IS-Twin/Face-   作:reizen

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今まで、HGは2時間前後で作れた。それがどれだけ手抜きだったのか理解した。
……部分的にしか塗っていないのに、凄く時間がかかります(´;ω;`)


第11話 女たちの強襲

 車の中で、僕はただ隣に座る国家代表の話をスルーして説明書を読んでいた。

 その説明書は殺される前にお祖母ちゃんからもらったものの中に入っていたもので、そこには渡されたトンファーの機能が書かれている。

 

「でだ、男として、女にどういったアプローチをされるのが良いかぜひ聞かせてもらいたい」

「…………はい?」

 

 唐突にそんなことを言われた僕は、思わず一人分を開けて隣に座る女性―――戸高満代表の方に顔を向ける。

 

「男は女にどんなことをされるのが嬉しいんだ? 私は今、恋をしているんだ。できればこと細やかに、教えてほしい」

「……………誰に?」

「彼にだ」

 

 そう言って戸高さんは武藤さんの方を見る。運転しているからこっちを見ないが、おそらく泣きそうだろう。

 なにせ相手は国家代表―――つまり国の顔だ。そんな人間相手に惚れられては色々と迷惑だろうに。

 

「諦めればいいんじゃないですか?」

「嫌だ」

「だそうですよ」

「頑張ってくれ、舞崎君。彼女がどうなるか、君の腕にかかっている」

「勝手にかけないでくださいよ」

 

 しかし意外だな。まさかIS操縦者が男に恋をするなんて。お笑いか?

 

「IS操縦者が男に興味を持つのはおかしいかい?」

「ええ。何か企んでいるとしか思えませんね」

「それは誤解だ。操縦者の中にも男に興味を持っている者はたくさんいる。何だったら君にも一人紹介しようか?」

「結構です。政府の息がかかった者を信用できるわけがない」

 

 そう突っぱねるとどこか悲しそうな視線を向けてくる。そんな目で見られるのは不快だ。

 

「……確かにそうだな。君がされたことを考えればそう答えるのは当然か。で、誰にする?」

「人の話を聞いてましたか?」

「聞いていたさ。その上でどんな子が好みかなと思ってね」

 

 差し出してくる小型端末を見せてくる戸高さんをジト目で見る。

 

「……何をたくらんでいるんですか?」

「女の子一人紹介したら、武藤さん攻略に力を貸してもらえるかなぁ……と」

「だったら国家代表を辞めれば良いじゃないですか?」

「それができたら苦労はしないさ。というか、今さらながらどうして「かっこいい」という理由だけでIS操縦者になってしまったのか」

 

 どうやらこの女性はあまり権力云々には興味がないらしい。

 だが油断はしない方がいいな。ISはこちらにあると言えど、いざとなれば抵抗してくるだろうし。

 

「………すまない、舞崎君。そろそろISを彼女に返してほしい」

「……ああ、そういうことですか」

 

 鏡を出して後ろを確認すると、どうやら招かれざる客がいるようだ。だが、それがどうした。

 

「今はまだその時ではありませんね。気取られる前にもう少し先に進んでください」

「しかしだな―――」

「何も一台だけということはないでしょうしね。今は気取られないようにしてください」

 

 そう指示すると、意図を読んでくれたのかそのまま進める武藤さん。

 確かに今すぐ撒いた方が賢明だろう。だが、それでは今回の作戦を指導している奴を潰すことはできない。

 

「随分と落ち着いているね」

 

 戸高代表がそう言ってくるが、その原因は女にもあるんだけどね。

 

「ええ。僕の周りは喚くことしか知らない害獣しかいませんので」

 

 そう答えて僕はトンファーを準備した。

 

 どれだけの時間が経過しただろうか。

 しばらく進み、ほとんど誰もいなくなった道路を走っていると、前の方に検問をしていた。

 

「……これを渡しておきます」

 

 ISの待機状態を渡す。彼女がそれを受け取ると同時に僕は銃口を戸高代表の眉間に向けた。

 

「ただし、今ここで起動するというのなら射殺します」

 

 そこだけは譲るつもりはなかった。

 

「誓うよ。それだけは絶対にしない」

「………」

 

 とはいえ、そろそろ仕掛けてくるだろう。僕は銃を降ろして、戦闘態勢をとる。

 検問に差し掛かり、車を停止した武藤さんは応対を始めた。

 

「失礼。車の中を調べさせてもらう」

「それは困る。我々は急いでいるんだ。すぐに道を開けてもらいたい。ほら、これが証明書だ」

 

 武藤さんが書状のようなものを出す。するとそれを受け取るふりをして、警察官が車のドアキーを開けた。

 すると僕がいる左側の後部座席が無理やり開かれ、拳銃を向けられる。

 

「―――さようなら」

 

 ―――ゴッ!

 

 トンファーをぶつけた。そして左手で拳銃を抑え、軽く力を入れて奪う。もちろん、その際にトリガーをひかれないように逆の方から引くのは忘れない。

 

「この―――」

「先に仕掛けたのはそっちだ。覚悟をしてもらいます」

 

 まだ動くそいつの顔を踏み抜き、奪った拳銃を車の中に放る。

 車から離れ、動く茂みの方に走ると足元が爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――やった

 

 その罠を仕掛けた女性は爆発した場所を見て不敵に笑う。

 この辺り一帯にはいくつか地雷が仕掛けられており、静流はその内の一つを踏んだのだ。

 片足を失い、悶え苦しむ姿を想像しながら爆発箇所に向かうと、後ろから殺気が放出されたことでその女性は後ろを向く。

 

 ―――何で!?

 

 五体満足で存在する静流の姿を見た女性は体を強張らせる。

 

「舐めないでくださいよ」

 

 宙に浮いた状態で回転し、踵落としを脳天に見舞う。

 ダメージを与えると同時に自身も離脱し、近くの木の枝に着地した。だが、枝は折れ、落下する。

 

「やっぱり、昔みたいにすることはできないか」

 

 静流は小学校の時を思い出していた。

 母を切り、しばらくした時に静流はクラスメイトの男子全員を敵に回したことがあった。その時、まだ子供だった彼らは口で先に殴らせてそれを理由に制裁を加えようとした。ある意味、彼らの作戦は上手く行っただろう。

 

 ―――静流の逃げ足の早さ、そして凶暴さを加味していれば

 

 笑う男子をたった一発で倒し、次に「誰が来る?」と無表情で言ったのだ。誰からも来なかったこともあって、挑発なのかもう一人―――それも当時のスクールカースト最上位の人間を潰したのである。それから、男子総出で狙われたのである。そしてすぐに逃げ出した静流は木に登り、登る際に砂を持ってきていたので上からかけたり草を落としたりと、残忍なことをし、危なくなったらどうにかして降りるか、近くの木に移動して嘲笑った―――そんな少年が今まで隠してきた牙を出したらどうなるか。

 

 ―――ろくなことにならない

 

 何故、IS学園の要注意人物リストとして警戒されなかったか。それは、武藤正勝が情報操作したのだ。

 それをしたら間違いなく上から色々と言われるだろうが、彼なりの誠意であり、このような有事の際の対策でもあった。

 そのことを知ってか知らずか、静流は次々と女たちを気絶させていく。

 

「なんなんだ、この男!?」

「怯むな! 相手はたった一人だぞ!」

 

 静流は落ちて奪ったアサルトライフルを手にして増援らしい車に向かって撃った。幸い、殺すつもりがないのかタイヤを撃ちぬくだけに留まっているが、制御できずに何台かが近くの林に入って爆発する。

 

「待て、静流君! そんなことをすれば死人が―――」

「それは運がないだけでしょ。タイヤだけにしてあげているだけなんです。そこから先は僕に喧嘩を売ったことでも後悔すればいい」

 

 そう断言した静流は逃げ惑う女たちの間を縫うように走り抜け、応戦しようとする女の一人を殴り飛ばして運転席に乗る。すぐに操作方法を把握してアクセルを踏み、発進した。

 

「あの男、正気か!?」

 

 一人がそう叫ぶ。彼が向かったのは施設。―――つまり、彼は自分の死期を早めようとしている風にも取れるのだ。

 ただ一人、武藤正勝はそうと考えていない。

 

(彼は一体、何を考えている……)

 

 正勝は、今回のことで静流が脱走を考えているのではないかと思っていた。だが予想は反してそのまま突っ込んで行ったのだ。

 一度、満を呼んで静流を追おうか考えた瞬間、一台の車が猛スピードで走っていった。

 

「ああもう、なんなのよ!」

 

 一人の女性が叫ぶのを見て正勝は行動に移す。その女性を掴んだ彼はすぐに床に叩きつけるように寝かした。

 

「な、何よ!? 男が私にこんなことをして許されると―――」

「対有事特殊処理班。その所属がどんな権限を持っているのかわからないわけではないだろう?」

 

 それを聞いた女性は息を呑み、正勝が尋ねようとしたことを察したのか話し始めた。

 

「わからないわよ。ただ、後から追って行った子は最近までIS学園で教員をしていて、あの男を陥れたからってことで退職処分にされたって嘆いていたわ」

「…なるほどな」

 

 状況を把握した正勝はすぐに無線機で満に連絡しようとした。しかしそれよりも早く、満のほうから通信が入る。

 

『マズいぞ。今彼の車と別の車が接触して大事故が起こった。女性の方は無事のようだが、彼は……』

 

 悪報だった。それを聞いた正勝は地面を殴る。

 

『いや待て、無事だ―――マズい。女が武器を―――』

「すぐに追う。足止めしろ!」

 

 そう言って正勝は車に乗り、発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ガシャンッ!!

 

 後ろに拳銃が落下する音が響く。

 立花は静流を過小評価していた。それもそのはず、静流はさっきまで爆発を起こした車にいて怪我を負ったのだから。外からもマズいとわかる血の量を見て勝てると踏んだ彼女はすぐに殺そうとした。だが、すぐに気配を察知した静流は的確に立花の手を蹴ったのである。

 

 ―――ゾワッ

 

 全身に寒気が走る。今すぐそこから逃げなければ。そう思った彼女は背を向けて走り去ろうとするが後頭部を掴まれてコンクリートに叩きつけられた。

 

「……ずぅいぶんといきがってくぅれたじゃねぇかぁ……」

 

 それは今までと違った。これまで彼女は何度か攻撃されたことはあったが、それでも静流は冷静でいた。

 だが声のトーンで今までと違うことを察した彼女は未だ掴んで離さない静流に声をかける。

 

「も、もういいでしょ! 離して! 離してよ!!」

「なぁんでさぁ。何で()がテメェみたいなドブスゴミブタの言うことを聞かなければならねぇんだよ。身の程を 知れよ! ……ブタァッ!!」

 

 宙に放られ、飛び蹴りを食らわされる立花。見事に顔と腹を蹴られ、これまで感じなかった痛みに悶え苦しむ。

 

「おら立てよ。テメェらは強いんだよ? 強いんだよねぇ? だったら立って反抗しろよ!!」

 

 ボールを蹴るように蹴飛ばされた立花の意識をはっきりしているが、動けなかった。心が、精神がはっきりと折れてしまったのだ。

 

「あーあ、つまらない」

 

 そう言って静流は銃を取り、立花の体をまさぐった。そして目当ての物を見つけた彼はそのまま踵を返して歩いていく。だがそれも、ほんの数十歩進んだだけだ。

 

 ―――限界

 

 静流はISを除けば腕っぷしが強いだけの普通の人間だ。これまでかなりの苦労を強いられてはいたが、致死に至る傷はまだ味わったことはない。おそらく自身でもマズいことには気づいてはいただろうが、まだ大丈夫だと過信し体調管理を怠った。

 

「……随分派手にしたようだね」

 

 近くに満が降り、うつ伏せに倒れた静流を仰向けに返す。

 すると車が事故車を避けて少し二人を過ぎた場所で停車し、中から正勝が現れた。

 

「大丈夫、とは言えないな。今すぐ彼を向こうに連れて行きます。乗せてください」

「いいのかい? 向こうに引き渡せば即実験となるかもしれないが―――」

「「有処」の名を出せば、それも遅らせることはできるでしょうね」

 

 その言葉を聞いた満は途端に顔を青くする。

 

「……そうか。出したのか」

「ええ」

 

 「対有事特殊処理班」―――この組織は日本内に密かに存在する暗部組織の一つで、主に内部の問題をその名の通り処理することに特化した組織である。個々がISを持たずに一個大隊を壊滅させることができるほどの実力者であり、敵に回せば例え女権団と言えどISを出さなければ勝てないくらいだ。正勝はその一員であり、彼もまたこれまで幾度となく地獄を乗り切ってきた猛者である。

 

「ともかく、今は彼の治療が最優先です。戸高さんは後方から追手が来ないか監視をお願いします」

「…わかった」

 

 満は頷き、ハイパーセンサーを起動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、そこは知らない天井だった。

 腕には点滴が付けられていて、近くには無防備に座って寝ている戸高代表がいる。

 

「―――目が覚めたか」

「……武藤さん。ここは一体どこですか?」

「君が所属する研究施設の部屋だ。君にはここで暮らしてもらう」

 

 そう言われた僕は上体を起こすと、くぐもった声がドアの向こうから声をかけられた。

 

『失礼します』

 

 ゆっくりとドアが開かれる。俺も、そして武藤さんも現れた相手を見る。猫背で背が低い男性らしいが、白衣を着ていて怪しげな雰囲気を放っていた。

 

「こんばんは、舞崎君。おかげんはいかがでしょう?」

「………良好ですよ」

「だとしても無理はなさらず。先程まであなたは多くの血を流していたのですから」

「それに、無理して僕という実験動物に死なれては満足のいく実験もできない、というのが本音でしょうか?」

 

 未だに名乗らない男性に俺は尋ねると、とぼけた風に男性は言った。

 

「一体何のことでしょう? 私にはさっぱり―――」

「この際、本音で言ってはどうです。どうせあなたも、ISを動かしたい人間でしょう?」

 

 すると男性は笑顔を見せ、言った。

 

「なるほど。随分と賢しい子どもですね。ここに来るまであなたが仕込んだのですか?」

「いや、私は何一つ説明していないさ」

「それくらい気付きますよ。今日まで馬鹿な奴らに殺されかけましたし」

「なるほど。中々面白い人生を歩んできたようですね」

 

 心の底から面白がっているらしいその男を睨むと、何かに気付いたのか話し始めた。

 

「そう言えば、まだ自己紹介をしていませんでしたね。私は月読(つくよみ)研究所の所長「灰澤(はいざわ) (ひろし)」です。以後お見知りおきを」

「舞崎静流です。ご存知でしょうが」

 

 一礼すると用事があるのか、「ではまた」と言って下がり、ドアを閉めてどこかに行った。

 

「君には大変なことだろうが、これからここで過ごしてもらう。いざという時はここの番号にかけてもらえればいい」

 

 そう言って名刺を押し付けるように渡された。

 

「では、私もそろそろお暇させてもらう。戸高代表、そろそろ帰りますよ」

 

 武藤さんが声をかけるが戦闘で疲れているのか起きる気配を見せない。

 僕は空気を読んで横になり、布団を被った。

 

「これで大丈夫でしょう。さぁ、早くキスをしてあげてください」

「……冗談だろう?」

「大丈夫です。僕は何も見なかったし聞かなかった。交渉は車内でお願いします」

「……わかった」

 

 そう言って戸高代表を担いでどこかに行った。あれ、絶対わざとだ。

 

(……色々、大変なんだな)

 

 少し武藤さんに同情して横になると、ミニテーブルに見覚えのあるケースを発見する。思わず罠かどうかを確認せず開けると、そこには使い慣れたトンファーが収まっていた。

 

「………そう言えば、片付けてたっけ」

 

 だとしても、衝突した衝撃で破壊されたと思ったけど、どうやらそうではなかったようだ。

 そのことに心からホッとし、僕はケースを抱えて眠ることにした。……決して、抱き枕の代用ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰澤博は静流と別れて自分の部屋に戻った後、静流のカルテとさっきの状態を思い出していた。

 

(特に改造された痕跡もなし……なのに、あの異常な回復速度は一体どういうことだ……)

 

 彼が持つ資料にはドイツ語でこう書かれていた。

 

 ―――生死を分ける重体

 

 だというのに、静流は一日と待たずして起きており、平然と会話をしていたのだ。

 

 ―――これは要観察ですね

 

 資料をしまい、彼はある場所に電話をかける。彼の野望を叶えるために。


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