IS-Twin/Face-   作:reizen

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やったねみんな。投稿数が増えるよ!
昨日に12話が書きあがりますので、連日投稿が月曜日にまで伸びました。


第10話 達観少年

 翌日、一年一組の教室は静まり返っていた。

 朝早く、友人たちがいるというのに誰一人として話そうとしない。理由は昨日の動画のことだった。

 

 昨日の動画。何者かが流した一週間前のクラス代表を決めるHRのほとんどすべてをインターネット上の動画サイトにアップした。どうやら投稿者自ら拡散を希望したらしく、今では様々なSNSにアップされている。もはや止められるようなものではないのは確かだろう。幸いなのは、ここにいる全員の実名が晒されていないことだろうか。

 だがそんなことはどれだけ言っても無駄だ。あの会話をすべて知っているのはこのクラスにいる人間のみであり、一組の中に裏切り者がいるということなのだから。

 ちなみにこの騒動を知らないのは、普段からインターネットに触れない人間ぐらいだ。そう、例えば―――篠ノ之箒もその一人である。

 

(……何故、こんなにも空気が重い?)

 

 教室に入ってしばらくすると、彼女はふとそう思った。

 昨日、静流から話を聞いて色々考えたが、納得ができる答えが見つからず、気が付けばベッドで寝ていた。

 時間を見ると既に鍛錬をする時間はなく、急いで身支度をして食堂で食事を摂った後に来たので、一夏は完全に放置。それほどまで、箒は相部屋である彼を気にかける余裕がなかった。

 

 少しして、ドアが思いっきり開かれる。

 

「……はぁ……はぁ……じ、時間は……」

 

 スマホの画面で時間を確認した一夏はホッとため息を吐く。そして中に入ってしばらくすると、箒と同様の反応を示した。

 二人は一人の生徒を挟みながらどういうことかと意見を交換しようとしたが、誰かが入ってきたことで中断する。セシリアであり、どこか疲れた風だ。

 そして最後に真耶が入るがクラスの雰囲気は一向に良くならない。だが真耶は構わず言った。

 

「皆さんにお知らせがあります。一年一組のクラス代表は、織斑一夏君に決まりました」

「………はい?」

 

 何も聞かされていなかった一夏は思わず声を漏らす。

 まさか自分がなるとは思っていなかったのだ。そもそも、昨日の戦いは静流の乱入によって流れたはずだと、少なくとも一夏はそう思っていた。

 周りの生徒も同じような思いなのか、信じられないと言わんばかりに真耶を見る。

 

「あの、先生。あの試合って結局有耶無耶になったんですよね? だったら何で俺がクラス代表になっているんですか?」

 

 当事者と言うこともあり、一夏が質問すると一組の生徒―――特に一夏がクラス代表になるのを良しとしない生徒は頷く。

 真耶はあらかじめそう質問が来ると思ったのか、出席簿の中に入っていたらしいメモを出して言った。

 

「織斑先生が言うには、仕方なくだそうです」

「……し、仕方なく?」

「はい。オルコットさんも舞崎君もクラス代表として人格に問題があるということで、仕方なく織斑君になったそうです。で、でもほら、一の字でまとまってますし、一繋がりでいい感じですね!」

 

 励ますつもりで真耶はそう言った。

 だが生徒全員が顔を引き攣らせる。当然だろう。自分たちのクラス代表がよもや消去法で決まろうなどとは考えていなかったからだ。

 

「待ってください!」

 

 一週間前の時のように机を叩いて立ち上がるセシリア。全員が注目したタイミングで彼女は話を始めた。

 

「わたくしが人格に問題があるとは一体どういうことですか!?」

「―――そういうところだと思うけど」

 

 いつの間にそこにいたのだろうか。

 全員が声がした方へと視線を向ける。後ろのドアに静流がおり、セシリアのことは気にせず平然と自分の席に歩いていく。

 

「待ちなさいな!」

 

 セシリアは静流を止めようとするが、容易にセシリアの妨害を避けて自分の席に着くと何かを探し始める。どうやら探し物が見つからなかったようで、何故か満足気な顔をして席を離れる。

 そして今度こそ止めるつもりなのか、セシリアは妨害しようとするが、静流との技量の差か平然と回避した。

 

「止まりなさい!」

「あ、そうだ。良いこと教えてやるよ」

 

 そう言って静流は足を止め、ドアを背にして堂々と言った。

 

「あの会話を動画サイトにアップしたのは僕だ」

 

 瞬間、その場にいる全員が固まる。

 だがすぐに復帰して立ちあがり、クラスに存在する女尊男卑の思想を持つ生徒たちが静流に詰め寄ろうとした。

 

「―――そこまでだ!」

 

 前方でそんな声が上がる。教室にはいつの間にか千冬がいて、生徒たちを睨みつけている。

 千冬の姿を確認したセシリアはすぐに詰め寄った。

 

「織斑先生、どうしてわたくしが候補として外されなければならないのですか!? 確かに、あの時は言い過ぎたかもしれません。現に、織斑さんはわたくしをあと一歩まで追い詰めるほどの実力を発揮しましたわ。それは認めましょう。ですが、人格まで否定される謂れはありませんわ!」

 

 そう叫ぶセシリアに対して、千冬はため息を吐く。そして言葉を紡ごうとしたが、それよりも早く静流が言った。

 

「『傲慢すぎるだろ、この女』、『実はビッチとかじゃね?』、『あり得るかもな』、『お嬢様の危険な遊びwww』……まぁ、君の評価は概ねこんな感じか。ねぇ、どんな気持ち? 担任に人格を否定されて、周りからは傲慢ドリルビッチと称されて、挙句織斑に負けそうになるわ、不意打ちとはいえ俺に殺されかけるわで散々なイギリス代表候補生さん。……って言っても、所詮は素人に対して喧嘩を売ることしかできない雑魚だろうけど」

 

 静流の言葉を聞き、殺気を出しながらセシリアは静流に近付く。そして躊躇いなくビンタを打とうとした瞬間、その手が静流に掴まれた。

 

「わ、わたくしの手を汚らわしい手で触らないで!」

「………ああ、そう」

 

 あっさりと手を離してセシリアを解放した静流。そして彼は平然と教室を出て行こうとするが呼び止められた。

 

「待てよ、静流」

 

 一夏だった。

 静流は足を止め、怠そうに一夏を見る。

 

「何の用? 僕、そろそろ行かないといけないんだけど」

「それってどこに……じゃない! それよりもだ! 昨日なんで試合に乱入したんだよ!?」

 

 そう叫ぶ一夏に対し、静流はため息を溢して教室を出ようとする。

 それを止めようと千冬は声をかけようとするが、それよりも早く一夏が言った。

 

「逃げるなよ!」

 

 だが静流は歩みを止めることなく外へと向かう。それを追う一夏は後ろから静流の肩を掴んだ瞬間、それを弾かれた。

 

「―――っ!」

 

 痛みを感じて自分の方に手を戻す一夏。静流は何事もなかったかのように教室を出て校門に向かうと、其処には迎えの車なのか黒いリムジンが止まっている。

 リムジンの前に二人の人間がおり、その内の一人と顔見知りだった静流は声をかけた。

 

「……お久しぶりですね、武藤さん」

「久しぶり。……まさか、このような形で君と会うことになるとはね」

「別に。聞いた話では一週間と言う制限が付いていますし、僕にはトンファーがありますから」

 

 そう言って静流は長袖に隠していたらしい自分の得物を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は少し前にさかのぼる。

 急にそれなりに豪華な部屋に呼び出された静流は、自身を学園長と称した「轡木菊代」から言い渡された。

 

「急ですが、あなたにはこれからIS委員会直属の研究所に行ってもらいます」

「………」

 

 静流は無言だった。

 すぐに返事を出さない静流に対して、菊代もまた沈黙する。

 

(……申し訳ないけど、これもまたあなたが起こしたこと。行ってもらうしかないわ)

 

 菊代には、女尊男卑の思考がない。古い時代の人間と言うこともあるが、身近に「女が強い」と思わせない存在がいるからだろう。それに静流の行動にも理解がある。あのような目に遭えば、普通ならもっと早い段階で暴れてもおかしくはない。それどころか、まだクラスが健在だということに驚いている。

 

「……返事は?」

「その前に質問、いいですか?」

 

 挙手をしながら静流は尋ねる。「何か?」と菊代が言ったのを聞くと、次々に質問を浴びせた。

 

「武器や筋トレ用具などの持ち込みは可能ですか? 後、その敷地に体を動かすことができる場所は? ランニングや本格的な器具などあればその情報を。後、ATMや売店は……パソコンの支給とか、そういうのはありますか?」

「―――ちょ、ちょっと待ってください」

 

 まさかの質問量に菊代は焦った。

 

(し、質問って……そこなの……!?)

 

 予想外のことに焦り、冷静に分析する。

 

(武器や筋トレ用具の持ち込みは……いいのかしら? そもそも武器って彼が持っていたトンファーよね? 他にあるの? それに体を動かす場所は……流石にあるわよね? ATMやコンビニは完備していたかしら……?)

 

 中々答えてくれないからか、静流は応接用と思われるテーブルの上に逆立ちをして、その場で腕立て伏せを始めた。

 その姿にとうとう唖然をしてしまい、その場に固まってしまう。

 

「あの、答え、まだですか」

「ちょ、ちょっと待ってね?」

 

 そう答えた菊代はすぐに十蔵に連絡する。受話器の向こうもさっきから自分の予想外の質問をされているからか、どこか落ち着いていない感じだ。

 すべて聞き終えた菊代は受話器を置く。その音が聞こえたからか、静流はテーブルから降りた。

 

「そうね。一応、トレーニング用具はあまり持ち込まない方がいいかも。武器はあるなら持って行って。ほら、この前のこともあるし。あと、少し離れた場所にコンビニがあるから、そこでATMとか使ってください。パソコンの支給は現地の人と相談して、ね?」

「わかりました」

 

 そう言って静流はそのまま出ようとする。それを見た菊代は慌てて止めた。

 

「待ちなさい」

「? ……何か?」

 

 呼び止められたことで静流は驚き、警戒しながら菊代を見る。

 

「……あなたは何も思わないのですか」

「何がです?」

「今回のことです。普通ならば、乱入をしたと言えどちらもISを装着していた。だったら一週間の地下牢での拘束に、反省文を書かされるだけで済むことです。それが出向とはいえ、IS委員会直属の研究所に入るのですよ? なのにあなたは、何の異も唱えず平然としている。それは―――」

「すみません。至極興味がなかったので」

 

 そう答えた静流はドアを開けて部屋を出た。

 

 その後、部屋で荷物の整理をし終わった後に教室に忘れ物がないかを確認し、現在に至る。

 

「君が舞崎静流君だね」

 

 そう言って正勝の隣にいた女性は静流に手を伸ばす。

 

「会うのは二度目だけど、面と向かって話すのは初めてだね、私は―――」

 

 女性の言葉を無視して静流は()()()のドアを開けて中に入った。

 

「って、おい! 何で運転席に―――」

「僕が運転します。僕は僕以外の人間を信じられないので」

「いやいや、君は運転免許証を持ってないだろう? ならば流石にそれは許可できない」

「…………チッ」

 

 舌打ちをしてドアを開け、渋々外に出る静流。そのまま後ろの席のドアを開けて中に入った。

 

「……なんというか、図々しいよね」

「あなた方女に比べれば随分マシな方だと思いますけど?」

「私個人では否定したい気分だ」

 

 だが女性―――戸高満も今の世界のことを考えれば大きく否定できないので、ため息を吐いてそのまま運転席側のドアを開けて中に入る。それを見た静流はドアを開けて上に上った。

 

「………舞崎君」

「女性の隣なんて死んでも嫌です」

「………もしかして、私のことを女尊男卑だと思っていないかい?」

「もちろん。今回、武藤さんが連れてきたのも実は僕を車内で殺すためでしょう?」

「いや、彼が君を送ると聞いてね。同行するはずだった操縦者に交渉して変わってもらったんだ」

 

 胸を張る満に正勝はため息を溢す。

 

「もっと言えば、彼が興味を持っている君と話がしたいってのもあったが、やはり彼と一緒にいることが大切だ。大体、三回くらい告白していて全部振られ、前も何度か酒と薬を盛って部屋に連れてきたのに、もう少しというところで目を開けられたんだ。もっとあるんだが、聞くかい?」

「………」

 

 静流はまた少し考え、ドアを開けるとすぐに満の顔を掴んで握る。

 

「舞崎君!」

「あなたが持っている武器を全部出してください。無事に届けられたなら、返します」

「わかった」

 

 すぐに返事した満は少し重いアクセサリーと、グ○ックの拳銃を差し出した。

 それを見た正勝は止めようとしたが、満がそれを止める。預かった静流はそのまま反対側の席に座った。

 

「これで信用してくれたかい?」

「完全に信用する奴なんていませんよ」

 

 だが少しは信用したらしく、静流はそのまま座席に体を預ける。

 

「では、出発するよ。……ところで、君の荷物は?」

「既に後ろに入れていますので、ご心配なく」

 

 ルーズリーフとファイル、そして筆記用具と着替えぐらいしか入っていない鞄を思い浮かべながら、静流はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し離れた場所で、その車を監視する姿があった。

 

「目標、指定されたポイントを通過しました」

 

 静流たちが乗る黒いリムジンを監視しながら、左後部座席に座る女性が通信機を使ってどこかに報告する。

 すると通信機の向こうから「そう」と返される。

 

『そのまま監視を続けなさい。気取られていいのは、ランデブーポイントに到達する辺りで、よ』

「わかりました」

 

 そう答えた女性は通信機を置き、自分の手首にかけられている緑色のブレスレットを見る。

 本来ならそれはアクセサリーという扱いだが、計測器で測ればすぐにわかることだがそれはISの待機状態だった。

 

「……す……殺す……あのゴミ、絶対に殺す!」

 

 女性の隣で息巻くのは、先程IS学園から追い出された教員だった。

 

 IS学園の体制は変わりつつある。

 男性IS操縦者の登場により、従来あった男を見下す雰囲気を無くそうと言う動きがあった。本来なら理由を付ければ見逃されるはずの権力による訓練機の貸し出し取り消しなんて状況報告さえすれば何事もなかったように日常が進む。だが、今回に限ってはそうならず、彼女はあっさりと辞めさせられたのだ。

 当然、彼女だって十分に努力し、この学園に入った。だがそれは、いつも通りのことをしただけで終わりを告げたのである。

 その女性の荒れようを見て、運転席に座る女性はため息を溢す。

 

(……私、もう止めたいなぁ)

 

 彼女は別段、男に対して何か恨みを持っているわけでもない。もっと言えば、この組織だって友人に誘われて入っただけだ。それがどういうことか、男性IS操縦者を殺しに行くという話になった。

 

(………本当、人間関係を築くのって面倒……)

 

 心からそう思った女性は後ろから指示され、仕方なく車を発進させる。

 決して自然体に、それでいてただ同じ道を走っているかのように走らせる。

 

(……この任務が終わったら、絶対に組織を抜けるんだ)

 

 そして普通に大学に通って、普通に人生を謳歌しよう。そう心に決めた運転手は、後ろから不穏な空気を感じながら車を操作する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこはまだ出番がないからか、電気が消されて辺りは暗い。

 その空間の端の方から光が灯り、その光は移動しながら入り口にたどり着くと触手を伸ばしてパネルに触れた。

 

 ―――本当に行くの?

 

 別の場所から同様だが色が違う光が灯る。

 

 ―――もちろん

 

 触手を伸ばした光は相対する別の光にそう言った。

 

 ―――私には義務がある。あの人を不幸にした罪を償い、あの人を守る責任が

 

 パネルでの操作が終わったのか、光はドアの前に移動するとほんの少しだけドアが開き、光は外に飛び出した。




実際のところ、罰則は温いですかね? あんまり基準がわからないですが、男が理事長を務めるのにその妻が男を軽視するのは難しいかなと思ってこういう風にしました。



※以下呟き








HGのガンダムヴィダールを買いましたが、キットの青に納得がいかなくてガンダムマーカーで色塗り中。まだ綺麗な色になったと思いますけど、やっぱりメタバイオレットを使うべきだったかなと思っています。……よし、また買おう。メタバイオレット複数本買って塗ろう。

……別にバルバトスが嫌いだとか、グシリベが嫌いだってわけじゃないんですよ。ただ、配色的にヴィダールが琴線に触れたんです!

鉄血系は比較的安価なので買いやすい。

そしてブレイズザクファントムも買いました。AGPなるものが存在するらしいですが、一向に打鉄が出ないとはこれ如何に。……まぁ、高すぎて買わないんですけどね。

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