IS-Twin/Face-   作:reizen

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連日投稿が、実は3日しか無理だった件


第1-2章 繰り返される出会いと別れ
第9話 動く話


―――現在

 

「………あの二人が…死んだ、だと!?」

 

 時間も夜だというのに、ショックだったのか箒は叫ぶ。

 箒は以前、静流の祖父母と交流があった。

 静流には月に一度、家に帰るように言われていたが修学旅行やテストやらで帰れなかったことがあった。その埋め合わせの時に翌月に家に帰ったのだが、箒も無理矢理連れて行かれたのだ。「相手のご両親と挨拶する訓練」という名目で。

 その時に色々話をした。箒の祖父母は、母方は勘当されたこともあって面識がなく、本家の方はどちらも箒が小さい時に早く亡くなっているので高齢者ともなるくらいの年上とはあまり話したことがないため、かなり貴重な経験をしたと思っている。それにどちらも事情を聞いてショックを受けたが、静流が友達を家に連れてくることが珍しく―――ましてやそれが女の子なら猶更で、優しくしてくれた。

 

「祖父ちゃんは後から焼けた状態で発見されたらしい。あまりにも酷い惨状だったから、叔父さんに止められたんだよ。叔母さんも見てないらしい」

「……その、叔母さんとの仲は……」

「別に気にしてない。実際、ハルさんは二人が結婚してやっとできた子供らしいから、あそこまで怒るのは理解はできるし」

 

 しかし、そう答えた静流の顔はどこか浮かない顔だった。

 当然だろう、さっきから箒に対してまるで他人事のように過去のことを話していたが、実際彼にしてみれば辛い出来事なのだから。

 

「………ただ、俺はもう、女を信じる気はない。そしてそれは君も例外じゃないよ、篠ノ之箒」

「………」

 

 ―――私は大丈夫だ!

 

 そう宣言したかった箒だが、静流を見ているとそう宣言できなかった。

 箒はあの家族から、そして押し売り気味でもあったが、静流から様々なことを教えてもらった。恋愛のこと。どう立ち回ればいいか。そして―――あの試合の時もそうだ。

 

 箒は以前、剣道の試合で荒々しい戦い方をして勝利を納めた。

 当然、それは箒が望んだわけではない。だが結果としてそうなったのであり、相手の涙を見て自分がどれだけのことをしたのか悟ったのである。

 だが、静流は言ったのだ。

 

 ―――気にすることなんてないんじゃない?

 

 あの時は本気で怒りを覚えた。

 箒にだってプライドはある。あのような戦いを認める気はなかった。だが―――

 

 ―――どれだけ綺麗ごとを並べたって、結局武道は相手を倒すための手段だよ

 

 今なら十分に理解できる。静流は十分に理解している―――いや、理解してしまっているのだ。

 戦いは勝たなければ意味がない。負ければ死―――そこまでいかないにしても、かなりの重傷は追うだろう。

 

(……そう言えば、舞崎は……)

 

 箒と出会う前、静流にはよくない噂が流れていた。それは箒も知っていることで、聞けば中学を占めていたらしい。

 それほどの大物が何故箒に興味を持ったのかは、本人曰く「ただの研究対象!」と宣言するほどだが、むしろそれは嘘だと思っていた。だからと言って、自分がそこまで魅力的だとは思わないから恋愛感情を抱かれているとは思っていないが。

 つまり静流は常に勝つか負けるかの二つの間にいて、立ち回っていた。あの時はわからなかったが、今ではわかる。

 

「………舞崎、貴様がこの学園に来た理由は―――」

「そう。オルコットやさっきの女のような女尊男卑を狩る為だ。まぁ、技術的な学習も視野に入れているけど、まず最初は女尊男卑の根絶。そこを逃す気はない。まぁ、極力女尊男卑しか攻撃しないつもりだけど―――例え君だろうが、僕の邪魔をするなら倒す」

 

 静流から殺気が放出される。その濃度はとても15歳で身に着けるほどではなく、箒もそこまでのレベルを浴びたのは始めてだ。

 

「話は以上だ。僕は帰らせてもらうよ」

 

 そう言って静流は外に出る。

 ドアを閉められ、脅威と認識される者がいなくなった瞬間、箒はその場に膝をついた。

 箒はショックだった。

 今まで彼女は、何度か……いや、ほとんど助けられた。

 自分のコミュニケーション能力が低い―――ならば、それを矯正すればいい。柔軟になればいいと言ってくれた。自分の性格を理解してくれる友人もでき、学校は違うが今ではその友人とは連絡を取り合う仲だ。

 

 だが、今の箒には、恩返しができるほどの力はない。少なくとも、姉と連絡を取り合わず、一方的に避けている箒にはだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静流と箒が話を終えた頃、別の部屋で寝ていたセシリア・オルコットは目を覚まし、自分がどうしてここにいるのかを考えていた。

 

(……そうですわ、わたくしは―――)

 

 ―――舞崎静流によって、倒された

 

 完全な不意打ち。しかし同時に完全な敗北を突き付けられた。

 緊急復帰システム―――それは競技中の乱入を想定して作られたシステムであり、予め登録していた武装を呼び出すシステムを行使した場合、戦闘開始時の能力と何ら変わらない性能を発揮する。

 だがそれを用いたというのに、完全な敗北を突き付けられたのだ。

 

 ―――悔しい

 

 自分の技量は少なくとも、まだ静流よりも上だと思っている。それは操縦時間が比例しているからだろう。

 セシリアは三年前、親を亡くしている。

 そこから親の遺産を狙う親戚から自分と自分の元から離れなかった従者を守るため、あらゆる分野の勉強を始めた。その一環で受けたIS適性テストでAを、同時に実施されたBT適性で異例のA+を叩き出し、イギリス政府から人材を確保するためにあらゆる条件を出されたのだ。ほとんどがセシリアに有利なことであり、それほどまでに執着するのは彼女の適性が今後の祖国の発展につながる―――そう思ったセシリアは申し出を受けた。

 その後、勉強する時間は減ったがその分をISにつぎ込んだ。

 

 ―――だが、結果はどうだ?

 

 舞崎静流を調べなかった自分も悪いだろう。所詮は男だと甘く見ていたこともある。そして何より、セシリアから見て静流のそれは間違いなく嫌っていた父親そのもののだった。

 セシリアにとって、父親は弱かった。

 母親は女尊男卑になる前から実力ある経営者であり、いくつもの会社を運営していた。そして入り婿としての負い目もあったのだろう。父親は次第に家でも発言しなくなった。

 それほどまでに父親と雰囲気が似ていたはずの静流が何故、あそこまで変わったか。

 

 そこまで考えたセシリアに、IS「ブルー・ティアーズ」からアラームが鳴る。

 何事かと思った彼女はヘッドギアのみを部分展開した。

 IS学園には少なからず暗黙の了解が存在する。

 専用機持ちがヘッドギアのみを展開している場合は、近づくことなかれ―――それは専用機持ちが政府と重要な話をしているため、特に周囲に警戒しているため襲撃も何もするなと言うこと、そして政府と会話をすることは何よりも優先されるためである。本来、学園敷地内は指定の場所と状況を除いてISを部分展開すら禁止になっている。

 

『……気絶したと聞いていたが、目は覚めたようだな』

 

 通信がつながったかと思えば男性―――それも自分が良く知る相手だった。

 

「ええ。それで、一体何の用ですの?」

 

 セシリアもそっけなく返す。

 というのも通信相手は自分の婚約者だが犬猿の仲とも言える「ディラン家」の次男「ルイ・ディラン」だった。

 整った顔立ちだが、セシリアとルイは何故か反りが合わない。セシリアにとっては相手の執事、ルイにとってはセシリアのメイドととは話すこともでき、大人の世界ということもあるのか、大人同士もそれなりの関係も築けていたが、二人だけは仲が悪かった。

 もっとも、今ではルイは学生の身分にして政府の高官ポジにいる、将来が約束されたも同然の男なのだが。

 

『面白い動画がアップされていたんだよ。お前の声が録音されている音声のみだがな』

「………面白い動画?」

『聞けば笑えるぜ』

 

 そう言ってルイは動画サイトのアドレスを送る。

 それを開いたセシリアは、動画の場面がどこかすぐに理解できた。―――一週間前の、クラス代表を決めようとしていたHRの物だったのだ。

 セシリアの発言から始まり、次第に一夏との喧嘩、静流が仲裁に入るがセシリアはそれを押し退けて決闘騒ぎに発展し、クラスメイトたちが一夏が「ハンデ」の話をしたときに笑ったこと、止めに千冬が静流を参加させたことまでアップしたのだ。

 

「何ですの、これ!?」

『さぁな。でも流石にこれを聞いた政府も結構頭に来ているって話。いやぁ、笑っちゃうよねぇ。だって男が弱いとか言ってたのに、結局その男に不意打ち食らってボコボコにされたって、いやぁ、傑作だなぁ』

 

 ルイの言葉にセシリアはキレた。

 

「あなたに何がわかるって言うんです!? ISを乗っていないあなたに!!」

『ISに依存している阿呆が何吠えてるの?』

 

 そこから始まる二人の喧嘩は、様子を見に来たディラン家の執事が現れるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――IS学園の最高責任者は男だ

 

 その事実を知る者は世界でも本当に上の、大統領やそれに類するレベルの立ち場にいる人間しか知らない。学園で知っているのは生徒会長のみである。

 その立場に座る男、轡木十蔵はモニターに映る重役たちの殺気を帯びた視線を浴び続けていた。

 

 ―――もっとも、そんなものが実際に遭ったとしても十蔵にとっては小雨程度だが

 

『………貴様、本気で言っているのか?』

 

 一人がそう言うと、十蔵は笑みを浮かべて答える。

 

「ええ。何か問題でも?」

『当たり前だ!! 舞崎静流は重大なIS条約違反を犯した! それを裁かず、我々が提案したのを「一週間の出向」で済ませるだと!? 我々を馬鹿にするのも大概にしろ!』

『そうですわ! あなた、自分が何を言っているのかしっかり理解していますの?』

 

 イギリスとアメリカ、その代表の二人が騒ぎ始めたのを聞いた十蔵は吐き気を催した。

 一人は自分の国の代表候補生が、もう一人は女尊男卑が故の言葉であり、十蔵も理解はしている。

 だがそれよりも、優先するべきことがあるのと十蔵は思っている。

 

 十蔵から見て、静流と千冬の戦いは千冬の方が上だ。だがそれはあくまで、ほんの少しの間だけだと思っている。そう、十蔵はいずれ静流が千冬を超える、と。ISの面でも、生身の面でも。

 

(まったく。面倒なことをしてくれる)

 

 十蔵だけは既に気付いたことがある。

 

 ―――舞崎静流は、既に世界に対して絶望している

 

 おそらく、静流が慕っていた「高間晴文」が植物人間になっただけなら、襲った人間を潰すだけで済んだだろう。その後は中学までの心持で女を見下さず、これから織斑一夏をライバルとして、篠ノ之箒と仲が良いまま歩んでいたはずだ。だが、彼の親代わりだった祖父母が殺され、家も焼かれたことでそれはなくなったと言わなければならない。

 実際、十蔵も用務員としての仕事をしていた時に知ったが、静流が訓練をしている時の目は殺気が帯びている。それを知らなければ十蔵も静流が内に秘めた思いも気付くことはなかった。

 

「ええ。少なくともあなた方よりも現状を十分理解しています」

 

 その言葉にどんな意味があるか。

 だが十蔵の考えていることは決して間違ってはいない。事実、静流があのような行動に出たのは女を―――女尊男卑を潰すためだ。

 だからこそ、ここで「実験動物」として渡した場合の報復を十蔵は恐れていた。

 

『だったら、今すぐ舞崎静流をこちらが指定する研究所に寄越しなさい!』

「………」

 

 それを聞いた十蔵は内心でため息を吐いた。

 

「あくまでも、一週間の出向という形です。そこを譲る気はありません」

『あなたねぇ!』

 

 十蔵の頑なな態度に激昂する女性議員。そんな険悪な雰囲気の中、一人の議員が待ったをかけた。

 

『―――別にいいのでは?』

 

 左から青・白・赤のトリコロールの国旗で表示された場所から、男性の声が漏れる。

 

『ちょっと、それはどういう意味よ!?』

『貴様、同じ欧州にいる身として何も感じないのか!?』

『確かに今回の舞崎君の行為は問題視する事案です。ですが、だからと言ってすぐに実験場送りというのはどうなのでしょうか?』

 

 すると十蔵の通信端末が鳴り響く。「失礼」と断りを入れ、少し離れて電話に出た。

 

「菊代か。悪いがまだ会議中だ。後に―――」

『すみません。急を要する事だと思ったので。……その、先週の一組のHR内容が音声のみが外部に漏れていたようです』

「どういうことだ!?」

 

 思わず大声を出したしまった十蔵は取り繕うに咳払いをする。

 

『……何か問題でもありましたかな?』

 

 先程の男の声が尋ねるように言ったが、十蔵は静止のために手を挙げるだけだった。

 

『一応、削除前に知らせておこうと思いまして』

「……そうだな。そうしてくれ」

 

 そう返した十蔵は電話を切ると、再び椅子に座る。

 

『一体どうしたのかね?』

「……学園にとって少々、問題となる事態が起こっただけです。まぁ、大した被害ではないのは確かですが」

 

 そう言って十蔵は笑みを作る。

 しばらくすると、十蔵が言わんとしたことが理解され、イギリス人の男性は断りを入れて通信を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――酷い揺れ

 

 激しい振動を感じながら、少女はそう思う。

 だがどれだけ愚痴を溢そうとも彼女の要望は聞き入れられないことは、少女自身が知っていた。

 しばらくすると揺れが収まり、彼女が入れられた箱の扉が開かれた。

 

「……おいおい、マジで連れてきたかよ」

「上の命令だからな。要望通り、まだ未通の者を連れてきた」

 

 男性二人の会話が少女に届く。誰かがよじ登り、また揺れを感じた少女は男が近付いてきたのを察した。

 

「タグを見せろ」

 

 言われた少女は自分の首に巻かれた革の首輪に着けられたドッグタグを、檻の中から差し出す。

 それをバーコードリーダーで読み取った男性は何かを指示すると、新たに別の男性が二人現れ、少女が入れられた檻を持ち上げた。

 

「しっかし、よくもまぁ、あんなガキを出すようになったな」

「どうやら失敗品らしいからな。出品者も処分に困っていたらしい」

「でも何であんなの何だよ。どう見ても仕込まれてないだろ?」

「そればかりか、つい最近まで施設で経過を見ていたようだ。それとああ見えても15歳だぞ」

 

 そんな会話を聞こえても、少女は何も言わなかった。

 ただ少女は、これから自分がどうなるか理解している。男の人を用意され、その男の精液を女を使って採取し、施設の人間に渡す。連れてこられる前、不要になって嘲笑した女性の研究員がそう言っていたのを彼女は覚えている。

 

(………もう、いいや)

 

 彼女にはもう、生きる希望なんてなかった。

 何度も任務に失敗し、何度も殴られ、蹴られた彼女はとうとう失敗作という烙印を押され、こうして目的がわからない施設に連れてこられたのだ。

 ただ希望があるとすれば、その男性が酷い人ではない場合だろう。

 

(………そんなわけ、ないか)

 

 突風が吹き、彼女のドッグタグが風の方向へと流される。

 そこには謎の文字列が書かれていた。

 

 ―――c-0036、と


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