと思うがな」

 

 篠ノ之はともかく、適性がAだとしてもこいつとの恋愛は避けた方がいい。

 

「他人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ねばいいって言葉、ご存知ですか?」

「知ってるさ。まぁ、邪魔したところで馬如きに後れを取るつもりはない。それよりもだ、お前は本当にISという兵器を学ぶ覚悟があるのか?」

「あります。私は優秀ですし―――」

「では言い方を変えるか。じゃあお前は、ISを使って何がしたい? ただそこで暮らしている人間を殺し続けるか? それとも男をISという力で従わせたいか?」

「ひ、人を殺すって……そんなの、できるわけないじゃないですか!? それにそんなことをする人なんて―――」

「俺は何度か殺されかけているけどな」

 

 その言葉に兄妹、そして後ろにいた母親は顔を青くした。

 

「まぁ、驚くのは無理ない。俺も最初はそう思っていたが……女権団とはそういうものだ。だがもう、君はIS学園に行かざる得ないな」

「……どうしてですか。さっきまで止めておけって言ってたのに……」

「君のIS適性が「A」だからだ。学園でも数多くいるわけでもないその適性をなんとなく受けた試験で出したんだろう? 実際、女や政府から女権団や代表候補生に勧誘されたこともあるだろう」

 

 五反田蘭はゆっくりと頷いた。

 

「そもそも、簡易適性試験自体がそう言った有望な操縦者を集めやすくする目的があって行っているものだ。君はもっと慎重になるべきだな。君のその行動で家族が不幸な目に向かっている。家族の幸せのために自分が茨の道を歩むか、自分のために家族を犠牲にするか、よく考えて決断しろ。日本政府は所詮庶民に苦難を強いるゴミなんだから」

「……その言い方はいささか不本意だがな。合っているから言い返せない」

 

 合ってるんだ………。

 まぁ、ISを動かせると知った瞬間に殺そうとする連中を優遇した奴らだしな。

 

「そろそろ、武藤さんも正体を明かしたらどうだ?」

「え? その人って……まさか政府関係者?」

 

 五反田弾が立ち上がって妹の間に割って入る。

 

「ああそうだ。私は政府の関係者が少しばかり特殊な部署にいてね。今は主に男性IS操縦者の護衛や女尊男卑を振りかざす女性でも酷い人の鎮圧を行っている」

 

 「こういうものだ」と言って名刺を差し出す武藤さん。俺にも改めて名刺をくれた。

 

「……「対有事特殊処理班」?」

「近々、アンチケースという名が着く予定だ。言うなれば、ISの出現に伴って露見した女性の過度な行動を咎めることができる、日本政府の女尊否定派に組織された特別対処班だ。3年前から発足して、私もそこに在籍している。高間晴文、今は寝ている男もそこに所属していた」

「………あの男が所属していた?」

「ああ。あの男の仕事は君と言う異分子の監視並びに矯正だ。君の経歴上、組織には最適な存在とされていたが性格が幾分行き過ぎていたのでその矯正のために派遣されていた。形的には解雇になっていたが、今でもあの男の席が残されている」

 

 ………俺がその組織に相応しい?

 イマイチ実感がわかない。だが、それで何で俺が矯正される必要があった? ……それに、

 

「女性の鎮圧、ということはいざという時は武力行使も?」

「本当に最後の手段だがな。そこに所属している全員が一定のレベルの強さを―――」

 

 急に言葉を切る武藤さん。つまりそれってそこの部署に行けば、俺はもっと強くなれる可能性があるってことか……。

 

「武藤さん、どうして地下闘技場という場所ではなく最初からその部署の一番強い奴を見繕ってくれなかったんですか?」

「人数、少ないんだ」

「だとしても武藤さんがいますよね? 何故です? というかあの人との関係をばらしていいですか?」

 

 その言葉が利いたのだろう。武藤さんはため息を吐いて言った。

 

「いくら君が強いと言っても、私の方がまだ上だと思っているからだ」

「…………なるほど。だったら今すぐ表出ろ」

 

 そう言うとため息を吐く武藤さん。最初は様子見だが、それが終われば一気に仕留めてやる。

 

「この話が終わってからな。さて、五反田蘭さん。あなたは今、人生の分岐点に立っている。まずは宣言通りIS学園に入学する道。だがこれはISに関する基礎知識を習得する必要があり、適性があれど学力が低ければやる気がないとみなされてしまうだろう。場合によっては道中に誘拐されて解剖や強制的に子どもを残される―――つまり、行為を強制される」

「……そいつは随分と穏やかじゃねえな」

「ですが、可能性としてはなくはない話です」

「ISの研究じゃ身寄りのない子供が次々と実験台にされているって話だ。男女構わずにな。もっともこれが今の女が選択した世の中だろうよ」

 

 クロエが言っていた話の中には、VTシステムというものが存在している。それは今は各国で使用も研究も、言うなれば全面的に関わることを禁止されているって話だ。完全とは言わないがある程度の実現は果たしていたのだが、搭乗者が次々と死亡または障害を負っていくものらしい。

 

「次に、女権団に入って保護してもらう方法。だが、あまりこれはお勧めしません」

「何故です? 蘭は女なのですからむしろ好待遇かと……」

「雑魚だから」

「舞崎君、それじゃあわからないだろう。確かに、考え方によってはその方法はありですが、女権団に入った場合は男との恋愛は完全に禁止しています。娘さんのように男に対してもそう言った感情を抱けるのは粛清の対象になります。かつて私は粛清された女性を見たことはありますが、とても口から語れるものではありませんでした」

 

 当時のことを思い出したのか、顔を青くする武藤さん。よほど見るに堪えない光景でも見てしまったのか?

 

「それと女権団は時折、粛清の一環として彼を襲っています。その任務に駆り出された場合、娘さんの命は保障されません」

「その小僧はそんなに強いのか?」

 

 じいさんがそう尋ねてきたので答えようとしたが、武藤さんが先に言った。

 

「エアリアルオーガ、その言葉はご存知でしょうか?」

「知らん」

「……ちょっと待ってくれ。この人があの三鬼の内の一人なのか?!」

 

 どうやら五反田弾は知っていたらしい。というか今はそんな呼ばれ方されているのか。

 

「そうだ。先程も1人、病院送りにしてきた」

「……嘘だろ」

「おい弾、一体どうしたってんだ?」

「だから、この人は大分前から色々と伝説を築いている人だよ! 不良でありながら不良を矯正し、女尊男卑を物ともせず女共を潰しまわっている! しかもそれだけじゃない。俺が知っている話だと、この人は不良でありながら学力も高く、常に学校の上位に名を連ねている人で、彼に教えてもらえば難しい志望校を難なくこなした天才だ!」

「いや、俺よりも頭が良い奴なんてたくさんいるからな」

 

 大体、中学生レベルの勉強なんて授業を聞いているだけでわかるし、わからなければ教師に聞きに行けばいい。まぁ、最初は驚かれたけどな。

 

「すっげぇ。握手してくれ……いや、してください!」

「いや、それはマジで勘弁してくれ」

 

 ……まさか、そこまでテンションを上げられると……対応に困る。

 

「でも、ただの喧嘩屋でしょ? それにその話はここ2年位は聞かなかったし」

「参考までに言っておくと、最近は代表候補生をボコったな。確か凰なんとかっていう奴」

「「え………」」

 

 まるで知り合いの反応をする兄妹。若く見える母親が尋ねてきた。

 

「それって、鈴ちゃんのことかしら?」

「たぶんな。身長が低くて、胸が無いツインテール」

 

 そう説明すると、その場の空気が悪くなった。

 その後、俺たちは店を出て空き地で戦い、ボコボコにされたがかなり有意義だったことは確かだと言うことは間違いない。




次回からIS学園に戻る予定です。

でも実際、適性Aだと選択肢があるように見えてほとんどないですよね。政府がしているってことは間違いなくデータを取られていますし、蘭の適性もばれているわけですし。
一応、一夏の知り合いではありますが、生きている云々はともかく下手したら大変な目に遭うのは間違いないと思います。

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