あの後、俺の所業が教員にばれてクラス対抗戦まで自室謹慎を食らうことになった。本来なら懲罰房に入るべきものらしいが、篠ノ之とオルコットの証言によって「最初にISを使用した凰にも問題がある」ということになったらしい。クラス対抗戦までなのは、全員提出のレポートがあるからだろう。中にはそれだけなのは温いだろうという声も上がったらしいけど、それはどうでもいいか。
「………さて、終わりっと」
課題をすべてこなした俺は、早速趣味の時間に入る。
元々ここに来たのは、ISの技術を知ることだ。そのため時間があればプログラムの勉強や整備の勉強もしている。それをしていた時に織斑先生には驚かれたが。だからアンタの弟とは違うんだっての。
勉強中、大体放課後になって少しした時間にドアがノックされた。
「―――静流、話がある」
……この声、織斑か。
昨日の今日で現れるとは、対抗戦も近いというのに暇なのだろうか?
俺はイラつきながらドアを開けると、そこには怒りを見せている織斑とオルコット。そして少しいるのが嫌そうな篠ノ之がいた。
「何の用だよ」
「昨日のことだよ」
「……ああ、あれね。まさかそんなことだでここまで文句を言いに来たのか?」
「悪いかよ」
「ああ。やっぱりアホだなと思う」
すると織斑が胸倉を掴んで来た。篠ノ之は驚いていたが俺を見てきたので織斑が掴めたことより織斑に掴まれた俺に驚いているのかもしれない。
「良いのか?」
「何が?」
「そうやって馬鹿みたいに俺を掴んでいて良いのかって聞いてんだよ」
「何を言って―――」
俺は織斑の手首を握ると、急に織斑は苦しみだした。
「ぐわぁああああああッ!!!」
「一夏さん! あなた、今すぐ彼を離しなさい!!」
「無防備に腕を晒したこいつの自業自得だな」
「何を―――」
織斑の腕を離すと、織斑はその場に崩れる。
「これに懲りたらとっと失せて、弱者同士傷を舐めあっておけ。所詮そんなことしかできないんだからな」
「な……何で、お前は女の子に暴力を振るえるんだよ」
唐突にそんな質問をされた俺は内心驚いていた。
「織斑、お前は入学する前に何かされたか?」
「………なにもされてねえよ。されたらそれこそ―――」
―――プッ
俺は思わず噴いた。ホントか? あり得ねえ……こいつ。
「じゃあお前は、何も知らないくせにあんなクソ臭いセリフを吐いていたのかよ」
「何が!」
「「俺の家族を守る」って奴だよ」
それを言うと織斑の奴は顔を赤くした。
「……悪いかよ」
「ああ、頭が湧いているとしか思えねえな」
素に戻ってそう言ってやると、織斑は再び怒りを露わにした。
「俺は今まで千冬姉に守られて来たんだ! だから―――」
「日本語間違えてるぞ。今
何言ってんだ、こいつと思っていることを伝えると、呆けた。
「何言ってんだ……?」
「大体、最初から何もかも間違えてんだよ。そもそも疑問に思えや代表候補生。向こうはISを使用して、こっちはただ殴っただけだ。……って、わかってなさそうだから話を変えてやる。織斑、人を銃で撃ったらどうなる」
「……死ぬだろ」
「ISで人を撃ったら?」
「そりゃあ死―――」
ようやく気付いたらしい。俺はため息を吐いた。
「こんな例え話をしなければ気付かないのかよ。……まぁ、日和っていたらこんなもんか。俺もISのことを勉強する意味を深く考えていなかったし」
ただ、将来はISに匹敵する機動兵器を作りたいとしか考えていなかったからな。
「つまりそういうことだ。凰は人に向けてその兵器を撃った。おそらく祖国に伝わっていて、場合によっては既に国に連れ戻されている……ってもういない」
「待ってください、一夏さん!」
織斑の後を追うオルコット。だが篠ノ之はまだ行かなかった。
「…お前も行かなくていいのか?」
「………少し悲しくなってな」
「……とりあえず中に入れよ」
長話の予感がしたので、俺は篠ノ之を中に入れて水を用意し、彼女の前に出した。
「悪いな。部屋にある奴でスポーツマンに差し出しても問題ないものを出させてもらった」
「いや、いい。ありがたくいただく」
篠ノ之は水を少し口に含んだ。
「しかし驚いた。お前の事だから、てっきり織斑と一緒に行くと思った」
「私だって物の分別はつけているつもりだ。……それに、私は舞崎に謝らねばならんことがある」
「………あった、か?」
「昨日、私は攻撃しただろう?」
「いや、それはお互い様だ」
俺も潰そうとしたし。
「それでもだ。私は、完全にとは言わないがお前が悪くないと思う」
「………そう言ってくれるのはありがたいが、良いのか? 俺と話をしたらクラスでハブられるぞ」
ただでさえ、何があったか知らんがコミュ障なんだから。
「確かに、今日は大変だったがな。凰が怪我したことで登校しているかもしれないと2組がクラスに来たり、事の顛末を知った1組はヒートアップして、今すぐ舞崎を絞めようと動く者もいた。織斑先生が止めたが、間に合わなかったらここに来ていたのかもしれないぞ」
「……織斑先生が別の意味で犠牲になるな」
明日から下着が無くなると言う意味で。
「…………私には、どうしてこうなったのかわからない。姉さんはどうして、ISなんか開発したんだろうな」
「いや、当初の目的は一般的だと思うぞ」
そう言って俺は本棚から「IS誕生の秘話」という本を出して、最初の方のページを見せる。
「ほらここ、「「私は宇宙に行きたいからISを作った」と本人は語っているが……」ってな」
「だとしたら、何故あれほどの力が必要なんだ。既存の兵器を凌駕する力が………」
拳を握る篠ノ之。冷静に考えてみると、篠ノ之みたいな女がアニメなんか見ないか。
俺はテレビとBD/DVDデッキの電源を入れる。チャンネルを合わせてアニメのDVDを入れて再生すると、ロボットが戦闘を繰り広げるシーンが移った。
「何だこれは……」
「ISに兵器を超える威力の武器を搭載した理由だよ。俺は、2つの理由からISに武器を搭載したと思っている。1つはこういったデブリ……ようは宇宙のごみを除去するため。そしてもう1つは、いざという時のための護身用だ」
「ご……護身用?」
「そもそもISは宇宙用の機体だが、宇宙は本当に広がっていて何があるかわからない。もしかしたら、なんちゃら船団のようやスペースコロニーのように宇宙には既に人が住んでいる可能性もある。そいつらがもし友好的じゃなく、宇宙を荒らしている海賊や戦争大好きな国家ならどうする? 大人しく捕まってひき肉になる? それとも好きでもない奴らに体中をまさぐられる?」
想像したのか、篠ノ之は顔を引き攣らせた。
「そこまで篠ノ之の姉貴が考えたのかは別だが、パッと考えられるだけでもそれだけのことはあるんだ。あの兵装にも納得がいく」
まぁ、それを考えたのは帰ってきてからなんだけどな。
「……舞崎、そこまで……」
「別にお前の姉貴を理解しようとしたわけじゃないが、可能性はなくもない。問題は性格とデモンストレーションをしなかったことだな」
そう言って俺はノートパソコンを開いて某有名な動画サイトを開いて見せる。その映像は10年前に篠ノ之束がISを発表した時の様子が映し出されていた。
「科学者ってのは、成果と課程を見せられ、自分たちで証明することで初めて事象を理解する人間だ。だがこれじゃあ、ISが本当に通常兵器を凌駕する存在かどうかは理解できない。ましてや彼女は当時は確か15だろ? そんなものは所詮子どもの戯言と捉えられてもおかしくはない」
「………」
少し篠ノ之には理解できなかった? そう思って顔を見ると、何故か彼女は泣いていたのだ。
「篠ノ之?」
「すまない。ただ、今までここまで理解してくれる人がいなかったのでな」
これくらい、少し考えればわかると思うが……。
そう思っているとドアが開いた音がした。
「舞崎、課題の提出時間はとっくに過ぎて……何だこれは」
「さぁな」
それが俺の、心からの本音だった。
なんとか篠ノ之を泣き止ませ、俺の部屋にしばらく来ないように言って自室に戻らせる。
それからしばらくしてクラス対抗戦当日。俺は人目を避けて外で試合観戦ついでに寝ていると周りから殺意を飛ばされる。しっかし、温い。もっと本気出せよ。
(そういえば、結局あの後は言えなかったな)
篠ノ之束は468個目からISコアを作成していないが、その理由はなんとなくだがわかっている。たぶんだが、おそらく今の世の中に嫌悪したのかもしれない。ISを兵器として見る今の世界に。
俺もISは兵器だと思っているが、元々は宇宙開発用のもの。操縦者のことを思って自分の技術力をふんだんに使った結果が今のこれで女が助長し世界のバランスの崩壊したことを悔いているなら開発しない説明はつくが。
(その本意は本人のみが知る、か)
まぁ、そんなことを考えていても仕方がない。今はレポート用に試合観戦でもするか。すっげぇつまんねえけど。
(やっぱり戦いは、自分がしてこそだよなぁ)
他人の何を参考にすればいいのかわからない俺はそんな感想を抱く。織斑と凰が最初に戦っているが、結局対抗戦に間に合っているんだから文句言うなよ。叩きのめしたが骨は折ってないというのに。
(にしても、凰は凰で奇妙な兵器を使うな)
見えない砲弾は厄介だな。まぁ、距離を詰めるかあのチビが動く挑発でもすれば行けるかもしれないが。
なんて思っていると、急に大きな音がしてIS学園が揺れた。
(なんなんだよ)
急に砂煙が舞い、俺はレジャーシートを盾にガードする。
収まったと思ったら、これまた厳ついのが現れた。
(全身装甲だがVアンテナはなし。量産タイプか? 指揮官タイプの角はなさそうだが……)
ともあれ、何かが来たのは確かだ。周りから悲鳴が上がるが誰も対処しない。
(……だが、少し興味は湧いてきた)
どこの誰かわからないが、おそらくこういったイベント中に俺か将来有望の操縦者・技術者候補をさらいにきたのだろう。すぐに救援が来る気配がない。
「ちょっと! どうにかしなさいよ!」
近くにいた女が俺にそう命令してくる。
「テメェがしろよ」
「何でよ! アンタは専用機を持ってるじゃない!」
「今は女が強いんじゃないのか?」
そう言うとその女は怒鳴って来た。
「良いからとっとと行きなさい!」
「………嫌なこった」
「何ですって!?」
「嫌だと言ったんだ。何で日頃から威張っているお前らが行かずに、降りかかってくる火の粉を払っているだけの俺が行かなければならないんだ。立場をわきまえろよ。こういう時に行かずにテメェらはいつ活躍する? いつ役に立つ?」
「良いからさっさと行きなさいよ! 私たちが死んでも良いの!?」
「別に良いけど」
そう答えると、信じられないと言う顔をされた。
「ふざけないでよ……まだ私は生きれるのよ!?」
「それがどうした」
はっきり言って、アンタが……いや、学園の生徒がどれだけ生きれるかなんてどうでもいい。それにそもそも―――
「………まぁいいや。その代わり死んでも俺は「自業自得」としか言わないからな」
集まってきていた女を押し退け、打鉄を展開した。
「わざわざ待ってくれたな。もう攻めてきて良いぜ」
「何言ってんのよ! 私たちがまだ―――」
騒がしい外野は放置して、俺は手を挙げて挑発した。しかし何故か動く気配がしない。
(………まさか、生徒を生かすつもりか?)
そっちの方が個人的にありがたいが、正直なところあのノロマ共を待っていたら時間がない。こっちから動いて誰もいない場所へと移動する。
すると所属不明機は俺の後を追って移動をした。
(随分と律儀や奴だな。乗っている奴の顔を見てみたい)
そう思いながら俺は海の上に出る。ここなら不安なのは格納庫っぽいところだろうが、ISが壊されて困るのは俺ではなく女なので問題ない。それに、向こうも撃って来た。
(良い出力だな。オルコットの機体よりも出力は上か)
前にした模擬戦のデータと今のビームのデータを比べる。俺の知り合いは「ビームコーティングされた盾を持たない時点で雑魚」とISを酷評しているが、未だにそれに匹敵する防御兵装はないな。
(だからこそか……ますます解析したくなった)
俺は回避に徹しながら誘導する。火薬庫が近くになく、どこよりも安全な場所へとだ。
目の前の敵を撃墜するのは決定事項。だが、落とす場所を間違えたら解析できない。打鉄という低速機体のハンデを背負っている今の俺にとって、目下武装並びに機体の強化は必須なのだ。
(目標は、機体の損傷をできるだけ抑えての無効化か)
俺は思わず口角を上げる。今はなんとか回避しているが、相手の技量が高いのか回避できる部分が限られ始めている。おそらく誘導されていると考えるべきか。
(なら、これで)
俺は盾を展開し、ばら撒かれるビームを回避しつつブーメランのように投げた。ブーメランと違うのは戻ってくるのを考えていないが。
ともかく、相手のビームを途切れさせた俺は、相手の懐に飛び込んで大型ブレードを展開して振り抜いた。
「―――え?」
そう、振り抜いた。どういうことかブレードは俺の予想を反して振り抜かれたのである。
本来ならあり得ないことだ。ISには絶対防御と言う物が存在しているので致命傷と判断された攻撃に当たれば発動してぶつかって戻ってくる。
相手の左脇から下はそのまま重力に逆らわずに落下する。俺はすぐに打鉄に噴き出している物が何かを確認させると「オイル」と出た。
「………そうか。最初から手加減する必要がなかったんだ」
だとしたら、さっきは何故攻撃しなかったんだ? いや、今はいい。今は喜ぶんだ―――人が残っていなかったことに。
(さぁ、行こうか)
喜びを露わにし、俺はメイスを展開して頭部側面に攻撃を加える。ビームを放って来た所属不明機。盾が破壊されたが、それでもまだ動ける。
「人形風情が!!」
跳ね返る力を利用して、俺はそのまま回転して胸部に叩きつける。すると機体の体勢が崩れ、チャンスとみた俺はそのまま叩きつけようとしたが残っている右腕で殴り飛ばされる。
「油断した……」
メイスを支えにして立ち上がると、所属不明機改め無人機は近接ブレードを展開して接近してくる。そして、振り下ろされたので俺はメイスで受け止めた。
「たぶんお前は強いんだろうな………でもな、残念ながら戦いに興じている時間がない」
メイスを離して俺はすぐにメイスを足場にして空中に舞う。ブレードでメイスを叩きつける形になった無人機の切断した腕の方に移動した俺はすぐさま右腕を突っ込んだ。
「見つけた」
固体掴んだ俺は無理やり元あった場所から引き抜くと、無人機から感じた機械の鼓動がダウンしていくのを感じた。
俺は無理やり突っ込んだことで壊れた腕から、予想通りの物がでてきて安堵する。
(……形が違うな)
教科書に「ISコアはそれぞれ形が違う」と書かれていたことを思い出しながらコアを見ていると、すぐに自分がするべきことを思い出して機体を解析しようと手を伸ばすと、銃弾が飛んできた。警告が飛ばなかったのは俺がロックされなかったからだろう。
「……何のつもりだ?」
「今すぐその機体から離れなさい。機体は我々が回収するわ」
ISを装備した女が5人。打鉄が3機、ラファール・リヴァイヴが2機だ。しかし打鉄1機は見慣れない装備をしていて、大型ライフルが俺を狙っている。
「断る、と言ったら?」
「実力行使で止めさせてもらうわ」
「……そうか。なら、やってみろよ」
すると何故かISを装備した女が全員驚いた。
「あなた正気? 私たちは1年生の代表候補生や織斑君とは違うわよ?」
「どうせそこらにいる女と変わらない。それだけは確かだろうが。そもそも展開の早さからして、俺がこの機体を再起不能になるまで待ってた奴らが何勝手に所有権を主張してんだよ」
「………随分とふざけているわね」
「…私に任せろ。黙らせる」
そう言ってブレードを展開した女が迫って来たので、俺はそいつの首を《チェインシザー》で掴んだ。
―――さぁ、第二ラウンドの始まりだ
駆け足気味。それ故に案外あっさりと倒しちゃいました。
でも、この時点で静流のIS技量はかなり上がっているんですよね。主にクロエとさらなる速さへの追及のせいで。