IS-Twin/Face-   作:reizen

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書き溜め分はこれが最後になるので、残りは書きあがり次第更新したいと思います。


第13話 百獣の複合王

 翌朝。僕はトレーニングがてら購買場が開いているかを確認してから部屋に戻り、寝ていたクロエを起こして再度向かった。

 

「子ども用の女もののパンツねぇ。それならこれはどうだい?」

 

 典型的なおばちゃんって感じの店員がそう言って奥から何枚か出してくれる。

 

「ありがとうございます。後は……意外と物がありますね?」

「ここにいる研究員は中々家に帰らないからねぇ。でも、その子は所長から支給された子だろう? 何も自費じゃなくてもいいと思うけどねえ」

「名義は僕になっているので、それに彼女みたいな女の子に何かを買い与えることに抵抗はありませんので」

 

 女尊男卑だったら、即刻捨ててるけど。

 

「若いのにしっかりしているねぇ。ところで服は? 今なら割引価格で販売するよ」

「ありがとうございます。じゃあ、大量に」

 

 そう言って僕はクロエを連れまわして色々な服を買わせる。

 

「ところで、所長からこういうのも必要かもしれないって言われたんだけど」

「………ナース服ですか。メイド服はありますか?」

「あるよ。これだね。あと何で注射器や白衣なんかがいるかはわからないけど、渡しておけって言われてね。作業着も……持てるかい?」

「ええ。これくらいなら」

 

 気が付けば、金がたくさんあるとはいえかなり買っていた。

 筋トレだと自分に言い聞かせながら持っていると、クロエが尋ねてきた。

 

「……どうして、私にそんなことをするんですか?」

 

 どうして、ねぇ。特に考えたことはなかった。でも、理由を作るとするな―――

 

「君が僕の奴隷だからだろうね」

「……ならば、相応の事をすれば良いのではないのでしょうか? あなたに殴られたりするくらい、私にとっては何の苦もありません」

「…………僕はそうは思わないけどね。身分が下だからって理由で殴る趣味はないし、そんなことでストレス発散なんて何が楽しいのか疑問だよ。大体、それは実力がない奴か、実力があってもいつか抜かれるのではないかという恐怖から来る理論だから」

「………どういうことですか?」

「じゃあ聞くけど、君は暴力を振るって来る人に反抗する?」

「………しません。そんなことをしても、返されるのが目に見えています」

 

 「勝てるなら話は違いますが」と答えるクロエに俺は頷いて言葉を続けた。

 

「あくまで僕の推測だけど、彼らは自分たちに逆らわせないように躾をしているんだよ」

「……躾、ですか?」

「ヒトは今でこそ、社会の頂点に立っているけど何の準備もせずに野生の動物に挑まない。ライオンやチーターみたいなタイプにはね。つまり僕らは昔からは「危険物」として植え付けられているんだよ。今は女が強いってことになっているけど、僕はただ利用するためにそうしているだけに過ぎないと思っている」

「……利用、ですか?」

「そう、兵器として」

 

 するとクロエの顔が暗くなる。もしかして地雷を踏み抜いたのだろうか。

 

「マスターは、よくそこまで理解していますね。一般の方と聞いていたのでてっきり考えが至らない人間かと思っていました」

「陰謀論好きな奴がいてな。ここまでの知識は彼がいたからできたことだ」

 

 いつも忙しくてあまり話には入ってこれない奴だけど、一体どこでそんな知識を仕入れているのかと聞きたいぐらいに詳しい奴がいた。ちなみにそいつは孤児院で暮らしていて、休みは年下の子どもたちの相手をしている。

 

「でも僕は、そういうのが嫌いだからこうして買っているわけだ。それに君が女尊男卑の気がないってのもある」「………女尊男卑なんて、抱ける方が幸せなんです。……何もわかってないから」

 

 どこか寂しそうにするクロエ。僕はまさしくその通りだと思った。

 でもまさか、あんな形で返してもらえるなんて思いもしなかった僕は、結果的に得をすることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、あのゴミ女……セシリア・オルコットがIS学園に来た理由っていうのは最新鋭機のデータ収集がメインなわけね」

「そうなんです。特に今、EUでは主要国を中心に『イグニッション・プラン』というものが実施されていて、ティアーズ(モデル)はイギリスの中でも筆頭候補に立っているんです」

 

 数日が経ち、トレーニングを終えて風呂を出た僕はクロエに話を聞いていた。

 彼女は常識離れしているところはあれど、ISに関しては知識が豊富なので読書代わりに彼女の話を聞いている。

 

「ですが、酷い話ですね。仮にも国の代表候補生の身分であろう人が素人に喧嘩を売るばかりか、他国まで侮辱するなんて」

「どっちにしろ、負ける可能性が高かったからとある男女の討論を動画サイトでアップしておいた」

「………それくらいはする必要はあるでしょう。確か彼女はイギリスでも唯一のBT適性値A+という最高ランクを叩き出していると理由で選ばれたはずです。射撃が得意というのも相まってでしょうね」

「よく、そんなことを知っているね」

「………あまり自慢できることではありませんよ」

 

 少なくとも僕は今のクロエは凄いと思うけどね。博識だし、こうして僕が持たない知識を補ってくれる。

 

「舞崎君、少しいいかい?」

「何でしょうか?」

 

 昼休みに勉強していると、職員の一人が声をかけてきた。

 

「灰澤所長から伝言。2時間後にトレーニングルームに来てほしいって」

「2時間……14時30分に向かえばいいですね?」

「うん。それくらいにお願い」

「わかりました」

 

 それからしばらくして、僕らはトレーニングルームに来た。

 周りはあまりクロエを連れまわして欲しくないのか、彼女を睨むように見る。僕だけが中に入るように言われたので少しだけ待ってもらうように言ってから頭を撫でて入る。

 

「それで、僕に何をしてもらいたいんですか?」

『これからあなたには、あるものと戦ってもらいます』

 

 IS訓練に設けられたトレーニングルームに2つのドアがあり、僕の前にあるドアから何かが入って来た。

 

 

「………よくファンタジーもののゲームに出てくるキメラですか?」

『よくご存知で。あなたには、こいつと戦ってもらいます―――やれ』

 

 黒い毛に赤い瞳。蛇の尾に悪魔の翼を持つ四肢の獣は灰澤さんがそう言うや否や僕の方に飛び掛かってくる。タイミングを見計らって、僕はキメラの顔を踏み台にして上へ飛んだ。すると、そいつは炎を吐いた。

 幸いなことにそいつは僕がいる場所に吐いたので回避に成功するけど、これでは迂闊に上には飛べない。

 

『どうです? いかに複数の中学校を占めたあなたでも、このような化け物の相手には生き残れまい!』

「何でノリノリなんですか?」

 

 突っ込みを入れるが返事はない。僕は立ち上がってトンファーを出し、突っ込んだ。

 キメラが僕に向かって爪を振り下ろすけど、それを回避して顔に棒を叩きつける。だがキメラはすぐに左前脚で僕を殴り飛ばした。なんとかトンファーで受け止めて防御した。

 

「この試合、僕が勝ったら何か言うことを聞いてくれますか?」

『何でしょうか?』

「僕が帰る日、彼女も僕と一緒にIS学園に連れて帰らせてもらいます」

 

 すると周りから笑い声が飛び交う。―――けど、笑っていられるのも今の内だ。

 僕は地面を蹴るように移動しながら―――トンファーの持ち方を変えて引き金を引いた。すると先端部分からスパークが走って光弾が飛んだ。

 

「まだまだ」

 

 引いては離し、また引いてを繰り返して連続で発射する。マニュアルを読んでいたけど、お祖父ちゃんはどうしてこんなものを作ったんだろう。今は助かっているけど。

 キメラは怒りを露わにして上に飛んで僕に向かって飛びかかってくる。僕はそれを回避するが動きが早いキメラに迫られた。

 

 ―――キンッ!!

 

 キメラの爪と左のトンファーが交差する。咄嗟に防いだけど、トンファーがちぎれてどこかに行くことはないらしい。そして、固まっている状態は僕にとって都合が良かった。

 僕は右手に持つ方でスカイアッパーを顎にぶち当てた。唐突のことに目を白黒させるキメラ。その隙に僕は目に何度も攻撃する。

 

『何をしている!? 確かに殺すなとは言ったが手加減するなとは言ってないぞ!』

「ねぇ、降参しなよ」

 

 上で騒ぐ灰澤さんを無視して僕は言葉を続ける。

 

「それとも君は、これ以上無駄な戦いに身を投じて、ただ僕を楽しませるための人形に成り下がるのかい? まぁ、別にそれでもいいかもしれないねぇ。だって僕は強いんだから」

 

 今の僕にとって、目の前の敵は未知の敵であると同時に実験台に過ぎない。何故って―――人間じゃないから例え死んでも心が痛まないんだ。

 

「さぁ、どうする? 上にいるご主人様に従ってただ僕のサンドバッグになる? 別に僕はいいよ。だって僕、これまでまともに本気を出したのってあまりないんだよね。だから―――僕のストレスの吐け口になってよ」

 

 するとキメラは僕に向かって火の玉を飛ばした。僕はそれをトンファーに付いているたくさんのボタンの一つを押して高速回転させることで疑似的なバリアで弾き飛ばした―――キメラの方向に。

 キメラは慌ててその場から回避する。どうやら火は嫌いなようだ。

 

「何だ、ちゃんと嫌いなものがあるんだ―――余計に楽しくなってきちゃった」

 

 僕は右トンファーをキメラがいる場所に振り下ろす。キメラは咄嗟に回避したけど左トンファーをガンモードに切り替えて引き金を引き続けた。すると、エネルギーが溜まっていき僕と同じくらいの大きさになる。それをキメラに向かって放つとキメラは大きな翼で体を操って回避した。さっきまでキメラが背を向けていた壁の一部がはじけ飛び、礫がキメラに降り注ぐ。僕はすぐさま下に行き礫の一部を蹴り飛ばしてキメラに直撃させ、礫を伝ってキメラがいる場所へと昇る。

 

「君はこれを耐えられるかい?」

 

 ―――三連続十字斬り(サザンクロス)

 

 連続チョップの応用技として僕のレパートリーにある技をトンファーで行う。勝手が違うけど僕はすんなりとそれができた。さらにその時に僕のトンファーからは刃が出ているのでキメラが血飛沫を飛ばす。

 僕は着地時の勢いを殺すために回転して着地、そして今度は組み替えてバスターブレード状にする―――が、キメラに異変が起こった。段々とサイズが縮小され、小さな猫のサイズになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから僕とクロエは所長室に連れて行かれた……正しくは、僕に追随する形でクロエが来たと言うべきかもしれない。

 猫サイズになったキメラは現在、少しだけあるクロエの胸の感触を味わっている。

 

「それにしても、生体関係に特化した研究所はキメラすら生み出すんですね。正直空想の産物だと思っていましたよ」

「ヒトは相応の業を負っているものですよ。さて、さっきの戦いを見て思っていましたが、まさかあなたが常日頃から兵器を携帯しているとは思いもしませんでした」

「僕だってまさか自分のトンファーにあんな機能があるなんて知りませんでしたよ。それよりも、一体どういうことなんですか? どうしてあのキメラは萎んだんです?」

 

 おそらく僕の友人がキメラに切れるかもしれないほど羨ましいらしいシチュエーションにいるキメラを指しながら尋ねた。

 

「人が全体に力を行き渡らせた場合、その分は大きくなることはご存知ですか?」

「………聞いたことがあります」

「その力の応用ですよ。特にその猫は様々な改造を施されていましてね。以前とは違ってそれだけの力を持ちながら通常の動物と同じくらい生きることができる。いや、それ以上かもしれません。ですが、それは夢だったようです。あなたが強いことは知っていましたが、まさかヒト族に後れを取るとは思いませんでした」

 

 どうやら灰澤さんは心の底からため息を吐いているようだ。

 

「それにしても、あなたの戦闘の才能は素晴らしい。どうです? 我々が全力であなたをサポートしましょう」

「お断りします」

「何故ですか!? 今のままではあなたはいずれ限界がやってくる。我々はお約束しましょう。いずれ織斑千冬にも生身で勝てることもね」

「………論外ですね」

 

 僕も心からため息を吐いた。

 

「あの女には僕の力のみで勝ちます。あなた方の介入は必要ありません」

 

 戦いは、自力で勝ってこそ意味がある。同じ人間が相手ならなおさらだ。

 

「では、これで失礼します。キメラはこちらで保護しますので」

「………飼い方を知らないくせに?」

「それはこちらで何とかしますよ」

「……それと、彼女を欲する理由はなんですか? あそこでは了承しましたが、是非お聞かせ願いたいものです」

「やだなぁ。そんなの、見たらわかるじゃないですか」

 

 可愛いは正義って、誰かさんが言っていた。

 もっとも、理由は他にある。ISに詳しいのもそうだけど、何よりも彼女は機械についても詳しい。あと、女尊男卑じゃないことのポイントが高い。

 

「わかりませんね。あなたのことですから、我々が彼女を提供した真の目的は理解しているでしょう?」

「僕から遺伝子データ……精液を欲しているのでしょう? 彼女という女を使って。ですが、残念なことに僕は彼女をそういう風には見ていませんので」

 

 言うなれば妹、だろう。もしかしたら僕はクロエを「もしかしたらいたかもしれない妹」として見ているのかもしれない。

 

「では、失礼します」

 

 僕らは所長室を出て自分たちの部屋に戻ると、早速会議が始まった。

 

「………目下、問題は食事だな」

「……ですね」

 

 キメラは一体何を食べるのか。そもそも、どうやって意思疎通をするのか凄く気になる。

 大見得切ったのは良いけど、確かに僕らではどうしようもない。

 

(でも、未だに信じられないな)

 

 最初、本当に化け物と対峙していた気分だった。生き残るぞ、と。おそらく立ち向かう主人公とかは大体そんな思いでそこに立っていたのだろう。

 

「……ところで、どうしてマスターは私を求めたのですか?」

 

 考え事をしていると、クロエは唐突に質問してきた。

 

「迷惑だった?」

「そうではありません。ただ、私はあなたも知っている通り、研究員たちの駒です」

「そんなのは関係ない。君が欲しいと思ったからああ言っただけだ」

 

 ……まったく。僕は甘いな。

 ついこの間まで向かって来る女を平然と潰していた僕が、たった1人の少女に対面したことでここまで甘くなるなんて。

 

(………悪い気はしないけど)

 

 じっと、キメラの方を見て考え込むクロエの頭を撫でる。彼女の顔は赤くなったのを見て僕は少し幸せを感じた。それほど、彼女には性的なことに以外にも価値はある。

 

「………とりあえず、猫缶でも買って来る」

「私が行きます。マスターは部屋でお待ちを―――」

「いいよ。クロエはその子と遊んでな」

 

 財布を持って僕は部屋を出て購買場へと向かおうとすると、後ろから声をかけられた。

 

「舞崎君、ちょっといいでしょうか?」

「……何の用ですか、灰澤さん」

 

 さっき別れたはずの灰澤さん。彼の手には資料がある。

 

「……いえ。引き取ってもらう以上、餌とかの情報は渡そうと思いましてね」

「てっきり連れて行くかと思いましたよ。クロエはともかくキメラが世に出るのはマズいでしょう?」

「そう思いましたが、突然変異種とでも言っておけばどうにかなるでしょう」

 

 保健所とかに引き取られないかとても心配なんですが……。

 

「それにあのキメラからは十分にデータを採取することはできました。ここでこれから起こる悲惨なことを見るよりも、あなたたちのように明るい若者の手助けになるなら喜ばしいことです。それとこれを」

 

 そう言って、灰澤さんはポケットから猫缶を取り出した。

 

「しばらくこれを食べさせていたら、大層気に入りましてね。経過も悪くないので、是非ともと思いまして」

「……ありがとうございます」

 

 見ると、その猫缶はコンビニでも見かけたことがあるものだった。

 

「あれでも既に10年は生きていますが、今までまともな症状が出たことがありません。なので予防接種はむしろしない方が良いでしょう。では、私はこれで」

 

 そう言って灰澤さんは去って行く……と思ったら、僕に言った。

 

「ところで、実際彼女とはどこまで行っているんですか?」

「どことまで行ってません! っていうか全然行ってません!」

 

 僕は全力で否定した。

 

 IS学園に帰るまで、今日を除いて後2日。だけど―――物事は上手くいかない。




あんまり登場回数がないのか、それとも目が常時覚醒状態だからかわかりませんが、某画像サイトでクロエ・クロニクルを検索しても誰も描いていないと言う事実に少し涙が出てきそうになります。………たぶん、二次で一番設定を弄りやすいと思う。キャラがブレブレ? 静流は別に女性が完全に嫌いってわけではありませんよ。ただ女尊男卑思想の女が嫌いってだけで。そうじゃなかったら箒と口を利いていませんし。

あと、静流君はかなり強キャラ設定ですけど、人間です。決してあの人みたいに魔法とか唱えません。呼び出しません。魔物化しません。



それと画像はありませんが、ガンダムヴィダールが完成しました。……1個作るのに大体2時間あればできるのに、白化をできるだけ防いだり色を塗ったりすると2日はかかるのね……かなり疲れた。





※補足設定

静流のトンファー

静流の祖父が作成した仕込みトンファー。材質などは一切不明で、静流はIS装甲の素材を使用していると推測している。
反応している機能は、持ち手の操作によって自動で高速回転、麻痺性のビームを発射、刃が現れるなど。


キメラ

研究所で生み出された猫をベースにした融合体。筋肉膨張の原理で巨大化しているようで、それが戦闘時のスタイル。縮小するとただの猫。
知能数は高く、人語は理解できるが話すことはできないので意思疎通はできない。エサ代は安く済む。

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