IS-Twin/Face-   作:reizen

17 / 53
できるなら、投稿しようホトトギス


第12話 銀髪の少女

 翌朝、目を覚ました僕は雨だったのでランニングの代わりに筋トレをしていると、ドアをノックされたので立ち上がってから返事をする。

 

「失礼します。おや、もう起きていたのですか」

「ええ。朝は早い方なんです」

「なるほど。体調の方はもうよさそうですね。早速今日から皆さんに挨拶したいのですが、よろしいでしょうか?」

「ええ、大丈夫です」

「わかりました。では、風呂の設備などは自由に使ってください。掃除もさせることはできますが?」

「そうですね。トイレや風呂場の清掃をお願いします。自室の整理は私がしますので」

「では、そのように伝えておきましょう」

 

 そう言い、部屋を出て行く。とはいえ、着替えはあまり持ってきてないんだよな。

 

(……もう少し持って来れば良かったか)

 

 そう思いながらも、風呂に入ってシャワーを浴びる。昨日のこともあって本当は風呂に使ってリフレッシュしたいが、わがまま言ってられないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日からこの施設で働くことになった舞崎静流君です」

 

 灰澤さんに紹介される。前に人たちは好奇心の視線を飛ばしてくる。

 

「ご紹介に預かりました。舞崎静流です。趣味はトレーニング、特技は戦闘。中学の頃は周りから喧嘩を売られることが多かったので、面倒でしかたが←面倒でしたが 番を張っていました。ここではどのような形で役に立てるかわかりませんが、よろしくお願いします」

 

 一礼して顔を上げる。それでも周囲からの観察姿勢は崩されなかった。

 他には簡単な朝礼をして、解散となる。

 

「さて、ここからは施設の案内となります。そうだ、クロニクルは? 彼女はどこかね?」

「あの子なら、今日は確か医務室で検査だと聞いていますが」

 

 おそらく秘書と思われる女性が灰澤さんにそう説明をすると、漫画のように「ムムム」とうなり始める。

 

「仕方ありません。舞崎君、今日は周りの邪魔にならない程度に見学しておいてください。後で私にレポートを出すように」

「………わかりました。入る時は灰澤さんの許可を得ていることは知らせておいた方が良いでしょうか?」

「そうですね。念のためにこちらからも連絡を入れておきます」

 

 そう説明するとすぐに移動する。後ろでは秘書らしき女性が僕に一礼すると、すぐにそこから立ち去る。……おそらく、顔を上げた時に睨まれたのは気のせいではないだろう。

 

(………行くか)

 

 ため息を吐きつつ、僕はこの中の施設を一回り見学することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、紙切れた」

 

 思わずそう呟いてしまった。

 あらかじめ新品のメモ帳を持ってきていたけど、どうやら足りなかったらしい。

 

「どうしました?」

「いえ、なんでもありません」

 

 空いてるスペースを探してメモを取る。どうしよう。まだ3つめだというのにメモ帳の紙がすべて切れた。

 

(これは予想外だった……)

 

 最初のはIS工場……確か、装甲開発部だ。その次は武装開発部。つまり、どツボに嵌ってしまったわけだ。

 僕は元々開発系の仕事に就くつもりだったのだ。それに、一応本格的な勉強はISに触れてからだが、元々機械系に関してはものすごく興味はあった。それ故にメモを取りすぎたのである。

 

 ―――ピピっ

 

 アラームが鳴り響く。どうやらもう時間らしい。

 

「すみません。時間なので私はこれで失礼させていただきます」

「ああ、確かにそうですね。ほかの場所でも頑張ってください」

 

 男性職員にそう言われ、僕は一礼して部屋を去る。……とはいえ、このままだとメモができないので部屋に余っているノートがないか探しに向かう。

 

 ―――ドンっ

 

 急いでいたこともあり、誰かとぶつかってしまった。

 反射的に、以前の癖で倒れそうになった相手の腕を掴む。

 

 ―――相手は少女だった

 

 おそらく中学生……いや、下手すれば小学生でも通じるかもしれない身長に幼さが残る顔。赤……いや、紅色に近い両の瞳に銀色の髪が特徴的だった。……なんというか、幻想的である。

 

「ごめん。大丈夫?」

 

 軽く力を入れ。相手を立たせる。

 

「………ありがとうございます。大丈夫です」

 

 そう言って彼女は落ちた書類を素早く拾ってその場から去る。……まさか、ずっと施設育ちで男に対する免疫はあまりない、とか言わないよね?

 

(そうだ。僕も紙を取りに行かないと)

 

 やることを思い出した僕はすぐさま部屋に向かう。

 そして紙を手に入れた僕は、さっきの女の子のことを考えていた。

 

(………可愛かったな)

 

 って、何を考えているんだ俺は。

 頭を振って考え直す。相手は女。僕の敵だ。

 

「失礼します。見学に来ました」

 

 何度もそう言い聞かせながら、僕は新たな研究施設に入って見学する。ともかく今は見学をしてレポートをまとめなければならないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間はあっという間に過ぎた。おそらくそれぞれの場所でアラームの設定をしていなければ時間を忘れて次の場所に遅れるくらいにだ。

 僕は施設見学後のレポートを作成した後、灰澤さんに提出してから自室でトレーニングをし、食堂で食事を摂った後はトンファーの整備をする。それが終わった後、風呂に入って読書をしていた。

 

(……そろそろ寝るか)

 

 時刻は既に11時を過ぎている。少し面白かったので時間を見るのを忘れていた。

 電気を消して辺りを暗くしてから寝ようとすると、何故かドアが開く音がした。

 

(……何だ?)

 

 僕は素早く枕の下に隠したトンファーを手にし、いつでも戦闘に移れるように片膝をついた状態で構えた。

 何かがこっちに向かってくる。そう感じた瞬間、僕はそこに飛び出し、トンファーを振り下ろした。

 

「ひっ!?」

 

 ―――ガンッ!

 

 床にぶつかったのを感じた。外した様だ。

 

「何の用か知らないけど、僕を殺すつもりなら容赦はしないよ」

 

 ―――ドン

 

 何かが壁にぶつかった音だろう。僕はそこに向かってトンファーを振ったけど、間一髪で回避された。

 

「待ってください! 私はあなたを殺しに来たんじゃありません!」

「女か。生憎、僕は女が一番信用できない」

「な……何でもしますから。あなたの身の回りのことも……その、必要なら……え、エッチなことも…!」

「その必要はないよ。君はここで―――」

 

 ―――バンッ!!

 

 勢い良くドアが開けられ、懐中電灯が照らされる。灰澤さんはもちろん、屈強な人たちが僕らを見ていた。

 

「………なるほど。そういうことですか」

 

 灰澤さんは何か知っているようだ。僕は彼が人払いをしてから電気をつけたので、改めて僕に近付いて懇願した女を見た……って、この子は―――

 

「…君は朝ぶつかった……」

「……こ、こんばんは」

 

 間違いない。何故か布を一枚着ているだけだが、あの時の少女だ。

 その少女は、泣きながらも僕に笑顔を向けてそう言った。

 

「すみません、舞崎君。実は彼女、あなたのために用意した女の子です。今日一杯まで検査して、サプライズとして用意したのですが……」

「目論見が外れたどころが、僕の警戒心が強いためにこんなことになったと?」

「……はい。正直なところ、君を舐めていました。つい先日まで一般人だったので夜中に女の子に布団を忍び込ませて青少年向けの小説みたいな展開にしたかったのです」

 

 遊び心でなんてことをしているんだ、この人は。

 ため息を吐いて僕は侵入してきた女の子を持ち上げて渡そうとするが、

 

「ああ、ちなみに彼女は君のペットとして今日からここに暮らすので」

「………………………はい?」

 

 今、この人はなんて言った?

 

「彼女は君のペットです。あなたがしたいことを彼女に要求することができます」

「……いや、ちょっと待ってくれませんか? 流石にこんな子供に何を要求するんですか」

「彼女の使い道は色々ありますよ。君だって男である以上は溜まるでしょう?」

「………それ、本気で言ってます?」

「ええ」

 

 流石は研究所と褒めるべきだろうか。こんな幼気のある少女をあろうことか犯せと言うか。どう見ても小学生―――

 

「ちなみに彼女は年齢的に言えばあなたと同い年だったはずですよ。そして、ただの人間じゃありません」

「……ただの人間じゃ…ない?」

 

 改めて彼女を見る。確かに、この世のものとは思えないほど整っている顔だが……。

 

「彼女は遺伝子強化素体(アドヴァンスド)と呼ばれる、遺伝子の状態で改造された人間なのです。要は、あなた以上に実験動物なわけですよ」

 

 ………そういえば、そんな作品があったな。

 

(というか、遺伝子改造技術ってISができる前からあったのか………)

 

 ISが発表される前は、至って普通の技術力程度だったと聞いている。ほとんどがガラパゴス携帯であり、スマートフォンは普及したばかりなので持っている人はそこまでいなかったと聞いている。だから遺伝子改造技術なんて夢のまた夢かと思っていた。

 

(……この発言からして、ここは頷いた方が良いんじゃないか?)

 

 もしここで僕が「必要ない」と言った場合、彼女はそのまま連れられて大変な目に遭うのではないか? そう思った僕は、心を鬼にして言った。

 

「なるほど。確かにそんな化け物なんて人間なんて言いませんね。大方、彼女の首巻かれているチョークも……えっと、すみません。もしかしてこれって本物の首輪ですか?」

「ええ。似合うでしょう?」

 

 そういう問題じゃない!

 思わず叫びそうになったけど、なんとか我慢した。

 

「そうですね。中々のセンスだと思います」

 

 どうしよう。彼女に対して不幸にするつもりだったのに、どう考えても僕が不幸になっている気がする。

 

「あ、そうそう。彼女の首輪に付いているネームプレートにあなたの名前を登録すれば、彼女は君のペットとして登録されます」

「……わかりました」

 

 「では、私はこれで」と灰澤さんは部屋を出て行く。しばらくして僕はその場に膝をついた。

 改めて彼女を見る。綺麗な銀色の髪をしていると思ったが、よく見れば少し汚れている。……というか、どこのお涙頂戴の劇場かわからないけど、布を纏っているだけだった。

 

「……服と下着は持っているのか?」

「………持ってません。私はこのままの状態で研究所(ここ)に連れてこられていましたから」

 

 持っているならそのまま風呂に入れようと思ったが、ないなら仕方な………えっと、

 

「さっき会った時は検査着を着ていなかったか?」

「……あの時は、私の身体を検査するためなので」

 

 つまり、検査が終わったからこっちの服を着せられたわけか。

 僕は財布とトンファーを携帯して彼女の前に座る。さっきの影響か、少女は震えている。僕は気にせず彼女の首輪に付いている電子タグに触れると、彼女の情報が表示された。その中で「name」の欄を見つける。

 

「……えっと、「クロエ・クロニクル」で良いのか?」

「……はい。変な名前、ですよね?」

「僕はそう思わないけどね。少なくとも君がちゃんとした身なりをすれば名前負けはしないと思うけど」

 

 「master」の欄を見つけた。そこをタッチすると投影されたので僕はそこにローマ字で自分の名前を書いて登録する。

 購買場に向かおうと考えたけど、流石にこの時間は開いていないはずだ。

 

(仕方ない。付け焼刃だけどやるしかないか)

 

 僕は持ってきていた裁縫道具を鞄から出すと、クロエに風呂に入って体を洗うように言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロエはシャワーを浴びながら、これから起こることを考えていた。

 

(……やっぱり、私は食べられるんですね)

 

 自分の秘密をあっさりばらされ、それ以後の反応を変えた静流を思い出す。目は捕食者そのもので、どう料理しようか考えているそれだったが、実際はばれないようにしている静流の技術だ。

 元々、彼女もその準備はしていた。だが、いざ自分が得意としていた隠密スキルをあっさりと看破されただけでなく、容赦なく攻撃された時の恐怖はトラウマものだったのだ。

 

(………あまり、痛くないのがいいな)

 

 静流のものを借りて洗い終わった彼女は外に出ると、白いシャツ(男物)と女児デザインパンツが置かれていた。

 

(……これを着ろ、ということでしょうか?)

 

 少しばかり、静流の趣味に対して嫌悪を抱いたクロエはそのまま出てくると、振り向いた静流にドアを閉められる。

 

「……出してください」

「その前に服を着てください」

 

 まるで懇願するように言う静流に、クロエは内心驚いていた。

 

「何故、そう言うのですか? 私は―――」

「大方、僕の遺伝子情報を得るためなんだろう? でも、そういうのは僕は興味ないから別に放置してもいいんだけど、放置して虫でも湧かれたら迷惑だから」

 

 その言葉に、クロエは少し離れて体から水分を拭い、服を着た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は服を着てくれたことに僕は内心安堵している。

 

(………さっきは言い過ぎた気がする)

 

 まぁ、虫が湧かれたら本気で迷惑なんだけど、それでも僕から見て彼女はそんなものと縁がなさそうな風貌だった。僕の友人に萌えにうるさい男がいるけど、彼女の今の姿を写真に撮って送ると、間違いなく「そいつを寄越せ!」と言ってくるに違いない。それほど彼女は美しかったのだ。……強いて言えば、胸が小さいのが残念なんだけど。

 僕は彼女の手を引いて抱きしめてベッドに入る。

 

「……興味ないんじゃ、ないのですか?」

「そうだね。君にどうこうするつもりはないよ。でもこうでもしないと君は処分されるだろうし、そういうのは後味が悪いから協力するだけだよ。手を出すつもりはない」

 

 さっきから彼女から何か違和感を感じていたけど、今ので確信した。―――彼女は既に絶望している。

 僕はそんな彼女に「希望を持て」なんて言える程の人間でもないし、それよりも彼女の事を知りたくなった。

 

(明日も早いんだ。ともかく寝よう……)

 

 この時、僕は初めて女性から感じるフェロモンを「気持ち悪い」ではなく「良い匂い」と思った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。