IS-Twin/Face-   作:reizen

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聞こえるか、化け物が近付いてくる足音が。


第19話 食い違う意見、現れる魔物

『うぉおおおおおおおッ!!』

 

 画面の外では再起動をさせて動かした自分の機体が放つビームに飛び込む一夏の姿が映し出される。

 そして機体の中枢が破壊され、動かなくなったのを別のカメラで確認した女性は白式の稼働率を見て息を吐いた。

 

「まぁ、今のいっくんならこれくらいが限界かなぁ」

 

 誰に言うわけでもない独り言が辺りに響く。そしてとあるディスプレイを見ると彼女が送り出したもう一つの方も同様に機能停止になっていたのを見て、その女性はもう1人に言った。

 

「あれれー? もう終わったのー?」

『すみません、束様。無理やりの方法で機能停止に追い込まれました。ですが、面白いことが起こっています』

「なになにー?」

 

 「束」と呼ばれた女性は空中投影型のキーボードを叩いて操作すると、もう1機の近くで今まさに戦闘が起ころうとしていた。

 

「アッハハー。彼にとっちゃとてもマズい状況じゃない」

『……私はそう思いませんが』

「どうして?」

『相手の機体はどれも訓練機。しかも状況的にマ……彼の物を横取りしようとしている。いくら敵が同じ学園関係者とはいえ、相手が女なので結果的に彼の敵意を煽っているだけに過ぎません』

「じゃあ、君の見解はもう1人が勝つと?」

『圧勝、で』

 

 そう答えられ、束はもう1人を馬鹿にするように言う。

 

「いくら何でもそれはもう1人を過大評価しすぎでしょ~」

『……では、見ていてください』

 

 通信相手は自信満々にそう言うと、先陣を切った打鉄の操縦者は捕まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 捕まえた女の首に隣接しているであろうチェーンソーを稼働させる。それだけではなく、俺は頭頂部から地面に叩きつけた。

 まるでカエルが潰れた声を上げるその女性。だが俺は続けて何度も叩きつけ、周りにも恐怖を植え付ける。10回ほど叩きつけた後は適当に開放して飛ばした。

 

「………あなた、本気なの?」

「それは俺がアンタらの要求に答えないことか? 残念ながら本気だ。当たり前だろう? 俺はテメェらを信じてないんだから」

 

 もっと言えば、かつての同好会員に「機体作りは自分でやれ」と言われたこともある。そりゃあ、プラモは自分で作れるがISは自分で作るのはかなり難しいだろと突っ込んだが、今はそのアドバイスが凄くありがたいし、何よりもそうするべきだと思ったんだが、言ったところで笑われるだけだし黙っていよう。

 

「これだから男は……」

「そう言って男を見下した奴を、俺は何人病院送りにしたっけな」

「ふざけないで! こっちはその機体を回収するように言われているのよ!!」

「あっそ。じゃあ、死ねよ」

 

 そう言って俺はメイスを展開して投げた。しかしそれは回避されてしまう。

 

「今すぐ包囲。鳥籠で迎げ―――」

 

 大型ライフルを持つ教員の銃を破壊。そして俺はラファール・リヴァイヴ使いを鎖で巻き、引き寄せて地面に落とす。

 

「この――」

「おっと、撃っていいのかねぇ」

 

 引き寄せたラファール・リヴァイヴの女を盾にする。

 

「卑怯だぞ!!」

 

 ブレードを構えた打鉄の女がそう叫ぶ。俺はそれを聞いて口角を上げた。

 

「あーあ。まさかここまで女が馬鹿だとは思わなかった」

 

 そう言って持っている方のラファール・リヴァイヴの女を地面に叩きつけて後頭部に《灰色の鱗殻(グレー・スケール)》を当てて連射すると行動不能になった。これで障害持ちになったら万々歳だろう。

 

「……むごい」

「どうして……どうしてそんなことができるのよ…………あり得ないわよ」

「そりゃあ、散々似たようなことをされたからな」

 

 要は、意趣返しと言う奴だ。

 

「それに、こっちは複数を相手にしているだけじゃなく強くなるチャンスすら奪われそうになっているんだ。抗って当然だろ」

「何が強くなるチャンスよ!」

「そうよ! 似たようなことをされたからって、やっていいわけないじゃない!!」

 

 行動しない教員。すると、吹き飛んだはずの教員が俺の方に向かって飛んできた。

 

「死ね、ゴミが!!」

 

 《チェインシザー》を再展開してタイミングを合わせて振り下ろす。咄嗟に判断してブレードを盾にしたまではよかったが、《チェインシザー》はレンチ型の打突兵器でもある。ブレードを容易く叩き折って破壊し、頭部に衝撃を与える。すると今のが止めになったのか、打鉄の操縦者は倒れた。

 

「………男の……風上におけ―――」

 

 まだ動けたので、もう一発お見舞いしておくと動かなくなった。機能停止になっているから無事だろう。死んでくれても良かったんだけどな。

 

「待ってくれ」

 

 ライフルを持っていた打鉄の教員は両手を上げて言った。

 

「この場は私たちが引く」

「何で!?」

「どうしてよ。私たちが束になれば―――」

「黙れ」

 

 どうやら冷静な奴がいるらしい。全員問答無用で破壊………と言いたいところだが、ここは大人しく聞いてやろう。

 

「ここはこちらが引く。だからその代わりに、その2人を回収させてほしい」

「断る」

「待ってくれ。こちらは2人を回収したいだけだ」

「なにせアンタ以外が納得していないみたいだからな。それに俺は女と交渉する気はない」

 

 信じられないと言わんばかりの顔をした。そう、その顔が見たかった。

 

「ふっざけてんじゃないわよ!!」

 

 我慢できなかったのか、ラファール・リヴァイヴの女が突っ込んできた。俺はそいつを叩き潰そうとした瞬間、体を捻って俺の急所を狙って来る。

 

「悲鳴を上げなさい、このb―――」

 

 ―――グシャッ!!

 

 即座に足元にいる女を踏みつける。するとそいつからもカエルを潰したような声が漏れた。

 

「隙あ―――」

 

 メイスを投げて残っている打鉄の操縦者も黙らせ、《チェインシザー》で怖いことをしてきた女の顔面を潰しにかかる。

 

「待って……待ってくれ! いや、待ってください! もう降参します! その機能停止した機体も差し上げます! だから―――」

「今更遅い」

 

 《チェインシザー》で挟んだラファール・リヴァイヴを痛みで復帰した打鉄の操縦者を叩きつける。《焔備》で迎撃しようとしたようだが、同士討ちになった。

 

「止めろ……止めろ!!」

 

 《焔備》で攻撃してくるが、打鉄とラファール・リヴァイヴを掴んだレンチを前にして突っ込む。だが隊長格である故に冷静だったのかそれを避けた。だけどこの行為までは理解できなかったようだ。

 

 ―――無理やり、軌道を変えて叩きつけられることは

 

 3機同時に地面に叩きつける。俺の打鉄の各所からも悲鳴が上がり始めるが、それでも構わず俺は2機を挟んで痛めつけつつ、最後の1機も叩きつけた続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何だ、これは」

 

 アリーナでの騒動が終わり、先行させた学園の部隊から通信がなかったこともあってその場を居合わせていた布仏虚に任せて捜索に出た千冬。どうして彼女が出なかったと言うと、襲撃はアリーナ内でも起こったからである。

 ほとんど同時にアリーナにも侵入したタイプの機体は一夏と鈴音、そして間に合ったセシリアによって倒され、その機体の回収が終わった後に外の生徒を避難し終え、戦っている静流の援護、その後に機体の回収を支持していたが、通信回線が開いた後にうめき声が聞こえたのですぐさま彼女が向かったわけだが、そこには悲惨な状況が作り出された。

 

 ―――急行した教員チームが、倒れていると言う状況を

 

 千冬はすぐに医療班を呼び出し、指定ポイントを送信すると近くにいるかもしれない静流を探す。戦闘を今も継続している様子はなく撃墜されたかと考えるが、

 

「……ら……生……」

 

 近くで倒れている教員の1人が体を起こした。

 

「しっかりしろ。何があった……」

「………男子……機体を……回収……妨害……」

 

 それだけ呟くと、再び気を失う教員。

 

(ちょっと待て。まさかこれをアイツ1人が作り出したというのか……)

 

 今の言葉だけではわからないが、ともかく千冬は医療班が来るまでその場を待機。合流した後にすぐに静流の捜索を始めた。

 

(広範囲に索敵しているというのに、何故見つからん)

 

 千冬に支給された打鉄特式は、千冬の意見を取り入れて開発された機体だ。本人は戦っていることが性に合っていると自覚しているが、それでも有事の際の指揮を任されているため、通信機能と索敵機能が強化されている。

 

「…どこだ……どこにいる……」

 

 無意識に呟く千冬。するとレーダーハイパーセンサーに表示されたレーダーに機体反応を確認した。

 

(距離からしてギリギリ敷地内といったところか)

 

 IS学園の敷地は、ISが自在に飛び回ることを想定しているので、かなりの広さがある。確かに静流の考えた通り、時間はかなり稼げるだろう。

 実際、千冬がその場にたどり着いた時には、静流はかなりの情報を抜いていた。

 

「見つけたぞ、舞崎」

 

 しかし静流は千冬の声が届いていないのか無視し、作業に没頭している。

 

「舞崎。聞こえていないのか、舞崎!」

「………うるさい。何の用?」

 

 静流は千冬の視線を向けず、ひたすらデータを吸いつつ構造を観察していた。

 

「単刀直入に言う。その機体、そしてお前が吸い出したデータをすべて回収しに来た」

「…………ふーん」

 

 そう答えるが、静流は吸出すのを止めない。

 

「理由を聞こうか」

「おそらく、その機体には未知のデータが組み込まれている。独立稼働もしくは遠隔操作、どの技術もまだどこの国も開発されていない」

「へー」

 

 興味なさげに返事をし、静流は「それだけ?」と聞いた。

 

「博識なお前なら既にわかっているだろう、私が言わんとしていることが」

「つまり、その技術を俺が持っていると後ろ盾の有無関係なく狙われるから捨てろって?」

「そうだ。これはお前を守るための―――」

「―――そんな簡単な嘘、まさか俺に通じるって本気で思ってんの?」

 

 馬鹿にするような顔を見せた静流はパソコンを閉じた。

 

「嘘ではない。私は―――」

「確かに守るためではあるだろうけど、同時に俺に君の弟以上に力を手に入れて欲しくないんだろ」

「何を言っている。そんなわけ―――」

「だったら邪魔しないでよ。こいつは俺のものだ。俺が倒して手に入れた。例えアンタだろうと渡すつもりはない。これはチャンスなんだ。俺がもっと早く、そしてこの命のために死んでいった人たちに報いるため、そして俺を襲おうとする奴を潰すために力を入れるチャンスだ」

「だから自分を危険に晒すのか!? それは先程の言葉と矛盾している!」

「だから何?」

 

 真顔でそう答えた静流は千冬を睨んだ。

 

「この世界で、今の状況で一体誰を信じられる? こんな殺意に溢れている学園で何を信じられるって言うんだ? 女なんて………気に入らない奴が現れたからって、本人や親族を簡単に殺せる奴らなんて信じられるわけねえ! 俺を気に入らない奴なんて、殺してでも被験体として手に入れたい奴なんていっぱいいる! 俺が女を潰す前からな! そんな奴らが蔓延っているこの学園でできることは限られている。だから俺は力を手に入れるんだ! 俺が俺であるために! こんな下らない兵器で歪んだ秩序をぶち壊すためにな!」

「そんなことをしたら、お前は―――」

「とっくに狙われているんだ。だったら、10や20増えたところで大した手間じゃない」

 

 ―――だって全員、潰すんだから

 

 この時、千冬は察した。目の前の存在は周りを壊すことでしか自己を確立することができないのだということを。それはまるで自分の親友―――篠ノ之束そのものであることを知る千冬はなんとしても止めようと決意した瞬間、彼女の足は竦んだ。

 

 ―――何故、女尊男卑思想を持った教員がクビになったのか

 

 その実行者である存在が、現れた。現れてしまった。

 1歩、また1歩とその存在が近付いてくる。そしてその存在が気配を見せた時、静流はすぐに後ろを向いた。

 

「……何で、こんなところに男が?」

「舞崎静流君、あまりわがままを言ってはいけませんよ?」

「アンタに何がわかる?」

 

 ―――俺の気持ちなんて、誰にもわかるわけがない

 

 そう言葉に出そうとした瞬間、静流は空を飛んでいた。いや、飛ばされていたというのが正しいだろう。

 気が付けば自分がISを使わずに飛んでいることに驚くが、反射的に腕を10字型に組んで防ぐ。

 

「ほう、中々いい反応だ」

 

 どうやって飛んだのか、静流と同じ高さに現れた初老の男性は静流を蹴った。

 何とか着地した静流。しかし、2度も食らった攻撃に倒れそうになる。

 

「舞崎! もう良いでしょう、轡木さん!」

「……確かに、と言いたいところですが相手は「エアリアルオーガ」と言われた札付きの不良です。残念ながら、もう少し攻撃を加えた方が良いでしょう」

「……随分と、懐かしい名前を出してきたな」

 

 エアリアルオーガ。それはかつての静流の二つ名である。

 静流が暮らしていた地域は中学と高校が荒れていて、特に名が通った不良には必然的に二つ名が着いた。そして静流はISを使用できたことが判明する前から空を舞い、壁を使って空中戦を行っていたこともあってそう名付けられていた。

 

「大人しく、彼女の言うことに従いなさい。彼女の言うことは正しいですよ」

「ハッ! お断りだ。大体、何で好き好んでこんなクソみたいな学校にいる男の言うことなんざ聞かなきゃいけねえんだよ」

「……それに関しては概ね同感ですよ」

 

 予想外の言葉に驚く静流。そんな彼に構わず初老の男性は言葉を続けた。

 

「ここにいる教員も生徒も、本当に教育がなっていない。人殺しの兵器をスポーツと勘違いしておきながら、権力に溺れて平気で男性を扱き使う。本当に哀れとしか思えません。まぁ、織斑先生や山田先生のようにまともな人もいることにはいますが、その他の生徒はほとんどがハズレです。どいつもこいつも、弱すぎる」

 

 その言葉を吐いてすぐ、男性を中心に乱気流が起こった。

 

「ところで、舞崎静流君。あなたにはそれなりに期待していますが、私を楽しませてくれますか?」

「随分と言ってくれるな。テメェ、裏の人間か?」

「確かに裏に精通していますがね。ちゃんと表の役職に就いていますよ」

 

 静流はすぐにその場から飛ぶと、地面が抉られる。

 

「良い反応です。流石はたった1日で3つの学校の長を潰した男だ」

「いや、それとこれとは関係ないだろ。アンタに比べたらあの3人は明らかに小物だ」

 

 そう言って今度は静流が仕掛ける―――が、静流はすぐに察した。

 

 ―――自分とこの男とは、かなりの差があると

 

 先に仕掛けたのは静流。しかし男性が静流の懐に入って素早く拳を叩き込んだ。

 しかし攻撃はそれだけに留まらない。1発1発が重い連撃を食らわせていく。

 

「轡木さん、止めてください! それ以上は舞崎が―――」

 

 だが轡木と呼ばれた男性は止まらない。そして最後の1発を溜め、放った。

 それを諸に受けた静流は100mは飛び、動かなくなる。

 

「………まだ、あなたはトラウマを克服できていないようですね」

 

 轡木は千冬の手を見ている。彼女の手は震えており、また全身は蛇に睨まれた蛙のように動かない。

 彼女がまだISで活躍する前のこと、千冬は噂を聞きつけて十蔵に戦いを挑んだことがある。そしてさっきの静流のように殴り飛ばされ、同じように動けなくなったどころか気絶した。

 

「しかし、どうやら彼は違う様だ」

 

 千冬は何かに怯えるように後ろを振り向く。そこにはボロボロになりながらも立っている静流の姿があった。

 

「………俺の目的……その阻害になるというなら…………お前を、殺す」

 

 以前から、静流の体育の成績は周りから抜きん出ていた。男と女では体力に差が出るのは当然とはいえ、IS学園の生徒は運動神経が高い女が集まる場所。一夏は全体的に中間くらいだが、静流は全クラス含めてもトップである。特に、100mの記録が世界レベルの女子に匹敵する10秒66を出した時は千冬は驚いたほどである。

 今、それすらも超えるほどの速さで轡木に接近した静流は飛び蹴りを放つが、轡木は難なく回避―――したつもりだった。彼の服が破れ、血が出てくるまでは。

 

「……まさか」

 

 流石の轡木もこればかりは驚く。彼は戦闘のプロであり、今まで何度も死線を潜り抜けてきた猛者であり、何度も今の攻撃を近いところから回避し続けてきた男である。その男にかすらせることができた者など、彼が一端レベルになった頃にはいなくなっていたほどだ。

 

「さぁ、続きを―――」

 

 そう思って轡木が後ろを向くと、バランスを崩したのか転がり続ける静流の姿があった。ようやく止まったかと思うと、全く動かなくなる。

 

「………文字通り、最後の一撃だった、ということですか」

 

 この時、男性―――IS学園理事長を務める轡木十蔵は心のどこかで確信していた。

 

 ―――この男は、自分たちと同列になる、と




ということで、教員たちには勝ちましたが理事長には負けました。
これは持論ですが、理事長は化け物設定とかじゃないと原作でも一夏はとっくに死んでいるはず。女尊男卑であるご時世、彼が無事でいられるのは織斑千冬の弟で篠ノ之束のお気に入りの1人であると同時に、轡木十蔵という運営者が彼を保護しているからこそ無事でいられる可能性はあります。
ちなみに戦闘力は千冬すら超える。そうじゃなければ、たぶん原作はもっと酷いことになっているのではないでしょうか。

とりあえず、教員にもまともな人はいますが全員女なので仲良く潰されました。あ、生身でも静流に遠く及ばないのでどっちにしろって感じです。

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