IS-Twin/Face-   作:reizen

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第16話 切れた彼は制御が効かない

 翌日。朝食を済まして歯を磨き終わった俺は制服に着替えて外に出る。織斑先生はさっさと言ってしまったので鍵は俺が閉めることになっている。

 

「あ、マッキーだ~」

「しまいに俺のあだ名に「チョコレート」が増える気がしてならないんだけど」

「それは気のせいだよ~」

 

 寮監室から少し歩くと、見覚えがある女生徒がやってきた。

 

「今日から登校するの~」

「まぁな」

「……そんなに警戒しなくても、私は君に手を出さないよ?」

 

 制服の下に仕込んでいるトンファーに気付いたらしい女。俺の中で警戒レベルを上げる。

 

「驚いた。見た目に反してよく気付いたな」

「とか言って、私たちに全然心を開かないくせに~」

 

 周りが驚く中、俺とその女生徒は教室に向かう。すると、前の入り口は誰かが防いでいるので後ろから入ることにした。

 

「何格好つけてるんだ? すげえ似合わないぞ」

「んなっ……!? なんてことを言うのよ、アンタは!」

 

 どうやら織斑の知り合いらしい。俺は席に着いて机に突っ伏すと、暴力の音が聞こえた。そして前の方でいつもの出席簿の音が聞こえたけど、誰か余計なことをしたのだろうか?

 

「起きろ舞崎、HRだ」

「寝かせてくださいよ。朝は凄く弱いんです」

「……いつも5時起きだと聞いていたが?」

「昨日は寝れなかったんです」

 

 そんな会話があって、織斑たちはようやく俺の姿に気付いたらしい。その後少し騒ぎになったけど織斑先生の餌食になった人は自業自得だと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――もう静流がいねえ!?」

 

 そんな声が廊下に響く。そこまで大げさなことか? 

 大体、こっちが眠いのに休み時間に妨害するなって言うのに。篠ノ之のフォローが無ければ俺はおそらく織斑をボコっていただろう。

 

「ねぇ、ちょっとアンタ」

「何?」

「あ、いや、ごめん」

 

 だったら話しかけるなよ、チビ助……って言ったら怒られるだろうから我慢しよ。向こうから喧嘩を売ってくる分には構わないが、こっちから喧嘩を売ったらややこしいことになるのは目に見ている。

 適当な場所に座ると、入り口の方がうるさくなる。まったく、誰がうるさくしている……かなんてことは聞かなくていいか。いつもの奴らだし。

 

「なぁ静流、いつ戻って来たんだ?」

「待ちなさいよ一夏! そいつよりアタシを優先しなさいよ!」

 

 何で許可なく僕がいる場所に座るかな。わけがわからないよ。

 

「………ところで織斑君、君はどうしてそう厄介事しか持ってこないんだい? 素人潰しの次は歩く警報機を連れて歩くなんて正気じゃないと思うけど?」

「警報機って、鈴はそういんじゃないぞ。うるさいのは否定しないけど」

「否定しなさいよ!」

「リン? 魔法使いってここにはいないでしょ?」

「……何の話だ?」

 

 アニメを見過ぎて話が合わないってのは寂しいよね。

 

「そういえば、アンタって二人目よね? 研究所に入ったって聞いたけど戻って来たんだ」

「元々1週間だけだったからね。ところで君は?」

「凰鈴音、中国代表候補生よ」

「へー」

 

 適当に返事をして僕は昼食のペペロンチーノを食べた。

 

「アンタ、もしかしてアタシに興味ないとか言わないわよね?」

「代表候補生ってアホがなる役職でしょ?」

「待ちなさい! それはさっきからわたくしのことを言っていますの!?」

 

 うるさいな。どうしてこう代表候補生ってうるさいのしかいないのだろ。

 

「君以外に一体誰がいるって言うんだい? それとも何? 自分は特別だから何を言っても大丈夫とか思ってたの? だから日本を侮辱したんだ……弱いくせに」

「何ですって!?」

「たかが500機もない兵器を扱えるからって良い気になるなって言ってんだよ。大体、ここにいる大半が生身で男に戦いを挑んだら9割が剥かれて犯されて終わりでしょ。ああ、それが怖いから兵器を持ち歩いているんだっけ? 逆らったらズドン? 怖いねぇ、女って」

 

 わざとらしく馬鹿にする口調で言う。オルコットの顔は怒りでみるみる赤くなった。

 

「わたくしは………そんな人間では……ありませんわ……」

「はいはい。よく我慢できました。だから大人しく称号を受け取って座っていましょうね~」

 

 渋々座るオルコット。俺は食事を再開すると何とも言えない顔で織斑とリンという女の視線に気付いた。

 

「アンタ、すっごく鬼畜よね」

「そう? 僕はまだまともだと思うけど?」

「いや、性格変わりすぎだろ」

 

 何故か引かれているけど、まぁ元々こんな性格なんだがな。

 

「で、君は一体誰なの? まぁ大して興味ないけどさ」

「凰鈴音よ。よろしくね」

「その呼び方だと中国?」

「そ、そこの代表候補生」

「へー」

 

 一瞬、凰の眉がひくついたのを見た俺は内心笑った。

 

「で、そろそろ君たちの関係を教えてもらいたいんだけど。さっきから後ろの2人は気になっているみたいだし」

「ただの幼馴染だよ」

 

 こいつにとってはそうなんだということはよくわかった。

 

「? 何睨んでるんだ?」

「なんでもないわよ!」

 

 ところで、幼馴染と言えば………

 

「確か、篠ノ之さんとも幼馴染だったよね?」

「ああ、箒が引っ越して行ったのが小4の終わりで、鈴が転校してきたのが小5の頭なんだ」

 

 ……それって幼馴染っていうのか怪しくないか?

 

「で、中2の終わりに国に帰ったから、会うのは1年ちょっとぶりだな」

「へー。じゃあ、代表候補生になってまだ1年しか経ってないんだ。凄いね」

「? 何でそうだってわかるんだ?」

「そうじゃなかったら君は「代表候補生」って単語は知ってたはずだよね?」

 

 すると凰さんは信じられないと言う顔をしていた。

 

「アンタ、馬鹿!?」

「止めてあげなよ、凰さん。織斑君が馬鹿なのは今更なんだから」

 

 織斑君は何かに刺された表情をする。

 

「じゃなかったら、後ろにいるオルコットさんにIS勝負での決闘を受けてハンデはいらないって言わないよ」

「し、仕方ないだろ! あの時は、その……」

「まぁそうなると僕も馬鹿だったよね。最初からISじゃなくて生身にして戦っておけば、今頃四肢のどこかを千切って障碍者としての生活を送らせることができたのにさ」

「やっぱり静流、性格変わってる!?」

 

 だから元々こういう風だっての。

 

「ならば、その減らず口を今すぐ閉ざさせて―――」

「いい加減にしておけ」

 

 内心舌打ちをして現れた教員に目を向ける。

 

「どうしたんですか、織斑先生」

「なに。どこかの阿呆共が喧嘩を始めようとしているのが見えたからな」

「だってさ、オルコットさん」

「どう考えてもあなたでしょう!」

「この場合、どちらも指す」

「酷いですよ織斑先生! 僕がこの考えなしの女大好きクソビッチと同列だなんて!」

「上等ですわ! 今すぐここから排除してあげます!」

「止めておけ、オルコット。ISならともかく生身じゃお前じゃ無理だ」

 

 そんな言葉が織斑先生から飛び出したので、全員が固まった。

 

「わたくしはイギリスでちゃんとした訓練を受けています! 一般の方に後れを取ることはありませんわ!」

「………舞崎が一般という尺度に当てはまるなら、確かにオルコットの方が上かもしれんがな。だが校内で、まして食堂で人を殺させるわけにはいかん」

 

 やだなぁ、それじゃ僕がオルコットを殺すみたいじゃないか。

 女尊男卑を駆逐する方法なんていくらでもある。その一つとして、女を精神崩壊させればいいんだから。

 

「オルコット。少しは考えてみろ。今までの言動はどう見ても舞崎がお前を挑発するためにしていることだ」

「ですが、言って良いことと悪いことがありますわ!」

「まぁ、確かにそうだよねぇ。10年経ったのに未だにISは男のロマンすら成しえていないクソ兵器なんだし、女が男を見下すなんてクソワロスだよねぇ?」

 

 合体機構を作れってのは言わないけど、せめて可変機体ぐらいは作っておけとは思う。

 

「なん……ですって!?」

「だってそうじゃない。君ってとある筋から聞いたけど未だにビット兵器と自身を同時に扱えないんでしょ? それで男を見下すなんて筋違いというか、むしろ滑稽だね」

「だから止めろって言ってるだろうが!!」

 

 出席簿をトンファーを仕込んでいる袖で受け止める。

 

「………そんな。わたくしですら見切れないその攻撃をあっさりと」

「そう? この人はどう見ても手を抜いているよ。どういうつもりか知らないけどね」

「警告だ!」

 

 ふーん。警告なんだ。

 

「仕方ない。今回は引いてあげるよ。僕のせっかくの食事に血が入ったら嫌だし」

「そうしておけ。ああ、それと私は今日遅くなるから先に寝ててくれて構わん」

「何言ってるの。こっちは最初からそのつもりだよ」

「……そうか」

 

 少し残念そうにしながら食堂を出て行く織斑先生。俺も席に着くと、全員が信じられない風に俺を見た。

 

「なぁ、今のってどういうことだ?」

「オルコットさんが僕に勝てない話?」

「千冬姉がお前に遅くなるって伝言したことだよ!!」

 

 何をそんなに慌ててるんだ? ……ああ、そう言えば言ってなかったな。

 

「別に。今僕は織斑先生と同居しているからだよ」

 

 何でもない風に言った俺はペペロンチーノを食べると、食堂に嵐が巻き起こった。

 

「うるさいな。高がそれくらいで騒がないでよ」

「いや、異常だから! 何でアンタと千冬さんが同居してんのよ!?」

「まぁ、色々あるんだよ」

 

 一応、専用コア持ちのことは伏せているようには言われている。言う必要性もないし、言ったところで余計な騒ぎが生まれるだけだろうしな。

 

「しかしそんなことを言っても良かったのか? 舞崎にそんな気持ちはないとしても、騒ぎになるのは間違いないのでは………もしかして」

「ご名答だよ、篠ノ之さん。これから来るだろうねえ。サンドバッグたちが」

 

 女子の噂が広がるのは早いだろうし、思い上がった奴らがこれからたくさん来るだろう。そうなれば狩るのは容易い。

 

「……なぁ、静流」

「ん? 何?」

「……千冬姉と暮らしているってことは、まさかそういうこぐべらぶぁ?!」

 

 おっといけない。反射的に織斑をぶっ飛ばしてしまった。でも仕方ない。だってこいつ不名誉なことを言ってきたんだから。反省も何もない。

 

「いきなり何するんだよ!!」

「ごめん。つい気持ち悪い光景が浮かんでしまって反射的に殴った」

「気持ち悪いって……」

「安心しなよ。僕は教師に手を出すつもりはないし、手を出すなら同じタイプで言えば篠ノ之さんか、教員のくくりで言えば山田先生辺りが安泰だと思っているから」

 

 本当は、クロエみたいなのが好きだから胸は控えめの方がいいかもしれないけど。

 いや、あの子は別格なんだ。元々「仲良くしていますアピール」のために抱き着いてたけど、凄く抱き心地良かったし、着せ替え人形としても重宝していた。

 

「な、なな……何を言っているか!?」

 

 顔を赤くする篠ノ之。そう言えばこいつ耐性がなかったんだな。

 

「あくまで織斑先生と同系統の女ってだけで例に挙げただけだ。他意はない」

「……それはそうだが、何もこんなところで言わなくても………」

「凰さんはともかくオルコットさんはどれだけ家柄が良くても本人が異常なのであり得ない。そもそも、男が嫌いだと言っている時点でよほどの物好きじゃないと血は続かないから、オルコット家は近い内に潰えるだろうね。もしくは下らない男と結婚するかぐらいかな。それとも、どこの馬の骨ともわからない男の精子を腹の中に入れる? プライドが無駄に高い君の事だから無理だろうし、そんなことをすればどんな噂を立てられるのか想像に難くないだろうけど。ねぇ、オルコットさん」

 

 攻撃するのを我慢するオルコットを馬鹿にしつつ、俺は席を立った。

 

「じゃあ、僕は先に行かせてもらうよ。精々毒を吐けばいいんじゃない? 他国を侮辱して不意打ちに対抗できなかった哀れな代表候補生さん」

 

 そのまま食器を戻して俺は食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せ、セシリア……」

 

 気遣うように声をかける一夏にセシリアは「大丈夫ですわ」と告げる。

 

「ところで篠ノ之さん、確かあなたは入学前の舞崎さんをご存知でしたわね。あの人はいつもあんな感じでしたの?」

「………少し、元に戻ったと思うがな…」

 

 箒はそれだけ言って口をつぐむ。セシリアに静流のことを言うべきか否かで迷ったのである。

 言った方が良いと思うが、同時に言ったことで静流のことでセシリアが同情してくれるかの保証がない。

 

「そんなことよりも、私はそろそろはっきりしておきたいのだがな」

 

 そう言って箒は鈴音に視線を向ける。

 

「え? アタシ?」

「そうだ。お前は一夏の何なのだ?」

「そうですわ! 事と次第によっては唯ではすみませんわよ!」

(……意識が逸れてくれて良かった)

 

 ホッとする箒。これでいいと、他に共有するべきではないと自分に言い聞かせる。それがセシリアを、そして静流を守る術なのだと。

 すると箒の携帯電話から着信音が鳴った。

 

「すまない。少し席を外す」

 

 そう断り、食堂から出た箒は通話ボタンをタッチして電話に出た。

 

「もしもし。……ああ、卒業式以来だな」

 

 おそらく、箒を良く知る一夏や千冬が見れば驚くほど安堵を浮かべる箒。もっとも、他人から電話がかかってくることに一夏は既に驚きを露わにしていたが、セシリアも鈴音もそれには気づかなかった。

 

「ちょうど良かった。少し聞きたいことがあるのだが………そうだ。舞崎についてだ」

『もしかして、とうとう篠田さんは舞崎君との関係について考えるようになったの?』

 

 少し楽しむように電話の相手は言うと、箒はすぐに「違う」と否定する。

 

「あ、いや、すまない。そのだな……実は私が知る舞崎とは少し逸脱してしまってな」

『………それって、暴力的ですぐに喧嘩を売る感じ?』

「そうだ」

『……それは中学初期の頃の舞崎君だよ。当時は凄く荒れててね。舞崎君に反抗する人を片っ端から潰してはずっと授業をサボってたの。元々荒れてた中学校だったから、教師たちも保身に走ってしまってね。でも、その時はまだマシだったと思う。酷い時は授業中でも目を付けられた女子は犯されてたって話だから』

「……舞崎が大将だった時はそんなことはなかったのか?」

『うん。凄く平和だった。というか、舞崎君と喧嘩した人のほとんどが更生してたから』

 

 それを聞いた箒はしばらくフリーズした。

 

「ちょっと待て。何故更生した?」

『なんか、車に轢かれて死にかけたらしいよ。いち早く舞崎君が助けたりしてたけど、その時に「あーあ、もう少しでゴミが消えてなくなったのに」ってほとんどの人が言われてたって』

 

 思わず箒はセシリアの方を見た。

 

(まさか、オルコットにもそうするつもりか?)

 

 可能性はなくはない。いや、むしろ高い。

 箒はもう一度、あの時の事を思い出す。

 

「「女尊男卑を狩る為」……か」

『………それ、舞崎君が言ってたの?』

「あ、すまない。……確かにそう言っていた」

『それで、篠田さんは止めるつもり?』

「……そのつもりだ。私は、舞崎がこれ以上他の生徒に嫌われてほしくない」

 

 箒も自身が周りと上手く行っていると言えるほどではない。だが彼女は静流のことをもっと見てもらいたいと思っているのだ。何故なら今この学園で唯一、静流の良いところを深くまで知っていて、自分しかできないと思っている。

 

『………止めた方が良いよ』

「何故だ」

『確かに篠田さんは強い。でも、舞崎君はもっと強い。私、お姉ちゃんがいるんだけどね? お姉ちゃんにカツアゲされている時に助けてもらったことがあるの』

「……どうなったんだ?」

『お姉ちゃんは私に二度としなくなった。ううん。むしろ女権団から抜けて普通の生活を送ってるわ。お母さんもそう。舞崎君を貶めようとしたけど無理だった。私と言うクラスメイトがいたから手を抜いてくれたけど、聞いた話だと素手でバットを受け止めて握り潰したみたい』

 

 ―――素手?

 

 それをできる人間を知っている箒だが、だからこそ自分がしようとしていることが無謀ではないのかと思い始めた。




結果:保留

ちなみに、箒はこうして今も友達と連絡を取り合ってます。

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