桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

9 / 59
0-6 運命の遭遇 【東京湾】

 

 

 東京湾沖 0015i

 

 

 

 

 

 

 

「間もなくいかづちからヘリ、発艦します」

 

 

 

 

 

隊勤務の幹部が司令に報告する。

 

 

 

 

 

司令はコクンとうなづくが、

声を出そうとしたが出せなかった。

 

 

司令は目標への対処を考えていたのもそうだが、

その後の、もしも戦闘になったことを

考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もしアルファが”敵”で、

戦闘になれば自衛隊は、日本はどうなるのか…)

 

 

 

 

 

 

CICにある司令席に腰掛けながら、

神妙な面持ちで事態の行方を考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

(”俺”が自衛隊に入隊した頃は

ソ連やら中国と戦争になるから、

覚悟はしておけと上官に言われたりしたが、

今では俺がその上官か…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当時は冷戦真っ只中で、幹部になりたてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

上からは怒られ下からは突き上げられて、

他の部隊に行った同期と飲んで

愚痴を言い合っていたな。

 

 

 

 

 

 

ある時乗った護衛艦のクソ艦長に、

 

「相手が撃ってきても決して撃ち返すな」

と言われたことがある。

 

 

 

 

 

 

なんでも、こっちが反撃しなければ

戦争にはならないらしい。

 

 

 

 

 

 

日本人の悪習の事勿れ主義を

具現化した様な人間だった。

 

 

 

 

 

 

(俺はそうはならんぞ!)

 

 

 

 

 

そう心に誓い、今まで

幹部自衛官として生きてきた。

 

 

 

(そんな俺も今や護衛隊司令、

国の命運を握ってしまえる立場に

なってしまった…)

 

 

 

 

 

 

仮に戦争を始めても、

それを終わらせるのは極めて困難だ。

 

 

 

 

そんな事は分かってはいるし、

部下にも事あるごとに言い聞かせてきた。

 

 

 

 

 

もしアルファが攻撃してきても

俺は迷わず反撃を命ずるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその後はどうすればいいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

政治は政治家に任せるにしても、

相手が交渉に応じなかったら?

 

 

 

 

 

もしテロリストなら国内の

無差別テロリストを引き起こすのでは?

 

 

 

 

 

 

 

 

…いっそ攻撃を甘受し、

それを国内世論の起爆剤にしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブンブン!

 

 

 

 

 

いかんいかん、俺もあの『クソ艦長』と

一緒になってしまうではないか。

 

 

 

 

 

邪念を振り払うように、頭を強く振る。

 

 

 

 

 

 

近くの隊員が何事かといった顔で

見てきたが、すぐに職務に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…そういえば先程の

通信の菊池士長が言っていた”敵”は

昔のアメリカ軍という話。

 

 

保安庁報告でも聞いたが、

もし相手が現代以外の人間だったら

交渉できるのだろうか?)

 

 

 

 

 

 

 

『戦争は作戦室や国会で

起きてるんじゃない、現場で起こってるんだ』

 

 

 

なんて他の部隊の幕僚になった同期は冗談で

言っていたが、真面目な話その通りだと感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

日本が無防備宣言や平和宣言をしたとて、

攻めて来る国家や組織はあるだろうし、

現場で仮に反撃せずこちらが全滅しても

戦争が始まる時は始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

こちらの事情が

相手に通用するはずがない。

政治家のお偉いさんにはそういった

単純な事は分からないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『治にいて乱を忘れず』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クソ艦長のフネのときの

隊司令がおっしゃっていた。

 

 

 

 

日本では戦争や緊急事態の事を

考えること自体がおかしいと思われる風潮がある。

 

 

 

 

 

この言葉を聞いてそれを

改めようとする人間がどれだけいるのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令が状況の推移を見守りつつ考えていると、

電測員がやや困った様な、少し腑抜けた声で

電測員長に質問を発した。

 

 

 

 

 

 

「電測長〜、航空機の様なものが

アルファ目標から本艦を結んだコース上に

映りました」

 

 

 

 

 

 

「はあ?お前こんな時に民間機の

エコーはどうでもいいだろ。

彼我の位置関係だけ見ておけ」

 

 

 

 

 

 

「いや、それが今表示されたスコアだと

マッハ4出ていまして、空自の

スクランブルは来てませんよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令は電測員長が答える前に、

電測員に強く問いかけようとする。

 

 

 

 

 

「待て!おい電測、再度測的結果を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその問いは艦橋からのマイクで

後半は消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「CIC、(こちら)艦橋!

アルファ目標が発光信号を…!」

 

 

 

 

 

 

…ズズーン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠くで花火が上がる様な嫌な振動が

足元から、その音が少し遅れて、

後ろ、艦尾方向から伝わって来る。

 

 

 

 

 

 

 

3秒ほどCICが静まり、皆シーンとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

司令も心臓が止まったかの様な感覚を覚え、

脂汗が額を伝い落ちるのがわかった。

 

 

 

 

「CIC、艦橋!右艦尾に黒い水柱、

30(さんまる、3000m)」

 

 

 

 

 

 

 

 

艦橋から見張りの報告が淡々と上がってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ゴクンッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かの唾を飲む音がCICに響いた気がした。

 

 

 

 

 

 

ピリピリ!!

 

 

 

 

 

 

 

「CED1(シーイーディーワン)ッ!」

 

 

 

 

 

 

艦橋の哨戒長である船務長から、

秘話がかかった隊無線が

CICの隊司令へ飛ばされる。

 

 

 

 

 

「This is Murasame!!相手は

海賊やロボットなんかじゃありません!!」

 

 

 

 

 

 

 

「アルファが砲撃してきました!

ヤツは”敵”ですっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ほっ、ほうげき?」

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かの呟きが聞こえた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「両艦対水上戦闘用意っ!!」

 

 

 

 

司令は席から身を乗り出し、

本来の命令要領に即さない号令を咄嗟にかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……たっ、た対水上戦闘よーい!!」」

 

 

 

 

CICにいた『むらさめ』艦長と

隊の通信を担当する隊付(たいづき)が

号令をやや躊躇しながら飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ァーン!カーン!カーン!カーン!

 

 

 

 

 

 

 

 

むらさめ艦内にアラームがやや遅れて響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…自衛隊創設史上初の戦闘は、

航空機の様な勢いで飛来した”何か”で始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

『艦橋、2番(ふたばん)、

アルファ目標から発光信号視認』

 

 

 

 

 

左舷の見張り員が、ウイングと呼ばれる

艦橋の側面にある見張り位置から、

アルファ目標がいるであろう方向からの

”発光信号”らしきものを視認し、報告する。

 

 

 

 

 

 

 

その時俺は艦橋後部の後方見張り、

3番の電話員をしていた。

 

 

本来3番(後方)見張りは1人配置で、

電話員も見張り員が兼ねるのだが、

今回の行動では交代要員も兼ねて2名配置

とされ、ヒマな俺が電話員として立たされた。

 

 

 

 

電話を聞き、受話だけしている

見張り員を尻目に左舷の発光信号を見ようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…夜の闇のみ、発光信号なんて見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(えっ、信号続かないの?)

 

 

 

 

 

 

心の中でツッコミしつつ後方に視線を戻すと、

頭上でシューン…という音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

ちらっと上空を見ようとしたら、

艦尾方向で水柱が上がり、それにやや遅れて

ズズーンというくぐもった音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

俺は双眼鏡を持っていないが

水柱の様なものが遠く、3000mぐらいの

所で上がったのが見えるだけだ。

 

 

 

 

 

 

「艦橋、3番。黒い水柱1(ひと)、

右170度、30(さんまる)」

 

 

 

 

 

 

見張り員が俺に伝えた事を、

艦橋にそのまま転送する。

 

 

 

 

 

 

 

 

(水柱ぁ…?黒い水柱ってなんだよ?)

 

 

 

 

 

 

なんかさっき上空でシューン…って

音が鳴ってたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い、水柱。

 

 

 

 

 

 

黒い…水柱…。

 

 

 

 

 

 

 

 

シューン…という音、まさか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまで考えたところで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……たっ、た対水上戦闘よーい!』

 

 

 

へっ、なんで?

 

 

 

 

…ァーン!カーン!カーン!カーン!

 

 

 

 

アラームが艦内と艦外のスピーカーから

飛び出し、付近の海に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

『アルファが発砲した!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

艦橋の方から叫び声が聞こえた。

 

 

 

先程の水柱はアルファ目標が発砲した砲弾が

着弾して発生したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

どーすんだ?!

反撃して沈めんのか!!

 

 

 

俺にこの後どう対処するのか見当は

つかないが、反撃体制は取るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

勝手に持ち場を離れられない為、

見張り員とあたふたしながらも

その場に留まり続ける。

 

 

 

 

 

 

肉眼で見張らなくとも、

基地で載せた赤外線監視装置を

使えばいいじゃないかと思うが、

魚雷等の監視もする為に人間の見張りは必要だ。

 

 

 

 

フネの動きを見ようと電話の

ケーブルを引っ張り、前部側を覗き込む。

 

 

 

 

 

76mm砲はアルファの方を向いてはいるが、

発砲しそうにない。

 

 

フネの針路も反転し始め、アルファは

真艦尾(まかんび)に変わり、むささめは

距離を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(司令はどうすんのかな…)

 

 

 

 

隊司令がどう対処するのか気になって

いると、艦橋から1分隊の

士長の人が早足で歩いてきた。

 

 

 

 

 

 

「おい菊池、電話員変わるぞ。

でお前はCICに行くように指示が

出てる、電信室も了解だ」

 

 

 

 

「へっ、り、了解です!」

 

 

 

交代するのはいいとして、

いきなりそんな事を言われてやや驚く俺。

 

 

 

「詳しくは知らんが、

司令部に行くようにとのことだ」

 

 

 

何なのか見当もつかないまま、

艦橋に交代すると伝え、その場を離れる。

 

 

 

 

 

 

通常CICまでハッチが閉鎖されているのだが、

艦長命令で閉鎖受け持ちの人間が

各ハッチ前に立ち、俺の通過を助けてくれた。

 

 

 

 

 

 

ハッチを潜りつつ、CICへと急ぐ俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

何がどうなっているんだ?!

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 むらさめCIC 0026i

 

 

 

「2分隊菊池士長です!」

 

 

 

 

 

 

司令部区画に到着した俺は、隊の人間に申告する。

 

 

 

「司令、菊池士長が来ました!」

 

 

 

「うむ。菊池士長、こちらに」

 

 

 

 

えっ、司令が俺を呼んだのか?

意味不明過ぎるんですけど!

 

 

 

 

 

 

 

そう思いつつ司令の前に行く。

 

 

 

「君はこの後どうするかね?」

 

 

 

はいぃ?

いきなり何を聞いてるのこの人?!

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令、いきなり何を…」

 

 

 

「どうするかと聞いている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の質問をスルーして、やや強めに言う司令。

 

 

 

「まずは離脱し、安全距離を取るべきかと」

 

 

 

「そうだな、既にそう命令してある」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の答えに現状を教える司令。

 

 

 

 

 

 

てことはその後の事を言えってことか?

 

 

 

「まず上空のロクマルに安全距離を保ちつつ、

偵察をさせ相手の武装や艦種を把握し、

しかる後に反撃なりをすれば

よろしいかと考えます」

 

 

 

 

 

 

 

周りの隊やフネの人間の視線を感じながら、

考えを述べる。

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、ではそのようにしよう」

 

 

 

 

 

 

司令が命令を出し、喧騒に包まれるCIC。

 

 

 

司令が命令を出し終わったところで、

俺は司令に話しかけた。

 

 

 

 

 

「司令、なぜ私をお呼びに

なったのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

いくら俺が鋭い考察をしたといっても

所詮は下っ端の海士。

 

 

 

 

 

 

作戦に口出しできるアタマも資格もない。

 

 

 

 

 

 

 

「わからんかね、”カン”だよ勘」

 

 

 

「はぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

「君は相手の動向を正確に見抜き、

この襲撃をも予測してみせた。

ならばどう対処すればいいか、

”我々に”力を貸してもらいたい」

 

 

 

 

 

司令が俺の力を必要としてくれている。

 

 

 

周りを見れば、隊勤務の人たちと乗員が

胡散くさがっているのか不安そうに

しているのかわからないが、

じっとこちらを見ている。

 

 

 

 

 

 

「私にできることであれば、

精一杯させてもらいます!」

 

 

 

 

他に言うセリフもなく、

当然微力を尽くすつもりだ。

 

 

 

 

 

 

「現在我が隊、といっても2隻だが、

アルファから安全距離を取ろうと

しているが、どれぐらい離れたらいいか。

”敵”の武装は何なのか、最大速力、

艦影といった基礎情報が欠如している」

 

 

 

 

「相手の動向を読めても、さすがに

相手方の兵力や武装までは

推測できません。これは予定通りヘリにて

対空兵器を警戒しつつ赤外線カメラ

撮影可能限界距離から偵察を行い、

敵兵力及び戦力の推察。

とりあえずはここまでかと」

 

 

 

 

 

 

司令は俺のリコメンド(推奨)に

うなずき、俺の意見を具体的な命令にして、

上空に待機させていたヘリ他各所に下令する。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 アルファ目標から20km 0100i

 

 

 

 

「司令、アルファから20km地点に

到着しました」

 

 

 

「よし、両艦2配備に落とせ。

しばし隊員に休息を取らせろ、

その他手空きには戦闘配食を作らせろ。

献立はおにぎりとたくあんで頼むぞ」

 

 

 

 

「了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

司令が隊付に指示を出し、

むらさめの艦内も空気が

やや軽くなった気がする。

 

 

 

 

 

だが、今の俺は司令部の配員となり、

休むに休めない。

 

 

 

 

アルファから20km距離を離しましょうと

リコメンドしたのはいいが、そら対策だ

そらいいアイデアだとてんてこ舞い。

 

 

 

 

モテるのは嬉しいが野郎、

しかも戦争の話でチヤホヤされても

ありがたくねーっての。

 

 

 

 

 

…無論知恵と知識はフル活用できたし、

護衛隊の戦術や戦法も教えてもらったし

ちょっとばかし嬉しいっちゃ嬉しい。

 

 

 

 

 

 

「…とはいえー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちらとCICを見れば、

苦い顔をした幹部に海曹、

緊張感がダダ漏れの海士。

 

 

 

 

 

 

 

こんなんで戦闘できんのか?

 

 

 

 

 

 

 

こりゃやべーぞ。

早く解決策を捻り出さないと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…無論私とて、考えていない訳では無い。

だからこうしてヘリからの情報を

待っているんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CICを見ていた俺の考えを司令も察したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「情報を軽視した軍隊がどうなるかは、

私も承知しています。どうも焦って

しまっているようです」

 

 

 

 

 

「焦りは禁物と言うが無理は無いさ。

逆に慢心や奢りを覚えるよりは

マシというものだ」

 

 

 

 

 

 

確かに司令の言う通りだ、

焦らずに情報を集めてからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が司令と話していると、

背後から黄色い声がした。

 

 

 

 

 

 

 

「そうそう慢心はダメッていうし!

それと私もやっちゃうんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えっ!いきなり誰?!

口調軽っ?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰だっ!キミは一体どうやってここに入った!」

 

 

 

 

 

 

 

ん、女の子の声?

 

 

 

 

 

 

 

なんで護衛艦の中に女の子が?

…にしてもどっかで聞いたような?

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は声がした後ろを振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはーい!お疲れ様、『提督』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……うそやん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にいたのは『村雨』であった。

 

 

 

 

 

 

『夢』で提督と呼んでくれと頼んだのも

覚えているようで、あれはどうやら

唯の夢ではなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「て、提督ぅ〜??」」」

 

 

 

 

 

CICにいた全員が口を揃えて俺に頭を傾げる。

 

 

 

 

 

司令が戸惑いながら俺に聞く。

 

 

 

 

「き、菊池士長、一体どういうことかね?」

 

 

 

 

「え〜、話すと長いというか、

ちゃんちゃら可笑しな話なのですが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、村雨に現実で会えたことを

喜びつつも、司令たちに経緯を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…まず帝国海軍時代から艦船には魂があり、

女の子の姿をしていること。

 

 

 

 

 

 

 

「…信じられん」

 

 

 

 

 

 

司令、ごもっともっす…。

 

 

 

 

 

 

…そしてその姿は現代のゲーム、

『艦これ』と同じ姿であり、

よくわからないが現実に現れたこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう具合な訳です…」

 

 

 

 

 

 

約10分間、俺はよくわからない

羞恥心と義務感と戦いながら、

ひたすら真面目に話した。

 

 

 

 

 

 

 

「そう言われても全く信じられんなぁ」

 

 

 

 

 

艦長が言うと、乗員たちもうんうんとうなづく。

 

 

 

 

 

 

 

「君、村雨ちゃんといったな。

君がフネの魂と言うのなら、

証拠は無理だろうが、何かこのフネの

秘密などを言ってもらいたいのだが」

 

 

 

 

 

 

司令が村雨に質問する。

 

 

 

 

 

 

おぅ、ソコを突いてきたか。

『夢』と同じなら、村雨は答えられるハズ

だが、そこはどうなるんだろう…?

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですねぇ、まず艦長さん。

あなたは部屋のロッカーに大切そうに

しまっているものがありますよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビクゥッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

か、艦長…?

なんかめっちゃ動揺してねぇか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『欲しいんだろ、奥さん?

〜美熟の誘惑〜特別号』とか…」

 

 

 

 

 

 

「わー!わー!やめてくれぇ!

いや、やめてください信じますごめんなさい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

艦長への尊敬心、無くしそうです…。

他のみんなの艦長への視線が冷たくなった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦長は熟女好きだったとは…

お見合いで6つ下の奥さんもらったけど、

実はそういう趣味があったのね。

 

 

 

 

 

 

 

「次に司令さん!」

 

 

 

「うむ…」

 

 

 

 

 

 

さっすが司令、自分に自信が

あるのだろう、全く動じない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネコ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビビビビクゥッ!!!

 

 

ガタタッ…

 

 

 

 

 

 

 

おい、司令が艦長以上に動揺しているぞ…。

 

 

ネコ?なんのことなんだ?

 

 

 

 

 

 

 

「ななななな、何のことにゃのかねっ?!」

 

 

 

 

 

 

 

((なにこの司令かわいい…))

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふーん…、強情ですねぇ。

じゃあ言っちゃいます!

制服の内側のポケットの中!!」

 

 

 

 

あ、司令が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

「提督、取ってみて」

 

 

 

「お、おい、流石にそれは…」

 

 

 

「司令、他は”言わないであげます”

からいいですよね?」

 

 

 

「いや、あの、そのな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「い・い・で・す・よ・ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

 

 

 

あ、折れた。

何か司令の中の大切な何かが折れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令、よろしいですか…?」

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

「…もしかしてネコ、大好きなんですか?」

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

 

 

 

ああ、そうなのか。

実はネコカフェとか行ってんじゃねーか、司令?

 

 

 

 

 

「…もしかして、ネコカフェで

ネコちゃんとランランしたりしてます?」

 

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

…スンマセン司令、菊池聞いちゃいました。

 

 

 

 

 

 

人の趣味にどうこう言うつもりは無いが、

なんか人間不信に陥りそうです…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、失礼して…」

 

 

 

 

 

 

ゴソゴソ…スッ。

 

 

 

 

 

 

司令の内ポケットにはネコに囲まれた

司令らしき破顔をした男性の写真。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あっ、下がったよ、

司令へのみんなの尊敬心、かなり。

 

 

 

 

 

 

冷たいものというより、哀れなものを見る

目をしている気がするな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…と、いう訳で信じてもらえましたか?」

 

 

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

 

 

 

唯一返事のような呻き声をした司令以外の人は、

まだ完全に信じてはいないようだが、

目の前の白く燃え尽きたヒトたちを見れば

納得せざるを得ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

…にしても随分空気が軽くなったな。

乗員や隊勤務の人たちの顔もかなりマシに

なってきている。

 

 

 

 

 

 

村雨はわざとさっきみたいなトークに

持って行って、場を和ませようと

してくれたんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

村雨を見ればちょうど目が合い、

俺に笑みを返してくれる。

 

 

 

 

 

 

ニコッ!

 

 

 

 

 

 

よし、この戦いが終わったらケッコンしよう。

 

 

基地に帰ったら、ミーティングルームで結婚式を

あげるんだ!

 

 

 

 

 

…いやいや、フラグ立てんなや!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺を見ていた村雨は

村雨は顔を引き締め、

真面目な感じに切り替わった。

 

 

 

 

 

 

 

「みなさん、ある程度信じてもらえたところで、

私から作戦の提案があります…」

 

 

 

 

 

 

CICの面々の面持ちがやや強張る。

 

 

 

 

 

 

「…ふむ、言ってみたまえ」

 

 

 

 

 

 

((あ、司令立ち直り早いな))

 

 

 

 

 

 

 

なんかみんなの心の声が

聞こえる気がするんだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

矢吹ジョーも驚く復活を遂げた司令が、

村雨の真面目なトークに食いつく。

 

 

 

 

 

(さて、どうするのやら…)

 

 

 

 

 

 

 

 

「かなりリスクはあるんですけど…」

 

 

 

 

 

…だが村雨の通常の作戦の常識を覆す提案を、

俺たちは驚きをもって聞くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっと現実に艦娘が現れました。


初期艦は『村雨』ちゃんです。
特に村雨に思い入れがある訳ではありませんが、
最近『艦これ』で村雨を重用してまして…



ストーリーはノロノロとクリープ現象で
進んでいきます。



以前書いていた小説でプロットや展開を
公開しすぎた為、この小説では公開
しない方針です。


章が終わればそのまとめとして、
書くかもしれません。



次回は本格的戦闘回。


ヘリの偵察結果を待つ主人公たち。
敵の正体は一体何なのか。


そして、村雨の提案とは…


第7話 暁の水平線に浮かぶ影



「次回の村雨に、期待してね!」






▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。